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2017年12月16日 (土)

「ビジランテ」

Vijirante2017年・日本/東映ビデオ=スタジオブルー
配給:東京テアトル
監督:入江悠
脚本:入江悠
製作:間宮登良松、江守徹、太田和宏、平体雄二
エグゼクティブプロデューサー:加藤和夫、江守徹

地方都市を舞台に、父の残した土地の権利をめぐる争いに否応なく巻き込まれて行く三兄弟の運命を描いた人間ドラマ。監督は「22年目の告白 私が殺人犯です」の入江悠。主演は「アウトレイジ 最終章」の大森南朋、「ライアーゲーム」シリーズの鈴木浩介、「彼らが本気で編むときは、」の桐谷健太。その他「RE:BORN リボーン」の篠田麻里子、「シン・ゴジラ」の嶋田久作などが脇を固める。

ある閉鎖的な地方都市。神藤家の長男・一郎は高校生の頃、町の有力者であった父・武雄(菅田俊)の暴力に耐えかね家を飛び出した。それから30年、次男・二郎(鈴木浩介)は今では地元の市議会議員となり、市議会の最大会派である大泉一派に加入して出世コースを歩み、一方で三男・三郎(桐谷健太)はデリヘルの雇われ店長と、それぞれ別の道を進んでいた。そんなある日、父が死に、その葬儀を終えた頃、一郎(大森南朋)が父の土地の公正証書を持って戻って来た。折りしも町では、その土地をめぐり、さまざまな利権と欲望が渦巻いていた…。

入江悠監督はインディーズ出身で、2008年から始まる「SR サイタマノラッパー」シリーズで注目され、やがて2014年の「日々ロック」でメジャーにも進出し、翌年の「ジョーカー・ゲーム」ではスパイ・サスペンス・アクション、今年公開の「22年目の告白 私が殺人犯です」ではクライム・サスペンスと良質エンタティンメントを次々手掛け、「22年目の告白-」は興行成績ランキングで3週連続1位を獲得する等、今や押しも押されもせぬ売れっ子ヒットメイカーとなった。

だが入江悠、そんな安定的地位に満足するヤワな監督ではない。今回はあえてリスクを承知で、オリジナル脚本による低予算のマイナー・ピクチャー「ビジランテ」を完成させた。無論劇場数もぐっと少ないミニシアター系公開である。その反骨精神やよし、と応援したくなる。

舞台は、「サイタマノラッパー」でお馴染み、監督の地元、埼玉県深谷市である。ここにも原点回帰の意気込みが感じられる。

(以下ネタバレあり)

物語は30年前、横暴極まりない父・武雄に反抗した長男・一郎が武雄をナイフで刺し、そのナイフを隠す為、弟の二郎、三郎と共に川を渡るシーンから始まる。
だが追って来た武雄は兄弟を捕まえ、凄惨な折檻を加える。遂に我慢しきれなくなった一郎は家を飛び出し、行方をくらましてしまう。

そして現代、二郎は市会議員となり、妻・美希(篠田麻里子)の援助もあって当選を重ね、地元市議会を牛耳る最大会派・大泉一派に取り入る事にも成功し、着実に野心を満たして行った。しかし三男の三郎は地元暴力団石部組のヤクザ、大迫(般若)に使われ、デリバリーヘルスの店長に甘んじている。
そんなある日、兄弟の父、武雄が亡くなった。

その頃、地元にアウトレットモールの誘致建設が計画され、その利権を狙う大泉一派の有力議員・岸公介(嶋田久作)は、武雄が所有権を持つ広大な土地を譲り渡すよう二郎に依頼する。
出世のチャンスとみた二郎は、三郎にも了承を求め、三郎にも異存はなかった。

だが丁度その頃、30年前に二郎と三郎を置いて逃げ出した一郎がこの土地に戻って来た。しかも父の公正証書があるので権利は自分だけにあると言い、土地譲渡にも応じようとはしない。

また二郎は、地元の自警団組織・けやき防犯会のリーダーにも就任し、会員で地域を見回り、夜中に騒ぐ中国人就労者への警告など、防犯・治安維持活動も行っていた。

物語は、この土地の権利をめぐり、一郎と弟たちが対立し、そこに岸らの意向を受けた地元ヤクザ、大迫らも一郎を脅し、さらには一郎が多額の借金をしていた横浜のヤクザたちも一郎の家を急襲し、3すくみの凄惨な殺し合いへと発展して行く。
それらと並行して、中国人就労者たちとけやき防犯会との対立も深刻化し、遂には暴力沙汰から放火事件へとエスカレートして行く。
実は中国人就労者たちが住む地域もアウトレット建設予定地となっており、その裏には、彼らを追い出そうとする大泉一派の策謀も隠されていたのである。

