「ブラッド・ファーザー」
2016年・フランス/ワイルドバンチ=ホワィ・ノット・プロダクションズ
配給:ポニーキャニオン
原題:Blood Father
監督:ジャン=フランソワ・リシェ
原作:ピーター・クレイグ
脚本:ピーター・クレイグ、アンドレア・バーロフ
製作:クリス・ブリッグス、ピーター・クレイグ、パスカル・コーシュトゥー、セバスチャン・K・ルメルシエ
ギャングに追われる愛娘を守るため、元犯罪者だった父親がアウトロー時代の知識とテクニックを駆使しギャング一味と戦うサスペンス・アクション。主演は監督作「ハクソー・リッジ」も公開されている「キック・オーバー」(2012)以来久々の主演作となるメル・ギブソン。共演は「はじまりへの旅」のエリン・モリアーティ、「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」のディエゴ・ルナ、「ファーゴ」のウィリアム・H・メイシーなど。監督は「アサルト13 要塞警察」のジャン=フランソワ・リシェ。
かつては血なまぐさい犯罪の世界に身を置いていたが、今は足を洗い、アルコール依存症のリハビリを続けながらトレーラーハウスで細々と暮らすジョン・リンク(メル・ギブソン)。ある日彼のもとに、数年前から行方不明となっていたひとり娘のリディア(エリン・モリアーティ)から連絡があり、麻薬組織の幹部だった恋人ジョナ(ディエゴ・ルナ)を撃ってしまい、警察、殺し屋から追われているという。愛娘を守るため、ジョンはかつて身につけたサバイバル術を駆使し、敵を迎え撃つことを決意する…。
「マッド・マックス」シリーズや「リーサル・ウエポン」シリーズで一世を風靡していたメル・ギブソン。その後監督業でも「ブレイブハート」(1995)でアカデミー作品賞・監督賞を受賞する等活躍目覚しかったメルだが、私生活でのトラブル等で世間を騒がせた事もあってか、監督業、俳優業とも最近は目立った活躍はなかった。
本年になって、10年ぶりの監督作「ハクソー・リッジ」がアカデミー賞にノミネートされて監督としても復活したメルギブ。そんな彼が俳優としても本格復活したのが本作である。キャッチコピーは「メル・ギブソン荒野に完全復活!」。いやあこれは見たくなるではないか。
ただしシネコン全国公開の監督作と違って、こちらの方はごく小規模のミニシアター限定公開。6月3日から公開されたもののほとんど話題にならず、シネ・リーブル梅田での上映は6月23日が最終。以後関西での上映予定はなし。で、あわてて最終日に観に行った。
(以下ネタバレあり)
これは予想以上に面白かった。ただはっきり言って、低予算、共演者もウィリアム・H・メイシー以外は地味な顔ぶれで、上映時間も88分と短い。いわゆるB級アクション映画である。
お話は、ギャングに追われて逃げて来た娘を父親が体を張って助ける、という、リーアム・ニーソン主演「96時間」シリーズや、実の娘ではないけれど似た展開のヒュー・ジャックマン主演「ROGAN ローガン」等がたちどころに思い浮かぶ、よくあるパターンである。
しかも、かつては裏社会で暴れていたものの、今では年老い、気力も衰え、生活も荒れてアルコール依存症、タトゥー彫りでかろうじて糊口をしのぐサエない日々を送っている。
皮膚もカサカサ、シワだらけでヒゲモジャ。これがあのメル・ギブソンかとにわかには信じられない落ちぶれぶりである(メイクのせいでそう見えてた事は後で分かるが)。
そんな彼に、ある日消息不明だった娘のリディアから電話が入る。ふとしたはずみで麻薬ギャングの恋人ジョナを撃ってしまい、ギャングから追われているという。捕まれば命も危ない。
娘がギャング仲間に入ったのも、父親である自分の裏稼業にどっぷり嵌った生活のせいでは、と自責の念にもかられているであろうメル扮するジョン・リンクは、命がけで娘リディを守ろうと決意する。
後はお決まり、ギャングや一味に雇われた殺し屋に狙われ、追われ、逃げてはまた追いかけられてのスリリングな逃避行が続く。
だがさすが元アウトロー、銃火器の扱いは手馴れたもので、刑務所暮らしで構築した犯罪者ネットワークも活用したり、元バイク軍団にもいたという事で後半は大型バイクにリディアを乗せ、ハイウェイを荒野を突っ走り、追いかける殺し屋たちとのチェイス、撃ち合いもあったりで、アクションの見せ場には事欠かない。そしてラストでは荒野の只中で敵軍団との壮絶な決闘へとなだれ込んで行く。
まあこんな具合で、アクション映画のとしての要素はまんべんなく配置され、スカッと楽しめる純粋娯楽映画に仕上がっている。88分という上映時間だが、スピーディな展開ゆえ短さは感じない。気軽に楽しむには丁度いい。
ヒゲモジャだったジョンが、後半ヒゲを剃り、さっぱりとした顔になると、シワは増えたけれど全盛期のメル・ギブソンを彷彿とさせる精悍な顔になっていたのには感動した。
楽しいのは、過去のメル・ギブソン作品へのオマージュが満載で、これを見てても十分楽しめる。
例えばジョンが住んでいるのはトレーラーハウス。これはメルが主演した「リーサル・ウェポン」におけるマーティン・リッグス刑事が住んでいた場所でもある。
そのトレーラーハウスが襲われ、銃撃でハチの巣になるのは「リーサル・ウェポン2 炎の約束」と同じ。
さらにバイクでの逃避行中、敵のバイク軍団に襲われ、ジョンが銃身を切り詰めたショットガンを片手撃ちするのは「マッド・マックス」オマージュ。
ジョンに撃たれた1台のバイクが、ハイウェイを走って来た大型トラックと正面衝突するシーンは、「マッド・マックス」の有名なシーンそのまんまで、ここは誰もがニヤリとさせられるだろう。
そんなわけで、これは単純にスカっと楽しめるB級アクション映画の快作であり、メルギブ・ファンにはお楽しみもある、ジャッキー・チェンと並んで還暦を迎えたアクション・スターの頑張りぶりに、ちょっと胸が熱くなる作品でもあった。
監督業もいいけれど、メル・ギブソンにはやっぱり単純爽快なアクション映画に、体の続く限り出続けて欲しいと思う。
これがアメリカ映画でなく、フランス映画であるというのも面白い。監督のジャン=フランソワ・リシェはフランス人なのに、ジョン・カーペンター監督のサスペンス・アクション「要塞警察」のリメイク「アサルト13 要塞警察」を監督しているように、アメリカ映画大好きのようだ。今後もこうしたアメリカ映画オマージュ、アメリカ映画スター・オマージュが詰まった映画を撮ってくれる事を期待したい。 (採点=★★★★)
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