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2017年11月25日 (土)

「禅と骨 Zen and Bones」

Zenandbones2016年・日本/大丈夫=人人FILMS
配給:トランスフォーマー
監督:中村高寛
構成:中村高寛
プロデューサー:中村高寛、林海象
アニメーションキャラクター原案:今日マチ子
ナレーション:仲村トオル

日系アメリカ人でありながら禅僧となったヘンリ・ミトワの人生を、ドラマ、アニメなども組み合わせて追った異色のドキュメンタリー。監督は「ヨコハマメリー」をヒットさせ、これが2作目となる中村高寛。ドラマ・パートの出演はウエンツ瑛士、余貴美子、永瀬正敏、佐野史郎、利重剛など豪華な顔ぶれ。

京都嵐山天龍寺に、一風変わった禅僧がいた。名はヘンリミトワ。1918年、横浜でアメリカ人の父と新橋の芸者だった母の間に生まれた日系アメリカ人である。戦前アメリカに渡り、当地で家族を持つが、1961年に日本に帰国。さまざまな日本文化を愛し、禅僧となるが、晩年は「赤い靴」をモチーフにした映画作りに情熱を燃やした。映画は、90歳を超えたヘンリの日常に密着し、再現ドラマ、アニメも交えてその数奇で波乱に満ちた人生に迫って行く…。

中村高寛監督は、2006年に「ヨコハマメリー」で監督デビューし、これがヨコハマ映画祭でベストテン6位に入るなど話題となった。それから11年経って、ようやく2作目を発表したのだが、実は2008年頃からヘンリ・ミトワ本人に密着してカメラを回し始め、その日常や親しい著名文化人との交流、家族との軋轢、そして晩年のライフワークとなった映画製作への情熱ぶり等を丹念に追いかけた。

ところが取材中の2012年に、ヘンリは病状が悪化し、死去してしまう(その遺体や葬儀の様子まで撮影されている)。
それでも中村監督は映画製作を継続し、膨大な映像記録を編集し、ウエンツ瑛士や余貴美子らを起用した再現ドラマも加え、ようやく昨年、映画を完成させた。つまり完成までに8年も要したという事である。

とにかく破天荒な人物であり生涯である。好奇心旺盛と言おうか、日本文化をこよなく愛し、茶道陶芸文筆にも優れた才能を発揮し、著書もいくつかある。1973年には天竜寺の僧侶となり禅を探求、それでも飽き足らず、菊池寛著「赤い靴はいてた女の子」を原作とした映画を製作すべく奔走し、遂に夢適わず映画は幻となって、93歳の生涯を終えるわけである。

映画は、ヘンリや交流のある人物へのインタビュー、その日常の行動をカメラに収め、、記録フィルム、本人の所有する写真等を網羅し、若き日の生活ぶりについてはドラマ仕立てで、ヘンリ役をウエンツ瑛士、その母を余貴美子が演じ、その生涯が俯瞰出来るようになっている。
このドラマ部分が、脚本もしっかり書かれており、セットや小道具も本格的で、実力派の役者も揃え、劇映画としてもきちんと作られていて見ごたえがあった。
これだったら、いっそ事実に基づく劇映画として作ってもよかったと思えるが、記録映画部分も実に面白いので捨てるには惜しく、結局はこの構成が妥当という事になる。

いやあ、面白い。成功の一因は、ヘンリ・ミトワという人物の生涯がとても波乱万丈で、ドラマチックだという点が第一。

戦前の日本で、アメリカ人の父と日本人の母との間に生まれた為、顔は外人である事も含め、日本の特高警察にスパイと疑われ、日本に居づらくなってアメリカに渡ったら、直後に太平洋戦争が勃発、日系人だという事で日系人強制収容所に収容されてしまう。
つまりは、母の国・日本からも、父の国・アメリカからも、どちらの国からも排斥されてしまうのである。不運な人である。

日本への帰国を申請するが、強制収容されていた為それも適わず、現地で日本女性と結婚し、そのままアメリカ市民権を獲得し、カリフォルニアで働き、日本に帰ったのは戦後16年を経た1961年。最愛の母とも会えぬまま、母の死に目にも立ち会えなかった。

ドラマ・パートでは、余貴美子扮する母との生活ぶり、特高の陰湿な追求ぶり等が丁寧に描かれ、それによって戦時下の日系人に対する不当な扱いぶり、戦争によって母と引き裂かれる運命を背負ったヘンリの断腸の思い、苦悩が切々と伝わって来る。
時代考証や小道具にも手間をかけており、このドラマ・パートがある事によって、作品のテーマがより鮮明に浮かび上がって来る。余貴美子が特にいい。助演賞ものである。

ドキュメンタリー部分も面白い。中でも、久しぶりにヘンリが娘たちを呼び、家族と会合するシーンで、娘が父ヘンリに反抗し、カッとなったヘンリが娘に殴りかかり、娘も殴り返すシーンには驚かされる。
親族が「カメラが回ってるんだから」と注意しても聞かず、やがてヘンリはプイと出て行ってしまう。その間カメラはその一部始終をずっと捉えている。

禅宗の僧侶になったのだから悟りを得ているはずなのに、この傍若無人ぶりがなんともおかしい。中村監督にさえ、「病院にカメラ持ち込んだらぶっ殺す!」と凄んだりもする。

やはりドキュメンタリー映画の傑作、原一男監督の「ゆきゆきて、神軍」の主人公、奥崎謙三を思わせる。奥崎もカメラが回っているのを知りながら、突然暴力を振るったりする。

しかし喧嘩してても、自分勝手に、思いのままに生きてきたヘンリに呆れながらも、この一家はどこか心が繋がっているように思える。そこが奥崎とは違った、人間的魅力がこのヘンリにはあるような気がする。面白い人物である。

晩年の、「赤い靴」をモチーフとした映画作りも、その情熱には敬意を表したいが、どこか行き当たりばったりな所も多く、実写映画では資金が不足すると判ると、アニメなら低予算ですむだろうとアニメでの製作にシフトチェンジするが、こちらもかなり金がかかる事を知って計画は頓挫してしまう。映画監督の中島貞夫も絡んで、周囲の人間を振り回しながらも映画製作に突き進む、90歳を超えてなお衰えない、その情熱はどこから来るのだろうか。

この特異な人物に密着し、撮影を拒否されても諦めず説得し、美点も欠点も含めて多面的な角度からその人間像を探り出そうとする中村監督の演出姿勢が、この映画の成功の第二要因だろう。

映画のラストは、ヘンリが企画・原案を担当した「ヘンリの赤い靴」というタイトルのアニメーションが、ヘンリの死後2年経って劇場公開されるシーンである。
彼の最後の情熱を賭けた夢がようやく実現した、このラストにはふと涙腺が緩んでしまった。

観終わって、凄い人間、と言うか凄い映画を見た、という感動が広がって来る。ヘンリも凄いが、8年がかりでこんな映画を作り上げた中村高寛監督もまた凄い。

これは本年を代表するドキュメンタリー(+劇映画)の傑作である。ごく小規模ゆえ、なかなか観るチャンスは少ないと思われるが、機会があれば是非観る事をお奨めする。    (採点=★★★★☆

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中村高寛監督の前作「ヨコハマメリー」

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