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2017年8月 7日 (月)

「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」

The_founder2016年・アメリカ/フィルムネーション=ワインスタイン・カンパニー、他
配給:KADOKAWA
原題:The Founder
監督:ジョン・リー・ハンコック
脚本:ロバート・シーゲル
製作:ドン・ハンドフィールド、ジェレミー・レナー、アーロン・ライダー
製作総指揮:グレン・バスナー、アリソン・コーエン、カレン・ランダー、ボブ・ワインスタイン、ハーベイ・ワインスタイン、デビッド・グラッサー、クリストス・V・コンスタンタコプーロス

世界規模のファストフードチェーン“マクドナルド”創業の知られざる裏側を描いた実話の映画化。主演は「バードマン  あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」でアカデミー主演男優賞にノミネートされたマイケル・キートン。共演は「わたしに会うまでの1600キロ」のローラ・ダーン、「Dear   ダニー 君へのうた」のニック・オファーマン、「テッド2」のジョン・キャロル・リンチなど。監督は「ウォルト・ディズニーの約束」のジョン・リー・ハンコック。

1954年、52歳のレイ・クロック(マイケル・キートン)は、シェイクミキサーのセールスマンとして中西部を駆け回っていたが、営業成績は芳しくなかった。そんなある日、ミキサーを8台も買った注文先に興味を抱いたレイは、その相手、マック(ジョン・キャロル・リンチ)とディック(ニック・オファーマン)のマクドナルド兄弟が経営するカリフォルニア州南部にあるバーガーショップ「マクドナルド」を訪れる。その合理的な流れ作業、コスト削減・高品質という革新的な営業手法に勝機を見出したレイは、兄弟を説得、契約を交わし、壮大なフランチャイズ・ビジネスを展開する。だが品質よりも利益追求を重視するするレイと、あくまで品質を優先する兄弟との関係は次第に悪化して行く…。

最近はあまり食べなくなったけれど、若い頃はマクドナルドのハンバーガーはよく食べていた。その創業者は誰かはまったく知らなかったが、きっと苗字がマクドナルドという人ではないかとは思っていた。
この映画は、マクドナルド・チェーンがいかにして創業され、世界的ブランドを確立するに至ったか、その知られていない裏側を描いたものである。なかなか面白かった。

(以下ネタバレあり)

主人公は52歳のうだつの上がらないセールスマン。車に乗ってシェイクミキサーを売り歩くが、相手にされない場合がほとんど。悔しがるがどうしようもない。

そんな彼が本社に電話すると、一度に8台ものミキサーを注文した先があったと聞く。どんな店だろうと興味が沸いたレイは車で注文先のカリフォルニア州南部の小さな町・サンバーナディーノにあるハンバーガー店に向かう。
そこはマックとディックのマクドナルド兄弟が経営するハンバーガー店。注文してからたった30秒で商品が出て来る、そのスピードに驚嘆したレイはさらに詳しく、創業から現在に至るまでの経営実態を聞く。

兄弟の発想は斬新で革命的なものだった。いかにして早く調理し、無駄なく回転率を上げるか。その為に駐車場にチョークで店内レイアウトを描き、どう配置すれば一番最短で商品を客に渡せるかを何度もシュミレーションし、店舗を設計した。回転を上げる為テーブルも置かない、皿もない、袋に入れて渡すだけ、カップも紙製の使い捨て。だから皿洗いのコストもかからない。よっていいものを安く提供しても採算が合う。
まさに、アメリカ的合理主義である。

レイは直感で、これはフランチャイズにして店舗を拡大すれば儲かるのではないかとひらめく。早速兄弟と交渉し、売り上げのパーセンテージを配分する契約を交わして1号店をオープンさせる。

チェーン店は徐々に拡大して行ったが、利益率は思ったほど上がらない。レイは兄弟にパーセンテージの引き下げを要求するが、兄弟は契約を盾に断る。この辺りからレイと兄弟との間に確執が広がって行く。
キャラクター的には、弟のディックが不当な要求は撥ね付ける腰の強さがあるのに対し、兄のマックは割りとお人好しで、ディックがレイを信用出来ないと言うと、マックは「レイは悪い人間じゃない」とかばったりする、この性格の違いが面白い。マックを演じるジョン・キャロル・リンチがこの好人物を好演。この兄では、いずれレイに押し切られるだろうなと予感させられる。

