「ラ・ラ・ランド」
2016年・アメリカ/サミット・エンタティンメント、他
配給:ギャガ、ポニーキャニオン
原題:La La Land
監督:デイミアン・チャゼル
脚本:デイミアン・チャゼル
音楽:ジャスティン・ハーウィッツ
製作:フレッド・バーガー、ジョーダン・ホロウィッツ、ゲイリー・ギルバート、マーク・プラット
「セッション」で一躍注目を集めたデイミアン・チャゼルが脚本を書き、監督も手掛けたオリジナル・ミュージカル映画。主演は「L.A. ギャング ストーリー」でも共演しているライアン・ゴズリングとエマ・ストーン。その他「セッション」でアカデミー助演男優賞を受賞したJ・K・シモンズも共演。第74回ゴールデングローブ賞では作品賞(ミュージカル/コメディ部門)ほか同賞の映画部門で史上最多の7部門を制した他、第89回アカデミー賞ではチャゼル監督が史上最年少で監督賞を受賞、エマ・ストーンも主演女優賞など計6部門で受賞を果たした。
アメリカ・ロサンゼルス。女優を目指すミア(エマ・ストーン)は映画スタジオのカフェで働きながらオーディションを受け続けているが、落ちてばかりの日々。意気消沈するミアは、ピアノの音色に誘われて入った場末のバーで、ピアノを弾いているセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と出会う。彼の夢は、自分の店を持って本格的なジャズを演奏すること。二人は恋に落ち、互いに励ましあって夢の実現を目指そうとする…。
ミュージカル映画は大好き。ジーン・ケリーやフレッド・アステア主演のMGMミュージカルは特に好きだし、「ウエストサイド物語」は再公開される度に何度も劇場に通いつめた。
そんなわけだから、本作の公開は心待ちにしていて、公開されるやすぐに観に行った。
やっぱり、期待していた通りの傑作だった。冒頭のハイウェイにおける群舞シーンからして圧巻、それもカットを割らない長回しのワンカットによるダイナミックな躍動感。これにはシビれた。
以後も、軽やかなステップのタップを交えたダンス、幻想シーンでは空に舞い上がり空中ダンス、と、過去のMGMミュージカルやジャック・ドゥミ監督のフランス製ミュージカル、さらにはウディ・アレンやジェームズ・ディーン主演の名作へのオマージュも交え、華麗かつエレガントなミュージカル・シーンにうっとり、あるいは興奮しまくりと、128分間の至福の時を過ごさせていただいた。
まだ若いデイミアン・チャゼル監督だが、おそらくは過去のMGMミュージカルも含め、多くのミュージカルを含む名作映画を観て来たのだろう。オマージュ、あるいは引用される作品の数が半端ではない。
特に、過去に無数の映画を観て来た、私を含む熱烈な映画ファンであるほど、より感動するだろう。
本来なら、いつものように引用されている映画とその引用箇所を語りたいところなのだが、既に多くの人も書いてるだろうし、映画の余韻にじっくり浸りたいので、今回は遠慮しておく(笑)。
ただ、これだけは言っておきたい。
本作で主にオマージュの対象となっている、ジーン・ケリー主演「巴里のアメリカ人」やフレッド・アステア主演「バンド・ワゴン」に代表されるMGMミュージカルは、実はお話の内容は単純で他愛ないものばかりである。ストーリーを概略したら2行程度で終わるものもある。
むしろ、ストーリーなんかどうでもよく、ダンスが達者な俳優のエレガントで、時にはアクロバティックな踊りを眺めて楽しむ程度の作品が多いのである。むしろそっちがメインだと言った方が正しいだろう。
ジーン・ケリー主演「雨に唄えば」は、映画がサイレントからトーキーへと移る時代を背景に、さまざまな苦闘の末に多くの人が協力して映画を完成に導くというストーリー部分もしっかり出来ているのだが、それでも終盤近くに、物語とはまったく関係ない13分にも及ぶミュージカル・シーン“ブロードウエイ・メロディ”が挟まれ、物語の結末を早く知りたい観客は、「じらさないで先に進んでくれよ」と思った人もいるかも知れない。あまりに長くかつ圧巻であったので、私ですら物語が再開された時、はてそれまでどんなお話だったの一瞬思い出せなかった程である(笑)。
