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2016年7月17日 (日)

「FAKE」

Fake2016年・日本/ドキュメンタリー・ジャパン
配給:東風
監督:森達也
プロデューサー:橋本佳子
撮影:森達也、山崎裕

2014年にゴーストライター騒動で日本中の注目を集めた、佐村河内守氏に密着したドキュメンタリー。監督は、オウム真理教を題材にした「A」「A2」の森達也。長編ドキュメンタリーとしては「A2」以来15年ぶりとなる。撮影は森監督自身と、「海よりもまだ深く」の山崎裕。

ゴーストライター騒動でマスコミ、世間から叩かれ、以後沈黙を守り続けて来た佐村河内守氏は今何をしているのか。その素顔に迫るべく、カメラは、佐村河内氏の自宅に入り込み、森達也監督によるインタビューや、奥さんと猫と暮す日常生活を淡々と描く。取材を申し込みに来るメディア関係者や外国人ジャーナリストらとも、彼の奥さんの手話を通じて応対する。はたして何が真実で何が嘘か? 誰が誰を騙しているのか? 映画はこの社会にはびこる時代の病を焙り出しながら、12分間の衝撃のラストへとなだれ込む。

題名が「FAKE」だけに、ひょっとしたら佐村河内氏のそっくりさんを使ったフェイク・ドキュメンタリー(笑)ではないかと最初は思っていた(長髪、髭にサングラスなんて誰でも扮装出来そうだし)。

で、後から調べて、本当に本人が出演してると判って興味が沸いた。監督はオウム真理教信者を追ったドキュメンタリー「A」「A2」で知られる森達也。東北大震災の共作ドキュメンタリー「311」も作っているし、タイムリーかつリスキーな題材に果敢にアタックする姿勢は大いに評価したい。

ゴーストライター騒動で、実は作曲していたのは別人(新垣隆氏)だと分かってマスコミ・世間から大バッシングを受けたのは記憶に新しい。
もう一つ叩かれた要因は、耳が聞こえないと言っていたのに、新垣氏によると「聞こえないと思った事は一度もない」。つまり耳が聞こえないというのも嘘だったという点である。本人は否定しているが。

このバッシング以来、彼の姿は公衆の前から消えた。騒動が鎮静化してからは、世間からはほとんど忘れられた存在になっていた。
その佐村河内氏に密着取材し、ドキュメンタリー映画にしようと思いついた森監督もエラいが、佐村河内氏も、取材依頼をよく受けたものである。普通なら断るだろうに。

(以下ネタバレあり)

映画は、マンションでひっそり暮らす佐村河内氏の日常を、ただ淡々と描く。妻の香さんは事件の事など何事もなかったように普通に世話をし、他人との会話には手話で通訳の作業も行う。
世間から叩かれ、収入も激減した佐村河内氏に今も寄り添い、かいがいしく世話をする香さんも敬服に値する。二人で外出する時も手を繋ぎ寄り添っている。
その香さんの献身ぶりを見ていると、佐村河内氏の耳が聞こえないというのは、真実ではないかと思えて来る。

こうした二人の日常生活を見ていると、週刊誌からは詐欺師だペテン師だと、まるで極悪人であるかのように糾弾された人物とは思えない。おだやかで静かな日常であり、風貌から見ても、むしろ仙人のような隠遁生活ぶりに見えて来る。

同居するネコの可愛らしさも含め、見ているうちに、佐村河内氏はそんなに叩かれるほど、悪い事をしたのだろうかとつい思えて来る。プロデューサーとしての手腕はあったわけだし、最初からプロデューサーという肩書きで発表していれば何の問題もなかったはずである。

テレビ局から、特番に出演しないかとの依頼も来る。どうせ笑い者にするのは見えているからやんわりと断る。
その出るはずだったテレビ番組を家族で見るシーンもあるが、出演している新垣氏がほとんど売れっ子となってはしゃいでいる姿を、冷ややかな目で見ていたのが印象的である。

話題になる為には、何だってするテレビ局の偽善性もさりながら、新垣氏も、ある意味佐村河内氏を踏み台にしてヒーローのようになったわけである。
その状況を嬉々として楽しんでいる新垣氏を見ていると、単純に、新垣氏=善、佐村河内氏=悪、とは割り切れない気もする。むしろ映画をずっと見て来ると、両者の善悪の立場は逆ではないかと思える時すらある。

これぞまさに“フェイク”である。観客がふとそう思うようになったのなら、森監督の狙いは成功である。

森監督はまた、新垣氏のサイン会やら、文春で記事を書いた神山典士のノンフィクション賞受賞式にも顔を出し、彼らに迫って行くが、そのリアクションも面白い。森氏を避けているようにも見える。映画はこうして、時にシニカル、時に笑えるシーンも交え、佐村河内氏と、この騒動の実態に迫って行く。

そして終盤、森監督は佐村河内氏にある依頼をする。名誉を挽回するチャンスだとけしかける。
それに呼応して佐村河内氏がチャレンジするのが、宣伝文句にも謳われている“衝撃のラスト12分”である。

未見の方の為にここでは書かないが、このシーンはある意味で感動的である。果たして佐村河内氏には本当に音楽の才能があったのか?これを足がかりに、復活の道を歩むのか。

だが森監督は最後にちょっと意地悪な質問をする。「私に嘘をついたり隠している事はありませんか」
これに対し佐村河内氏は沈黙してしまい、映画はそのまま終わる。

映画の中には何箇所か、ひょっとしたら耳は聞こえているのではないか、と思えるシーンがある。香さんの手話がない場面でも佐村河内氏が頷くシーンがあるし、そもそも耳が聞こえなくて、音楽作りは可能なのか、という疑問もある。

 
結局、映画はいくつもの謎を残したままで終わる。何が真実で何が嘘(フェイク)か…それは本人にしか分からない。その答を導き出すのは、映画を観た観客自身である。

映画を観て、佐村河内氏に同情し、人間的に信じる観客もいれば、やはりペテン師じゃなかろうかと疑う観客もいるだろう。観客自身も試されているのである。

 
この映画は、よくある、特定の人物に密着したドキュメンタリーには留まらない。我々は、マスコミが売らんが為に日々吐き出す虚実入り混じった情報に踊らされてはいないだろうか、攻撃対象となった人間を、先入観で、色眼鏡で見てはいないだろうか、特定方向への流れに、流されてはいないだろうか、何が真実かを、冷静な、客観的な目で見極める努力を怠ってはいないだろうか…。

さまざまな事を考えさせられ、ふと反省もしたくなる、これはとても刺激的な、ドキュメンタリーの傑作である。   (採点=★★★★☆

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