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2017年10月 1日 (日)

「ダンケルク」 (2017)

Dunkirk2017年・アメリカ
配給:ワーナー・ブラザース映画
原題:Dunkirk
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン
音楽:ハンス・ジマー
製作:エマ・トーマス、クリストファー・ノーラン
製作総指揮:ジェイク・マイヤーズ

第二次大戦中、史上最大の救出作戦と言われたダンケルクの兵士救出作戦の実話をベースにした戦争映画。脚本・監督は「インターステラー」のクリストファー・ノーラン。出演は、本作が映画デビューとなるフィオン・ホワイトヘッド、「ブリッジ・オブ・スパイ」のマーク・ライランス、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のトム・ハーディ、「マリリン 7日間の恋」のケネス・ブラナー、「白鯨との闘い」のキリアン・マーフィー、など。

第二次世界大戦下の1940年、ドイツはポーランドを侵攻し、北フランスまで勢力を広げていた。勢いに乗るドイツ軍に圧され、英仏連合軍の兵士40万人はドーバー海峡を望むフランス北部のダンケルク港まで追い詰められた。そんな逃げ場のない状況下、英軍兵士トミー(フィオン・ホワイトヘッド)は知り合ったアレックス(ハリー・スタイルズ)と共に必死に脱出の道を模索していた。一方、母国イギリスでは、彼らを助けようと軍艦だけでなく民間船も総動員した救出作戦“ダイナモ作戦”が動き出していた。また空からは英空軍パイロット・ファリア(トム・ハーディ)たちも応援に駆けつけようとしていた。果たして兵士たちは無事生きて帰る事が出来るのか…。

ダンケルクの英仏兵士救出作戦は、これまでにも何度か映画になっており(注1)、おおよその話は知っていた。これをクリストファー・ノーラン監督がどう料理するか、大いに興味を持っていたが、さすがノーラン監督、ただの実録戦争映画にはせず、実にユニークな、そしてノーラン監督らしさも見せた、見事な秀作に仕上げていた。さすがである。

(以下ネタバレあり)

この映画のユニークさは、従来の実録戦争映画のような、よく知られている実在の軍人を主人公にしたり、多数の登場人物を配した群像ドラマには全くしなかった事である。

まず目につくのは、時間と場所を限定した、3つのパートを設定し、それぞれの独立したドラマを並行して描くという手法である。

3つのパートは、40万人の兵士が救出を待つ(これをとする。以下同様)、民間船が救出に向かう)、そして英空軍機パイロットたちが支援に向かう)と分かり易く分類され、さらに描かれる時間も、①は1週間、②は1日、③は1時間とまったく対照的である。

ここまではあらすじ等に書かれていて、よく知られている事だが、私が注目したのは、それらに加えて、各パートに登場する人物の数もまた実に対照的な点である。即ち、①では40万人もの救出を待つ兵士、②では約900隻の民間救出船に乗る船員、③では、わずか機の戦闘機パイロット。
与えられた時間の多少と、登場人物の数が正比例しているのが面白い。

映画は、これら3パートの中で、ある特定の人物に焦点を当て、それぞれが必死で生き延び、また全力で助けに向かう姿を巧みにシャッフルさせ、またある時はノーラン監督お得意の時間軸を前後させながら、各パートが運命的に交差するさまを描く。

ある特定の人物とは、①では若い英陸軍兵士トミー(フィオン・ホワイトヘッド)、②では民間小型船ムーン・ストーン号船長ドーソン(マーク・ライランス)、③では戦闘機スピットファイアを操縦する英空軍パイロット、ファリア(トム・ハーディ)の3人である。

①では膨大な数の追い詰められた兵士がいるにも関わらず、カメラは1人の若い兵士トミーの行動をずっと追い続ける。いわばトミーの1人称ドラマとも言えよう。ある意味では、40万人兵士を代表させているのかも知れない。
②でも多くの人間が登場するが、ここでも中心にいるのはドーソン船長である。そして③では、3機のうち2機が撃墜され、一人残ったファリアの孤独な戦いぶりを描く。

そして、3人の心理や行動ぶりも、これまた対照的である。

トミーは、助かりたい故に必死である。ちょっとズルいやり方や、セコい手を使ってまで生き延びようと足掻く。勇敢に戦うべき兵士であるにも関わらず。が、ある意味普遍的な、どこにでも居そうな弱い人間の象徴でもあろう。

ドーソンはその点勇気と男気がある。志願して、少しでも多くの兵士を救おうと懸命の努力をする。途中で漂流していたのを救った、キリアン・マーフィー演じる兵士が、「ダンケルクに戻ったら命が危ない。引き返してくれ」と懇願しても意に介さない。

ファリアはさらに勇敢である。救出船を狙うドイツ軍機を次々撃墜し、やがて燃料がなくなりかけるが、それでも踏みとどまって、少しでも多く敵機を落として援護しようとする。
普通なら、燃料が少なくなったらあきらめて帰塔しようとするものだが、ファリアは最後まで残る。とうとう燃料切れとなり、プロペラが止まっても、それでも敵機を撃墜する。
プロペラが止まったスピットファイアが、ゆっくり滑空するシーンは荘厳なイメージに満ちている。無事着陸出来てもそこはドイツ軍領域。ファリアのその後の運命を思うと、涙が止まらなくなる。
自らの命を顧みず、多くの命を救ったであろう、彼こそ、本当の英雄だ。

