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2017年7月28日 (金)

「ボン・ボヤージュ ~家族旅行は大暴走~」

Vonboyajue2016年・フランス
配給:ギャガ
原題:A fond (英題:Full Speed)
監督:ニコラ・ブナム
脚本:フレデリック・ジャルダン、ファブリス・ロジェ=ラカン、ニコラ・ブナム
製作:トマ・ラングマン

夏休みのバカンスでドライブ旅行に出かけた一家が遭遇するトラブルを描いたコメディ。監督は「世界の果てまでヒャッハー!」のニコラ・ブナム。出演は「フレンチ・ラン」のジョゼ・ガルシア、「パリよ、永遠に」のアンドレ・デュソリエ、「世界の果てまでヒャッハー!」にも出ていたシャルロット・ガブリなど。

整形外科医である父トム(ジョゼ・ガルシア)、出産間近の母ジュリア(カロリーヌ・ヴィニョ)、9歳の娘リゾン、7歳の息子ノエのコックス一家は、祖父ベン( アンドレ・デュソリエ)も加えた5人で、最新システムを搭載したトム自慢の真っ赤な新車に乗って夏休みのバカンスに出かける事に。最初は順調だったもののやがてブレーキが効かなくなり、高速道路を時速160キロで暴走し始める。追跡する白バイ警官や、車を壊され頭に来て追って来る男も巻き込んでの暴走カーチェイスが続くが、トムたちの行く先には大渋滞が待ち受けていた…。

ニコラ・ブナムと、主演も兼ねるフィリップ・ラショーとの共同監督で作られた「世界の果てまでヒャッハー」(2015)は昨年我が国でも公開され、結構話題となったが、同じ監督・主演によるその前作「真夜中のパリでヒャッハー!」(2014)も併せて本国ではヒットし、ブナム監督もヒット・メイカーとしての名声を高めた。その手腕を見込んだ、米アカデミー賞も受賞した「アーチスト」のプロデューサー、トマ・ラングマンがブナムを本作の監督に抜擢、見事期待に応えて本作は本国フランスで4週連続トップ10入りを果たし、100万人以上を動員する大ヒットとなった。

私も「世界の果てまでヒャッハー!」はお気に入り。バカバカしいけど、細部もかなり凝った作りで楽しめた。本作はニコラ・ブナム単独監督作となるので、お手並み拝見とさっそく観に言った。

(以下ネタバレあり)

ブレーキが効かなくなった車がハイウェイを暴走し、これをどうやって止め、また乗員をどうやって無事に救い出すか、という、基本はキアヌ主演の「スピード」からヒントを得たと思われる暴走パニック・サスペンスである。英題タイトルからして"Full Speed"である。
それを本作はハチャメチャ・コメディ仕立てにしたのが面白い。ヒヤヒヤするスリリングな展開と、トボけた笑いがうまくミックスされ、暑気払いにはもって来いの楽しい作品になっている。

ポイントとなるのは、家族が乗る車が、最新のコンピュータ制御システムが搭載された、ハイテク・カーであるという点。速度をタッチパネルで入力すれば、その速度を守って走ってくれるし、女性音声でガイダンスもしてくれる。
便利には違いないが、システムが故障すればやっかいである。やがて制御が利かなくなり、フットブレーキもサイドブレーキもダメ、ニュートラルにも入らない。最初は時速130kmに設定だったのに、ヘタにいじったおかげでとうとう160km固定で暴走。おまけにスズメバチは飛び込んで来るは、途中で新品のBMWのドアを壊された男が怒り狂って追っかけて来るはとトラブルはますます拡大、収拾がつかなくなる。さらにやっかいなのは、同乗の祖父ベンがやることなすことチョンボばかりで混乱に輪をかける。

 
車の暴走シーンはCGでなく、すべて高速道路を封鎖して実際に160km近いスピードで走らせ撮影したもので、それが凄い迫力を生んでいる。
子供たちを併走する車に乗り移らせるシーンもあるが、ここは本当にハラハラした。シャルロット・ガブリが乗り移るシーンでは、ガブリのパンツに見とれたベンが車間を広げてしまって、「インディー・ジョーンズ・魔宮の伝説」のトロッコ・シーンを思わせる体延びきりギャグに、笑えるやら目をふさぎたくなるやら(しかしどうやって撮影したのだろうか)。

これらを含め、あちこちに過去のパニック・サスペンス映画やカーチェイス映画やギャグ・マンガ映画からの引用、オマージュもあったりで古い映画ファンなら余計楽しめるだろう。

そしてクライマックス、行く先には大渋滞が待ち構えていて、このままでは大惨事となる。さてどうやってこの危機を回避するか。それは映画を観てのお楽しみだが、なるほどそう来たかと納得のオチである。

しかしこの作品、只のコメディではない。脚本がよく練られているし、随所に仕掛けられた伏線も巧妙に生かされている。
家族の秘密が次々明かされたり、祖父のトラブルにウンザリさせられたりで、家族は一時バラバラになりかけるが、最後には家族が団結し絆も回復してちょっとホロッとさせられるし、何より、ハイテク化が進む現代への痛烈な皮肉が最大のテーマであるのがいい。

自動運転は既に実用段階になってるし、自動ブレーキや、センサーによる車間距離調整など、車のハイテク化は格段に向上している。今でも乗用車はコンピュータ制御になっていて、修理に出しても町工場では手に負えないのが現状である。
便利には違いないが、あまりにシステムに頼り過ぎると、暴走した時には大変な事になるのではないか、というのは原発事故で我々が骨身に沁みた事。それでも開発は進み続けるIT化への、本作は警鐘であるとも言える。
ラストもいい。家族が病院のエレベータに乗ったら、これもコンピュータ制御で、これまた故障したらしく、さて…と最後もハイテク化への皮肉というオチで締めくくる。

