「ジェーン」
2015年・アメリカ
配給:ポニーキャニオン
原題:Jane Got a Gun
監督:ギャビン・オコナー
原案:ブライアン・ダフィールド
脚本:ブライアン・ダフィールド、アンソニー・タンバキス、ジョエル・エドガートン
撮影:マンディ・ウォーカー
製作:スコット・スタインドーフ、スコット・ラステティ、テリー・ダガス、ザック・シラー、メアリー・リージェンシー・ボーイズ、ナタリー・ポートマン、エイリーン・ケシシアン
主演のナタリー・ポートマンが製作も務めた、珍しい女性が主人公の西部劇。監督は「ウォーリアー」「プライド&グローリー」のギャビン・オコナー。共演は「ブラック・スキャンダル」のジョエル・エドガートン、「われらが背きし者」のユアン・マクレガー。
南北戦争直後のニューメキシコ周辺。ジェーン(ナタリー・ポートマン)は夫ハム(ノア・エメリッヒ)と娘と3人で平穏な生活を送っていたが、ある日、夫が銃弾を受けて瀕死の状態で家に戻ってきた。ジェーンの行方を追っていた強欲で執念深いジョン・ビショップ(ユアン・マクレガー)率いるビショップ一家に撃たれたのだ。いずれはこの家にもビショップたちがやって来る事を察知したジェーンは、南北戦争の英雄でかつての恋人ダン(ジョエル・エドガートン)に藁にもすがる思いで助けを求めるのだが…。
あまり宣伝もされず、公開規模も大きくないので見逃す所だったが、監督がギャビン・オコナーとなっていたので、はて、どこかで聞いた名前だが、と考えているうちに思い当たった。この人、今年初めにDVD鑑賞ながら、熱い男たちの闘いぶりに感動し泣かされた、トム・ハーディ、ジョエル・エドガートン主演の傑作「ウォーリアー」(2011)の監督であったのだ。
そのジョエル・エドガートンが本作でも共演、かつ脚本にも参加している。ナタリー・ポートマンが製作・主演というのも気になって、これは観ておかねば、と思って映画館に駆けつけた。
(以下ネタバレあり)
面白い。傑作という程ではないが、きっちりと本格西部劇になっていた。そしてナタリー・ポートマン主演という事もあって、家族を守る為に、銃を取り、悪に対して毅然と立ち向かった女性が主人公である。この点が西部劇としてはユニークであった。
原題は"Jane Got a Gun"(ジェーンは銃をとった)。この題名で思い出すのが、やはり女性が主人公の西部劇ミュージカル、「アニーよ銃をとれ」(1950・原題"Annie Get Your Gun")。女性主演のミュージカル西部劇と言えばもう1本、「カラミティ・ジェーン」(1953)があり、どちらにもミュージカル・スター、ハワード・キールが共演しているという共通点もある。本作の題名はこの2本のミュージカル西部劇の題名を繋げた感じである。
それはさておき、映画はいきなりジェーンの元に、重傷を負ったジェーンの夫、ハムが馬で帰って来る所から始まり、なぜジェーンたちがビショップ一味に追われているのか、そしてジェーンが助けを求めた南北戦争帰りのダンとジェーンとは、どんな因縁があるのか…。それらが随時挟み込まれる回想によって、少しづつ明らかになって行く、という構成が面白い。
実はダンとジェーンとは結婚を約束した間柄だったのだが、ダンが南北戦争に従軍して捕虜になり、戦争が終わって帰って来たら、ジェーンは別の男・ハムと結婚して子供まで作っていた事を知って愕然となる。ジェーンはダンが帰るまで待ちきれなかったのか、自分を裏切ったのか。それなのに窮地に陥ったら助けを求めに、どのツラ下げて来たのか…ダンが最初はニベもなく断ったのも当然である。
なんともメロドラマ的展開で、こんな調子ではどうなる事やら、と思ってしまう。
そんなモヤモヤした気分を抱いていたダンだが、やはり気になったのか、ジェーンがビショップ一味の一人に見つかり、あわや、という窮地に、ダンが助けに現れ、不承不承ながらダンはジェーンの助っ人を買って出る事となる。
やがて回想で、ジェーンの過酷な運命と、それを助けたのがハムであった事が明らかになってようやく誤解が解け、そしてダンとジェーンは力を合わせ、大挙押しかけて来るビショップ一家に敢然と闘いを挑む、クライマックスのアクションへとなだれ込んで行く。
