「グレートウォール」
2017年・中国=アメリカ/ユニヴァーサル=レジェンダリー・ピクチャーズ
配給:東宝東和
原題:長城/The Great Wall
監督:チャン・イーモウ
原案:マックス・ブルックス、エドワード・ズウィック、マーシャル・ハースコビッツ
脚本:カルロ・バーナード、ダグ・ミロ、トニー・ギルロイ
製作:トーマス・タル、チャールズ・ローベン、ジョン・ジャシュニ、ピーター・ロア
製作総指揮:ジリアン・シェア、アレックス・ガートナー、E・ベネット・ウォルシュ、ラ・ペイカン、チャン・チャオ
「HERO」「LOVERS」などの中国を代表する巨匠チャン・イーモウ監督による中国・アメリカ合作のファンタジー・アクション大作。主演は「ジェイソン・ボーン」シリーズのマット・デイモン。共演は「ファイヤー・ストーム」のアンディ・ラウ、「ポリス・ストーリー レジェンド」のジン・ティエン、「タイガー・マウンテン 雪原の死闘」のチャン・ハンユーといった中国映画スター、それにハリウッドから「ジョン・ウィック」のウィレム・デフォーも参加した。
金と名声のため、強力な武器を求めて世界を旅する傭兵、ウィリアム(マット・デイモン)は、20数名の部隊とともに半年に及ぶ中国大陸の旅をしていたが、馬賊の襲撃等で多くの仲間が命を落とした。ある時、正体不明の獣に襲われるも、相手の腕を切り落として危うく難を逃れるが、生き残ったのはウィリアムとトバール(ペドロ・パスカル)だけだった。翌日、再び馬賊に追われた二人は、逃げるうちに万里の長城にたどり着く。警備隊に拘束された二人は、やがて60年に一度現れる怪物・饕餮(とうてつ)と、長城防衛隊・禁軍との壮絶な戦いに巻き込まれて行く…。
チャン・イーモウ監督は、「紅いコーリャン」(1987)、「あの子を探して」「初恋のきた道」(共に1999)といった叙情的な秀作で知られる中国映画の名匠で、最近でも高倉健を招いた「単騎、千里を走る」(2005)とか、長年のコンビ、コン・リーと組んだ「妻への家路」(2014)と、一貫して人々の生活に密着した秀作をコンスタントに作っている。私も大好きな監督である。
が、2002年の「HERO」、2004年の「LOVERS」と、アクション大作にもレパートリーを広げ、2008年には北京オリンピックの開会式・閉会式の演出も担当する等、ちょっと手を広げ過ぎの感もある。「HERO」はまだしも、「LOVERS」になると、華麗な色彩以外見どころのない凡作でガッカリした。
そんなイーモウ監督が、万里の長城を舞台としたアクション映画を撮る、と聞いて、あまり期待しないで観に行ったのだが…。
(以下ネタバレあり)
ポスターだけでは分からなかったが、製作会社がレジェンダリー・ピクチャーズと知って納得。同社お得意の怪獣映画だった。
二千年前から60年に一度現れ、幾度となく中国を襲ってきた伝説の生き物、饕餮(とうてつ)がその怪獣で、万里の長城はそれを防ぐ為に建造されたのだという。
まあ壮大なホラ話であるわけで、CGで描かれた怪獣の大群と、アンディ・ラウやジン・ティエンらが扮する、都の防衛隊・禁軍との壮絶な死闘が全編にわたって展開され、そこに、弓矢の腕のたつ傭兵のマット・ディモンたちが助っ人として参戦する、文字通りハリウッドと中国映画とががっぷり四つで組んだアクション・エンタティンメント大作である。
アクションはさすが、武侠映画の伝統があり、ワイヤー・スタントを得意とする中国映画らしさが全開で、そこにイーモウ監督の、映画「HERO」や北京オリンピックで経験済みのダイナミックな演出と、レジェンダリーお得意の怪獣CGアクションがブレンドされ、アクション映画としてはさすが見応えがあった。
観た事のあるようなシーンがいっぱい登場するのも面白い。
無数の矢が、ウィリアムたちの周りに飛んで来るのは「HERO」だし、城砦の上から女性兵士軍がバンジー・ジャンプのように飛び降りる戦法は、北京オリンピックの開・閉会式での演出とそっくりで笑ってしまった。イーモウ監督、自身の演出をパロディにして遊んでいるようだ(あのバンジー攻撃、戦略的には効率悪すぎ(笑))。
無数の饕餮が城壁を駆け上がる画はまるで「ワールドウォーZ」だし、怪物の襲来から都を守る為、長い壁を築くというのは「進撃の巨人」を思わせる。
そう思えば、あのバンジー攻撃も、「進撃-」における、ワイヤーで自在に飛び回る立体機動装置がヒントになっているのかも知れない。
ただ、お話はツッ込みどころ満載で、怪物が何故か磁石に弱いというのもご都合主義だし(スーパーマンのクリプトン元素みたいなものか(笑))、怪物のクイーンを倒せば怪物たちがバタバタ倒れて全滅するというのも都合が良すぎる(「インディペンデンス・デイ」に似てるなあ)。だいたいそんな弱点、ウィリアムたちがどうやって知ったのかが不明だし、クイーンがどんな方法で饕餮の大群をコントロールしてたのかも説明不足(テレパシーのようなものか?)。
それでも、ウィリアムが、最初は強力兵器である黒色火薬を持ち帰る事だけを目的としていたのが、命を賭して闘う禁軍兵士たちを見て自分の生き方を見直し、最後にリンに、黒色火薬を持ち帰るか、トバールと共に帰るかのどちらかを選択せよと言われ、トパールを選ぶというちょっと爽やかな結末は型通りではあるが悪くない。
結局の所は、物語の粗には目をつぶって、イーモウ監督らしい鮮烈な色彩美学とスペクタクル・アクションを楽しむのが正解かも知れない。
原案にエドワード・ズウィック、脚本にトニー・ギルロイが参加している点も要チェックだ。
ズウィックと言えば「ラスト・サムライ」。アメリカ人が東洋の国に行って、兵士の一員となって敵と戦う、というプロット自体がモロ「ラスト・サムライ」だし、トニー・ギルロイはマット・ディモン主演のアクション「ジェイソン・ボーン」シリーズや、昨年の秀作「ローグワン/スター・ウォーズ・ストーリー」の脚本家として知られている。
「ローグ・ワン」も、無名の兵士たちが命を賭して強大な敵に立ち向かう話だった。
ちなみに、トニーの弟、ダン・ギルロイは先ごろ公開されたやはりレジェンダリー作品「キングコング:髑髏島の巨神」の脚本に参加している。
兄弟揃ってレジェンダリーの怪獣アクションの脚本を書いているというのが面白い。
ちなみに本作のヒロイン、ジン・ティエンが「キングコング-」にほとんどゲスト的な形で出演しているのは、本作でレジェンダリーの総帥トーマス・タルに気に入られたせいかも知れない(日本では公開順序が逆になったが、製作されたのは本作のほうが先)。
なお、レジェンダリー・ピクチャーズは2016年1月、中国の大連万達グループに35億ドルで買収されている。チャイナ・マネー恐るべし。レジェンダリーは今後もこうした、中国を舞台にしたり、中国俳優が活躍する怪獣映画を作るのだろうか。これから登場するレジェンダリー作品「ゴジラ2」、「ゴジラvsコング」にその影響が出ないか、ちょっと心配ではある。
チャン・イーモウ監督の名前で売っているが、イーモウ作品である事は忘れた方がいいだろう。特に長年のファンならなおの事。 (採点=★★★★)
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