 
戦争は過酷である。多くの命が情け容赦なく奪われて行くものである事は、先に公開された「ハクソー・リッジ」など多くの戦争映画に描かれている。

だが本作は、逆に、多くの命が救われた事実を描いた戦争映画である。「ハクソー・リッジ」でも兵士の命を救った男の戦争秘話を描いていたが、救った人数はごくわずか。失われた命の方が圧倒的に多い。

本作では、ダンケルク港に追い詰められた兵士のうちの、約33万人の命が救われ、その陰に多数の民間船の英雄的行動があった事が描かれている。また空から応援に駆けつけたパイロットがいた事もきちんと描いている(当時は、本作でも描かれていたが「空軍は何していた」と罵声を浴びせる人も実際に多かったらしい)。

命からがら、逃げまどう兵士もいれば、命の危険を顧みず、兵士の命を救う為に行動した人間もいる。
命が軽んじられる、戦争の最中にあっても、こうした人間の命を救う作戦が実行された、その史実をきちんと描いた本作は、それ故感動的である。

なお、ドイツ軍兵士の姿がまったく登場しないが、本作は①②③の、3人の主人公たちの目線で描いた作品なので、彼らの視点では敵兵が見えないのも当然なのである。

 
思えばノーラン監督は、傑作「ダークナイト」でも、ジョーカーが群衆が乗った2隻のフェリーに爆弾を仕掛け、乗客が自分が助かる為には他人を犠牲にするか、試すシーンを登場させ、人間のズルさ弱さ、そしてそれに負けない人間の勇気の両面を描いていた。
こうした人間の本質、二面性を描く事は、ノーラン監督の永遠のテーマなのかも知れない。

 
本作はIMAX・70mmフィルムで撮影された(注2)。それ故可能ならIMAXシアターで観るのがベストである。私は大阪エキスポランドにある109シネマのIMAXシアターで鑑賞したが、いやあ凄い迫力である。音響も凄くて爆撃シーンでは腹の底までビリビリ震えるほどで、まさに戦場の中にいるような臨場感があった。CGでなく実際に本物のスピットファイア機にIMAXカメラを持ち込んだ空中撮影シーンは、本当に空を飛んでるような感覚であった。料金は高いが、それだけの値打ちはある。
特に私は、IMAXにしろ昔のシネラマ上映館にしろ、出来るだけ前列に座ることにしている。この時もC列(前から3列目)に座った。その方が臨場感、迫力がより増すからである。

通常上映はシネスコサイズなので、IMAXに比べて画面は半分だし画質も劣る。IMAXのスクリーンは正方形に近いので情報量も圧倒的に違う。たぶんシネスコ鑑賞では、感動の具合も異なり、監督の意図とも異なった、別の映画を観たような感覚になるだろう。近くになければ仕方がないが、出来ればIMAXシアターで(それも極力前列で)鑑賞する事をお奨めする。    (採点=★★★★★

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(注1)
ダンケルク撤退作戦を描いた戦争映画は、まず1958年のイギリス映画「激戦ダンケルク」(レスリー・ノーマン監督)がある。実際に作戦に参加した海軍中佐の体験に基づく著書の映画化で、主演はバーナード・リー、ジョン・ミルズなどのイギリスの名優。史実をそのまま忠実に描いた、作戦の内容を知るにはちょうどいい程度の作品である。

Weekend_a_zuydcoote1964年のフランス映画「ダンケルク」(アンリ・ベルヌイユ監督)は、邦題は本作と同じだが、原題は「ズーリオコートの週末」とロマンチックで、内容もダンケルクに追い詰められた一人のフランス軍兵士(ジャン・ポール・ベルモンド)が現地をさまよううちに知り合った女(カトリーヌ・スパーク)と恋に堕ち、結婚の約束までするが敵の爆撃を受け死んでしまうという、要するに戦場悲恋ものである。主演も当時人気があったJ・P・ベルモンド。実話を背景にしてはいるが、物語はフィクションである。まあ「ヘッドライト」等でも知られるアンリ・ベルヌイユ監督らしい、恋人たちを引き裂く戦争の空しさを描いた点では評価したいが。

 
(注2)

70mmでなく、65mmとする資料もあるが、フィルム幅は70mmで、フィルムの両耳(パーフォレーションと呼ぶ)が約5mmあるので映像部分は幅65mmという事である。撮影時はフィルムを縦にではなく横に送る為、昔の70mm映画よりフィルム面積は大きい。

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コメント

これは面白かったです。負け戦を描くというのは難しいものですが、一気に見せる傑作。
冒頭からとにかく戦争の中に叩き込まれるという印象です。
陸を1週間、海を1日、空を1時間として描き、全ての物語が最後に同じ時間として収束する構成はノーラン監督らしく凝っています。
フィン・ホワイトヘッド、マーク・ライランス、トム・ハーディ、キリアン・マーフィーらの俳優陣も素晴らしい。

投稿: きさ | 2017年10月 2日 (月) 05:57

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