ジェーンが、当時の女性の割には気丈な性格で、ハムの体に食い込んだ弾丸を自分の手で摘出したり、ダンに助っ人を断られたら、自らダイナマイトや弾薬を買い集め、強大な敵に例え一人であっても立ち向かおうとしたりと、そんな男顔負けの活躍をする所はカッコいい。さすがプロデューサー兼務だ(笑)。
これは、悪党のビショップに騙され、子供と引き離され、娼婦館で働かされ…と一時は絶望の淵に立たされ、その窮地をハムに救われ、家庭も持つ事が出来た、その過酷な体験を経て、自立心と闘争心を自らの中に醸成して行った結果なのだろう。
運命に立ち向かい、家族を守る為、愛の為、闘う女へと変身して行く姿は、彼女が王女アミダラに扮した「スター・ウォーズ エピソード1~3」を思わせたりもする。
その作品で、アミダラを助けるヒーローを演じたユアン・マクレガーが、本作では彼女をいたぶる悪役を演じているのは何とも皮肉である。
そして最後は敵をすべて倒し、悪党の首に賭けられた賞金も得て、ダンともヨリを取り戻し、死んだと思われていた娘も生きている事が分かり、新天地に向かって旅立って行く、と、綺麗にハッピーエンドで締めくくっているのは観ててスカッとする。
ギャビン・オコナー監督の演出は、現在と回想をテンポよく繋ぎ、98分というやや短めの上映時間内に無駄なく話を纏めている。家族、特に母と娘との情愛を丁寧に描いている点も好感が持てる。
最後の対決シークェンスが夜で、敵の姿が見えにくいし、二人とも敵に撃たれ、重傷を負っているのに、いつの間にか平然と動き回っていたりと、ツッ込み所もいくつかあり、出来がいいとはお世辞にも言えないが、それでも、男くささというイメージが定着している西部劇に、妻として母として、家族を守る為に闘う女性というパターンを持ち込んだ物語は新鮮であった。こういう変わった西部劇もたまにはいい。過去の名作西部劇への目配せ(後述)もあったりするので、西部劇ファンにはお奨めである。
という事で採点はやや甘く。 (採点=★★★★)
(で、お楽しみはココからだ)
本作には、いくつか過去の西部劇へのオマージュが仕込まれており、これを見つけるのもお楽しみである。
冒頭、ジェーンが部屋の中から、馬に乗って帰って来る夫ハムを見るシーン。
この、暗い室内からドア越しに、西部の荒野の彼方から帰って来た人物を見つめるショットは、ジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演の傑作西部劇「捜索者」の冒頭、この家の妻が帰って来たイーサン(ジョン・ウェイン)をドア越しに見つめるシーンと構図がそっくりである(上)。
一人の女が復讐の為立ち上がり、一人では無理なので百戦錬磨の男に助っ人を依頼する、という立ち上がりは、これまたジョン・ウェイン主演の西部劇「勇気ある追跡」(後にコーエン兄弟が「トゥルー・グリット」としてリメイク)と同じ展開である。
少数の主人公たちが、圧倒的多数の敵に立ち向かうというストーリーは、いくつかの西部劇でもお馴染みだが、その代表作は、これもまたジョン・ウェイン主演の名作「リオ・ブラボー」である。
ご丁寧に、こちらもラストの決闘で、ダイナマイトを使って形勢逆転、という所まで同じである。
ジェーンは娼婦にさせられていたが、西部劇に娼婦が登場するのは、恐らくはこれまたジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演の傑作西部劇「駅馬車」(1939)が最初ではないだろうか。それ以前にもあったかも知れないが、私の知る限りではこの作品しか思い浮かばない。ずっと後ではクリント・イーストウッド監督・主演「許されざる者」があるが。
物語は、町の婦人会を追い出された娼婦ダラス(クレア・トレバー)が駅馬車に同乗する所から始まり、
ラストでは、ウェイン扮するリンゴと娼婦のダラスが、馬車に乗って新天地へと旅立って行く所で終わる、と、こちらも本作と同じようなエンディングである。
という事で、よく見れば全部ジョン・ウェイン主演作ばかりである。オコナー監督、ジョン・ウェインのファンなのかも知れない。
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