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2018年1月13日 (土)

「オレの獲物はビンラディン」

Army_of_one2016年・アメリカ
製作:フィルムネーション=エンドゲーム・エンタティンメント
配給:トランスフォーマー
原題:Army of One
監督:ラリー・チャールズ
原作:クリス・ヒース
脚本:ラジーブ・ジョセフ、スコット・ロスマン
製作総指揮:パトリック・ニュウォール、ルーカス・スミス、フェルナンド・ビレナ、ボブ・ワインスタイン、ハーベイ・ワインスタイン    

アメリカ同時多発テロの首謀者オサマ・ビンラディン誘拐を企てた男の実話を元に映画化したコメディ。監督は「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」のラリー・チャールズ。主演は「パシフィック・ウォー」のニコラス・ケイジ、共演は「ロック・オブ・エイジズ」のラッセル・ブランド、「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」のウェンディ・マクレンドン=コービなど。

コロラド州の田舎町で暮らす愛国心溢れる中年男ゲイリー・フォークナー(ニコラス・ケイジ)は、9.11同時多発テロの首謀者とされるオサマ・ビンラディンの居場所を政府がいまだに見つけられないことに怒りを募らせていた。そんなある日、彼は日課の人工透析中に神(ラッセル・ブランド)から“パキスタンに行って、ビンラディンを捕まえろ!”との啓示を受る。使命感に燃えたゲイリーは自らの手でビンラディンを捕まえることを決意し、渡航手段のヨットや武器の日本刀を調達し、様々な波乱を乗り越えてついにパキスタンにたどり着くが…。

本年最初の作品評は、実話に基づいた奇想天外なハチャメチャ・コメディ。正月早々大笑いした。

主人公はアメリカ人ゲイリー・フォークナー。髪はボサボサの白髪、髭は伸び放題と不潔極まりない容貌に、常に汚い言葉で悪態をつき、他人にカラみ、しかも酒の飲み過ぎで腎臓がイカれ人工透析を受けている、困った人間である。

だが愛国心は人一倍高いようで、同時多発テロを起こした首謀者オサマ・ビンラディンがいまだに捕まらない事に怒りを露わにしている。

そんな時、病院で人工透析を受けていると、ゲイリーの頭の中に突然神の声が聞こえて来る。「パキスタンに行って、オサマ・ビンラディンを捕まえよ!」
そして病院のカーテン、テレビ画面など、あらゆる所に、イエスに似た風貌をした神の姿を見てしまう。

この神の啓示を受けて、ゲイリーは、「ビンラディンを捕まえられるのはオレしかいない!」と心に誓い、あらゆる手段を使ってビンラディン捕獲作戦を開始する。

まず必要なのは軍資金である。彼はラスベガスに飛んで、カジノで金を稼ごうとし、また病院の医師から口八丁で金を借り、こうして集めた金で日本刀を手に入れ、次にヨットを調達して、これでパキスタンに渡航しようとする。

武装テロリストに立ち向かうのに、武器が日本刀というのも笑えるし、そもそも地理にも疎いようで、アメリカからヨットでパキスタンまで行けるはずもない。
せっかくヨットで出発しても、案の定迷走してメキシコに漂着したり、それで飛行機に乗ろうとしたら、「日本刀は機内に持ち込めない」と搭乗拒否にあったり。
空から探す方が早いと、ハンググライダーを購入し、しかしデカすぎて機内に持ち込めないので、ノコギリでカットし分解して、現地で布で巻いて組み立て直したり。

もうほとんどマルクス兄弟(古いね)かミスター・ビーンのコメディ映画を見ているような(笑)抱腹絶倒コメディアンぶりなのだが、これが実話だというからビックリだ。いやあ世の中は広い。
刀を持ったヘンなアメリカ人、というキャラから、私はジョン・ベルーシが刀を振り回し怪演したテレビのサタデー・ナイト・ライブの一編「サムライ・デリカテッセン」を思い出した(笑)。異様なハイテンションぶりもベルーシの演技と似ている。

しかしこの男、頭がイカれている異常者、というわけでもなさそうだ。マーシ・ミッチェル(ウェンディ・マクレンドン=コービー)という女性と知り合い、亡くなった妹の子供を預かって育てているという彼女に同情し、いろいろと親身になって世話を焼いてあげる。そういう優しい一面もある。
パキスタン行きを失敗し、戻って来る都度、マーシたちにお土産を買って帰ったりもする。

そんなゲイリーの態度にほだされた為か、ビンラディン捕獲の為にパキスタンに行くというゲイリーの常軌を逸した目的を知っても、マーシは彼が帰って来るのを待ち続けるのである。

こうして、ゲイリーは2004年から2010年までの間に、計7回もパキスタンに渡り、ひたすらビンラディンを探し続けるのである。CIAにも目をつけられ、とうとう2010年、彼はパキスタン当局により逮捕され、アメリカに強制送還されてしまう。

