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2016年1月10日 (日)

「ストレイト・アウタ・コンプトン」

Straightouttacompton2015年・アメリカ/ユニヴァーサル=レジェンダリー・ピクチャーズ
配給:シンカ、パルコ
原題:Straight Outta Compton
監督:F・ゲイリー・グレイ
脚本:ジョナサン・ハーマン、アンドレア・バーロフ
製作:アイス・キューブ、ドクター・ドレー、マット・アルバレス、トミカ・ウッズ=ライト

アメリカの大人気ヒップホップグループ「N.W.A.」の結成から解散、そしてその後を描いた伝記映画。監督は「完全なる報復」のF・ゲイリー・グレイ。アイス・キューブ役を息子のオシェア・ジャクソン・Jrが演じるほか、「サイドウェイ」のポール・ジアマッティが出演。N.W.A.のメンバー、ドクター・ドレー、アイス・キューブも製作陣に名を連ねている。

1986年、アメリカ、カリフォルニア州コンプトンで、イージー・E(ジェイソン・ミッチェル)、アイス・キューブ(オシェア・ジャクソン・Jr)、ドクター・ドレー(コーリー・ホーキンス)、MC・レン(オルディス・ホッジ)、DJ・イェラ(ニール・ブラウン・Jr)の5人の若者たちがヒップホップグループ「N.W.A.」を結成した。過激でストレートな歌詞を強烈なビートに乗せた彼らのラップは若者たちの共感を呼び、たちまち人気グループとなるが、警察や権力を痛烈に皮肉った歌の内容から警察、さらにはFBIからも目をつけられる事となる…。

正月最初の映画がこれ。ヒップポップは私はあまり好きな方ではないし、エミネム主演の「8マイル」も面白くなかったので気が乗らなかったのだが、監督が「交渉人」(1998)のF・ゲイリー・グレイだったし、「ちょっと面白いよ」という声も聞いたので、他に観るものもないし時間があったので観に行ったのだが。

 
なんと、これは、予想を裏切って面白かった

実話に基づいた音楽グループの成功と挫折とメンバーの離反、そして数年ぶりの再会…と、内容はクリント・イーストウッド監督「ジャージー・ボーイズ」とよく似ている。ただしこちらも事実にほぼ忠実に作られているので真似たわけではない。音楽グループの栄枯盛衰はどこも似たり寄ったりという事なのだろう。

だが、内容的にはいささか異なる。あちらが白人のグループで、ブロードウェイ・ミュージカルを基にしているだけあってどっちかと言うとおおらかで楽しい内容であるのに対し、こちらは黒人グループによる、貧困や自分たちへの差別に対する怒りを歌に託した、魂の叫び、とも言うべき作品になっている。

映画にも実際のニュース映像が登場するが、1991年に起きた、スピード違反した黒人をロス警察が集団リンチした、いわゆるロドニー・キング事件にも象徴されるように、当時の警察の、黒人に対する偏見、差別は相当なもので、アイス・キューブたちも何でもない事で警察にネチネチと苛められたりする。1992年にロサンゼルスで起きた黒人による大暴動もそうした警察への怒りが下地となっている。

そうした警察への怒りを、暴力でなく、歌で表現しようとして結成されたのがヒップホップグループ「N.W.A」である。主にアイス・キューブが作詞を担当し、イージー・Eがメインとなって歌うその歌詞は、黒人を差別する警察への痛烈な皮肉、社会への怒りに満ちている。

ラップはこれまで、「8マイル」とか日本の「サイタマのラッパー」シリーズを観た先入観もあってか、早口で好き勝手な事を言ったり、口汚く相手を罵ったりするだけの無内容な、歌とも言えないシロモノだと思っていたのだが、本作を観て一気にイメージが変わった。

アイス・キューブの詞の良さもあるのだろうが、ラップのテンポに乗せて、これでもかと言わんばかりに徹底して、警察を皮肉を交えておちょくり、マイノリティを排除する社会機構の歪みをも痛烈に批判する。若者たちが共感するのも当然である。

そういう意味では、これは1960年代、ベトナム反戦運動を契機に盛り上がった、ボブ・ディランやピート・シーガーらが歌ったプロテスト・ソングに通ずるものがある。
そう言えば日本でも同じ頃、新宿西口広場などで反戦フォーク・ゲリラ活動があったのを思い出す。

歌は、いつの時代も、体制への批判、抗議の道具・武器となり得るのである。

警察は神経を尖らせ、コンサートでその手の警察批判的なラップを歌う事を禁止する。歌えば逮捕だとも脅す。

だがそれでもイージーたちは、平気で警察を揶揄するラップを歌い、観衆に中指を突き立てるようにとまで言う。歌のタイトルが“Fuck The Police”というのも笑える。案の定警察は怒り狂い、逮捕に乗り出す。
権力者に対する、マイノリティからの非暴力的抵抗、反逆の心意気と行動が爽快である。

 
映画で面白いのは、彼らの歌が当たると目をつけ、マネージャーを買って出た白人の男、ジェリー・ヘラー(ポール・ジアマッティ)の存在である。コンサート開催やレコード会社設立に尽力したり、警察との対応もやってくれたりと結構頼りになり、彼らが成功を収めたのもこの男の功績とも言えるのだが、実は裏で利益金をチョロまかしていたり、したたかな小悪党でもある。
ジェリーを演じているポール・ジアマッティがうまい。こうした腹に一物あるクセのある役をやらしたら絶品である。

やがて、契約に伴う金銭トラブルでアイス・キューブとドクター・ドレーが脱退したり、ジェリーの不正を知ってイージー・Eがジェリーに決別宣言をしたりでチームは分解し、仲間たちはバラバラになるのだが、最後にはイージーの病死という悲劇を乗り越え、彼らが和解するラストに、ちょっと泣かされる。

グレイ監督の演出もテンポよく切れ味がいい。イージーたちの歌で会場が盛り上がって行くさまもノリノリで楽しい。それぞれの人物像を丁寧に描いた脚本も見事。

製作陣にドクター・ドレーやアイス・キューブ、それに亡きイージー・Eの妻であるトミカ・ウッズ=ライトらが名を連ねているせいか、ダーティなエピソードは割愛されているようだが、それでもかなり事実に忠実に作られているそうだ。

ロス暴動は私も知っていたが、その裏面にこういう歴史があったとは知らなかった。アイス・キューブは今では俳優、プロデューサーとして活躍しているので名前は知っていたが、そんな伝説的なヒップポップグループのメンバーだったとはこれまた知らなかった。驚きである。

この映画で、ヒップポップをちょっと見直した。これから歌詞の内容も気にしてみよう。

日本では小規模の公開なのであまり話題にはなっていないが、アメリカ本国では、音楽伝記映画としては記録的な大ヒットだそうだ。ヒップポップに関心がなくても面白い。アメリカの負の歴史、そしてヒップポップの歴史を知る意味でも見ごたえのある力作である。お奨め。    (採点=★★★★☆

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CD「ストレイト・アウタ・コンプトン」

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コメント

ヒップホップものという以前に、鮮烈な青春映画として面白かったですよね。
スヌ-プを主役にした続編の構想もあるらしいので、ここからの広がりも楽しみです。

投稿: ノラネコ | 2016年1月19日 (火) 22:56

◆ノラネコさん
そうそう、書こうと思ってたのですが、若さのエネルギーが迸る、青春映画の色合いも濃いですね。
続編も企画されてるのですか。それは楽しみ。期待したくなりますね。

投稿: Kei(管理人) | 2016年2月 2日 (火) 23:35

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