「悪女 AKUJO」と「コンフィデンシャル/共助」
ほぼ同時期に公開された2本の韓国発アクション映画が無類に面白いので、2本まとめてレビュー。
2017年・韓国/NEXT ENTERTAINMENT WORLD、他
配給:KADOKAWA
原題(英):The Villainess
監督:チョン・ビョンギル
脚本:チョン・ビョンギル、ユン・ビョンシク
アクション指導:チョン・ビョンギル、クォン・ギドク
製作:チョン・ビョンギル
製作総指揮:キム・ウテク
組織に殺し屋として育てられ、やがて国家直属の暗殺者となる女が活躍する韓国製バイオレンス・アクション。監督は日本でもリメイクされた「殺人の告白」のチョン・ビョンギル。主演は「渇き」のキム・オクビン。その他韓国の人気俳優シン・ハギュン、ソンジュン等が共演する。
犯罪組織の殺し屋として育てられたスクヒ(キム・オクビン)は、育ての親ジュンサン(シン・ハギュン)にいつしか恋心を抱き、二人は結婚するが、ジュンサンは敵対組織に殺害されてしまう。怒りに燃えたスクヒは組織のアジトに潜入し復讐を実行するが、逮捕されてしまう。そのスクヒの能力を評価した国家組織によって、彼女は10年間ミッションを務めれば自由になるという条件で、国家直属の暗殺者となるのだが…。
(以下ネタバレあり)
まず冒頭の、8分間の一人称ワンカット移動アクションに目を奪われる。
明らかに、ロシア製のFPS(ファースト・パーソン・シューティング)映画「ハードコア」(2016)にインスパイアされたと思われる、主人公の目線で最初は拳銃で次々敵を倒し、銃弾がなくなると刀で斬って斬りまくる。そのスピーディなアクションとめまぐるしく動くカメラワークに圧倒される。
一見ワンカットに見えるが、「バードマン あるいは…(以下略)」と同じく、カットを割った映像をCG処理で繋いでワンカットに見せているわけである。
この後、中盤ではバイクチェイスしながら双方が刀で斬り合うという、これまたどうやって撮ったか分からない壮絶なアクションが展開し、さらに車のボンネットに乗ったまま片手ハンドルで運転したり、ラストでは斧を振るってバスに飛び移り、暴走するバス内での立ち回り、バス横転…と、何度か登場する派手なアクション・シーンがこの映画の最大の見どころである。
なお後で調べたら、バイク・チェイス・シーンの撮影には、ドローンを使ってるそうだ。それにしても凄い。こうしたハイテク機材を使えば、アクションは今後もどんどん進化する事になるだろう。
韓国映画のこうした研究熱心さと頑張りぶり、先進ぶりを見てると、日本映画、しっかりしろよと言いたくなってしまう。完全に負けてるよ。
ストーリーは、過去のいろんなアクション映画から引用と言うかいただいていて、その点ではあまり新味はない。
ヒロインが組織によって殺し屋として育てられ、与えられたミッションに従い次々殺しを実行して行くという展開はリュック・ベッソン監督の「ニキータ」まんまだし、スクヒがボンネットにまたがり車を疾走させるシーンはQ・タランティーノ監督「デス・プルーフ IN グラインドハウス」、バスを追いかけ手にした道具1本で飛び移るシーンはジャッキー・チェン監督・主演「ポリス・ストーリー」と、映画ファンなら引用元がたちどころに思い浮かぶ。
かつて愛した男(ジュンサン)が実は黒幕で、愛する男と我が娘を殺された事で復讐に燃えて最後に対決する、というのも、タランティーノ「キル・ビル」をはじめ過去に似たような作品はいくつもある。そう言えば、ウエディング・ドレス姿で武器を構えるというシーンは「キル・ビル」にも登場していた。
このように、お話そのものは過去の名作からの継ぎはぎ感があって、部分的に辻褄が合わない所やツッ込みどころもいくつかある。
例えば冒頭のアクション後、スクヒが妊娠していた事が分かるのだが、そんな身体であれだけ暴れられるのか、普通流産するだろうとか。
ジュンサンの策謀や計画にもちょっと無理があったりする。
しかし本作におけるパワフルなアクションと豪快に押しまくる映像の凄さの前では、そんな難点もすべてぶっ飛んでしまうほどである。もう、参ったと言うしかない。
スタントマン出身だというチョン・ビョンギル監督だけに、アクションをどう極限まで高めるか、というこだわりが随所に感じられるし、チョン監督の要望に応えて、スタントマンを使わず自分でアクションをこなしたキム・オクビンの頑張りぶりにも敬意を表したい。
本作に刺激されて、ハリウッドでもおそらくもっと過激でビジュアライズされたアクションが生まれて行く事だろう。その意味で本作は、あの「マトリックス」にも匹敵する、アクション映画の歴史を塗り替える問題作である、と言えば褒め過ぎか。
ともあれ、アクション映画ファンなら必見、見逃すな、と言いたい快作である。 (採点=★★★★☆)
2017年・韓国/CJ.entertainment、他
配給:ツイン
原題:Confidential Assignment
監督:キム・ソンフン
脚本:ユン・ヒョンホ
撮影:イ・スンジェ
製作:ユン・ジェギュン
北朝鮮から韓国に派遣された刑事が、韓国の刑事と力を合わせ犯人を追い詰めて行く痛快アクション。監督は「マイ・リトル・ヒーロー」のキム・ソンフン。主演は「王の涙 イ・サンの決断」のヒョンビンと「LUCK-KEY/ラッキー」のユ・ヘジン。その他昨年急逝したキム・ジュヒョク、アイドルグループ「少女時代」のイム・ユナらが共演する。本作は韓国国内で、昨年上半期の動員数ナンバーワンヒットを記録している。
