「ジーサンズ はじめての強盗」
2017年・アメリカ/ニュー・ライン・シネマ
配給:ワーナー・ブラザース映画
原題:Going in Style
監督:ザック・ブラフ
オリジナル脚本:マーティン・ブレスト
脚本:セオドア・メルフィ
製作総指揮:トビー・エメリッヒ、サミュエル・J・ブラウン、マイケル・ディスコ、アンドリュー・ハース、ジョナサン・マッコイ、トニー・ビル、ブルース・バーマン
オスカー受賞のベテラン名優、モーガン・フリーマン、マイケル・ケイン、アラン・アーキンの3人が豪華共演した犯罪コメディ。監督は「WISH I WAS HERE 僕らのいる場所」のザック・ブラフ。脚本は「ヴィンセントが教えてくれたこと」のセオドア・メルフィ。その他助演はなつかしやアン=マーグレットにクリストファー・ロイド、「クラッシュ」のマット・ディロンなど。
ウィリー(モーガン・フリーマン)、ジョー(マイケル・ケイン)、アル(アラン・アーキン)の3人は同じ会社で40年以上も真面目に働き、定年後は慎ましくも不安のない年金生活が送れるはずだった。ところがその会社が経営不振で買収され事業縮小、年金も打ち切られてしまった。さらにジョーは、住宅ローンの金利が突然上がって返済が出来なくなり、このままでは自宅が差し押さえられるという危機に直面していた。そんな時、偶然にも銀行強盗の現場に居合わせたジョーは、その手際の良さに感心し、ウィリーとアルに、自分たちも奪われた年金を取り戻すべく、銀行強盗を決行しようと持ちかける…。
これは、1979年に作られたコメディ映画「お達者コメディ/シルバー・ギャング」(原題は同じ)のリメイクだそうだ。監督がなんとあのエディ・マーフィ主演の大ヒット作「ビバリーヒルズ・コップ」や、アル・パチーノにオスカーを獲らせた「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」等の秀作で知られるマーティン・ブレスト(脚本も)。彼が29歳の時のデビュー作なのだそうだ。
主演も豪華で、ジョージ・バーンズ( ジョー)、アート・カーニー
(アル)、リー・ストラスバーグ (ウィリー
)という、当時の名老優揃い。評判も良かったらしいがなぜか我が国では未公開(ビデオは出たらしい)。
で、38年ぶりのリメイクとなる本作は、マイケル・ケイン、モーガン・フリーマン、アラン・アーキンとこれまた当代随一と言っていい、いずれも80歳を超えたレジェンドとも言うべき名優たちの、夢のような豪華共演。この人たちの余裕たっぷりの名演技を見るだけでも楽しい。
悠々自適の年金生活を送れるはずだったのに、突然年金が打ち切られ、老後生活の危機に。追い討ちをかけてジョーの自宅の住宅ローン金利が跳ね上がってローンが払えなくなる。
銀行に掛け合うが、担当者はちゃんと優遇金利期間が過ぎれば利率が上がる事は説明済みだと言う。日本でもよくあるけれど、最初の数年間は金利を低くしてローン加入を勧める銀行の口車にうっかり乗せられて、後で金利負担増に苦しむという事はよくある。本当に銀行はえげつない。
その交渉に行った銀行でジョーは銀行強盗に遭遇するのだが、マスクをした3人組の強盗は鮮やかな手際で誰も傷つけず、ジョーにも優しい言葉をかけて意気揚々去って行く。
この時、犯人の一人の首筋に特徴のあるタトゥーを見たジョーは警察にその目撃情報を語るのだが、これが後の伏線になっている脚本がなかなか上出来。
この見事な強盗手腕ぶりを見たジョーは、自分たちも銀行強盗を実行して、打ち切られた年金分を取り戻そうとウィリー、アルたちに持ちかける。最初は無理だとしり込みしていたウィリーたちだが、やがて踏ん切りをつけ、3人による銀行強盗を決意する。
ここからは、スーパー万引きの予行演習や、裏社会に詳しそうな男ヘサース(ジョン・オーティス)の指導で銃の使い方の訓練をやったり、着々準備を進めるのだが、万引しても逃げ足は遅くてモタつくは、銃の反動でコケるはと老人ゆえの体力の衰えがそのまま笑いのネタになってる所がなんともおかしい。
やってる事は犯罪なのだが、80歳超えの老人がやると何もかもユルユルでスローで、つられて銀行支店長もFBI捜査官までもがズッコケたりどこかシマらなかったり、完全にコメディ・ノリ…というかほとんどファンタジーの世界。
こんなペースにノセられ観客も、ジョーたち、頑張れよと応援したくなる。
途中何度も、危なっかしかったり、ハラハラしたり、ウィリーが腎臓病を患っていて危うく命の危険に晒されたり、監視カメラ映像から正体を見破られそうになったりと、適度にサスペンスも配置されている。
ネタバレになるので詳しく書けないが、実は周到なアリバイ工作が施されていたり、ヘサースの意外な正体が判明したり、バラまかれていた伏線が最後に回収されて行くセオドア・メルフィの脚本がなかなかよく出来ていて、予想以上に面白かった。