こうして、地域を牛耳る政治家たちの利権をめぐる狡猾な野望が、弱い人間たち、三兄弟たちを破滅へと追いやって行く。

タイトルの「ビジランテ」とは“自警団”という意味であり、警察に頼らず、異端者たち、目障りな者たちを排除し制圧しようとする自警団の存在も、この映画の重要なテーマとなっている。
そこには、ヘイトスピーチに代表される在留外国人への反感、排外感情が高まりつつある今の時代の空気に対する、作者の批判も込められている気がする。

そして、作品全体を覆うのは、凄まじい暴力描写である。

冒頭の三兄弟に対する父の暴力もハンパではないし、中盤では、焼肉店でヤクザの大迫が、命令に従わない三郎の手に金串をグサッと突き刺し、その先がテーブルを突き抜ける、という目を背けたくなる描写もある。
そして一郎の家に押しかけた大迫たちと、横浜のヤクザたちとの殺し合いも凄惨である。大迫は一郎に首の後ろをナイフで刺され、鮮血を滴らせるし、拳銃が乱射され邸内は血まみれとなって行く。

近年では珍しい、バイオレンスが充満した映画である。

こうした暴力描写を見て、思い出した映画がある。

Ookamitobutatoningen深作欣二監督の初期の傑作「狼と豚と人間」(1964)である。
この映画も、三兄弟と組織との、大金をめぐる血みどろのバイオレンス・アクションである。

で、その三兄弟の名前も、市郎、次郎、三郎、と、漢字は違うが本作の三兄弟と読み方は同じである。ちなみに演じたのは上から順に三國連太郎、高倉健、北大路欣也である。おそらく監督もこの作品を意識しているに違いない。

この作品も暴力描写が凄まじい。金の在り処を吐かない三郎たちに、次郎は万力で指を潰そうとリンチを加え、それでも負けない意思を示す為、三郎はレンガで自らの手を叩き潰すのである。

そして最後に、乗り込んで来たヤクザたちに次郎、三郎とその仲間たちは皆殺しにされる。

ラストシーン、組織に属している市郎は次郎らに「兄貴、こっちへ来いよ」と誘われながらも命が惜しく、弟たちを見殺しにし、一人生き残ってしまう。スラムの住人たちに石をぶつけられる市郎の後姿で映画は終わる。
題名の「狼と豚と人間」とは、組織の中で後ろめたさを抱え生き残る市郎が、反逆の一匹狼、次郎が、一人人間らしく生きた三郎が人間、という対比を示している。

そう考えれば、本作の三兄弟も、組織の中で一人生き残る二郎が豚、借金とクスリと女で荒んだ生活を送る一郎が狼、女たちを助け、兄の仇を討とうとする人間味ある三郎が人間、と対比する事も出来る。やはりここらも「狼と豚と人間」オマージュなのだろう。

後に数多くのバイオレンスの傑作を発表した深作欣二監督の原点とも言える作品で、私は個人的に深作欣二の作品中で一番好きであり、最高作とも思っている。深作ファンでまだ観てない方は、是非とも観て欲しい。必見作である。

なお、深作バイオレンスの傑作「人斬り与太・狂犬三兄弟」(これも三兄弟だ!)の中に、ヤクザに指を詰めろと迫られた菅原文太が、いきなりドスで自分の手の平を刺し貫く強烈なシーンがあるが、本作における、前述の三郎が手の平を金串で刺されるシーンはこのシーンへのオマージュな気がする。

ラスト間際の、二郎が、兄や弟の末路を悟りながらも、組織に忠誠を誓う決意をマイクの前で語り、やがて涙を流すシーンは特に印象的である。鈴木浩介、好演。

その二郎の出世の為にしたたかに行動し、岸に近づいてまでも夫を守ろうとする二郎の妻・美希を演じた篠田麻里子もいい。ファム・ファタール的存在感が光る。

但し、ところどころ、脚本が練れていない所も散見され、突っ込みどころもあるのがやや残念。
例えば、一郎は30年間何をしていたのか、土地の公正証書はどうやって入手したのか(父親・武雄以外に書く人間はいないと思うが、あれだけ一郎に憎しみをぶつけていた父親が、なんで一郎だけに権利を譲る証書を書いたのかが不明である)、あれだけ事件や殺人が続いているのに、警察がまったく登場しないのは何故か、とか。

それでも、それらの欠点を差し引いても、本作を覆うピンと張り詰めた緊張感、バイオレンス描写は魅力的で精彩を放っている。

メジャーで実力を発揮し、稼げる映画を発表して順風満帆であるのに、あえて物議をかもすエロとバイオレンスのマイナーな異色作を作った入江悠監督のアマノジャク精神には敬意を表したい。

深作欣二監督亡きあと、日本映画にはその後継者たるバイオレンス派監督がなかなか出て来ないのが残念である。頑張っているのは北野武くらいだろうが、その北野も70歳を超え、もう次世代に譲る年齢となっているのが問題である。

入江監督には、是非深作監督の後継者となって、さらに強烈なバイオレンス映画道を邁進していただく事を切に望みたい。その期待も込めて採点はやや甘めに。    (採点=★★★★☆

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