アメリカドルの偽札を作成する犯罪組織を捜査していた北朝鮮の刑事イム・チョルリョン(ヒョンビン)は、上司チャ・ギソン(キム・ジュヒョク)の裏切りにより仲間と妻を殺されてしまう。偽札作成の銅版を奪って韓国へ逃亡したギソンを追って、チョルリョンはソウルに降り立つ。北朝鮮から国際犯罪者の逮捕要請を受けた韓国は、歴史上初の“南北共助捜査”を極秘に開始するが、チョルリョンの相方を任されたのはうだつの上がらない刑事カン・ジンテ(ユ・ヘジン)。二人は互いに監視しつつ協力してギソンを追って行く…。
こちらも、昔からよくある、バディ刑事ものである。最初は反目しあうも、協力して捜査を続けるうちに次第に友情が芽生えて…というパターンも毎度お馴染みである。
ちょっと毛色が変わっているのは、二人が北朝鮮と韓国、という、今なお分断された国家にそれぞれ所属し、個人的にだけでなく、国家間自体も反目している微妙な関係にあるという点である。
これまでも、融和策をとったかと思えば、相手国に砲撃したり、38度線をはさんでにらみ合ったり、今も緊張関係にある二国。
しかし映画が作られた当時は予想されていなかっただろうが、平昌オリンピックの開催に合わせて北朝鮮から選手団や応援団が派遣されたり、統一旗で入場行進したりと、演出もあるかも知れないが、南北融和のイメージが高まりつつあるこの時期に日本で公開される、というのも興味深い。
二人の刑事のキャラクターもユニークである。北から来たイム・チョルリョンは寡黙だがカッコいい二枚目で、動きも機敏で颯爽としている。対する南の刑事は、いつもヘマばかりしてるし、顔は不細工で風采が上がらないが、よく喋る、・・・といった具合に何もかも対照的であるのが面白い。
国籍の異なる二人の刑事が、力を合わせて事件を解決に導く、という設定の作品では、リドリー・スコット監督の「ブラック・レイン」が有名である。
実はこの作品にも本作と同じく、偽札の原版争奪戦が背景にあったりする。
また共産圏の国から凄腕の刑事が異国にやって来て、現地の刑事と協力して犯人を追う、という設定は、アーノルド・シュワルツェネッガーがロシア(当時はソ連)の警察官を演じた「レッド・ブル」(1988・ウォルター・ヒル監督)にも登場する。コワモテのソ連警察官に対し、アメリカ側刑事はジェームズ・ベルーシが扮している事もあり、お喋りでコミカルなキャラクターである、という点も本作とそっくりである。ご丁寧に、ベルーシ刑事が共産主義と資本主義の比較をしてソ連国家を揶揄したりと、これまた本作と似たようなシーンも出てくる。
本作は多分、この2本の作品から物語のヒントを得ていると思われる。
派手なカー・チェイスあり、銃撃戦あり、物語が進むにつれ、二人の友情が深まって行ったりと、ベタながらこの手の刑事アクションの定番ストーリーが展開する。
ラストではジンテの家族がギソンに拉致された事を知ったチョルリョンが、国家への忠誠よりもジンテへの友情を優先して、偽札原版を持ってジンテ一家救出に向かったり、またせっかく家族が解放され現場を脱出したにもかかわらず、ジンテがチョルリョンの元に単身引き返したり、と、お約束ながら互いの熱い友情を示すシーンがあってホロリとさせる。
この時、日頃は口うるさいジンテの妻が「早く行きなさい」と意外な義侠心を見せるのもジンとさせられる。
そんな具合に、本作はバディ刑事アクション・ドラマの定型をきちんと踏まえた、安心して見ていられる王道のエンタティンメントに仕上がっている。しかもそこに南北朝鮮の融和から統一へ、という願望も込められているのがいい。「悪女
AKUJO」と違って、血生臭さもなく爽快な気分にさせてくれるし。
韓国で動員ナンバーワンの大ヒットを記録したのも当然だろう。
ただ、上映時間が2時間以上もあるのはちょっと長い。この内容なら90~100分くらいで丁度いい。もう少し枝葉を刈り込んでテンポよく纏めれば、採点に☆をもう一つ増やしてあげれたのに。 (採点=★★★★)
ともあれ、韓国映画の勢い、パワーをまざまざと見せつけられた、2本の作品であった。
だけど、こんなに面白い傑作アクション映画が2本とも、ごく小規模であまり宣伝もされず公開されているのはなんとももったいない。国籍に関係なく、面白い映画は多くの人に見せるよう配給会社は努力すべきではないか。
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コメント
「コンフィデンシャル」はもちっと多くの人に見てもらいたかった。「悪女」は見れてない。いや、だから、公開される映画が多すぎる。そんな何でもかんでも見れないよ。
投稿: ふじき78 | 2018年3月22日 (木) 00:14
◆ふじき78さん
まあ映画を紹介しているブログやら、いろんな映画情報に耳をそばだて、面白そうだと思ったものを見に行けばいいと思いますよ。私の場合は「悪女」面白そうだという情報早めにキャッチしてましたから。
昔は2番館、3番館、名画座等が多くあって、ロードショー落ちの映画はそっちで結構後になっても見る事が出来ましたので、見逃す、というケースはあんまりなかったのですが。そうした映画館がほとんど無くなった現在では、レンタルDVDがその役割を果たしていますが、やはり劇場で観たいですね。
投稿: Kei(管理人) | 2018年3月22日 (木) 23:57