「巴里のアメリカ人」でも、ラスト間際で18分!にも及ぶモダン・バレエがストーリーを中断して展開される。
やがて1960年代、「ウエストサイド物語」のようなストーリー重視、かつ社会的なテーマを盛り込んだミュージカルが大ヒットし、前記のような俳優の歌と踊りを楽しむだけでよかった明朗ミュージカル映画は衰退して行く。
(それにしても「ウエストサイド-」には人種対立、移民問題、憎悪の連鎖への批判、と、今の時代にそのまま当てはまるテーマが含まれていた事に驚く。)
本作がその点素晴らしいのは、まず一つ、互いに夢を抱いている二人の男女が出会い、夢を実現する為に奮闘し、時には挫けたりしながらも、励ましあい、やがて夢を実現する、という物語部分がしっかりとしている点、もう一つは、ミュージカル部分が、前記MGM作品のように決して物語と分離するような事はなく、物語の流れにうまく乗せているチャゼル監督の構成・演出のうまさである。
それと特筆すべきは、結末のほろ苦さである。
5年の月日が経ち、それぞれに自分の夢は叶えられた。だがその夢と引き換えに、二人は別れ、別々の人生を歩んでいたという顛末。
これは切ない。夢を得るという事はまた、大切な何かを失う事でもある、という、諦念とでもいうべきテーマに深い感動を覚えた。
このラストは、ジャック・ドゥミ監督の傑作ミュージカル「シェルブールの雨傘」のラストに明らかに影響を受けている。
愛し合っていた二人なのに、戦争で引き裂かれ、年月を経て再会した時、二人はそれぞれに家庭を持ち、別の人生を歩んでいた、という結末。
それまでのMGMに代表されるミュージカルは基本エンタティンメントであり、ラストで二人は結ばれハッピーエンドとなるものが大半だった。
「ウエストサイド物語」辺りから徐々に変化しつつはあったけれど(これもアンハッピーな結末)、この作品はさらに、人の運命の過酷さ、人生というものの儚さ、苦さまでも描いて奥行の深い作品に仕上がっていた。
本作についてさらに凄いと思ったのは、ここでミアが夢想する、もう一つの人生を描くシーンである。ここはあの「巴里のアメリカ人」のラストのモダン・バレエを思わせるのだが(絵画を背景に踊るシーン等)、「巴里-」と違って、きちんと物語上の重要シーンにもなっているのがいい。
ミュージカルという夢の装置を逆手に取って、ここではそれを夢のはかなさを訴えかける手段として利用している。この発想の転換には唸った。
過去の名作ミュージカル映画へのオマージュを全編に散りばめつつ、それらが単にオマージュに終わらず、物語を進める上での重要なファクターにまで昇華させた、チャゼル監督の見事な戦略には感動した。
チャゼル監督、まだ若いのにここまでやってのけた、そのテクニシャンぶりに感服した。アカデミー監督賞も当然である。この先、どこまで進化するか、楽しみである。
(採点=★★★★★)
(お楽しみはココからだ)
書かないと言っときながら(笑)、でもちょこっとだけ書きたい事があるのでお楽しみを少しだけ。
MGMミュージカル、ジャック・ドゥミ監督作へのオマージュは指摘している人も多いので割愛する。
で、もう一つオマージュを感じたのは、先日亡くなった故・鈴木清順監督作品へのオマージュである。
ミアが住んでいるシェアハウスに同居する、やはり女優を目指している女の子たちの服装であるが、
これが赤、青、黄、緑と原色のカラフルな衣装で、これを見て私は鈴木監督の「肉体の門」を思い出した。
「肉体の門」でも、野川由美子ら娼婦たちの服装が、同じようにカラフルであった(下左)。ちなみにこちらも4人組。