そして翌2011年5月、オサマ・ビンラディンは米軍の急襲に会い、殺害される。ゲイリーの目的は頓挫してしまったわけである。

だが、ゲイリーはヘコたれない。メディアに、「自分の行動が結果的にビンラディン捜索に役立ったから政府は自分に懸賞金を渡すべきだ」と訴える。
日本ではまったく話題にもならなかったが、当時アメリカでは結構なニュースになったようだ。

エンディングには、ゲイリー本人は、ビンラディンはまだ生きているのではないか、と疑い、今現在もなお、ビンラディン捕獲計画は続行中であるとのテロップが出て映画は終わる。
エンドロールには、ゲイリー・フォークナー本人の映像も登場する。ケイジとはあまり似ていないけど(↓)。

Garyforkner

いやあ、面白い。フィクションだとしても結構楽しめるコメディである。これが実話で、本人は大真面目だというから余計おかしい。

ニコラス・ケイジがまた本人になりきって、早口でまくしたてたり、泥棒を追いかけるシーンでは必死に走ったりと大熱演。ラリー・チャールズ監督にとっても、「ポラット」以来の快作になったようだ。

 
さて本作は、ケッタイな人間の抱腹絶倒のコメディ映画としても十分面白いが、それだけではない。過激な言動と常識外れの政策で世界を振り回す、トランプというヘンな人が現実にアメリカ合衆国大統領になってしまった現在の目から見れば、ゲイリーのような男が登場するのも何ら不思議ではない。

トランプを当選させた層の人たちは、おそらくコチコチの愛国主義者であり、短絡的に物事を考え、移民を追い出せという偏狭な自己主義に凝り固まったトランプを熱狂的に支持している。

本作に登場する、ゲイリーに啓示を下すと、それを熱狂的に信じ、愛国心のあまりに短絡な行動に走るゲイリーという二者は、まるでトランプと、その熱烈支持者の関係とそっくりである。
いわばこの物語は、アメリカという国の縮図そのものではないだろうか。

そう考えると、他愛ないコメディだと笑ってばかりもいられない。結構奥の深い、考えさせられる、これはそんな異色作なのである。    (採点=★★★★

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(付記)
本作のクレジットを見てて、ある名前を見つけておおっと思った。
上のスタッフ一覧にもあるが、製作総指揮にハーベイ・ワインスタインの名前がある。

ご承知の通り、セクハラを訴えられてワインスタイン・カンパニーをクビになった、名プロデューサーである。

私はこれまでも書いて来たように、過去にいくつもの優れた秀作をプロデュースして来たボブ&ハーベイ・ワインスタイン兄弟のファンである。

これまでも紹介して来たが、改めてワインスタイン兄弟が製作に関わった代表作を列挙しておこう(ここ4年間のみ)。

「ヴィンセントが教えてくれたこと」 (2014)、「黄金のアデーレ 名画の帰還」(2015)、「キャロル」 (2016)、「ヘイトフル・エイト」(2016)、「サウスポー」(2016)、「シング・ストリート 未来へのうた」(2016)、「LION ライオン 25年目のただいま」(2017)、「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」(2017)、「海底47m」(2017) …

派手ではないけれど、異色の秀作、話題作が並ぶ。そして若手の新進監督にもチャンスを与えて来た。「ヴィンセントが教えてくれたこと」のセオドア・メルフィ監督は昨年、「ドリーム」という秀作を発表した。   

そんな、映画界に多大の貢献をして来た人物が、この事件で映画界から去ってしまう事になれば、アメリカ映画にとっても多大な損失だろう。   

無論、セクハラを肯定するわけではない。それが事実なら、いけない事であるし反省して欲しい。   

だが、どこまで事実かどうか。もしかしたら無名の女優が、役を欲しい為に色仕掛けで女優の方から近づいた可能性だってあるだろうし、そもそも昔から映画界にはセクハラなんてしょちゅうあったはずだ。
アルフレッド・ヒッチコック監督が「鳥」「マーニー」に主演したティッピ・ヘドレンに執拗なセクハラを働いていた事はよく知られている。
日本にだって、新東宝の社長だった大蔵貢が「女優を妾にしたのではない、妾を女優にしたのだ」という迷セリフを吐いた事は語り草になっている。   

またフランスの女優カトリーヌ・ドヌーブが、「性暴力は犯罪だが、誰かを口説こうとする行為はたとえしつこかったり不器用だったりしたとしても犯罪ではない」と主張。「誰かの膝に触ったり、一方的にキスをしようとしたりしただけで職を失い、即刻罰せられているのは問題」と指摘し、男性が不当に名誉を傷つけられていると擁護した事がニュースになっている。   

ヒッチコックは、セクハラが明るみになった現在でも、作品は高く評価されて、その名声が失墜したりはしていない。   

本作が、ハーベイ・ワインスタイン製作の、最後の作品にならない事を祈りたい。そして何年後かでもいい、復活して、また素敵な映画を作ってくれる事を、心から願いたい。   

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