「ヘイトフル・エイト」
2015年・アメリカ/ワイスタイン・カンパニー
配給:ギャガ
原題:The Hateful Eight
監督:クエンティン・タランティーノ
脚本:クエンティン・タランティーノ
美術:種田陽平
音楽:エンニオ・モリコーネ
製作総指揮:ボブ・ワインスタイン、ハーベイ・ワインスタイン、ジョージア・カカンデス
大雪のため閉ざされたロッジで繰り広げられる密室ミステリーを描いた西部劇。監督・脚本はこれが長編第8作目となる「ジャンゴ 繋がれざる者」のクエンティン・タランティーノ。出演はタランティーノ作品常連のサミュエル・L・ジャクソンに、カート・ラッセル、ジェニファー・ジェイソン・リー、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーン、ウォルトン・ゴギンズ、デミアン・ビチルとくせ者揃いの豪華キャスト。音楽をタランティーノが敬愛する巨匠エンニオ・モリコーネが担当し、これで第88回アカデミー賞の作曲賞を受賞した。70ミリフィルムによる「ウルトラ・パナビジョン70」方式で撮影(ロバート・リチャードソン担当)された事でも話題となった。
南北戦争後のワイオミング。雪の中を走る1台の駅馬車。乗っているのは賞金稼ぎのジョン・ルース(カート・ラッセル)と手錠をはめられた賞金首の女デイジー・ドメルグ(ジェニファー・ジェイソン・リー)。その道中に、お尋ね者3人の死体を運ぶ途中の賞金稼ぎマーキス・ウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)、レッドロックの新任保安官だというクリス・マニックス(ウォルトン・ゴギンズ)も乗り込んで来る。雪嵐が近づき、一行は道中にあるミニーの紳士洋品店に立ち寄る。が、そこには店主ミニーの姿はなく、見知らぬメキシコ人のボブ(デミアン・ビチル)が店番をしていた。店には他に、絞首刑執行人のオズワルド・モブレー(ティム・ロス)、カウボーイのジョー・ゲージ(マイケル・マドセン)、南軍の元将軍サンディ・スミザーズ(ブルース・ダーン)という3人の先客がいた。それぞれに訳ありの8人は、吹雪の中この店で一晩を一緒に過ごす事になるが…。
タランティーノ監督の、長編作としてはこれが8本目だそうである。題名に“8”が入ってるのはその意味もある。
なんか、多作のイメージがあったが、そんなに少なかったのかと意外な感じである(「キル・ビル」はパート1、2足して1本の勘定だそうだ)。まあ脚本のみ提供とか、出演のみの作品など、関係してる映画は沢山あるので監督作品も多いと錯覚していたようだ。
ただしカンヌでパルムドールを獲った「パルプ・フィクション」の後、4人の監督で撮ったオムニバス「フォー・ルームス」(1995)の第4話の監督も担当してるから、本数から言えば「8 1/2(2分の1)」本目に当たるとも言えるわけで、フェデリコ・フェリーニ監督の名作「8 1/2」を連想してしまう。あちらもこれまた4人の監督によるオムニバス「ボッカチオ’70」(1962)を1/2本と数えて、フェリーニ監督8 1/2本目の作品だった。奇しくもその1/2の作品の題名に“70”が付いてるが、本作のフィルムも70ミリと、なんか縁があるようだ。
閑話休題、本作は前作に引き続いて西部劇仕立て。ただし西部劇らしいのは、駅馬車が登場する事と、賞金稼ぎのガンマンが登場人物の中にいる、という2点だけで、後半に入ると、雪に閉ざされたロッジに集まった訳ありの8人が次々と死んで行き、さて犯人は…という謎解きミステリー仕立て。
いつもいろんな映画からの引用、オマージュを散りばめるタランティーノ監督作品の例に洩れず、本作も映画ネタが満載。映画ファンとしてはいくつ元ネタが見つけられるか、というお楽しみもあり、これは早いものがち(笑)。
