「キングコング:髑髏島の巨神」
2017年・アメリカ/レジェンダリー・ピクチャーズ=テンセント・ピクチャーズ
配給:ワーナー・ブラザース映画
原題:Kong: Skull Island
監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ
原案:ジョン・ゲイティンズ、ダン・ギルロイ
脚本:ダン・ギルロイ、マックス・ボレンスタイン、デレク・コノリー
製作:トーマス・タル、メアリー・ペアレント、ジョン・ジャシュニ、アレックス・ガルシア
製作総指揮:エリック・マクレオド、エドワード・チェン
怪獣映画の元祖・キングコングを主人公にした、2005年のピータージャクソン監督版に続く映画化作品。監督はこれが長編2作目となる若干32歳のジョーダン・ヴォート=ロバーツ。出演は「クリムゾン・ピーク」のトム・ヒドルストン、「ルーム」のブリー・ラーソン、その他サミュエル・L・ジャクソン、ジョン・C・ライリーなど。
1973年、ベトナム戦争終結直後。ランドサットの衛星写真によって、南太平洋に浮かぶ謎の孤島、髑髏島の存在が明らかになる。米国政府特務機関“モナーク”のランダ(ジョン・グッドマン)は髑髏島の調査を申し出、彼をリーダーとした調査遠征隊が島に向かう。メンバーは英国陸軍特殊空挺部隊の元兵士コンラッド(トム・ヒドルストン)、カメラマンのウィーバー(ブリー・ラーソン)や科学者、それに警護担当として米軍ヘリ部隊を率いるパッカード大佐(サミュエル・L・ジャクソン)も加わった。だが島に着くと、あちこちに散らばる骸骨や、岩壁に残された巨大な手跡を発見する。やがて彼らの前に、巨大なコングが出現。隊員たちはその圧倒的な破壊力に為す術もなく逃げ惑う事となる…。
監督がまったく聞いた事のない名前だし、続編ものはだいたい正編よりは落ちるのが通例だから、あまり期待していなかったのだが…。
(以下ネタバレあり、注意)
なんと!これは凄い傑作だった。
冒頭からしていきなり巨大なコングが、まるで「進撃の巨人」冒頭の超大型巨人の如く登場し、以後もコングが大暴れする見せ場の連続。
人間たちに襲いかかる巨大な怪獣も、出し惜しみせずにバンバン登場するし、探検隊一行は果たしてこの島から脱出出来るのか、というサスペンスも孕んで全編ハラハラ、ワクワク、そして興奮し通し。
ピーター・ジャクソン監督の「キング・コング」も面白かったが、1933年のオリジナル版「キング・コング」への監督の思い入れが強すぎたせいか、上映時間が3時間を超える長さでややダレてしまったのも事実。
本作はその点、上映時間も118分と2時間以内に収まっていて、ダレる事なく実に見応えがあった。
コングの立ち位置は、島の守り神。まさに荒ぶる神的存在である。島を荒らそうとする存在には、人間たりとも容赦しない。島に爆弾を投下したヘリにはキツい返礼をする。
美女・ウィーバーを見ても前作のようにメロメロにはならない。ただ見つめて、敵か否かを見定めているだけであるが、ウィーバーが水面に落ちた時は助けてくれる。
その前に、ウィーバーが、ヘリの残骸の下敷きになった水牛を必死で助けようとする所をコングが見ていた事も伏線になっているのがうまい。
米軍の歴戦の勇士・パッカード大佐のキャラ設定もいい。ベトナム戦争で敗退し、戦うべき敵を見失って茫然自失の時に、仲間を殺したコングという宿敵を見つけ、コングとの戦いに執念を燃やす、その生き様にも心惹かれた。ベトナム戦争を背景にした事がここで生きて来る。ややあっさり死ぬのがちょっと残念だが。
で結局の所コングは、リメイクも含めて過去の作品の共通要素である、ニューヨークに行く事もなく、美女に恋して自滅する事もない。シンプルに、人間たちの脱出行とコング対怪獣のバトルが交互に展開する見せ場の連続に終始する。最後にスカル・クローラーを倒した後、悠然と立ち去って行くコングの姿は神々しいまでに美しい。なんともカッコいい終わり方なのである。
そうなんだよな、こんな怪獣映画が見たかった!、そんな怪獣映画ファンの思いをかなえてくれる、これぞ本当の王道怪獣映画なのである。
