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2015年12月25日 (金)

「黄金のアデーレ 名画の帰還」

Womaningold2015年・アメリカ=イギリス合作
制作:ワインスタイン・カンパニー、他
配給:ギャガ
原題:Woman in Gold
監督:サイモン・カーティス
脚本:アレクシ・ケイ・キャンベル
製作:デビッド・M・トンプソン、クリス・サイキエル
製作総指揮:クリスティーン・ランガン、ハーベイ・ワインスタイン、ボブ・ワインスタイン、サイモン・カーティス、ロバート・ワラク
   
    ナチス統治下のオーストリアで、ナチスによって奪われた世界的名画「黄金のアデーレ」を奪還すべくオーストリア政府を相手に返還訴訟を起こした女性の実話の映画化。監督は「マリリン 7日間の恋」のサイモン・カーティス。主演は「クィーン」のヘレン・ミレン、「白い沈黙」のライアン・レイノルズ、「ラッシュ    プライドと友情」のダニエル・ブリュールなど。

1998年、ロサンゼルス。マリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)は、姉のルイーゼが亡くなり、その遺品の中にあった手紙で、姉が故郷のオーストリア政府に、ナチスに没収された伯母をモデルにしたクリムト作の世界的名画「黄金のアデーレ」の返還を求めようとしていたことを知る。そして法が改定され、過去の訴えの再審理が可能となった事を知ったマリアは、友人の息子で弁護士のランディ・シェーンベルク(ライアン・レイノルズ)に名画の返還が出来るかどうか相談を持ちかける。最初は乗り気でなかったランディだが、名画の価値を知って調査を開始する。その画はオーストリアのベルベデーレ美術館が所蔵していたが、美術館はなかなか返そうとせず、ついにマリアはオーストリア政府を相手に裁判を起こす事を決意するが…。

「ミケランジェロ・プロジェクト」に続いて、またもナチス・ドイツに奪われた美術品奪還の実話に基づく映画化作品である。ただし本作の舞台となるのは終戦から53年も経った1998年からの数年間。主人公も82歳のお婆ちゃんと若手新米弁護士という面白い取り合わせ。

(以下ネタバレあり)

お話の概要は、この老婦人マリアが、名画「黄金のアデーレ」の所有権を主張して、オーストリア国家を相手に裁判を起こし、敗訴して何度も諦めかけるが、若い弁護士ランディの奮闘のおかげもあって、ついに奪還に成功するというもの。

これは言わば、“力の弱い者たちが、強大な敵に戦いを挑み、その度に負けてくじけそうになるが、それでもへこたれず力を合わせ、様々な努力を積み重ねて、最後に勝利する”という、典型的な王道パターンの物語である。こういうお話は私は大好き(笑)。これが全くの実話だというから驚く。最近の実話もののパターンに漏れず、登場人物はほとんどが実名。存命の人もいるだろうから、かなりの部分は史実に忠実に描かれているのだろう。それでいて、これだけワクワク、ハラハラ、そして最後に感動する完璧なエンタティンメントに仕上がっているのだからお見事。脚本がよく出来ている。

マリアは、戦時中はオーストリアのウィーンに住んでいた裕福なユダヤ人で、著名人も家に出入りし、伯母のアデーレはモデルとなって画家クリムトに金箔を貼った豪華な名画、通称「黄金のアデーレ」を描かせたほど。

だがナチスがオーストリアに侵攻し、多くの美術品はナチスに奪われてしまう。そのうえユダヤ人迫害は日を追って厳しくなる。命の危険を感じたマリアは夫と共に国外に逃亡を図るが、両親は残して行かざるを得なかった。その深い慙愧の思いが今も胸にある。
そうした過去を回想で丁寧に描いているから、美しかった伯母の思い出を象徴する「黄金のアデーレ」を取り戻したい、と願うマリアの強い意志が説得力を持つのである。

一方、新米弁護士のランディ・シェーンベルクは、独立しようとしたもののうまく行かず、結局大手法律事務所に再就職したばかり。名前から分かる通り、祖父は大作曲家シェーンベルク。その重圧からも、何か大きな事をやりたいという野心はあるようだ。

