「ザ・コンサルタント」
2016年・アメリカ/ラットパック=デューン・エンタティンメント
配給:ワーナー・ブラザース映画
原題:The Accountant
監督:ギャビン・オコナー
脚本:ビル・ドゥビューク
製作:マーク・ウィリアムズ、リネット・ハウエル・テイラー
製作総指揮:ギャビン・オコナー、ジェイミー・パトリコフ、マーティ・P・ユーイング
「アルゴ」のベン・アフレック主演による、二つの顔を持つ男を主人公としたサスペンス・アクション。共演は「マイレージ、マイライフ」のアナ・ケンドリック、「セッション」のJ・K・シモンズ、「人生は小説よりも奇なり」のジョン・リスゴーら。監督は「ウォーリアー」「ジェーン」のギャビン・オコナー。脚本は「ジャッジ 裁かれる判事」(2014)の新鋭ビル・ドゥビューク。
田舎町のしがない会計士クリスチャン・ウルフ(ベン・アフレック)にある日、大手企業、リビング・ロボ社から財務調査の依頼が舞い込む。彼は重大な不正を見つけるが、その依頼はなぜか一方的に打ち切られてしまい、その日からウルフは何者かに命を狙われる。実は彼は、世界中の危険人物の裏帳簿を仕切り、年収10億円を稼ぎ出す裏社会の掃除屋というもう一つの顔があり、かつ命中率100%のスナイパーでもあった。ウルフは、アメリカ政府やマフィア、一流企業に追われながら、危険な仕事にさらに身を投じて行く…。
ベン・アフレックは俳優としても「ゴーン・ガール」等で順風満帆、監督業に進出しても「アルゴ」がアカデミー賞作品賞に輝く等、今最も旬なハリウッド・スターである。
ところが、初のアメコミ・ヒーロー「バットマン」役のオファーが来て意気揚々と出演したら、その1本目「バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生」、続いてバットマンを演じた「スーサイド・スクワッド」が共に不評。なんとなんと、この2本、「映画秘宝」誌のワースト部門で、1位、2位を占めてしまうというトホホな結果であった(読者選出ワーストテンでも2位と1位)。
これはなんとも恥ずかしい。まあ本人のせいではないのだが。
そんなベン・アフレック主演の最新作が本作。さて、名誉挽回となったかどうか。
ベン・アフレックが演じるのは、表向きは田舎の一見平凡な会計士。しかしてその正体は天才的な数学脳を持ち、かつ必殺の殺し屋で命中率100パーセントのスナイパー、おまけにインドネシアの武術シラットの達人でもある…。
なんだか、テレビの人気シリーズ「必殺仕事人」と「ゴルゴ13」と東野圭吾原作「探偵ガリレオ」と、おマケで「マッハ!!!!」を足して3で割ったような、なんとも欲張った(と言うかマンガみたいな)設定である。
こんな奇抜な設定の主人公で、果たして最後まで楽しめるかどうか、またまた映画秘宝トホホ部門に入るような作品になってやしないかと少々不安であったのだが…。
ただし、監督を見ると、昨年DVD鑑賞ながら私がとても気に入った「ウォーリアー」という傑作アクションを撮ったギャビン・オコナーである。同監督の昨年劇場公開作品「ジェーン」もちょっとユニークな西部劇の佳作だった。この監督ならあるいはという期待もあった。
(以下ネタバレあり)
不安は杞憂であった。アフレックは、この難しい役柄を見事にこなしている。スピーディな展開と伏線を巧みに回収する優れた脚本、ギャビン・オコナー監督によるスタイリッシュな演出、アフレックのキビキビしたアクション演技が見事に交じり合って、なかなか楽しめるアクション映画の佳作に仕上がっている。
ベン・アフレックのアクションが無駄なく、キレがあってなかなかいい。無表情で確実に敵を仕留める辺りはまるでゴルゴ13だ。
何十年にも亙る膨大な帳簿を一晩で分析し、不正を見つけ出すまでの流れもいい。ホワイトボードで足らずガラス窓に数字を書き出すシーンでは、「探偵ガリレオ」の主人公湯川学を思い出した(笑)。湯川もガラス窓に数式を猛スピードで書いていた。