これについては、恒例、お楽しみコーナーで詳述することとする。
ストーリー的には、やや強引な所もあったりで、多少脚本に無理がなきにしもあらずだが、冒頭から無駄話的会話を延々と喋っていたり、章立てにしたり、時制を途中で逆転させたり、そして何よりデビュー作「レザボア・ドッグス」以来、近作に至るまで続く、殺し殺される凄惨な血みどろバイオレンス描写、と、タランティーノ印の刻印が随所に散りばめられ、タランティーノ・ファンなら十分楽しめる作品に仕上がっている。
前作にもあった、黒人差別への批判も健在で、特に南北戦争時、相当の黒人兵を殺したらしい南軍の元将軍スミザーズに対し、怒りと復讐心をぶつけるウォーレンは、前作のジャンゴの分身であるとも言える。
そういう意味でも本作は、タランティーノ監督作品の集大成とも言え、まさにタランティーノ版「8 1/2」である、と言えるだろう。
これを70ミリで作ったというのも、タランティーノならではである。「デス・プルーフ in グラインド・ハウス」では、昔ながらの2本立てプログラム・ピクチャーを場末の3番館で見る、という懐古趣味を復権させたタランティーノ、今回はこれも今では絶滅危惧種である70ミリ・フィルムでの上映を復活させた。
今ではほとんど消えてしまった昔ながらの上映方式を、今の時代にもう一度復活させたい、という思いは、昔から映画を見ているファンなら誰でも思うだろう。それを自分で実行しているタランティーノは、やはり筋金入りの映画ファンである。それだけでも尊敬に値する。
残念ながら、日本ではもう70ミリ上映館はなく、映写機もないようだ。昔は大阪にも、OS劇場、梅田東映パラス、神戸では聚楽館、と、70ミリ上映館はいくつもあった。大画面でのクリアな映像に酔ったものだった。映画館で観てれば分かるが、上下の黒味は普通のシネスコよりも多い。縦横比が2.76:1という超横長映像。舞台を見ているようで、ロッジ内での会話劇はまさに舞台劇。これ、大スクリーンの70ミリ劇場で、フィルム上映で観たかったと痛切に思う。
ともあれ、タランティーノ・ファンなら是非観るべし。少しでも、大きな劇場で。 (採点=★★★★☆)
まず、“雪に閉ざされた一軒家の中で殺人が起き、誰が犯人か、を捜す謎解きミステリー”という物語シチュエーション。
これは本格ミステリーでは昔からよくあるパターンで、ミステリー作家は大抵これをやりたがる(笑)。東野圭吾や綾辻行人、有栖川有栖など、みんな1回はこれを書いている。
で、本作の元ネタは、おそらくはアガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」、それと「そして誰もいなくなった」の2本だろう。
前者では、雪で立往生した列車の中で殺人が起き、犯人は同じ車両に乗り合わせた12人の中にいるはず。名探偵ポアロが犯人探しを行う。
後者では、孤島に集められた10人が、次々と殺されて行く物語で、最後に全員が死んでしまう。では犯人は誰か、というもの。本作でも最後に全員が死んでしまった(らしい)。10人の登場人物の中には、退役した老将軍や、元判事など、本作と似たキャラクターもいる。
ちなみに「そして誰もいなくなった」の原作小説の原題は"Ten Little Niggers"といい、本作でも登場人物がウォーレンを「ニガー」と呼んだりしているのも、これに引っ掛けている気配あり。
も一つ小ネタを披露すると、この原作の2度目の映画化作品(邦題「姿なき殺人者」)(1965)の舞台は、雪に閉ざされた山荘である。
そのウォーレン、「このシチューはミニーが今朝作ったものだ」とか「メキシコ人嫌いのミニーがメキシコ人を雇うはずがない」など、ちょっとしたヒントから謎を解いて行く辺りも、ポアロ並みの名探偵ぶりである。
