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2017年1月22日 (日)

「まわり舞台の上で 荒木一郎」

Onarevolvingstage
 出版社: 文遊社   2016年10月

  \3,200円(税抜)

 

久しぶりに本の紹介です。

 
歌手、俳優、作詞・作曲家、小説家、プロデューサーと、マルチな活躍をして来た異才・荒木一郎に対して、各分野ごとにロング・インタビューを行い、その人生と軌跡を余す所なく追い求めた労作です。

500ページもあるぶ厚い本ですが、読み応えがあります。一気に読んでしまいました。

荒木一郎は1944年、東京生まれ。1960年代より「空に星があるように」「今夜は踊ろう」「いとしのマックス」等のヒット曲で知られる歌手であり、かつそれらを作詞・作曲した、加山雄三と並ぶシンガー・ソング・ライターの草分けとして知られています(作詞も出来る点では加山以上)。
それだけに留まらず、俳優としてもテレビ、映画で個性的な役柄を好演し、特に映画では東映で「893愚連隊」「現代やくざ 血桜三兄弟」などの中島貞夫監督の傑作、大島渚監督の問題作「日本春歌考」、さらには日活ロマンポルノ「白い指の戯れ」や、それを監督した村川透に乞われて、村川監督による東映セントラル・フィルム第1回作品で松田優作の代表作「最も危険な遊戯」にも出演する等幅広く活躍し、映画ファンの心も掴んで来ました。私も大ファンです。
さらに、小説家としても「ありんこアフター・ダーク」他の小説を書いたりと、まさにユニークなマルチぶりを発揮して来ました。

そういう所までは私も知ってはいましたが、この本を読んで、荒木一郎の八面六臂の活躍ぶりは、それどころじゃない、もっといろんな顔を持っていた事を改めて知りました。いやあ、凄い天才です。
この本は、そうした、これまであまり知られてなかった荒木一郎という天才の実像にスポットライトを当てた人物評伝でありクロニクルであると言えるでしょう。

 
この本は、全8章からなり、生い立ちから、俳優としての活躍時期、華やかなシンガー・ソング・ライター時代、事件を起こして干されていた時代、そして復活、プロデューサーとしての仕事ぶり、最終章は 小説家・荒木一郎の仕事、と、それぞれについて、音楽の分野は小川真一氏、映画に関しては野村正昭氏、その他については 亀和田武氏と、3人の評論家がかなり詳しい対談・インタビューを行っており、貴重なお話が聞けます。巻末には詳細なフィルモグラフィー、ディスコグラフィーもあって、これ1冊で荒木一郎のすべてが分かるようになっております。

初めて知った事、その1は、私は彼を「893愚連隊」(1966)で初めて見たのですが、実はそれ以前、1964年より東映、日活を中心に既に10本もの映画に出ていたのです。当時見た作品(降旗康男監督のデビュー作「非行少女ヨーコ」等)もあるのですが、ほとんど記憶にありません。
いや、もっと驚いたのは、実は幼少の頃より舞台やラジオドラマなどで活動しており、俳優として注目されたのはなんと1960年代初頭のNHKの人気テレビドラマ「バス通り裏」にまで遡る、という点です。そんな長いキャリアがあったとは全く知りませんでした。

初めて知った事その2、東映で鈴木則文監督を中心に「女番長」シリーズ他の東映ピンキーバイオレンスものが作られていた頃、荒木自身が経営するプロダクション(現代企画)で、それらに主演した池玲子、杉本美樹ら女優たちのマネージメントを引き受けていた事。
特に、そこに至った経緯として、荒木が事件を起こしてホサれていた時、東映プロデューサーの天尾完次氏が声をかけてくれて、天尾氏プロデュースの石井輝男監督「殺し屋人別帳」に出演する事となり、それ以降天尾氏プロデュースの一連の池玲子、杉本美樹主演の東映ポルノに出演したり映画音楽を担当したりして縁が広がって行ったという事です。天尾氏は、仕事がなかった時の荒木にとっての救いの神だったようです。

天尾完次氏は、以前にも書きましたが私が敬愛するプロデューサーの一人ですので、この部分については個人的に特に興味深く読みました。
荒木一郎と天尾プロデューサーとはかなり懇意となったようで、天尾氏が京都から東京に転勤した時には、東京の家も世話したり、引越しの手伝いまでやったそうです。荒木は天尾氏を「面白いおじさんだった」と述べています。上記の事を知って、私はますます天尾完次という人に敬意を感じました。

初めて知った事その3、なんとデビュー当時の桃井かおりのプロデューサーを務め、彼女の魅力を引き出して後のブレイクに導いた事。
これもまったく知りませんでした。彼の主宰する現代企画からは、後に日活ロマンポルノ他でブレイクする芹名香を新人女優として送り出したりもしています。

こんな調子で、今まで彼について知らなかった事ばかり。こんな凄い人だったとは本当に知りませんでした。まさに目からウロコです。

巻末のディスコグラフィーをみると、自分で歌うだけでなく、他の歌手にもいくつもの作詞・作曲した楽曲を提供したり、多くの映画で音楽を担当したり(羽仁進監督「妖精の詩」「午前中の時間割り」、東映の中島貞夫監督や鈴木則文監督作、等)、実に多彩な仕事をして来たのだと改めて知りました。

出世作「893愚連隊」から昨年でちょうど半世紀。これは天才・荒木一郎の集大成・全仕事の記録として荒木ファンには絶対必読の書ではありますが、のみならず、60~70年代のサブカルチャーやアート、エンタティンメントに興味のある方にも是非読んでいただきたい名著だと思います。

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