アルがウィリーに腎臓を提供した後に、ジョーが礼服、黒ネクタイで神妙にスピーチするのでてっきり、と思わせといて実は、という演出もシャレている。
ツッ込みどころを挙げようと思えばいくらでもあるのだが、とにかくこの作品はおトボケ・ファンタジー・コメディとして割り切って見れば十分楽しいし、高齢化社会における、我々自身も他人事ではない社会派ネタを配した上でそれを笑いに転化する脚本・演出のうまさには感心させられた。
個人的には、エルヴィス・プレスリー主演の「ラスベガス万才」やミュージカル「バイ・バイ・バーディ」等で昔ファンだった懐かしいアン=マーグレットが元気な姿を見せてくれたのも嬉しい(アルとのベッド・シーンというおマケまである(笑))。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズのクリストファー・ロイドが、ややボケの入った老人を絶妙の間合いで演じているのも楽しい。
主役3人も含めて、この映画は往年の名優たちの、老いてなお元気な姿を眺めるだけでも楽しい作品でもある。
日本でも今ちょうどテレビで、老人になったかつての名優たちが豪華共演する倉本聡脚本「やすらぎの郷」が放映中である(私も録画して見ている)。
老人が、元気に頑張っている姿は、これから老人になって行く我々にも、生きる勇気を与えてくれるのだ。
シンミリした、深刻なテーマの老人映画が多いが、たまには老人が元気いっぱい、頑張る映画も作られるべきである。そして老境に入った人にも、家で引っ込まず、町に出て、こんな楽しい、元気付けられる映画を劇場で観る事を是非ともおススメしたい。 (採点=★★★★)
(付記1)
邦題を見た時は、なんともダサい題名だと思ったが、観終わってみれば、映画のおトボケぶりを反映していて、これもアリかなと思う。
で、公式ページを訪問したら、アカウントが"g3z"となっていた。なるほど“爺3人”と掛けてるわけね(笑)。うまい。
(付記2)
老人が銀行強盗をする、と言う映画は、実は他にもある。
2009年に我が国でも公開されたハンガリー映画「人生に乾杯!」 (監督:ガーボル・ロホニ)は、81歳の夫と70歳の妻の老人夫婦が、乏しい年金では生活出来なくなり、切羽詰って銀行強盗を始める、という物語。
こちらも、トボけた味わいのコメディである。
ラストは、悲惨な結末か、と思わせておいて、やはりトボけたオチとなる。ちょっと変わった面白い作品で、私は好きである。
日本でも、2004年に「死に花」(監督:犬童一心)という作品が作られている。
太田蘭三の同名小説の映画化で、出演者が山崎努、宇津井健、青島幸男、谷啓、長門勇、藤岡琢也、松原智恵子と結構豪華。
お話は老人ホームで暮らす老人たちが、亡くなった老人が残した遺品の中に、銀行強盗計画書を見つけ、宇津井健をリーダーとする仲間の老人たちがその計画を実行に移す、というもの。
ただその計画が、地下に銀行の金庫の下までのトンネルを掘る、というもので、いくらなんでも老人が相当な力仕事であるトンネル掘りをする、というのは無理がある。
台風のせいで銀行のビルが傾いて、そのおかげで金庫に到達した、という展開も、いくらコメディでもあり得ない。これは大して面白くなかった。
ただ、今から思えば、この老人チームのうち、山崎努、松原智恵子以外、みんな鬼籍に入られてしまっているというのが、なんとも寂しい。たった13年前なのに。
日本でも、もっと陽気でトボけて楽しい老人銀行強盗映画を作って欲しいものである。
(さらに、お楽しみも少々)
中盤、ジョーたちが、仕事の参考にとビデオで銀行強盗ものサスペンスの秀作「狼たちの午後」(1975・シドニー・ルメット監督)を鑑賞するシーンがある。
すぐに警察に包囲されてしまうお話だからあんまり参考にはならないと思えるのだが、主演がアル・パチーノというのがミソである。
パチーノと言えば、上にも書いたように、本作のオリジナルである「お達者コメディ/シルバー・ギャング」を監督したマーティン・ブレストの代表作「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」に主演し、見事オスカーを獲得したのがアル・パチーノ、という繋がりがある。
パチーノも当年77歳。立派に老人である。
本作のどこかに、老人の一人として特別出演でもしてくれたら、“オスカー獲得老人俳優4人揃い踏み”という事になってさらに楽しいし、そのパチーノがテレビで「狼たちの午後」を見てたら余計笑えただろう。
DVD「狼たちの午後」スペシャル・エディション
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