伏線がよく効いていると思わせるのは冒頭、子供が水中銃を忘れたと言い出すくだりで、トムは時間がないからと取りに帰ろうとしない。
これに気を利かせた祖父ベンがトイレに行きたいと言い、仕方なくベンをトイレに行かせトムはその合間に水中銃を取りに戻る。
この水中銃はドライブ途中何度も騒ぎの元になったり、追って来る男の撃退に使われたりと大活躍する。
またベンはトイレにペーパーを落として詰まらせ、それを隠そうとして余計事態を悪化させてしまうのだが、このシークェンスで、ベンという男がかなりの粗忽もので、しかもそれを覆い隠そうとして更に失敗を重ねる、まるでミスター・ビーンみたいな(笑)お騒がせ男である事を明快に示して、先行きのトラブルを暗示させる仕掛けとなっている。

長く乗ってると当然尿意を催すものだが、これもうまくギャグに使っている。ベンのおシッコを入れたビニール袋が外に投げられ、後続のBMW追っかけ男の顔を直撃するのだが、その直前、男が衝突で大破したフロントガラスを外すシーンがあり、それがここの伏線になっている辺りも芸が細かい。

ラストの救出劇も、子供や妊婦の妻を先に車外に出して、男二人だけが残ったからこそ安心して見ていられるわけで、ここらもよく考えられている。

役者はみんないいが、特に祖父ベンを演じたアンドレ・デュソリエに注目。彼はフランソワ・トリュフォー監督作品がデビュー作で、フィルム・ノワールや近年ではアラン・レネ監督作の常連だったりとシリアスな役柄が多い名優である。そのデュソリエがこんな大笑いコメディ演技を楽しそうに演じている。さすがである。

 
本作がいいのは、笑いの部分も楽しいけれど、コメディ要素を除外して、パニック・スペクタクル・アクションとして観ても結構スリリングでアイデアも練られており、それだけでも十分楽しめるのに、そこにあの手この手の笑いも付加し、さらに家族愛も絡ませる欲張った設定ながら、それらが互いに邪魔する事なく1本の映画としてきっちりまとめられている点である。脚本作りには相当苦労しただろう。

「世界の果てまでヒャッハー!」を楽しんだ人にはお奨めだが、本作は前作に比べ、より大衆性が加味され、家族で見ても楽しめる、広範囲な観客向けに作られている。フランスで大ヒットしたのも納得である。「家族はつらいよ・フランス版ノンストップ編」とでも呼びたい快作である。    (採点=★★★★

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(さて久しぶりに、お楽しみはココからだ)

本作を観て思い出したのが、わが日本製パニック暴走アクション、タイトルもそのまんまの東映作品「暴走パニック 大激突」(1976)である。

Bousoupanic先般亡くなった渡瀬恒彦が主演で、銀行強盗をした金を持って逃走する渡瀬たちを警察、大金を狙う悪人などが追いかけ、追跡者がどんどん増えて延々カーチェイスが続く作品である。執拗に渡瀬を追う室田日出男や、パトカーで追う川谷拓三扮する警官たちが、やがて頭に来て狂ったように暴走する辺りが、本作のBMWのドアを壊されて追いかける男を思わせる。
特に本作の、ドアが外れたまま走るBMWとそっくりなシーンが、この作品にもある。ハンドルがフランスと反対ゆえ、外れた向きが本作と反対ではあるが(下参照)。

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予算が少ない為チープさは否めないが、当時脂の乗った深作欣二監督の演出と、危険なスタントも自分でこなす渡瀬恒彦の頑張りがなかなかの迫力を生んで楽しめる作品になっている。

なお東映はこの当時、前年の「新幹線大爆破」とか、この作品のわずか3ヵ月後にも、バスが暴走する「狂った野獣」(これも渡瀬主演)とか、“車や列車が暴走するパニック映画”を盛んに作っていたのである。

ちなみに「新幹線大爆破」は、上にも述べた本作の類似作「スピード」の元ネタでもある。どちらも一定時速以下にスピードが落ちると仕掛けられた爆弾が爆発するというアイデアが共通する。「新幹線大爆破」は日本ではあまりヒットしなかったが、「スーパーエクスプレス109」のタイトルでフランスに輸出されるとこれが大ヒットとなった。

で、本作の、料金所を猛スピードで通過するシーンや、併走する車ごしに子供たちを移乗させるくだりは、実は「新幹線大爆破」にも似たシーンがある。
前者は前方から走って来る新幹線列車をかわす為に反対車線に暴走特急を誘導するシークェンスが、本作の反対車線の料金所を通過するシーンのアイデアになっていると思われる。間一髪すれすれに通過するサスペンス感も似ている。
後者は、暴走する新幹線の隣の線路に別の列車を併走させ、列車のドアごしに機材を移すシーンがヒントになっている気がする。

フランスで大ヒットした「新幹線大爆破」は、多分ニコラ・ブナム監督も観ていると思われ、本作にアイデアを借りた可能性は大いにあるだろう。何しろこれこそ、“暴走して止まれなくなった交通車両”という本作のコンセプトの大モト映画なのだから。

 

                          
DVD「世界の果てまでヒャッハー!」
       
DVD「真夜中のパリでヒャッハー!」
       

 

                             
DVD「暴走パニック 大激突」
       
DVD「新幹線大爆破」
       

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