「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」
2016年・アメリカ/スタジオ・ライカ
配給:ギャガ
原題:Kubo and the Two Strings
監督:トラビス・ナイト
製作:アリアンヌ・サトナー、トラビス・ナイト
原案:シャノン・ティンドル、マーク・ハイムズ
脚本:マーク・ハイムズ、クリス・バトラー
「コララインとボタンの魔女 3D」などで知られるアニメーションスタジオのライカが手掛けた、中世の日本を舞台にしたストップモーション・アニメの秀作。監督はライカ作品「コララインとボタンの魔女 3D」、「パラノーマン ブライス・ホローの謎」のアニメーター出身でこれが監督第1作となるトラビス・ナイト。声の出演は「カリフォルニア・ダウン」のアート・パーキンソンが主役のクボを担当し、その他シャーリーズ・セロン、マシュー・マコノヒー、レイフ・ファインズ、ルーニー・マーラなど豪華な顔ぶれ。第89回アカデミー賞で視覚効果賞、長編アニメーション賞の2部門、ゴールデングローブ賞のアニメーション作品賞にそれぞれノミネートされたほか、英国アカデミー賞では最優秀アニメ作品賞を獲得した。
三味線の音色で折り紙を自在に操る不思議な力を持つ片目の少年・クボ(声:アート・パーキンソン)。彼は幼い頃、闇の魔力を持つ祖父に狙われ、彼を助けようとした父ハンゾウは命を落とした。クボは母と共に逃避行の旅を続け、ある海に近い村でひっそりと暮らしていた。だがそれもつかの間、邪悪な刺客の伯母たちに見つかり、母も殺されてしまう。クボは母の力によって命を吹き込まれたサル(シャーリーズ・セロン)、記憶を失ったクワガタの侍(マシュー・マコノヒー)とともに、母が最後に言い残した「3つの武具」を探し、自身の出自の秘密に迫る旅に出る…。
本作でまず素晴らしいと思ったのは、これが今や数少ない、ストップモーション・アニメである事。
ピクサー等のCGアニメが全盛となってからは、人形を少しづつ動かしては1コマ撮影するという、手間と時間のかかるアニメはあまり作られなくなり、数年前までは、「ウオレスとグルミット」シリーズのアードマン・スタジオか、「フランケンウィニー」などのティム・バートン・プロくらいしか作っている所はなかった。
なにしろ、「フランケンウィニー」 などは、1人のアニメーターが5秒の映像を作るのに1週間かかると言われ、完成するのに2~3年かかってしまうから効率が悪い。動きも、カクカクとしたぎこちないものが多く、CGアニメを見慣れるとその動きのぎこちなさはどうも気になってしまう。
そんなストップモーション・アニメの世界に参入して来たのが独立系アニメスタジオ・ライカ。実は既に、ティム・バートン監督「ティム・バートンのコープスブライド」(2005)に、共同制作会社としてライカ・エンタティンメントの名前がある。その後正式にライカ(Laika, LLC.)を設立、そして2009年公開の「コララインとボタンの魔女 3D」を第1回作として、以後着実にレベルを上げて来た、今注目のアニメーション・スタジオである。
凄いのがその動きのなめらかさ。知らない人が見たら、CGとカン違いしてしまいそう。それもそのはず、1週間で作られる画像が上映時間にして平均3.31秒!(「フランケン-」の5秒より凄い)。まさに気の遠くなるような作業である。もうこの映像を眺めてるだけでも感涙ものである。もっとも、各パーツには3Dプリンターが活用され、これによって製造工程はかなり楽になったそうだ。
そして本作は、なんと日本が舞台で、時代は中世、おそらくは鎌倉時代あたりか。普通、外国人が作った日本描写は、中国か東南アジア・テイストが混じった、日本人から見たらヘンテコなものが多いのだが、本作はかなり日本文化を研究し、かつ日本製アニメ、時代劇を相当見て参考にしたと思われ、違和感がほとんどない。知らない青少年が見たら、日本製アニメと信じてしまうかも知れない。
(以下ネタバレあり注意)
お話は、魔力を持った強大な敵に父と母を殺された少年クボが、腕を磨き、敵に対抗し得る3種の武具を探す旅に出て、最後に敵と対決する、という、王道パターンのヒロイック・ファンタジーである。
設定として面白いのは、月の魔王である敵が実はクボの祖父で、母は魔王の娘であったが人間の侍・ハンゾウに恋した為魔王の逆鱗に触れ、ハンゾウは殺され、母も、そして子のクボも魔王に命を狙われる、という込み入った人物関係で、ここらはギリシャ神話「ヘラクレス」あたりにヒントを得ていると思われる。
