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2016年2月 3日 (水)

「ウォーリアー」 (DVD)

Warrior2011年・アメリカ/ライオンズゲイト=MSP
配給:ギャガ
原題:Warrior
監督:ギャヴィン・オコナー
脚本:ギャヴィン・オコナー、 アンソニー・タムバキス、  クリフ・ドーフマン
原案:ギャヴィン・オコナー、  クリフ・ドーフマン
製作:ギャヴィン・オコナー、グレッグ・オコナー
撮影監督:マサノブ・タカヤナギ

“スパルタ”と呼ばれる格闘技イベントに出場し、闘う事となった兄弟を主人公にしたアクション映画の佳作。監督はスポーツ・アクションドラマ「ミラクル」(日本未公開)などの新進ギャヴィン・オコナー。主演は昨年主演作が相次いだトム・ハーディと「エクソダス 神と王」のジョエル・エドガートン、「ラン・オールナイト」のニック・ノルティなど。ニック・ノルティは本作でアカデミー助演男優賞にノミネートされた。

アル中の父親から逃れ、母親と一緒に家を出たトミー(トム・ハーディ)は、14年ぶりに父親パディ(ニック・ノルティ)の元に帰って来た。学生時代はレスリングの選手として名を馳せていたトミーは、高額の賞金がかけられた総合格闘技イベント“スパルタ”に出場するため、元ボクサーである父親にトレーナー役を依頼する。一方、かつて格闘家の選手だったトミーの兄ブレンダン(ジョエル・エドガートン)は、今は教師として働きながら妻子を養っていたが、娘の病気にかかる高額な医療費のため家計は厳しく、愛する家族を守るため、彼もまた“スパルタ”に出場する事を決意する。再び格闘技の世界へ足を踏み入れた兄弟二人は“スパルタ”の舞台で再開する…。

この作品は、2011年に製作されながらわが国ではずっと未公開だった。昨年8月、DVDが発売されたが、観たファンから圧倒的な好評を得たらしく、映画DBサイト・キネノートでは最新公開ランキング1位に躍り出て、現在も平均得点85.5点という高得点をキープしている。
  この人気に、配給のギャガは9月になって急遽東京の一部劇場(シネマカリテ)で限定公開を行った。DVDが先に発売されて翌月劇場公開は異例である。
  そして先般発表された「映画秘宝」誌のベストテンでも、13位にランクインした。

当地では劇場未公開だったので当然劇場では観ていないのだが、この映画秘宝ランクが気になって、DVDを借りて観てみた。

(以下ネタバレあり)

観て感動した。熱い男の闘いと、ラストシーンに涙が溢れた。昨年、私がベストテンに選んだ「激戦 ハート・オブ・ファイト」にも負けず劣らずの、感動の格闘技アクション・ドラマの傑作であった。同作に感動した人なら泣ける事間違いなしである。

タイトルロールでは一番手はジョエル・エドガートンで、トム・ハーディは二番手である。2011年当時はトム・ハーディは無名で、これは仕方がない。どっちも良かった。
  この作品以降、トム・ハーディは2012年に「欲望のヴァージニア」「ダークナイト・ライジング」で助演し、2013年には遂に主演作「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」(これも昨年遅れて公開)の公開と人気を高めて行く。ジョエル・エドガートンもこれ以降、「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012)や「華麗なるギャツビー」(2013)で助演、そして2014年の「エクソダス 神と王」ではモーゼ(クリスチャン・ベイル)のライバル、ラムセス役に大抜擢される事となる。
  いわば本作は、ハーディとエドガートンの、共に出世作であるとも言える。そういう意味でも注目の作品である。昨年でもよかったから、大々的に劇場公開して欲しかったなぁ。

 
トミーたちの父親はアル中の飲んだくれ。妻子に暴力をふるい、耐えられずにトミーは母親と家を飛び出した。
学生時代、トミーと兄のブレンダンは共にレスリング選手として活躍していた。その頃は仲がよかった兄弟だが、トミーが家を飛び出した時にブレンダンは恋人と別れられずにトミーと行動を共にしなかった事で、トミーとの間に確執が生まれた。

父を今でも許していないトミーだが、ある理由で500万ドルの賞金がかけられた総合格闘技イベント“スパルタ”に出場する為、やむを得ず父にトレーナーを依頼する。
一方で兄ブレンダンも、高校の教師として家族を支えているが、難病の娘に高額の医療費が必要となり、こちらもやむなく“スパルタ”に出場する事を決意する。

父の方は、今ではアルコールを絶っているが、それで兄弟が許すはずもない。
三者三様の確執を孕んで、ドラマは後半、“スパルタ”での闘いへとなだれ込んで行く。

二人とも相当筋力トレーニングを積んだのだろう。格闘家らしい体型になっている。
特にトム・ハーディ、肩の筋肉がハンパではなく盛り上がってる。本作に賭ける意気込みが感じられる。

金網の中の格闘シーンはなかなかの迫力。特に手持ちカメラで揺れる短いカットを積み重ね、観客の振り上げる腕や拳も写り込むドキュメンタルな撮り方がさらに臨場感を醸し出す。

