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2017年7月 9日 (日)

「草原の河」

Sougennokawa2015年・中国
配給:ムヴィオラ
原題:河 Gtsngbo (英題:River)
監督:ソンタルジャ
脚本:ソンタルジャ
撮影:ワン・モン
エクゼクティブ・プロデューサー:チャン・ジェン、ソナム・レンチンジャ

チベット高原で牧畜を営む一家の暮らしぶりと家族の葛藤を、6歳の少女の目を通して描いたヒューマン・ドラマ。監督はこれが長編2作目となるチベット人のソンタルジャ。出演しているのは、いずれも演技の経験のない素人ばかり。主演の少女を演じたヤンチェン・ラモはこの作品で上海国際映画祭のアジア新人賞・最優秀女優賞を史上最年少で受賞した。

チベットの厳しい自然の中で牧畜を営む父グル(グル・ツェテン)、母ルクドル(ルンゼン・ドルマ)、6歳のヤンチェン・ラモ(ヤンチェン・ラモ)の遊牧民一家。ヤンチェン・ラモは母が新しい命を授かったことを知り、生まれてくる赤ちゃんに母を取られてしまうのではと不安になっている。彼女の祖父は家を出て僧侶になっており、グルは過去のわだかまりから父を許せないでいた。やがて祖父が病気となり、グルはしぶしぶヤンチェンと共に見舞いに行くが…。

チベットを舞台にした映画は、昨年も当ブログで紹介した「ラサへの歩き方 祈りの2400km」 が公開されている(配給も本作と同じムヴィオラ)が、監督は「胡同のひまわり」等の中国人監督チャン・ヤンで、製作も中国。
本作は監督もチベット人で、チベット人監督の映画が日本で公開されるのはこれが始めてだという。これは興味深い。

 
映画は、チベット高原で羊の群れを放牧するグルたち3人一家の日々の暮らしぶりを淡々と描いているが、中心となるのは6歳の少女ヤンチェン・ラモ。この名前は演じた少女の名前と同じだし、父の名前グルも演じたグル・ツェテンの名前から採っており、出演者はみな演技経験のない地元の素人ばかりで、そういった点からも、一種のセミ・ドキュメンタリーのような味わいがある。

しかし人間関係や人物の性格等は、かなり細かく複雑に設定されている。
例えばグルは、僧侶となって家を出て、母が危篤になった時にも最期を看取ろうともしなかった父に対して心にわだかまりを抱いており、妻が父に食べ物等を持って行くように言われても、住居の近くまでは行っても、ヤンチェン・ラモに食べ物を持って行かせるだけで自分は会おうともしない。

ヤンチェン・ラモも、母にまもなく赤ん坊が生まれる事を知ると、母が自分を構ってくれなくなるのでは、と不安になり、新しい命を授ける一家のお守りである天珠を隠してしまったりする。まだ乳離れが出来ず、いまだに母のオッパイをねだったりもする。かなり屈折したキャラクターである。

Sougennokawa2演じるヤンチェン・ラモは、とても可愛いいし、普通のドラマなら純朴な愛されキャラにした方が観客に受けるだろうが、こういう設定にした事で、人間の心の弱さ、複雑さ、エゴが強調され、ドラマに深みが出ていると言える。
そんな難しい役柄を見事に演じきった少女ヤンチェン・ラモが素晴らしい。上海国際映画祭で最年少最優秀女優賞を受賞したのも当然だろう。

そうしたグル、ヤンチェン・ラモそれぞれの心が、物語が進むにつれて次第に解きほぐされて行き、ラストで、入院した祖父を退院させ、バイクに乗せて家まで帰る道中で少しづつ和解し、心のやすらぎに至るまでが丁寧に描かれ、感動を呼ぶ。

草原に流れる河が、出だしでは凍てついていてグルが進むのに苦労していたが、ラストでは氷も解け、轟々と流れているのが、グルたちの心の氷解のメタファーにもなっているのがうまい。なお原題も「河」である。

チベットの雄大な大自然を捉えたカメラも素晴らしい。画面に登場する羊の数もすごく多い。中で、ヤンチェン・ラモが可愛がっている、ジャーチャーと名付けた一匹の羊がなかなかの名演技。ヤンチェン・ラモが呼ぶと走って近づき、お乳を飲む描写がとても微笑ましくて心が和む。
そのジャーチャーはやがて狼に食い殺される。ヤンチェン・ラモが探し回り、その死体を見つける描写が息を呑む。

チベットの現地で生活し、自然界の残酷さ、というか摂理、厳しさを知り尽くしているであろうソンタルジャ監督ならではだろう。

 
新人監督の2作目であり、中国資本で撮るという制約(多分政治的な話はタブー)もあるだろうが、荒削りで描写不足な点もあるのがやや惜しい。

それでも、ヤンチェン・ラモの可愛さと名演技には心打たれ、チベットの厳しい自然の中で生活する人たちをじっくり凝視する監督の真摯な演出ぶりにはちょっと感動した。

ソンタルジャ監督は1973年生まれ、現在44歳の新鋭である。ほとんど知られていないチベット映画を、これから牽引して行く事を期待したい。 期待値も含めて採点は=  (★★★★☆

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(付記)
ヤンチェン・ラモの着ている赤い服が印象的だが、赤い服の少女と言えば思い出すのが中国の巨匠、チャン・イーモウ監督の代表作「初恋のきた道」(1999)。新人チャン・ツィイーがとても可愛らしかった。
まだ貧しい田舎の庶民の生活をリアルに描いている点も本作と共通する。

Hatsukoinokitamichi
 
素人の子供
を見事に演技指導している点では、その「初恋のきた道」の前にチャン・イーモウが撮った「あの子を探して」(1999)が記憶に残る。

ちなみにこの作品でも、登場人物の役名は、演じている人たちと同じという本作との共通点もある。

で、ソンタルジャ監督は中国、北京電影学院で映画技法を学んだ、とプロフィルにあるが、奇しくもチャン・イーモウも北京電影学院・撮影科出身。

もしかしたらソンタルジャ監督は、同じ学校の先輩であるチャン・イーモウを密かに敬愛し、本作でオマージュを捧げているのかも知れない。

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