「ちはやふる -上の句-」
2016年・日本/日本テレビ=ROBOT
配給:東宝
監督:小泉徳宏
原作:末次由紀
脚本:小泉徳宏
ゼネラルプロデューサー:奥田誠治
エグゼクティブプロデューサー:門屋大輔、安藤親広
企画・プロデュース:北島直明
音楽:横山 克
アニメーションディレクター:ファンタジスタ歌磨呂
競技かるたに打ち込む高校生たちの青春を描いた人気コミックを二部作で実写映画化した前編。脚本・監督は、「タイヨウのうた」、「カノジョは嘘を愛しすぎてる」の小泉徳宏。主演は「海街diary」の広瀬すず、「映画 ビリギャル」の野村周平、「劇場版 仮面ライダードライブ サプライズ・フューチャー」の真剣佑、「舞妓はレディ」の上白石萌音など。
幼なじみの綾瀬千早(広瀬)、真島太一(野村)、綿谷新(真剣佑)は小学生時代、新に教わった「競技かるた」でいつも一緒に遊んでいたが、小学校を卒業した頃、新は家庭の事情で福井へ引っ越してしまう。高校に入学した千早は、新に会いたい一心で「競技かるた部」創設を決意し、高校で再会した太一とともに部員集めに奔走し、なんとか最低条件の5人のメンバーを集めて創部にこぎ着ける。全国大会に行けば新に会えるかもしれないという思いを秘め、千早は仲間たちと合宿、猛特訓を重ねるが…。
原作コミックは未読。TVアニメも見ていない。よってまったく白紙の状態で鑑賞。
ただちょっと興味を引かれたのが、製作が「三丁目の夕日」等のROBOTで、監督が私ご贔屓の小泉徳宏だという点。
小泉監督は、10年前、若干25歳!で「タイヨウのうた」(2006)で長編監督デビュー。これがなかなかの力作で感動。それ以来応援している監督である。
2作目「ガチ☆ボーイ」(2008)も異色のスポコンもので、これが泣ける傑作だった。ただ残念ながら1、2作目とも小規模公開で興行的にはパッとせず。
その後の「FLOWERS フラワーズ」(2010)は資質に合わなかったのか面白くない出来でちょっとガッカリ。2013年の「カノジョは嘘を愛しすぎてる」もさっぱり話題にならず。
せっかく期待していたのに、この尻すぼみ状態に少々やきもきしていて、小泉監督、今度は大丈夫かなと期待と不安が相半ば。
もう一つ不安があって、本作は最近やたら流行?となっている二部作製。重厚な長編サスペンス、「ソロモンの偽証」や壮大な物語にアクション演出も話題を呼んだ「るろうに剣心」などでは成功しているが、こうした学園青春ものまで二部作にするのはいかがなものか、長過ぎてダレないか、と心配になっていた。
そんなわけで本作、さまざまな期待と不安の中で観たのだが…。
(以下ネタバレあり)
これは面白かった。いわゆる“学園クラブ活動もの”のジャンルで、このジャンルにはこれまでにも大林宣彦監督「青春デンデケデケデケ」や磯村一路監督「がんばっていきまっしょい」、周防正行監督「シコふんじゃった。」、矢口史靖監督の一連の作品「ウォーターボーイズ」、「スウィングガールズ」などがあり、いずれも傑作だった。
―というか、私はこの手の作品が大好きで、いずれも公開時、「スゥイング-」を除きマイ・ベストワンにしているくらいである。
本作は、それらと並ぶ学園クラブ活動ものの傑作と言っていい見事な出来であった。後編(下の句)と合わせて観ないと何とも言えないが、今の所はベストテン上位候補である。
“競技かるた”という題材がまず面白い。一見文化部的に見えるが、実態は激しいバトルを伴うスポーツクラブ的でもある。素早い運動神経も、体力も要求される。それでいて百人一首の句も全部覚えなければいけないし、まさに知性と教養も必要である。
競技大会はまさに真剣勝負、一瞬の判断力、勘、そして札を押える素早い手の動き。まさにスポーツである。小泉演出は、それらをスピーディなカット割とスローモーション、さらにはなんと!畳の下から透過するカメラアングルもあったりと、テクニックを縦横に駆使して見ごたえある画面を作り上げている。素晴らしい。
そして恋愛ドラマ部分でも、小学生からの幼馴染みの3人が思春期を迎え、微妙な三角関係を形成している辺りも悪くない。
千早は、恋よりもまず「かるた」一筋、二人の男とは今も“良き友だち”以上でも以下でもない。太一は仄かに千早に恋心を抱くものの、打ち明ける勇気もない。新は離れてはいるものの、かるたも意思の強さも太一以上の力があるようである。
子供の頃、新の眼鏡をこっそり隠したりする邪心を秘めているのも太一である。
この3者の人間模様が「下の句」でどう展開して行くかも気になる。
この「上の句」が映画として見事なのは、かるたクラブ創設、部員集め、合宿等の猛訓練、合宿での強豪ライバル・北央学園との試合でコテンパンに敗退、再度猛特訓、そしてクライマックスの東京大会における北央学園との息詰まるリベンジ・マッチ、最後に勝利…と、まさに典型的な王道娯楽映画のパターンが展開されるからである。
