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2016年9月11日 (日)

「ニュースの真相」

Truth2015年・オーストラリア・アメリカ合作/ソニー・ピクチャーズ・クラシックス=ラットパック・エンタティンメント他
配給:キノフィルムズ
原題:Truth
監督:ジェームズ・バンダービルト
原作:メアリー・メイプス
脚本:ジェームズ・バンダービルト

2004年のアメリカで起こった、ある報道番組におけるスクープ報道が巻き起こした波紋の一部始終を描いた実話の映画化。脚本・監督は「ゾディアック」などを手がけた脚本家のジェームズ・バンダービルト。本作が監督デビュー作となる。出演は「キャロル」のケイト・ブランシェット、「ロング・トレイル!」のロバート・レッドフォード、「ソウル・サーファー」のデニス・クエイド、「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」のステイシー・キーチなど、いぶし銀のベテラン俳優が揃う。

ジョージ・W・ブッシュ米大統領が再選を目指していた04年、米国最大のネットワークを誇る放送局CBSの敏腕プロデューサー、メアリー・メイプス(ケイト・ブランシェット)は、ブッシュ大統領に軍歴詐称疑惑があるという情報を得、このスクープを伝説的ジャーナリストのダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)が司会を務める看板番組「60ミニッツII」で報道する。しかしネット上で保守派ブロガーから、その証拠文書は「偽造」の疑いがあると指摘され、メアリーやダンら番組スタッフは一転、世間から猛烈な批判を浴びる。この事態を収拾するため、局の上層部は内部調査委員会を設置し、調査を開始するが…。

“大統領に関する疑惑(スキャンダル)をマスコミが追求した実話”というプロットですぐに思い出すのが、1976年公開の「大統領の陰謀」(アラン・J・パクラ監督)。有名なウォーターゲート事件をワシントン・ポスト紙の2人の記者が記事にし、これが元でニクソン大統領が失脚した実話を映画化したもので、“報道機関が、国民を欺こうとしたトップ権力者の悪を暴き勝利する”という、なんとも痛快でドラマチックな映画だった。

で、この映画の主人公の一人、ボブ・ウッドワード記者を演じたのがロバート・レッドフォード。本作の主人公の一人にレッドフォードを起用したのは、明らかにこの映画を意識しての事だろう。

だが同じように大統領の疑惑スクープを描きながら、本作が「大統領の陰謀」と大きく異なるのは、ここで描かれるのは、“マスコミ側の惨めな敗北”である。

疑惑を裏付ける文書を入手したメイプスは、スクープを焦るあまり、裏付け検証をしないままに、この文書を本物だと思い込んで放送してしまった。おそらくは限りなく黒に近いグレーなのだろうけれど、この文書が捏造ではないとする決定的な証拠がなくては、結果的にメイプスたちの負けである。しかもCBSが設置した調査委員会は、早期幕引きを図る為に(つまりはメイプスたちだけに責任を負い被せる為に)これを捏造と決め付け、とうとうメイプスは放送局を解雇されてしまい、メイプスの同志であるダン・ラザーも番組降板を余儀なくされてしまうのである。映画はこうしたプロセスを淡々と描いている。

この事件はダン・ラザーの名前を取って「ラザーゲート事件」と言われているそうだが、これは無論前掲の「大統領の陰謀」で扱われた「ウォーターゲート事件」のもじりである。やっぱりレッドフォード起用はあの映画を意識しているのに相違ない(笑)。

 
それはそれとして、何故今、この実話を映画化しようとしたのか。
原作は、当事者であるメアリー・メイプスが書いた「大統領の疑惑」(原題は"Truth and Duty")。事件の翌年2005年にもう発表されている。メイプスとしては自分の言い分もきちんと公けにしたかったからだろう。
それが何故、原作発表から10年も経った今、映画化しようとしたのか。

一つには、事件直後はまだこの記憶が生々しい時であり、冷静に振り返る余裕がなかった事もある。なにしろ当のブッシュはまだ現役大統領である。
歴史的事件として検証するには、ある程度の時間が必要だったのだろう。

もう一つは、事件から11年が経ち、人々の記憶が薄れ掛けている今(というか事件を知らない人も増えているのだろう)、こうした敗北の記録を糧として、マスコミはもう一度謙虚に報道というものの持つ意味と重みをかみ締めるべきではないか、という事があるのではないかと思う。

特に現代は、社会全体が大きな潮流に流され易い傾向にある。ネットによって、極端な考えや思想が持て囃されている。ヨーロッパでは極右政党が台頭し、アメリカではトランプ氏のような過激な言動をする人が有力な大統領候補となり、それを支持する有権者がかなりいるという実態もある(映画が企画された当初はトランプはまだ出て来ていなかったのだが)。

こうした時代において、ジャーナリズムの役割は特に重要である。冷静に、事実に基づき、検証し、きちんと真実を伝える(それが権力者に逆らう内容であろうとも)…その事が問われている。

今の時代の記者たちに、メイプスのように、あるいはウォーターゲート事件を白日の下に曝け出したワシントン・ポスト紙のカール・バーンスタインとボブ・ウッドワードの二人の記者のように、リスクを背負ってでも毅然と権力者に立ち向かう勇気があるか…。この映画はその事をジャーナリズム全体に問いかけているのである。無論わが国のマスコミに対しても。

調査委員会の聴聞の場で、メイプスが毅然と、ジャーナリストとしての自身の矜持と信念を語るシーンは感動的である。…もっとも、メイプス自身の原作に拠っているだけに、ややメイプスがカッコよく描かれ過ぎているきらいもなきにしもあらずだが(笑)。

メイプスの勇み足で人気アンカーマンの地位を去る事になったダン・ラザーが、メイプスに対してまったく恨み言を言わないのも潔い。レッドフォード、相変わらず(シワが増えても(笑))いい男である。

こういう映画が、大スターを配して、ちゃんと作られるアメリカ映画界もすごい。ちなみに製作に関わっているラットパック・エンタティンメントは、最近では「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」「レヴェナント 蘇えりし者」、まもなく公開の「ハドソン川の奇跡」などに参加している。なかなかシブい所を押さえているね。  
  (採点=★★★★☆

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