日本の民話からもアイデアをいただいているようで、母が月の帝の娘という所は「かぐや姫」、サルや虫を従え敵退治に向かう旅は「桃太郎」を思い出す。
敵のボスが白髪の老人で、その双子の娘が刺客としてクボたちを狙う展開は、「子連れ狼」が元ネタだろうか。
何より圧倒されるのは、日本の伝統美が華麗なビジュアルで随所に登場する点で、日本人としては声も出ないくらいに感動し見惚れてしまう。
折り紙がさまざまにメタモルフォーゼし乱舞し、日本の風習である灯篭流しや、盆踊り、花火が画面一杯に映し出されるシーンの見事さ。さらに、浮世絵的な構図もあったり、歌川国芳の絵に出てくるような巨大な骸骨まで登場する。
日本映画でも、これほど日本の伝統文化が多数登場する作品は見たことがない。もうこれらのシーンを見るだけで、涙が出てきてしまう。アメリカ映画でこれをやられてしまうとは。感動する反面、日本人としてはちょっと悔しい気もする。
なぜ武器が三味線か、またタイトルにある“二本の弦の秘密”とは何か、という謎の答が最後に明らかになる所は感動した。
ラストもいい。復讐の連鎖を断ち、宿敵を赦す(まあ祖父という事もあるが)所に、アメリカが9.11で陥った泥沼への反省も窺える。
多少引っかかる点がないでもないが、日本的ビジュアルの美しさと、人形の動きの滑らかさと華麗なアクション展開がそれらをカバーして余りある。日本人なら必見の、感動の傑作である。
字幕版と吹替版があるが、出来るならまず字幕版を先に観て、ストーリー展開を飲み込み、名優たちの声に聞き惚れ、2回目は吹替版で、画面の隅々まで目をこらして、細部にまで凝りに凝った映像の美しさを堪能するといいだろう。
しかし繰り返すが、こんな日本美満載の映画、日本でこそ、日本人にこそ、作って欲しいとつくづく思ってしまう。 (採点=★★★★☆)
(付記1)
主人公の名前が“クボ”である点について、これは苗字じゃないのか、とツッ込む声もあるが、私は気にならなかった。外国人にとっては日本らしければどっちでもいいという事もあるが、苗字みたいな名前、というのは内外とも結構あるからである。
“スズキ(鈴木)”というのは一般的に苗字だが、これを下の名前にしている“松尾スズキ”さんがいる(笑)。
外国でも、例えばジョージ・ハリソン等の“ハリソン”は苗字に使われる事が多い(ジョンソン、リチャードソンのように、名前に~ソンと付けば大抵苗字である)が、ハリソン・フォードは名前の方で使っている。
それよりも私は、漢字としての意味に興味を持った。
“クボ”は苗字としては“久保”と書くだろうが、“久”は熟語で永久、久遠、などで使われているように、“永遠の”的意味で使われる事が多い。
また“保”は“保つ”という意味で、“久”と並べると、“久保”=“永遠に保つ”、例えば「永遠の若さを保つ」とか「永遠の命を保つ」というような言葉が連想される。
月の帝の血を受け継ぐクボは、永遠なる存在となるのか、あるいはクボの物語は、民話として、永遠に語り継がれるだろう、と考えれば、結構奥深い意味を持っているのかも知れない。
(付記2)
クボの父の名前がハンゾウというのは、千葉真一がテレビで演じた服部半蔵からいただいてるようだ。またアイパッチをつけた片目の主人公は、おなじみ柳生十兵衛を思い起こさせる。ちなみに柳生十兵衛も「柳生一族の陰謀」等で千葉真一の当り役。
面白い事に、フジテレビ系で1978年に放映された、千葉真一が十兵衛を演じた「柳生一族の陰謀」の終了後、同時間帯で翌年から放映されたのが千葉が服部半蔵を演じた「服部半蔵 影の軍団」であった。
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コメント
ストップモーション・アニメという事で気になっていたのですが、やっと今週見ました。
いやあ素晴らしい映像でした。
ストップモーション・アニメファンとしては、多少カクカクしている所も味わいという感もありますが、本作の動きの滑らかさは驚異ですね。
お話も面白かったです。
日本を題材にするという点もここまで日本の美を理解して取り入れている点には脱帽です。
見逃さないで良かったです。
投稿: きさ | 2017年12月10日 (日) 16:39
◆きささん
私も、動きがカクカクする所がまたストップモーション・アニメの良さという気持ちがあるので(「キング・コング」1作目なんか今見ると相当ギクシャクした動きです)、こんなになめらかに動いたらストップモーション・アニメらしくねーじゃねーか、とつぶやきたくなりました(笑)。ファンで勝手なものですねぇ。
投稿: Kei(管理人) | 2017年12月29日 (金) 21:50