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2015年12月 2日 (水)

「ムーン・ウォーカーズ」

Moonwalkers2015年・フランス・ベルギー合作/Partizan Films他
配給:日活、CAMDEN
原題:Moonwalkers
監督:アントワーヌ・バルドー=ジャケ
原案:アントワーヌ・バルドー=ジャケ
脚本:ディーン・クレイグ
製作:ジョルジュ・ベルマン

アポロ11号の月面着陸映像は捏造だったという都市伝説をベースにしたアクション・ブラック・コメディ。監督はCM界で活躍するアントワーヌ・バルドー=ジャケ。本作が長編初監督作品となる。主演は「ヘルボーイ」シリーズのロン・パールマンと、「ハリー・ポッター」シリーズのロン役で知られるルパート・グリント。

1969年、一向に月面着陸計画が進まないNASAに業を煮やしたアメリカ政府は、窮余の一策としてアポロ11号着陸成功の映像を捏造することに。白羽の矢が立ったのは前年「2001年宇宙の旅」を作ったスタンリー・キューブリック監督。ロンドンに送り込まれたCIA諜報員キッドマン(ロン・パールマン)は、たまたまエージェントオフィスに居合わせた借金まみれの男ジョニー(ルパート・グリント)に巨額の制作費をまんまと騙し取られてしまう。騙されたことに気付いたキッドマンはジョニーから金を奪い返しに向かうのだが…。

この手の都市伝説は結構あって、例の9.11テロで崩壊したワールド・トレード・センター・ビルについても、あれは米政府が仕組んだ自作自演である、という説があり、本まで出ている。CIAはいろんな陰謀に加担している、というのはほぼ通説になっていて、こうした理由から、いろんな暴露ノンフィクションや、フィクション・ドラマが登場するに至っている(後述のお楽しみコーナーも参照)

本作も、そうした都市伝説中でも特に有名なアポロ11号月面着陸映像捏造説(キューブリックがその映像を監督したという説も実際に広まっていた)を、ナンセンスかつブラックな笑いで包み込んだ、いわゆるオバカ・コメディである。ブラック過ぎて引いてしまう人もいるかもしれないが、そうした作品が好みの人にはガハハと笑って楽しめる作品である。

(以下ネタバレあり)

冒頭のメイン・クレジットがまず楽しい。ポップでカラフルなアニメで、同じ1969年製作のイギリス・アニメの傑作「ビートルズ/イエロー・サブマリン」を彷彿とさせる。
以降も、60年代後期を代表するサイケデリック・アート、ファッション、ポップ・カルチャーがいっぱい出て来る。この辺も見どころである。

お話の方は、CIA諜報員キッドマンがキューブリック監督に捏造映像を依頼すべくイギリスに渡り、キューブリックのエージェント・オフィスを訪問したら、たまたまそこにいたジョニーをエージェントと誤解し、ギャングからの借金で首が回らなかったジョニーはこれ幸いとニセのキューブリックを仕立ててまんまと大金を騙し取ってしまう。後で気付いたキッドマンはジョニーを見つけ出して金を返せと迫るが、既に金はギャングへの借金返済に回った後。かくしてキッドマンは、金を取り返すべく向かったギャングの巣窟で銃撃戦をやらかしたり、捏造映像を作る為ジョニーが前衛映画監督レナータス(トム・オーデナールト )に撮影を依頼したり、その撮影現場にギャングが乗り込んでまた銃撃戦と、ハチャメチャな展開となる。

ギャングとの抗争がかなりドギツく、ギャングの首がふっ飛んだりのスプラッター映像もあり、また一方、捏造映像を何故かペンタゴンにいる政府高官たちがテレビで見ていたり、その画面に銃撃戦が飛び込んで来て高官たちが唖然となったりするシーンは笑える。

その合間に、前述のような60年代ポップ・カルチャー・ネタがうまく散りばめられており、全体がポップでサイケデリックで、この時代を知っている人なら余計楽しめるだろう。

ジョニーがマネージメントしているロック・バンドが、「ロック・オペラをやりたい」とか言ってるが、これはやはり1969年に、イギリスのロック・バンド、ザ・フーが発表したロック・オペラ・アルバム「トミー」を連想させる。後にこれはケン・ラッセル監督により映画化されている(1975年)。
こうした事からも、ジャケ監督(原案も)は1969年当時の風俗や流行をかなり研究したフシが伺える。ただのおバカ映画ではないのである。

前衛映画監督レナータスのキャラクターも、当時のポップ・カルチャーの雄、アンディ・ウォーホルを思わせるし、ヒッピー、フラワー・ムーブメント、LSD、マリファナ等ドラッグ・カルチャー、といった、この時代の空気が巧みに取り入れられているのも面白い。
そう言えば、40万人を集めた愛と平和と音楽の祭典、ウッドストック・コンサートが開催されたのも1969年だった。

 
もう一つ、キューブリック監督にちなんで、キューブリック作品のパロディもあちこちに仕込まれている。

例えば、キッドマンはベトナム戦争帰りで、自分が殺したであろうベトコンの亡霊に悩まされているのだが、これはベトナム戦争の狂気を扱った「フルメタル・ジャケット」を思わせるし、SF的展開の中で狂気とハチャメチャのブラック・コメディになだれ込むのは「博士の異常な愛情」とタッチが似ている。
イギリスの退廃的ポップ・カルチャーは「時計じかけのオレンジ」にも登場する(舞台もロンドン)。レナータスの家の壁に描かれている女性の裸体画も、同作に登場する女性フィギュアとちょっと似ている。
金がつまったトランクの奪い合いは、初期のクライム・アクション「現金に体を張れ」に出て来る。

とまあこんな具合に、いろんなお楽しみがあちこちに仕込まれているので、これらを見つけ出すのも映画ファンの醍醐味と言える。楽しめるかどうかは観た人次第。こんなおバカな映画もたまにはいい。    (採点=★★★★

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(さらに、お楽しみはココからだ)

Capricon1有人探査船の着陸映像捏造ネタを扱った映画は過去にも作られている。その中でも有名なのが、、ピーター・ハイアムス監督の佳作「カプリコン1」(1977)。これはNASAの有人火星探査船打上げ計画において、トラブルでロケットが無人のまま打上げられ、その失敗を隠す為、地上のスタジオで火星着陸の模様を捏造してテレビ中継する芝居を打つ事になるが、帰還の際にロケットが爆発したため、生きていては都合の悪い飛行士たちを政府が抹殺しようとする…というトンでもないお話。

これも、上記のアポロ11号月面着陸映像は捏造だった、という都市伝説を巧みに応用したフィクションである。映画も面白かったが、これも月面着陸捏造伝説の根強さを表す好例である。

で、これを監督したピーター・ハイアムズはその後、なんと前述のキューブリック作品「2001年宇宙の旅」の続編「2010年」(1984)を監督している。なんとも不思議な縁ではある。

 

DVD「カプリコン1」

                         
DVD 「2010年」
       
Blu-ray 「2010年」
       

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