もう1本、雪に閉ざされた基地内で不気味な怪物が次々人間を殺して行く「遊星からの物体X」(ジョン・カーペンター監督)にもオマージュを捧げている。これはタランティーノ自身も公言している。この作品で主役を演じていたのがカート・ラッセル。ジョン・ルースにカート・ラッセルをキャスティングしたのはその為だろう。
ちなみに、この作品の音楽を担当したのもエンニオ・モリコーネ。
そしてもう1本、元ネタとなっている映画がある。
セルジオ・コルブッチ監督のマカロニ・ウエスタン「殺しが静かにやって来る」(1968)である。
これは、全編雪が降り積もる山中の町、スノーヒルが舞台で、しかもその雪の山道を走る駅馬車も登場する(写真1)。これに主人公(ジャン・ルイ・トランティニャン)も乗っており、おまけに途中で、馬を奪われて歩いていた保安官が馬車を止め、同乗する(写真2)。
さらに、途中からは、賞金稼ぎの殺し屋(クラウス・キンスキー)が、お尋ね者の3人の死体を馬車の屋根に乗せて同乗するシーンまである。
ほとんど、本作の前半とそっくりである。前作「ジャンゴ 繋がれざる者」 でも雪山が登場し、前作の元ネタ「続・荒野の用心棒」と同じセルジオ・コルブッチ監督作である「殺しが静かにやって来る」のオマージュだろうと書いた事があるが、今度はその「殺しが静かに-」の重要シーンが再現されている。タランティーノ、よほどコルブッチ監督の大ファンなのだろう。
ついでに、その「殺しが静かに-」の音楽を担当したのが、これまたエンニオ・モリコーネ。タランティーノが本作の音楽にモリコーネを熱望したのも、よって当然であろう。
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コメント
うっわあ~~~ ニガー ニガー ニガー ニガー・・・
サミュ次郎(→サミュエル・ジャクソン)に 黒人侮蔑連発~~(これじゃ映倫にひっかかるよ~)
いつものごとく タラ夫(→クエンティン・タランティーノ)お得意の ダラダラトーク演出で のばしまくり~(映画館だったら かったるくて いねむりするよぉ~)
北部VS南部の 元兵役経験ということで 元南部将軍ジジイことブル彦(→ブルース・ダーン)と サミュ次郎は元北部少佐だが ブル彦は根っからの ニガー嫌い!!!
な・な・な・なんと ブル彦の息子の死の経緯を サミュ次郎が・・・サミュ次郎が・・・・とんでもない えげつない内容をはなしてんじゃん(とても・・・とても・・・倫理上 書けません・・・)
そっから 次々とひともんちゃくあって ひとり、ふたり 減ってゆく(まさに ”そして だれもいなくなった”じゃな)
さてはタラ夫 アガサ・クリスティの隠れファンだね(隠れキリシタンみたいに!)
タラ夫の もうひとつのお得意演出方 「時間軸シャッフル」
おはこやなぁ~タラ夫(この手法は 誰にもマネできねえぜといわんばかり!)
そこで タネ明かしが 時間軸を 事件発生したのその日の早朝にもどして 見る者に伝える(大きなマジックショーほど タネは意外と身近に あるもんやなぁ~)
最後に ジェニ恵(→ジェニファージェイソンリー)
顔 きったねえ~(汚れざんまいだ~)
賞金稼ぎのカトリン(→カート・ラッセル)に 肘鉄くらうわ 頭を銃のグリップで殴られるわ シチュー ぶっかけられるわ カトリンの吐血を顔面に まるでAV撮影で男優のザーメンを顔射されたみたいに もろ浴びするわ まさに 汚れの女王や(さすが 名優ビッグモローの娘・・・汚れ役が板について輝いて見えるわ~)
アカデミー賞助演女優賞に ノミネートされたのに受賞されなくて残念・・・・
これだけ 体張って 汚れ役に徹したんだから受賞させろよな~
投稿: zebra | 2016年10月16日 (日) 01:29