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2015年12月15日 (火)

エルンスト・ルビッチ特集「結婚哲学」「極楽特急」

Lubitschretrosupective大阪九条・シネ・ヌーヴォで「エルンスト・ルビッチ レトロスペクティブ」と題し、ルビッチの作品を特集上映しているので行ってみた。

 

 

 

ルビッチについては、ビリー・ワイルダーの師匠であるとか、小津安二郎にも影響を与えたとか、“映画史上最も洗練された映画監督”とかさまざまな賛辞が寄せられる名匠だとは聞いていたが、なにぶん活躍した時期が1914年のサイレント期から1948年までとかなり古く、劇場での再映もほとんどなく、テレビでもあまり放映してくれない。
そんなわけで、私がこれまで観たルビッチ作品は、テレビでやっていた「ニノチカ」くらい。これもかなり昔観たもので、あまり覚えていない。

だから、よく行くシネ・ヌーヴォで特集上映があると聞いて、これは観ねばなるまいと出かけた。ただし仕事の都合でなかなか時間が合わず、とりあえず観たのは次の2本。

Themarriagecircle「結婚哲学」 (1924) サイレント

監督:エルンスト・ルビッチ
脚色:パウル・ベルン
原作:ロタール・シュミット

音楽のみが入ったサウンド版で、何か喋っているシーンでも、余程の事がない限り字幕すらも出ない。よって何を喋っているかは観客が類推するしかない。たぶん昔なら活動弁士が名調子で細かく解説したのだろうが、本作には弁士は付かない。サイレント映画に慣れていない若い人は面食らうだろう。

しかしお話は、妻が親友同士の二組の夫婦の、浮気、離婚をめぐる騒動というよくあるパターンで、これが一組目は共に倦怠期で、大学教授の夫もその妻も別れたがっており、もう一組は夫が医者で、理想の結婚生活を送っているという対照的な組み合わせ。教授の若い妻が親友の夫に気を惹かれてちょっとしたさざ波が立ち、さらに夫の共同経営者の若い男が夫の妻に近づいて…、とそんな具合に夫婦二組プラス独身一人の5人の男女による恋のさや当てが複雑に入り乱れる楽しいコメディである。

セリフはないのだけれど、仕草や表情が豊かで十分感情の機微は理解出来る。チャップリンの映画が顕著な例であるが、サイレント映画は音とセリフがない分、極力俳優の演技とマイム芸だけでもストーリーが観客に伝わるよう、大変な努力をしているのである。
知ってる俳優は、戦後も活躍した名優、アドルフ・マンジュウ(教授役)や、チャップリンの「街の灯」にも出ていたハリー・マイヤーズくらいしかいないが、サイレントで鍛えた役者たちの丁々発止の演技合戦がなんとも楽しいし、何よりルビッチ監督の軽妙にして洒脱な演出が冴えている。

なるほど、後のワイルダー、さらにワイルダーを敬愛する三谷幸喜が影響を受けた、というのもよく分かる。小津安二郎監督の「淑女は何を忘れたか」(1937)を思い返せば、本作とタッチがよく似ているのに気付く。名作「秋日和」における佐分利信、中村伸郎、北竜二の悪友トリオが巻き起こす再婚騒動も、笑いのリズムはまさにルビッチ・タッチだ。

結局最後は医者の夫婦はヨリを戻すが、失恋した共同経営者はまた新しい相手を見つけたようで…という所でフェイドアウトするラストまで、頬が緩みっぱなし。また観たくなった。

 

Troubleinparadise「極楽特急」(1932) 

監督:エルンスト・ルビッチ
原作戯曲:ラスロ・アラダール
脚本:グローヴァー・ジョーンズ
脚色:サムソン・ラファエルソン

こちらはトーキー作品。お話はなんと泥棒コメディである。ヴェニスで知り合い、意気投合した男女の泥棒コンビ、ガストン( ハーバート・マーシャル)とリリイ(ミリアム・ホプキンス)が、舞台をパリに移して大金持ちのマダムから大金をせしめるべく共同戦線を張るが、隙をみては相手を出し抜こうとする駆け引きが実に楽しい。まるでモンキー・パンチの劇画「ルパン三世」におけるルパン三世と峰不二子のコンビそっくりだ(笑)。こんな所に原型があったのか。
リリイがガストンからスリ取った物を見せると、ガストンもいつの間にかリリイからスリ取ったネックレスを見せて「これでおあいこさ」てな感じでほくそ笑むシーンは大笑いした。なんとも洒落ている。

ガストンがくだんの金持ちマダム・マリアンヌ( ケイ・フランシス)のハンドバッグを盗み、それをしゃあしゃあと自分が取り戻したかのように装ってマリアンヌに返しに行ってチャッカリ彼女の秘書に納まり、いつしかマリアンヌが彼に惚れてしまう展開となる。二人の美女の間を行き来するガストンの色男ぶりがなんとも楽しい。

その後、ガストンたちがマリアンヌの金庫の中身を盗もうとする現場に折悪しくマリアンヌが戻って来た時も、ガストンは悪びれもせず「私が去ってしまったら、奥様はきっと大切なものをなくした事に気づくでしょう」と語る辺りも「カリオストロの城」のラストを思い起こさせる。

ラストもまた洒落ている。リリイと二人でまんまと逃げおおせ、乗ったタクシーの中でリリイとガストンが、またしてもお互いから盗んだものを見せ合う、前述のシーンが繰り返される粋なエンディングにまたニヤリ。

戦前の作品なのに、古さをまったく感じさせない、エレガントでシックで洒脱な笑い。今観ても新鮮である。いやあ恐れ入った。すっかり魅了されてしまった。
いまさらだが、ルビッチ作品を追いかけてみたくなった。ウーン、こりゃ病み付きになりそう(笑)。


そんなわけで、年末で忙しいけれど、できるだけルビッチ特集に通うつもりである。幸いシネ・ヌーヴォでは、11枚綴り1万円の回数券を発売中で、早速ゲットした。1作品当り900円ちょっととおトクである。ファンは是非ご利用を、と宣伝しておこう。

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シネ・ヌーヴォの「エルンスト・ルビッチ・レトロスペクティブ」は12月25日まで。詳細はコチラ。 ↓
http://www.cinenouveau.com/sakuhin/lubitsch/lubitsch.html

 

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