鈴木清順作品は、ポップな色使いで定評があり、よく使われるのが、背景の壁が真っ赤となったり(「関東無宿」)、画面が徐々に真っ赤に染まったり(「刺青一代」)するのだが、本作でもミアのいる部屋(化粧室?)の壁が真っ赤だったりする。
もう一つ、ミアとセバスチャンが暮らす部屋のカーテンがエメラルド・グリーンなのだが、この色は鈴木監督の後期作品(「悲愁物語」、テレビ作品「穴の牙」)でも壁の色としてよく使われたグリーンとそっくりである。
鈴木監督の最後の作品となったのは、和製ミュージカル「オペレッタ狸御殿」であるが、1966年作品の渡哲也主演「東京流れ者」も渡や松原智恵子が歌いまくる、ミュージカル・タッチの楽しい作品だったし、おまけに背景が真っ赤や白に変わる等、色彩表現が鮮烈だった。なおこの作品では、ピアノが印象的に使われ、ラストで愛し合ってた二人は分かれてしまう事となる。
鈴木清順監督作は、クエンティン・タランティーノやジム・ジャームッシュがオマージュを捧げる等、海外でも人気が高いので、デイミアン・チャゼル監督も、影響を受けている可能性は高いと思われる。
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コメント
いつの日か往年のミュージカル映画のモノラル音響を、現代風にステレオ化やサラウンド化とかして映画館の大スクリーンで見れたら...とずっと思っていました。それが音だけでなく色彩も当時そのままに新作として実現するなんて....。夢のような2時間でした。現代的なアレンジも堂々とされている中で、特に公園で2人がタップを踊る「A LOVLY NIGHT」は本当に素晴らしい。ハッピーエンドで終わって欲しかったという欲張りな思いもありますが、出だしが「ロシュフォールの恋人たち」なら、締めはやはり「シェルブールの雨傘」ですね、納得です、泣きました。オマージュ大会の本作の中で、個人的にはラストのダンスの中の真っ赤な壁の酒場の書割が「雨に唄えば」のジーン・ケリー、シド・チャリシーのダンスシーンそのままなのと、凱旋門の書割の前で風船を持つスターというのは「巴里のアメリカ人」と「パリの恋人」へのダブル・オマージュとなっている(ですよね?)のがとても嬉しかったです。
投稿: オサムシ | 2017年3月 6日 (月) 23:00
私も傑作だと思いました。アカデミー6部門を受賞したのも納得。
オープニングのハイウェイのミュージカルシーンでまずドキモを抜かれました。
ライアン・ゴズリングとエマ・ストーンの二人もとてもいいです。
楽曲が素晴らしいですね。
ダンスシーンは割と少ないのですが、ほとんどがワンシーン、ワンカット。
観客としてはうれしいですが、俳優もスタッフも大変だったでしょうね。
ただ。ラストの15分がせつないので、 個人的にはもっと能天気な明るいミュージカルを見たくなりました。
投稿: きさ | 2017年3月 8日 (水) 23:25
お返事が大分遅くなってしまいました。申し訳ありません。
実は田舎の母が亡くなりまして、葬式やら何やらこの1週間ほどテンテコマイでした。
やっと落ち着きましたので、近々記事もアップいたします。
◆オサムシさん
オサムシさんもミュージカル映画が大好きなのですね。お互い、オマージュされた作品の事を語りだしたら止まりませんねぇ(笑)。
ラストのダンスは「巴里のアメリカ人」はすぐ分かりますが、「パリの恋人」は気が付きませんでした。さすがですね。
◆きささん
>個人的にはもっと能天気な明るいミュージカルを見たくなりました。
そのタイプでは、最近では「ヘア・スプレー」がありましたね。
私も明るい能天気なMGMミュージカルの方が楽しくて好きなのですが、「シェルブール-」のような切ない作品も好きなのですね。終わってみれば、これはこれで良かったかも知れません。
投稿: Kei(管理人) | 2017年3月20日 (月) 00:24