レイは、チェーン店経営者の一人から、シェイクを粉末で代用すれば冷蔵庫の電気代も浮くと勧められ、早速兄弟に内緒で採用するが、これが兄弟の耳に入り、ディックたちは激怒する。
こうした、品質第一をポリシーとする兄弟と、儲けの為には手段を選ばないレイとの溝はどんどん広がって行く。

やがてレイは、これも他人からの示唆で、店舗となる一等地を買い取り、フランチャイズ加盟店からリース料を徴収する方式を導入し、これが成功してレイは莫大な利益を得て行く。つまりは食品の売り上げより、不動産ビジネスで利益を拡大して行ったわけである。
なにやら、トランプ大統領のビジネス戦略ともカブる(笑)。そういう意味でも、レイの戦略はまさしくアメリカン・ビジネスそのものである。

そして遂には、商標も含めて“マクドナルド”の全権利を兄弟から数百万ドルで買い取る。あまり金に執着しない兄弟にとっては大金であり好条件だったが、このおかげでレイは世界的にマクドナルドチェーンを展開し、やがて巨万の富を得る事に成功する。名刺には得意げに"The Founder"(創業者)と印刷してあるのが笑えると言うか呆れると言うか。

ブランドを取られた1号店から、“マクドナルド”の看板が取り外されるのを黙って見つめる兄弟の姿が物悲しい。

 
さて、映画を観終わって、レイ・クロックという人物をどう評価するか、難しい所である。
映画の中にはレイが、どんな時も彼を支えてくれた妻(ローラ・ダーン)を裏切って美人の人妻と略奪婚するくだりも描かれている(マックの商標も含めて、何でも略奪する男だなぁ(笑))。

なんと卑劣な男だ、と嫌悪する人もいるだろう。これからはマクドナルドの店に行きたくなくなる人もいるかも知れない。

だが、ビジネスで成功した人間なんて、みんなどこかダーティな部分を持っている人も少なからずいるのではないか。単に表に出ていないだけかも知れない。
スティーブ・ジョブズなんて、いろいろ評伝読むとやはりダーティな部分も結構あったらしい。
百田尚樹が書いた小説「海賊とよばれた男」は、出光石油の創業者・出光佐三をモデルにしており、偉人として誉めそやしてるけれど、やはり出光をモデルにした高杉良原作「虚構の城」では、実際には社員をこき使うエゲツない人物だったと暴露されている。
「海賊と-」よりもこっちの高杉版を映画化して欲しい気もするが、多分どこの映画会社もしり込みするだろうな。

それはともかく、確かにレイもえげつない人間には違いないが、彼がもしもいなかったら、8台のミキサー購入に興味を示さなかったら、マクドナルドは永久に一地方のこじんまりとしたハンバーガー店留まりだっただろう。アメリカにおけるファストフードの歴史も変わっていたかも知れない。

ダーティな部分も描いているけれど、夜中、レイが閉店した店の周囲をホウキで清掃している姿も描いていて、映画は決してレイを単なる悪党としては描いていない。

良くも悪くも、こうした人物がアメリカの繁栄を導き、アメリカ企業戦略が世界を席巻する歴史を築いて来たのかも知れない。

レイに扮するマイケル・キートンがいい。持ち前のいかにも腹に一物ありそうなアクの強さも出しながら、どこか憎めない、不思議な人物像を絶妙に好演している。キートンを主演に据えた事も本作の成功の一因だろう。

アメリカという国が、憎まれながらも世界最大の資本主義国家として君臨している、その理由もこの映画を観れば分かるかも知れない。まさにこれこそタイトル通り“ハンバーガーならぬアメリカ帝国のヒミツ”を描いた異色作だと言えよう。

それにしても凄いなと思ったのは、アメリカ映画は実話を映画化するほとんどの場合、実名を平気でバンバン出している。この映画のように、実在の人物や会社をかなりネガティヴに描く場合でも実名である。

モデルになった会社や人物の遺族が鷹揚というか寛大なのか、それとも映画会社やプロデューサーが抗議されても跳ね返す気骨を持っているからなのか。

1999年作品「インサイダー」(マイケル・マン 監督、ラッセル・クロウ主演)はタバコ会社を内部告発する映画なのだが、タバコ会社も告発者もすべて実名である。こんなこと日本ではまず無理である。先の2冊の出光関連本でもいずれも実名は使われていないし。

そういう点も含めてこれは、アメリカとはやはり強烈な意思と個性を持った人、会社が自分の力でやりたい事を貫き通し、成功する、凄い国だなとまざまざと感じさせてくれた作品でもあるのである。    (採点=★★★★

