「夜に生きる」
2017・年アメリカ
配給:ワーナー・ブラザース
原題:Live by Night
監督:ベン・アフレック
原作:デニス・ルヘイン
脚本:ベン・アフレック
製作:レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・デイビソン、ベン・アフレック、ジェニファー・トッド
製作総指揮:クリス・ブリガム、デニス・ルヘイン、チェイ・カーター
「ミスティック・リバー」等で知られる作家デニス・ルヘインの同名小説の映画化作品。監督はルヘイン原作「ゴーン・ベイビー・ゴーン」で映画監督デビューした「アルゴ」のベン・アフレック。アフレックは製作・脚本・主演も兼ねる。共演は「マレフィセント」のエル・ファニング、「ハリー・ポッター」シリーズのブレンダン・グリーソン、「アバター」のゾーイ・サルダナ、「ザ・タウン」のクリス・クーパーと実力派が結集した。
1920~30年代の禁酒法時代のボストン。ボストン警察の幹部である父親から厳格に育てられたジョー・コフリン(ベン・アフレック)は、父への反発から、仲間と強盗を繰り返していた。街ではアイルランド系とイタリア系の2大勢力が対立していたが、誰にも支配されたくないジョーは組織に入る気はなかった。ある日、ジョーは強盗に入った賭場で、アイルランド系ギャングのボス、ホワイトの愛人エマ(シエナ・ミラー)と出会い、恋に落ちる。しかしその事がホワイトの知る所となり、罠にはまって刑務所送りとなってしまう。やがて出所したジョーは、さらに過酷なギャングの世界に入り込んで行く…。
監督として、1作ごとに目覚しい実力をつけて来たベン・アフレック。監督3作目のアカデミー賞を受賞した「アルゴ」こそ奇想天外な脱出作戦ものだったが、監督デビュー作は本作と同じデニス・ルヘイン原作のサスペンス「ゴーン・ベイビー・ゴーン」(2007)だったし、2作目「ザ・タウン」(2010)もボストン北東部の犯罪多発地帯を舞台にしたクライム・サスペンスであった。本作もボストンを舞台にしたギャング抗争ものである。というわけで、「アルゴ」を除き、舞台はすべてボストン。
デニス・ルヘインはボストン出身なのだが、実はアフレック兄弟もボストン出身。
そんな訳だから、てっきりアフレック自身が映画化を熱望したのかと思っていたが、プロダクション・ノートによると、レオナルド・ディカプリオが原作の映画化権を取得し、誰に撮らせるかを考えたときに真っ先に浮かんだのがアフレックで、彼にこれを監督してみないかと薦めたのだそうな。つまりは他人からの依頼物件だったわけである。面白い巡り合わせである。
これまでの監督作は現代が舞台だったが、本作の時代は禁酒法華やかな1920~30年代。
アフレック自身も、そんな時代のギャング映画が大好きなようで、お気に入りの犯罪映画として、「民衆の敵」(1931)「白熱」(1949)、「汚れた顔の天使」(1938)などを挙げている。
実はこの3本、いずれもジェームズ・キャグニー主演で、配給はいずれもワーナー・ブラザース映画。
ワーナーと言えば、古くからギャング・ノワール映画が得意で、上記以外でも「弾丸か投票か」(1936・監督:ウィリアム・ケイリー、主演エドワード・G・ロビンソン、ハンフリー・ボガート)とか、「ハイ・シェラ」(1941・監督:ラウォール・ウォルシュ、ハンフリー・ボガート主演)とか、
「明日に別れの接吻を」(1950・監督:ゴードン・ダグラス、ジェームズ・キャグニー主演)などの佳作がある。
本作は、そんな伝統のギャング映画への敬意を込めて、ベン・アフレックが渾身の演出・演技で叩き出したフィルム・ノワールの秀作である。本作の配給がワーナー・ブラザースであるのも、よって当然ではある。
(以下ネタバレあり)
お話は、典型的なギャング映画パターン。暗黒街で仲間と一緒に犯罪を繰り返し、ギャングのボスとの対決もあれば、そのボスの情婦(シェナ・ミラー)もお定まりのように登場するし、その情婦と恋仲になったり、クラシック・カーのカーチェイスもあれば、ラストでは派手な銃撃戦も用意されているといった具合に、見せ場に事欠かない。まずは楽しめるギャング映画になっている。
古いギャング映画(特にワーナー作品)が好きなファンならなお楽しめるだろう。
時代考証も丁寧だし、当時のファッションやクラシック・カーなどの再現も手抜きはない。
多彩な登場人物それぞれのキャラクターもきっちり描き分けられたアフレック自身による脚本も見事だし、演出もまた静と動の緩急自在で最後まで安心して観ていられる。
それだけでも見ごたえがあるが、テーマとして浮かび上がるのは、さまざまな形での、父と子の物語である。
ジョーの父親は警察の幹部であり、息子たちを厳しく育てて来た。
息子たちはそれに反撥し、兄はハリウッドへ出奔し、弟のジョーは犯罪に手を染める。
だが、ジョーがホワイトの罠にかかって逮捕された時、父は同性愛者の判事を脅迫して、刑を短期に抑えさせる。
犯罪者であっても、息子は可愛い。厳格に当たっていても、やはり父親である。確執はあろうとも、親と子の絆は断ち難いのである。
ジョーは結婚し、男の子を儲けるが、娘が死んだ事でジョーを恨んだフィギス本部長(クリス・クーパー)によって妻は殺されてしまう。
息子と二人だけになったジョーは、この息子を大切に育てようと決心する。
自分が息子として受けられなかった、父親からの子に寄せる愛情を、自分が父親になった時に、今度は自分の息子にしっかりと注いで行こうとする、そのジョーの思いにちょっぴり泣けた。
親子で、広い海を眺めるラストが印象的である。
消息が分からなかった兄の名前を、息子と入った映画館のスクリーンに見つけたジョーが心から喜ぶシーンもいい。
ところどころにこうして差し挟まれる、親子、兄弟の絆と愛が、殺伐な物語の中で心が和まされるいいアクセントとなっており、これが単なるギャング・アクション映画に留まっていない事を示している。
俳優から映画監督に転進し、成功した人としては、クリント・イーストウッドがいるが、ベン・アフレックを第二のイーストウッドと呼ぶ声も多いと聞く。
イーストウッドも、やはりデニス・ルヘイン原作の「ミスティック・リバー」を監督しているし、何よりイーストウッドは、ワーナー・ブラザース配給のクライム・アクション「ダーティ・ハリー」の主演で一躍トップスターとなった人でもある。何かと二人は縁があるようだ。
イーストウッドのように、ベン・アフレックもいずれアメリカを代表する一流監督になりそうな予感がする。次回作がますます楽しみである。 (採点=★★★★☆)
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コメント
ベン・アフレックはじめ俳優陣は豪華でした。
ブレンダン・グリーソン、クリス・クーパーといった渋い役者も良かったですが、シェナ・ミラー、エル・ファニング、ゾーイ・サルダナの3ヒロインも良かったです。
ベン・アフレックの演出はさすが。今後が楽しみですね。
前半のクラシックカーでのカーアクション、ラストのアクションも良かったです。
確かに父と子というテーマも印象に残りました。
投稿: きさ | 2017年5月29日 (月) 22:49