「帝一の國」
全国屈指の優秀な学生たちが集まる日本一の名門校・海帝高校。政財界に強力なコネを持つこの学校で生徒会長を務めた者は、国政における将来の内閣入りが確約されるという。その海帝高校に入学を果たした1年生の赤場帝一(菅田将暉)の夢は、総理大臣になって自分の国を作ること。その夢の実現の為、どんな手を使ってでもライバルを全員蹴落とし生徒会長になるという野心を抱く帝一は、2年後の生徒会長選挙を目指し、想像を絶する命がけの権力闘争の中へ身を投じて行く…。
また学園コミックの映画化か。しかも主演はこの所やたら出演映画が目立つ菅田将暉。もう食傷気味で観る気はほとんどなかったのだが、監督が永井聡というのがちょっと気になった。というのもこの人、デビュー作の「ジャッジ!」(2014)が予想外の面白さで、いっぺんでファンになったからである。
ただ前作「世界から猫が消えたなら」は平凡な出来で、ちょっと期待外れだったので、さて今度はどうか、期待と不安半々で観たのだが…。
結論として、予想外に面白かった。テンポはいいし、政治の世界の痛烈な風刺と皮肉が利いていて、大いに笑った。
永井監督、やはりコメディが資質に合っている。
(以下ネタバレあり)
超エリートの名門校・海帝高校は、原作によればその名の通り、帝国海軍の兵訓練学校として創設され 優秀な将校を数多く輩出していたという。
制服も旧日本海軍の軍服とそっくりだし、生徒会などでも、生徒の行動はまるで軍隊みたいに統制されている(拍手が約1~2秒でピタリ止まる所は笑った)。
この学校の生徒会長になれば、将来は大臣への道が確約されるし、総理大臣になれる最短コースとも言われている。
赤場帝一の父・譲介(吉田鋼太郎)もやはり海帝高校で学んだが、ライバルの東郷卯三郎(山路和弘)に敗れて生徒会長になれず、その東郷は今は通産大臣、譲介は通産省の事務次官どまりと差をつけられている。
その為譲介は何が何でも息子・帝一を海帝高校の生徒会長にさせたいと願望しており、内気で将来はピアニストになりたかった帝一だが、その父に夢を砕かれ、吹っ切れた形で、なりふり構わず海帝高校生徒会長への野望を燃やして行く。
その野望を実現する為には、帝一は手段を選ばない。盗聴やら裏工作、媚売り、はては次期生徒会長の有力候補・氷室ローランド(間宮祥太朗)に肩入れするものの、旗色悪しと見ると平然と敵陣営に寝返ったりもする。
もうほとんど、「仁義なき戦い」の世界である。と言うか、ヤクザ社会だけでなく、政界や大企業内の派閥・権力抗争も含めた、汚れた大人世界のカリカチュアでもある。
そうした駆け引き、策略の繰り返しで物語は二転三転、どう転ぶか先が読めない。永井監督の演出は、それぞれの役柄の個性をうまく描き分け、快調のテンポでドラマを引っ張って行く。
面白いのは、そんな帝一とは対照的な、別の組のルーム長である大鷹弾(竹内涼真)の存在である。ほとんどの生徒が中学からそのまま高校に進学するのに対し、大鷹は、家が貧しく苦学し、奨学金で別の中学から超難関とされる入学試験をパスして海帝高校に入学した。
正義感に溢れ、ズルも裏工作もなく、正々堂々と生徒会長に立候補する。
普通のドラマなら、主役であってもおかしくない。いや理想から言えば、主役であるべきである。
ところが本作では、汚い手を使ったり、平然と寝返ったりする帝一が最後まで主役である。そんなダーティ・ヒーローを、菅田将暉が実に颯爽と魅力的に演じているのが、この映画のユニークな所である。
ネタバレになるが、最後には帝一が大鷹に生徒会長の座を譲る形で終わるのだが、実はその裏にも巧妙な駆け引き・策略があったという、一種のドンデン返しで物語を締めくくっているのも面白い。
ラストで、帝一が国会議事堂を見上げ、いつかはここの頂点に立つ、という決意を示す所もいい。
国会議事堂と言えば、「仁義なき戦い」の監督・深作欣二の初期の傑作「誇り高き挑戦」でも、政治の闇を暴こうとして戦うも苦杯を舐めた主人公の新聞記者(鶴田浩二)が、ラストで国会議事堂をキッと睨み付けるシーンが印象的だった。
権力抗争や、人間の欲望やダーティな部分を好んで描いた深作欣二監督の作品世界と、本作は相通じる所があるのかも知れない。
菅田将暉は、少し映画に出過ぎと思えなくもないが、やはりうまい役者である。作品によって、カメレオンのように柔軟に役柄に呼応し見事にこなしている。
いろんな監督やプロデューサーが使いたがるのも当然だろう。
大鷹が受けた受験問題を自分でも解答して、点数を譲介と読み合わせるシーンのテンション高い演技には大笑いした。
笑いと、間の緩急を心得た永井聡監督の演出は快調である。さすがCM演出で鍛えただけの事はある。そう言えばデビュー作「ジャッジ!」も、CM界の裏事情や駆け引きに悪戦苦闘する主人公の物語だった。
表からは見えない、社会の裏側事情をコメディで風刺し笑い飛ばすという作風は、これからも続けて行って欲しい。今後も要注目である。 (採点=★★★★☆)
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コメント
> 普通のドラマなら、主役であってもおかしくない。いや理想から言えば、主役であるべきである。
なのであるが、大鷹爽やかすぎる。そして、天才肌で努力が見えない。小市民の自分としては、できない事をトコトン努力して出来るようにしているであろう努力家の帝一に肩入れしてやりたい、と思わされました。
投稿: ふじき78 | 2017年5月28日 (日) 23:50
◆ふじき78さん、こんばんは。
まあこの作品は、日本の政治世界の戯画ですから、そんな世界では帝一のような人間がのし上がって、大鷹のように正義感を持って理想を追い求める政治家は疎外されるでしょうね。
私はそんな理想主義のフランク・キャプラ監督「スミス都へ行く」が好きで、主人公のジェームズ・スチュアートと大鷹とをつい重ねて見ておりました。
しかし困った事に、本作の帝一も好きなのですねぇ。うーん、悩ましい(笑)。
投稿: Kei(管理人) | 2017年5月31日 (水) 00:09