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2016年12月17日 (土)

「アズミ・ハルコは行方不明」

Azumiharuko2016年・日本/クロックワークス=イトーカンパニー他
配給:ファントム・フィルム
監督:松居大悟
原作:山内マリコ
脚本:瀬戸山美咲
アニメーション:ひらのりょう

現代女子の生きざまを描いた山内マリコ原作の同名小説の映画化。監督は「アフロ田中」「私たちのハァハァ」などの松居大悟。主演は「百万円と苦虫女」(08)以来の単独主演となる蒼井優。共演は「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」の高畑充希、「淵に立つ」の太賀、「青空エール」の葉山奨之、「東京無国籍少女」の花影香音らの若手俳優に、ベテラン国広富之、加瀬亮が脇を固める。

ある地方都市、27歳の安曇春子(蒼井優)は、独身で恋人もおらず、実家で両親と祖母と一緒に暮らしている。家では居心地悪く、勤務先の会社では社長(国広富之)と専務にセクハラまがいの言葉を投げつけられる日々。ある日春子は男だけを無差別に襲う制服姿の女子高生グループに暴行されて倒れている男の姿を見かける。それは少し前に再会した同級生の曽我(石崎ひゅーい)であった。それをきっかけに曽我と付き合い出す春子。だが曽我とも連絡が取れなくなった後、春子は姿を消し行方不明となる。同じ町、20歳の愛菜(高畑充希)は中学時代の同級生・ユキオ(太賀)や学(葉山奨之)と再会、3人はやがて春子の行方を探す張り紙をモチーフに、春子の顔と"MISSING"という文字を合わせグラフィティアートにして街中に拡散して行く…。

この所何かと忙しくて、なかなかブログをアップする時間が取れない。で今回はごく簡単に。

このタイトルを聞いて私なぞ思い出すのはアメリカ製サスペンス・ミステリーの佳作「バニーレークは行方不明」(1966・オットー・プレミンジャー監督)。ちょうど50年前の作品だ。
本作はミステリーではなく、ちょっと不思議な味わいの女性映画である。

3組の女性たちが登場する。28歳の主人公安曇春子は家でも会社でも居場所がなく、男にも裏切られ、やがて失踪してしまう。20歳の愛菜は2人の元同級生の男たちと刹那的な生活を続け、男たちと一緒に、失踪した春子の顔をモチーフとしたグラフィティアートを街中に描き回る。そして制服姿の女子高生たちは、無差別に男たちへの攻撃を繰り返す。

この3つのエピソードを、時系列をシャッフルし、ランダムに繋げているので、観ていると混乱して来る。愛菜たちのパートは春子が行方不明になった後の時制で、これが春子が町で暮らすパートと交互に描かれるので最初は判りにくい。
が、物語が進むにつれて、春子の登場するパートは過去、愛菜たちのパートは現在、と分かって来るので思ったほどややこしくはない。

面白いのは、春子の日常は、認知症らしき祖母と、その介護にストレスが溜まる母といった実家の暮らしや、セクハラ社長のいる会社勤務にしても、いかにもありそうな、リアルな生活感に満ちているのに対し、愛菜たちは無軌道に、街中にグラフィティアート(と言うより落書きである。グラフィティ自体「落書き」という意味なのだが)をペイントしまくる、迷惑千万、およそ生活感に欠けた非日常的世界である。
そして男をボコリまくる女子高生たちは、もっと非現実的。あまりに強過ぎる行動ぶりはむしろファンタジーの世界である(なにしろラストでは銃を構える警官隊をも翻弄し逃げてしまうのだ)…といった具合に、年齢が下がるにつれて非日常性がより強まる、くっきりとしたコントラストを形成している。
セクハラする男たちに何も言えず抵抗も出来ない春子たちに比べ、男を徹底的に痛めつける女子高生たち、といった具合に、何もかもが対照的である。あるいは女子高生たちは春子たちの頭の中の妄想ではないか、とも思えて来る。

最初の頃は全体像が見えにくいのだけれど、少しづつ、物語の性格が見えて来る。パズルのピースを埋めて行くように。
映画の中で、ジグソーパズルが何度か意味ありげに登場するのだが、この映画自体、いくつかのピースを少しづつ嵌め込んで、最後のピースが収まると全体像が見える、ジグソーパズルのような作品であるという事を示しているのかも知れない。

最後に至って、やっと春子と愛菜の、二人の女はめぐり合う。春子はリアルな日常から脱却して非日常世界へ向かい、愛菜は逆に非日常世界の空しさから脱却しようとする。まったく別世界に生きていたような二人だが、互いにそれぞれの世界に近づこうとした結果の出会いは、故に当然と言えるのかも知れない。そして女子高生たちは、どちらの世界とも無縁に、異次元世界を軽やかに跳躍し続けるのである。

そういう構成は面白いし、テンポいいモンタージュも悪くない。多分、何度も見直せば、相当計算されたシャッフルぶりが分かって来るかも知れない。こういう刺激的な映画もたまにはいいと思う。

…が、何かが足りない気がする。ジグソーパズルのピースは順調に埋まって行ったのに、最後の1枚のピースが、どうもピタリと嵌らなかった、そんな感じなのである。

こうしたパズル的構成の作品は演出力も問われるが、脚本も相当な力量と構成力が必要と思う。脚本を書いた瀬戸山美咲は劇作家、演出家としては高く評価されているようだが、映画脚本は初めてである。やはり、映画の利点を知り尽くした脚本家に書いてもらった方がよかった気がする。

まあそれでも、アニメも駆使した才気煥発な演出は荒削りだがとても魅力的であり、私は好きである。松居大悟監督には、今後も注目して行きたいと思う。   (採点=★★★★

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(蛇足)
アズミ・ハルコをアルファベット表記した頭文字は、H.A.である。カタカナでも"ルコ・ズミ→ハ.アである。

なんだか、松居監督の前作「私たちのハァハァを思い出して、ちょっと笑ってしまった(笑)。

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