最初は気乗り薄だったが、ネットで「黄金のアデーレ」を検索したら1億ドルの価値があると分かり、俄然やる気を出す、という辺りが面白い(と言うかセコイと言うか(笑))。

返還請求の為にはオーストリアに行かなければならないが、マリアは忌まわしい思い出が残る母国には戻りたくないと最初は拒絶するも、目的遂行の為渋々50数年ぶりの帰還を果たす。そして思い出の地を巡るうちに、昔の記憶を蘇らせて行く。
この回想シーンが出色である。若いマリアが、泣く泣く両親を置いて行かざるを得ない、その別れのシーンが涙を誘う。
そしてナチスの目を逃れ、ウイーンから脱出を図るシークェンスがスリリングで手に汗握る。ここらはヒッチコック監督の「引き裂かれたカーテン」の中で、主人公たちが東ベルリンから脱出するシーンを彷彿とさせる。どちらの作品もドイツが支配する地域からの脱出劇だし。

そして審問会が開かれるが、あっさり拒否され、不服なら裁判を起こしなさいと言われるが、この国で裁判を起こすには180万ドルという法外な預託金が必要となる。そんな金はなく、マリアは奪還をあきらめてしまう。
だがランディはあきらめない。何かに突き動かされるように、仕事そっちのけで様々な方法を模索し続け、その為所属する法律事務所もクビになってもまだ止めようとしない。

ランディがそれほどこの件に没頭するのは、彼自身もユダヤ系で、この戦いは依頼主の為だけでなく、ユダヤ人を蹂躙したナチスへの、彼自身の激しい怒りの念も含まれているからだろう。最初に二人がウイーンに行った時、ランディがホロコースト記念碑をじっと見つめるシーンが、その伏線となっている辺りも秀逸。

こうして映画は、ランディが思いついた、オーストリアでなくアメリカ国内で裁判を起こすという奇策、それもダメだと分かってもまだあきらめず、最後の最後まで彼は戦い続ける。「もうあきらめた」というマリアを粘り強く説得し、そんな彼に引きずられるように、マリア自身もやがては戦いに戻って行く。

この終盤のシークェンスは感動的である。もうウイーンには戻らないとマリアに言われたランディは一人で最後の調停委員会に望むのだが、こういうパターンのお約束通り、会場にマリアが現れる。ここでマリアが力強く、切々と思いをぶつけるシーンにはちょっと泣かされた。さすが名優ヘレン・ミレンである。うまい。

この、情で訴えるマリアの弁舌が功を奏して見事な大逆転勝利となる。本当に史実かいな、と疑いたくなるくらい、絵に描いたような王道パターンではある。

負けた美術館関係者が折衷案で取引を申し出るも、マリアがピシャリと撥ね付ける所も小気味良い。胸がスッとする(笑)。

最初は頼りなさそうに見えたランディが、裁判を通して人間的にも成長し逞しくなって行く辺りも、常道ではあるが的確な展開。レイノルズ好演。

エンディングの字幕で、結局奪還した絵を売って二人は大金を得たとあるが、大した問題ではない。映画が描こうとしたのは、誇りと尊厳をもって、ナチスの蛮行の結果に毅然と立ち向かったマリアの戦いぶりであり、そしてどんな絶望的な状況であろうとも、決してあきらめない不屈の意思が、最後には勝利をもたらすのだ、という教訓である。

そうした感動を呼ぶテーマを、全体としてはサスペンスフルなエンタティンメントにまとめあげたカーティス監督の演出が見事である。

 
最後になるが、本作もハーベイ・ワインスタイン、ボブ・ワインスタイン率いるワイスタイン・カンパニーが噛んでいる。ワインスタイン・カンパニー作品は今年、「ビッグ・アイズ」に始まり「ヴィンセントが教えてくれたこと」 、そして本作と、どれも秀作でありハズレがない。

「ヴィンセント-」評にも書いたが、ワインスタイン・カンパニー作品は、映画ファンなら是非お見逃しなく。保証しますよ。     (採点=★★★★☆

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