おまけに、隠し味(いや隠す事もないか)として、コッポラ監督「地獄の黙示録」からの引用、スピルバーグ監督の「ジュラシック・パーク」や本多猪四郎監督「ゴジラ」シリーズ、さらには宮崎駿監督作品、庵野秀明監督「新世紀エヴァンゲリヲン」などへのオマージュ(詳しくは後述)もてんこ盛りとサービス精神も旺盛。映画ファン、特に日本アニメ・ファンなら一粒で2度楽しめる、なんともぜいたくな作品なのである。
いやあ、こんな面白い作品とは思わなかった。大満足。凄い。
聞けば、ジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督は日本製アニメ、ゲームの大ファンなのだそうで、本作にはアニメは無論の事、ビデオゲームへのオマージュも盛り込まれているのだそうだ。
例えば冒頭に登場する日本軍兵士、イカリ・グンペイ(MIYAVI)の名前は、「エヴァンゲリヲン」の主人公碇シンジと、任天堂ゲームボーイの開発者・横井軍平氏の名前から拝借している。
凶暴なラスボス怪獣、スカル・クローラーのデザインは、宮崎アニメ「千と千尋の神隠し」に登場するカオナシが暴走する時の姿態と、「エヴァンゲリヲン」の敵である使徒サキエルとを合体させてデザインしたそうだ。
ロバーツ監督は、これまで「キングス・オブ・サマー」(2013)という小規模の長編映画を1本撮ったきりの新人である(わが国では公式には未公開)。
これは、親への不満から家出した少年たちが森で暮らし始めるという内容の小品であるが、これを見て気に入ったプロデューサーのトーマス・タルが本作に抜擢したとの事である。
ズブの新人で、しかもまだ32歳という若い監督をいきなりこんな大作に抜擢したプロデューサーもエラいが、それに応えて見事素晴らしい傑作を作り上げたロバーツ監督もまたエラい。
そう言えば「ラ・ラ・ランド」を監督したデイミアン・チャゼルも同じく32歳。どちらも、昔の古い映画にオマージュを捧げている点も共通している。
若く、実績のない監督にビッグ・バジェット作品を作らせ、大ヒットさせる(全米初登場1位)ハリウッドも凄い。うらやましい限りである。
ロバーツ監督のデビュー作「キングス・オブ・サマー」も観たくなった。劇場公開は無理としても、DVDでリリースしてくれないかな。
そうそう、長いエンドロール終了後にもお楽しみがあるので最後まで席を立たない事(あの咆哮は○ジラ?)。 (採点=★★★★★)
(さて、お楽しみはココからだ)
本作には、いろんな映画、アニメの引用、オマージュがぎっしり詰まっていて、それを見つけるのも映画ファンのお楽しみである。
「地獄の黙示録」は誰でも気がつく。海上を飛行するUH-1戦闘ヘリも同作に登場したものと同じ。その他にも「地獄の黙示録」に似たシーンがいくつも登場する。
そう言えばこの作品でも戦場カメラマン(デニス・ホッパー)が同行していたね。
冒頭の、孤島に漂着した米兵と日本兵が激しく戦うシーンはジョン・ブアマン監督、三船敏郎とリー・マーヴィンが共演した「太平洋の地獄」を思い起こさせる。後に和解するのも同じ。
髑髏島が常時、ぶ厚い雲に覆われ、その存在を隠しているという設定は、宮崎駿監督「天空の城ラピュタ」からいただいていると思われる。稲光が常時発生しているのも同じである。ヘリで近づいた島の光景は「ジュラシック・パーク」(1作目)にも似ている。
コングが大タコと格闘するシーンは、やはりキングコングがタコと戦った東宝怪獣映画「キングコング対ゴジラ」(本多猪四郎監督)へのオマージュだろう。
壊れた日米2機の飛行機の残骸を組み立て、船に作り直すのは「飛べ!フェニックス」(ロバート・アルドリッチ監督)からのいただきか。
2羽のプテラノドンを思わせる怪鳥が一行の一人を掴んで空中に舞い上がる所は「ジュラシック・ワールド」にも同じようなシーンがあった。
で、私が感じたのはわが大映特撮ヒーロー「大魔神」(1966)へのオマージュである。
先に、コングを“荒ぶる神”と書いたが、大魔神もまさしく荒ぶる神。辺境の地域の守り神として普段は静かにしているが、侵略して来る者がいれば怒りを露わにして立ち上がる。
そして祈りを捧げる美女には優しい。
本作で、水に落ちたウィーバーを救い上げ、そっと地面に下ろすシーンがあるが、大魔神シリーズでも例えば2作目「大魔神怒る」のラストで、磔になっている美女(藤村志保)を助け、そっと地面に下ろすシーンがある。ちなみにこの作品では大魔神は島の守り神である。