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(付記)
本作の製作に係っているのは、ボブ・ワインスタイン、ハーベイ・ワインスタイン率いるワイスタイン・カンパニーである。

これまでも書いて来たけれど、ワイスタイン・カンパニーは「英国王のスピーチ」(トム・フーパー監督)、「ビッグ・アイズ」(ティム・バートン監督)、「ヴィンセントが教えてくれたこと」 (セオドア・メルフィ監督)、「キャロル」(トッド・ヘインズ監督)、 「シング・ストリート 未来へのうた」 (ジョン・カーニー監督)、  「LION/ライオン~25年目のただいま~」(ガース・デイヴィス監督)と、地味で大ヒットは望めないけれど、良作、秀作を次々送り出している、私が最も信頼する会社である。

そう言えば上記の「ビッグ・アイズ」も、いい絵を描いてたが売れなかった妻マーガレットの作品を、自分の絵だと巧みに売り込んで美術界で成功して行くダーティな男の物語だった。
おとなしい別の人物が創造した優良コンテンツを、自分が創作(創業)した事にしてヒットさせて行くエゲツない人物を描いた実話、と、本作とコンセプトも非常に似通った作品であるのが面白い。

ところで、ボブ・ワインスタイン、ハーベイ・ワインスタインも兄弟である。ビッグ・バジェットの世界拡大超大作など見向きもせず、地味だけどクオリティの高い作品を作り出して来たこの兄弟のポリシーは、品質第一主義にこだわるマック、ディックのマクドナルド兄弟と相通じる所がある気がする。

もしかしたらワイスタイン兄弟、マクドナルド兄弟の生き方にシンパシーを感じ、この実話をどうしても映画化したいと熱望したのかも知れない。

 

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コメント

映画を製作しているワインスタイン兄弟にハリウッドの配給会社が同じような話を持ちだしたら面白いのに。

「そうですねえ。映画のタイトルは「ラストファウンダー」にしましょう。やはり今の映画のタイトルで「ラスト」は欠かせません。幸いある意味ちゃんと「ラスト」ですし。正確ではない?いいんですよ。映画の品質などほとんどの人は気に掛けませんし。あっ、エンディングの曲をローカライズしたアイドルの曲に差し替えます。いや、タイアップが必要なんですよ、ヒットするためには。ダメですか。製作費引き上げますよ。それと長期裁判だったら私たち資本はいっぱい持ってますので」

やべー。この映画じゃないけど日本の配給会社こんなんじゃん。

投稿: ふじき78 | 2017年8月11日 (金) 10:55

◆こんにちは、ふじき78さん
アメリカ資本主義を代表するマクドナルドをチクチク批判してるこんな映画に、ハリウッドの大手配給会社が声をかけるとも思えませんが。
もし声をかけて来ても「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」でトランボを支援したキング・ブラザース(こちらも兄弟だ)のフランク・キング(ジョン・グッドマン)のように、バットを振り回して叩き出すかも知れませんね(笑)。

投稿: Kei(管理人) | 2017年8月11日 (金) 13:04

どうもお久しぶりです!

まさにアメリカ資本主義の縮図!といった感じの映画でしたよね。
マクドナルドの子孫が映画公開を切望したというのだから、そのおかげで兄弟の目線でもとらえられる作品になったんでしょうね。

ビジネスマンの方たちの評価はほとんどがレイ・クロック目線であることも面白いです。

投稿: kossy | 2017年8月13日 (日) 13:59

◆kossyさん
>ビジネスマンの方たちの評価はほとんどがレイ・クロック目線であることも面白いです。

そりゃまあ、今のビジネスマンからしたら
「紳士協定だの口約束だのを信じるなんて、そんなものを信じる方が悪い。まず契約書交わすべきだろう」とか
「なんで弁護士なり雇って、不利にならないよう交渉しなかったのか」とか、マック兄弟の甘さに歯がゆくなるでしょうね。
でも、1950年代は、今の時代よりおおらかでのんびりしてて、マック兄弟的なやり方でも十分やっていけたのかも知れません。レイのやり方は、'60年代以降、どんどんドライでエゲツないやり方で拡大して行ったその後のビジネスモデルを先どりしてた気がしますね。
そういう、歴史の転換点で、レイと兄弟が出会ってしまったという、運命的なものも感じさせられましたね。

投稿: Kei(管理人) | 2017年8月14日 (月) 18:26

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