ウルフがこれほどのテクニックを身に着けた理由がやがて回想で明らかになって行く。彼は子供の頃、自閉症のスペクトラム症だったのだ。ダスティン・ホフマン主演の「レインマン」でも描かれたが、自閉症の人間は天才的な計算能力を持っていたりする。そして彼の父親は、自閉症を克服させるためシラットの技を彼に教える。
こうした、辛い病気だけれどもおかげで特殊能力に開眼した過去が、ウルフの現在のキャリアへと繋がっている。うまい設定である。
さまざまな敵や、J・K・シモンズ扮する財務省捜査官、リビング・ロボ社の経理担当デイナ(アナ・ケンドリック)など、多彩な登場人物を巧みに網羅し、縦横に動かした脚本がいい。
殺し屋の仕事ぶりはクールながらも、敵に狙われた老夫婦や、ディナをさりげなく助ける人間味を感じさせるウルフのキャラクターもなかなか魅力的だ。
クライマックスの銃撃戦は、一人、また一人と敵を倒して行く呼吸が、わが村川透監督・松田優作主演のハードボイルド・アクションを思わせたりもする。
ただ、最後に残った敵の用心棒が弟だったという事が分かり、闘うのかと思ったら簡単に和解して抱き合うのは、ややご都合主義で、ここはちょっと弱い(注1)。
何年も音信不通だったら、互いに深い確執があったりすると思うのだが。
そういう難点もなくはないが、全体的には主人公クリスチャン・ウルフのカッコいい活躍を楽しめる、アクション映画の佳作となっている。
さまざまに散りばめられた伏線をラストでうまく回収する脚本と、オコナー監督の堅実でシャープな演出にも助けられたと言えよう。
役者がみんないいが、個人的には、個性派俳優ジョン・リスゴーが久しぶりに悪役を演じているのも嬉しい。
どうやら続編の構想もあるようで、そうなればベン・アフレックも親友のマット・ディモンの「ジェイソン・ボーン」シリーズに匹敵するアクション・シリーズを持つ事となる。お互い頑張って欲しい。
「バットマン」は、なかった事にしたいね(笑)。
ギャビン・オコナー監督、これまでは秀作、佳作を作りながらもマイナーな位置に甘んじていたが、本作でメジャーになったと言えるだろう(全米初登場1位)。今後も期待したい。 (採点=★★★★☆)
(注1)
ちなみにギャビン・オコナー監督は、前述の「ウォーリアー」でも、最後に主人公兄弟の熱い感動のドラマを見せている。
監督インタビューによると、元の脚本でも兄弟や家族の要素は断片的にあったが、映画では回想シーンを膨らませ、兄弟愛を前面に押し出したと語っている。
“兄弟の絆”というのは、オコナー監督にとって重要なキーであるのかも知れない。
DVD「ウォーリアー」(ギャビン・オコナー監督)
DVD「ジェーン」
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コメント
お話も色々と仕掛けがあり凝っていて面白かったです。
前半は割と静かな展開ですが、その伏線が後半鮮やかに解決されるのが良かったです。
後半のアクションも快調でした。
主演のベン・アフレックはもちろんいいのですが、脇も上手い人を揃えていてヒロイン役アナ・ケンドリックもユニークな個性でした。
J・K・シモンズ、ジョン・バーンサルなども好演、ジョン・リスゴーが出ているのがうれしいですね。
続編楽しみです。
投稿: きさ | 2017年2月 5日 (日) 22:12
自閉症を飼いならしながら(治ったという感じではないので)全てをキッチリさせるというベン・アフレックがよかったです。
物事が好転していい方向に進んでも、笑顔も見せなければドヤ顔もしないというのはアクション映画では前代未聞では?(あっ、ゴルゴがあるのか)
投稿: ふじき78 | 2017年2月 7日 (火) 09:35
◆きささん
脇がうまいと作品も引き立ちますね。
J・K・シモンズ「セッション」で有名になって以来、出てくるだけでコワそうと思ってしまいますね(笑)。ジョン・リスゴーも「レイジング・ケイン」の怖さが忘れられません。
◆ふじき78さん
表情を変えないベン・アフレックはゴルゴを思わせますね。スコープ付ライフルを構える姿も心なしかゴルゴと似てます。案外アフレック、さいとうたかをのコミックを読んでるかもですね。
投稿: Kei(管理人) | 2017年2月12日 (日) 23:44