本作のラストバトルで、コングが倒れた先に廃船があり、その船の投錨用の鎖が体に巻きつくシーンが出て来るが、「大魔神」1作目でも大魔神が敵に鎖で絡めとられるシーンが登場する(下)。
その鎖を使って敵に反撃するのも両作とも同じ。またこの作品には、大魔神が火攻めに会うシーンも登場する。
コングの設定を、島の守護神とした事といい、戦う時以外は常に威厳を保って立ち尽くす姿といい、鋭い眼光でこちらをにらむ眼差しといい、「大魔神」からインスパイアされたと思われるシーンは多い。日本特撮オタクのジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督、きっと「大魔神」のファンに違いない。
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コメント
面白かったですね。
とにかく冒頭からキングコングが登場し、主人公らが島に行くといきなりキングコングと戦闘になり島をさまよう事になります。
しかも島には怪獣がうじゃうじゃといて遠征隊はばたばたと倒れていきます。
トム・ヒドルストン、ジョン・グッドマン、ブリー・ラーソン、サミュエル・L・ジャクソンなど俳優陣も豪華です。
30年前からの生き残りのマーロウ役のジョン・C・ライリーが好演していました。
サミュエル・L・ジャクソンのファナチックな悪役も印象的でした。
ラストにはシリーズの次回作に関する映像がついていましたね。
次回作は本作でも暗示された「GODZILLA ゴジラ2」、その次は「GODZILLA vs KONG」との事で楽しみです。
投稿: きさ | 2017年3月28日 (火) 08:03
ニューヨークに行かないでも、対ヘリ戦闘もあるし、一応旧作の要素はほとんど入ってるんですよね。
ちゃんと美女を助けるし。
これだけの物語を2時間以内に収めた作劇は素晴らしかったです。
それにしてもエンドクレジット後、おまけがあるのは分かっていても衝撃でした。
あそこで脳内に変な汁出ましたもん(笑
投稿: ノラネコ | 2017年3月28日 (火) 23:28
◆きささん
これは本当に予想外の面白さでしたね。
レジェンダリー・ピクチャーズは新人監督の起用がうまい。「GODZILLAゴジラ」(2014)でも新人ギャレス・エドワーズを抜擢して成功してますしね。
で、「ゴジラ2」は誰が監督するか、これも興味深いですね。楽しみです。
◆ノラネコさん
あのエンド・クレジット後のおマケには驚きましたね。
以前から次のゴジラにはラドン、キングギドラが出るとは聞いてましたが、まさかキングコングのラストで予告されるとはまったく予想外でした。これで怪獣アベンジャーズ(?)の世界観が繋がったという事ですね。
それにしても、コングは別として、日本製の怪獣がハリウッド映画に大挙出演なんて、喜んでいいのかどうか複雑な心境です。
まあコングも円谷=本多の東宝怪獣路線に2回出演してはいますので、おアイコかも知れませんが。
投稿: Kei(管理人) | 2017年4月 2日 (日) 23:22
此の作品、ネット上等での評価が概して高かった上、此方でも絶賛されておりましたので、早速観て来ました。
いやあ、面白かった!娯楽作品に徹している事やテンポが実に良い。続編が楽しみです。
P.S. トラックバックさせて貰ったのですが、誤って2度送ってしまった様です。申し訳在りませんが、1つ削除宜しく御願い致します。
投稿: giants-55 | 2017年4月 7日 (金) 02:34
◆giants-55さん
TBの件、了解しました。
拙記事が参考になりましたらなによりです。
徹底した娯楽作品としてよく出来ているのですが、当時のベトナム戦争に敗退した軍人の屈折した思いもうまく作品に取り入れ、また同時に、勇ましく戦う事に憧れるアメリカ的なるものへの皮肉も込められている気がします。実はこのアメリカ的なるものがトランプ大統領を誕生させた要因でもあるわけで、そう考えればこれはなかなか奥の深い作品とも言える、というのは褒め過ぎでしょうかね(笑)。
投稿: Kei(管理人) | 2017年4月10日 (月) 00:02
ともかく予告とかで全部見せられてるにも関わらず、怪獣がでかくて強くて、それだけでこんなに面白いなんて。よかったです。
投稿: ふじき78 | 2017年4月30日 (日) 21:20