二部作の前編ではあるが、この「上の句」編だけで起承転結の物語ががきっちりと構成され、完結しているのがいい。これまでの二部作ものは、前編がどれもいい所で「つづく」となる尻切れぶりで消化不良気味であっただけに、このスッキリとした終わり方は気分爽快である。
部員集めのプロセスや、集まった5人のメンバーが、コメディ・リリーフあり策士あり、とそれぞれに個性的なキャラである辺りは、「七人の侍」を思わせたりもする。いろんな娯楽映画の要素が巧みに配分された脚本(小泉監督自身)が見事である。
最初は、5人目の駒合せという立場を自覚しイジけていた机くん・駒野(森永悠希)が、仲間に励まされ、また特技(パソコンのデータ分析)も活用して、全員が一丸となってチームワークが形成されて行くプロセスもいい。
クライマックスの試合では、目のアップも多用した、スリリングな演出が緊迫感を漂わせ、固唾を呑んで見守った。勝った瞬間には涙が出てしまったほどである。傑作青春映画「バクマン。」のキャッチフレーズ、「友情・努力・勝利」を思い出して胸が熱くなった。
後編「下の句」(このサブタイトルも粋)では、やはり全国大会がクライマックスとなる王道娯楽パターンが展開されるのだろう。3人の恋の行方も気になる。今から公開が待ち遠しい。
小泉徳宏監督、これまでは興行的に恵まれず、実力がありながら評価に繋がらなかったが、本作では興行的にも初登場4位、観客の評価も高いようで今後の口コミも期待出来る。10年間応援して来た当方としては、わが事のように喜びたい気分である。年齢もやっと35歳。まだまだこれからである。本作を足がかりに、さらなる飛躍を期待したい。頑張れ!小泉徳宏監督。
(採点=★★★★☆)
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コメント
この作品は本当に面白かったですね。
前篇ですが今の所今年の邦画ベストワンかも。
私も原作は読んでいません。
前後篇という事もありちょっと迷っていたのですが、評判が良かったので見ました。
主演の広瀬すずもいいですが、かるた部の5人を始め役者がみないいです。
演出・脚本も良かったです。
特にかるた部の5人はいいですね。
個人的には机くん役の森永悠希の演技が良かった。
どこがで見た人だと思っていましたが、大河「花燃ゆ」で主人公の弟役でした。
試合のシーンでは彼の好演もあって涙が、、
上白石萌音は「舞妓はレディ」の主演がとても良かったのですが、本作でも好演していました。
出身が私と同じ鹿児島なので親近感あります。
他にも大ファンの國村隼さんがいつもながらいいですね。
小泉監督の作品は始めて見たのですが、まだ35歳なんですね。
これからが楽しみな逸材ですね。
ラストのクレジット後の後篇の予告編によると後篇で主人公の前に立ちふさがるかるたクイーン役は松岡茉優なんですね。
これは後篇も大変楽しみです。見ます。
投稿: きさ | 2016年3月29日 (火) 23:18
◆きささん。しばらくでした。
きささんもこの作品、お気に入りですか。それは何より。私も今のところベストワンとまでは行かなくともベストテン候補です。
「下の句」も楽しみですね。小泉監督の過去作品も、機会があればご覧になる事をお奨めします。
投稿: Kei(管理人) | 2016年4月 2日 (土) 01:09
勝手に先入観で「広瀬すずちゃんありきの映画なのかな」と思って観たら、部活映画って感じで5人が主役みたいになってましたね。そこがまたイイですね。
投稿: タニプロ | 2016年4月13日 (水) 00:33
◆タニプロさん
部活映画と言えば、やはり4~6人グループものに傑作が多いですね。私が本文で挙げた作品などすべてそうです。その鉄則を忠実に守ったからこそ、本作も傑作になったと思いますね。
投稿: Kei(管理人) | 2016年4月15日 (金) 00:14
こんちは。唐突に変な連想が思い浮かんでしまいました。上の句、下の句、新作と続きますが、そこでこの5人を解散するのは勿体ない。そこで、この5人と監督で「ガッチャマン」をリメイク、お手本を作ってもらう。
すず⇒大鷲の健(熱血)
太一⇒コンドルのジョー(クール)
肉まん君⇒ミミズクの竜(食キャラ)
奏ちゃん⇒白鳥のジュン(たおやかにパン見せを恥じらってほしい)
机くん⇒燕の甚平(成長キャラ)
新の上半身+クィーンの下半身⇒ベルクカッツェ
投稿: ふじき78 | 2016年5月20日 (金) 09:17
◆ふじき78さん
すみません。私ガッチャマン見た事ないので、キャラの説明聞いてもピンと来ないんです。
和服の衣裳がカラフルなので、むしろゴレンジャーでしょうかなぁ。でもゴレンジャーも見た事なくて写真でしか知らない。
私の世代なら、古いですが「忍者部隊月光」かなあ。メンバー5人だし女性キャラもいたし。
あーでも多分知らない人多いでしょうなあ(トシが分かる(笑))。
そう言えば、「ガッチャマン」も「忍者部隊月光」も、どちらも原作者は吉田竜夫でした。
投稿: Kei(管理人) | 2016年5月22日 (日) 12:55