最後の決勝戦において、遂に兄弟同士の対決となる。この勝負もガチバトルで見ごたえがある。

最初はやめて欲しいと懇願していたブレンダンの妻が、いつの間にか試合場に応援に駆けつけていたり、ブレンダンの学校の校長や生徒たちまで応援する辺りも、パターンではあるが感動的である。

実はトミーは海兵隊の兵士としてイラクに派兵されていたという経歴を持っている。その際、味方の兵士を助けていて、助けられた兵士がテレビでトミーを見つけ、そんな事から海兵隊員たちもトミーを応援する事となる。こうした熱い応援合戦も、ドラマを盛り上げている。無論、無言の父の陰ながらの応援も。

最初の頃は、互いに反目しあってはいるものの、親子、兄弟の絆は簡単に断ち切れるものではない。激しい戦いのプロセスを経て、少しづつ徐々に、父と子、兄と弟の間におけるわだかまりが氷解して行く。

実は、トミーには、もう父を、兄を憎む心も薄れていたのではないだろうか。父にトレーナーを頼んだのも、和解のサインなのだろう。

だが、トミーも父も、不器用な性格ゆえ、面と向かえばつい口論になってしまう。そんな男たちの心の内が、トム・ハーディ、ニック・ノルティの寡黙な演技から伝わって来る。それがいい。

最後の兄弟対決で、トミーは肩を脱臼するのだが、それでも闘いをやめようとはしない。トミーを押さえ込んだブレンダンが、「もういいんだ。トミー、愛してる」と囁く。それに応えるかのように、ようやくギブアップのタップをするトミー。このあたりはもう涙決壊である。泣ける、泣ける。

トミーの肩を抱きながら、兄と弟がゆっくりとリングから去って行く。このエンディングにも泣けた。

 
格闘技を中心としたメインのドラマも見ごたえがあるが、よく見れば細部にもいろいろなテーマや社会批判が盛り込まれていて、単なるアクションに留まらず、なかなか奥行きのある作品となっている。観てない人の為にここでは書かないが、それらは下の番外コーナーに書いたので映画を観た後お読みいただく事をお奨めする。

とにかく見ごたえのある、熱い男のドラマであった。これが未公開でDVDスルーどまりになる寸前だったとは信じられない。トム・ハーディ主演だし、上手に売ったらヒットしたかも知れないだけに。配給会社(ギャガ)はいい映画を見極め、劇場でヒットさせてやる、というぐらいの熱意を持っていただきたいと切に願う。     (採点=★★★★☆

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(付記・映画を観た後でお読みください)

海兵隊に所属し、イラクに派兵されていた時、トミーは実は無断離隊し、軍から追われていた事が後半明らかになる。
その理由は、トミーの親友で、イラクで死んだマニーの妻が、テレビ局の取材に応えて語った衝撃の真実にある。
トミーたちの隊は、アメリカ軍に誤爆され、味方だと旗を振ったが爆撃はやまず、これによってマニーは戦死した。親友の死にショックを受けたトミーはそれで無断逃亡した。命を落しかけた兵士を救ったのはその逃亡途中である。

トミーの表情がどこか虚無的なのはそのせいなのだろう。“スパルタ”に出場したのも、親友マニーの妻に賞金を送る為だと分かって来る。

他にも、ブレンダンの娘が重病で高額の医療費が必要となった時、銀行が「家を売るしかないですね」と冷たく言い放ったりと、随所にアメリカという国の機構・制度に対する鋭い批判が込められている。

そう思うと、トミーたちの父がなぜ14年前、アル中になって家族に暴力を振るうようになったかもおぼろ気に推察出来る。

映画の中で、父が「俺も軍隊経験者だぞ」と語るシーンがある。年齢からして、おそらくは若い頃にベトナム戦争に従軍していたのだろう。またアル中だったという14~5年前と言えば、映画製作の2011年から逆算して1996年頃。1991年の湾岸戦争以降、アメリカが世界の警察として、ソマリア派兵、イラク空爆など、世界各地に軍隊を送っていた時代である。15年前なら父もまだ40歳代半ばか後半。それらの戦地に赴き、過酷な戦争を体験して精神を病んだ可能性もある。
もし行ってなかったとしても、戦争のニュースによって、ベトナム時代のPTSDがぶり返した可能性だってある。それで酒に溺れるようになったのかも知れない。

この父が、いつもカセットテープで、メルヴィルの「白鯨」の朗読を聴いているというエピソードも興味深い。巨大な白鯨に無謀な闘いを挑み死んで行くエイハブ船長の物語は、無謀な戦争の泥沼に足を突っ込んで抜け出せない、アメリカという国のメタファーなのかも知れない。

トミーの体験した、イラク戦争の混迷ぶりとも合わせて考えれば、この映画はそうしたアメリカという国に対する告発を行っているのかも知れない。

こういう、さりげないエピソードも、映画を観る際に是非見落とさないように。何度も繰り返し観たくなる、素敵な作品であった。

DVD「ウォーリアー」

DVD「激戦 ハート・オブ・ファイト」

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