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2018年2月11日 (日)

「THE PROMISE 君への誓い」

The_promise2016年 スペイン・アメリカ合作
制作:サーヴァイヴァル・ピクチャーズ
配給:ショウゲート
原題:The Promise
監督:テリー・ジョージ
脚本:テリー・ジョージ、ロビン・スウィコード
製作:マイク・メダボイ、ウィリアム・ホーバーグ
製作総指揮:ラルフ・ウィンター

約100年前に起きたオスマン帝国によるアルメニア人大量虐殺事件の実話を元に、その渦中で運命に押し流されて行く3人の男女を描いたヒューマンドラマ。監督は「ホテル・ルワンダ」のテリー・ジョージ。主演は「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」のオスカー・アイザック、「ザ・ウォーク」のシャルロット・ルボン、「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のクリスチャン・ベール。

20世紀初頭。オスマン・トルコの小さな村で生まれ育ったアルメニア人青年のミカエル(オスカー・アイザック)は、医学を学ぶために首都イスタンブールの大学に入学する。そして彼は、フランス帰りのアルメニア人女性アナ・ケサリアン(シャルロット・ルボン)と出会い、互いに惹かれ合うが、アナにはアメリカ人ジャーナリストの恋人クリス・マイヤーズ(クリスチャン・ベール)がいた。やがて第一次世界大戦の勃発とともに、アルメニア人への弾圧が強まり、ミカエルは強制労働に送られてしまう。辛くも脱走したミカエルは必死の思いで故郷に戻ったが、やがて発生したトルコ軍によるアルメニア人虐殺によって、彼の家族も婚約者も殺されてしまう。一方、クリスはトルコの蛮行を世界に訴えようと奔走するが、捕らえられてしまう。果たして3人の運命は…?。   

題名からは甘いメロドラマを想起してしまいそうだが、-一応女1人を挟んだ2人の男との三角関係ドラマが描かれるが-、背景となっているのは1915年に現トルコ、当時はオスマン帝国と呼ばれた国で発生した150万人とも言われるアルメニア人大量虐殺事件であり、その史実を描くのがメインである。従って内容はかなり重苦しく悲惨である。観る際はその覚悟で。   

(以下ネタバレあり)   

この大虐殺事件は近年まであまり知られていなかったが、2002年にアルメニア系カナダ人のアトム・エゴヤン監督が「アララトの聖母」で、2014年にはトルコ系ドイツ人のファティ・アキン監督が「消えた声が、その名を呼ぶ」で、それぞれこの事件を扱った映画を作っている。
だが映画はいずれも小規模公開で、作品的にはほとんど話題にもならず消えて行った。内容的にも、前者は現代が舞台で事件を映画化しようとする映画作家の物語、後者は生き別れた家族を探しに主人公の男がキューバからアメリカ大陸まで旅する話で、どちらもやや変則的なお話である。   

本作はその点、おそらくは初めてこの事件を正面から扱い、オスカー・アイザックやクリスチャン・ベールといった有名俳優を起用し、ラブ・ロマンスも巧妙に絡めた壮大なスケールの歴史秘話としても見応えあるドラマになっている。   

お話は、アルメニア人の主人公ミカエルが、医学を学び故郷に貢献したいとイスタンブール(当時はコンスタンチノープル)の医科大学に入学する所から始まる。
入学費用が父の稼ぎだけでは足りないので、裕福な家の娘マラル(アンジェラ・サラフィアン)と婚約し、マラルの持参金を学資に当てた。よっていずれはマラルと結婚しなければならない。
ミカエルはコンスタンチノープルで叔父の邸宅に下宿し、そこで叔父の娘の家庭教師アナと知り合い、アナに惹かれて行く。だがアナにはアメリカ人ジャーナリストのクリスという恋人がいた。   

やがて第一次世界大戦が勃発、アルメニア人への迫害が高まるが、その混乱の中でミカエルはアナに恋して一夜を共にし、クリスもそれを知る事となって不倫三角関係という展開となる(ミカエルには婚約者がいるのでダブル不倫だ(笑))。   

ミカエルは強制労働に送られるが、脱走し列車に飛び乗り、なんとか故郷に戻るが、トルコ軍のアルメニア人弾圧はエスカレートし、再会したアナやクリスの協力を得て村の子供たちを連れて脱出しようとするが、川岸でミカエルの家族やマラルたち大勢のアルメニア人が虐殺されているのを目撃する。   

実際にはもっと残酷で陰惨だっただろうが、テリー・ジョージ監督の演出はやや抑制的で、あまり陰惨な描き方はしていない。   

アナとミカエルたちが大勢の難民と一緒に逃避行を続ける姿と、事件を世界に伝えようと危険も顧みず取材を続けるクリスの姿が並行して描かれ、やがてラストのクライマックス、モーセ山に立てこもったアルメニア人と追って来たトルコ軍との激しい戦闘へとなだれ込んで行く。
この戦闘シーンはなかなかの迫力。大砲や迫撃弾で迫るトルコ軍に対し、銃だけで応戦するアルメニア人側は次第に後退し追い詰められて行くが、そこにフランス海軍の軍艦が現れ、多くのアルメニア人が救出されるが、最後に悲しい運命が待っている。
このフランス海軍による救出作戦も史実通りである。3,600人のアルメニア人が救出されたそうだ(「ダンケルク」を思い出す)。   

ミカエルとアナやクリスが、何度も偶然再会するのはややご都合主義的だが、まあそこは目をつぶろう。   

 
戦火の中での男と女の愛のドラマは、ゲーリー・クーパーとイングリッド・バーグマン主演の「誰が為に鐘は鳴る」をはじめ、これまでも多く作られているが、本作もそれらのパターンをうまく消化している。ラスト、愛する人が海底に沈んで行くシーンは「タイタニック」を思わせる。   

そうした、史実を背景にしたメロドラマとしてもうまく作られていて、まずまず楽しめる作品に仕上がっている。   

エンドの字幕によれば、殺されたアルメニア人の数は150万人以上にも上ったが、トルコ政府は今も組織的虐殺を否定しているという。   

なんともやりきれない話である。ナチスのホロコーストは映画でも何度も描かれて多くの人が知っているが、それ以上に残酷な民族虐殺事件がその30年近く前にも起きていた、その事実がこれまでほとんど語られておらず、知る人も少ないのが残念である。   

そしてこれは決して過去の話ではない。例えばミャンマーにおけるロヒンギャ迫害、中国によるチベット人虐殺など、大国による少数民族虐殺事件は、今の時代も現実に起きている。中国は虐殺を否定しているが、これもトルコの対応と同じである。   

人間は、何度同じ過ちを繰り返すのだろうか。悲しい事である。   

本作で印象的だったのは、家族を殺されたミカエルが「トルコに復讐したい」と言うと、それを聞いたアナが「生き延びることが復讐なのよ」と言って諭す場面である。   

これには心を打たれた。“復讐の連鎖はどこかで断ち切らなければならない”というテーマがここに凝縮されている。これこそが監督が訴えたかった事なのだろう。   

テリー・ジョージ監督は「ホテル・ルワンダ」(2004)でも実際に起きた虐殺事件を描いている。そのブレない一貫した製作姿勢には頭が下がる。   

主演の3人とも好演である。特にオスカー・アイザックが、「スター・ウォーズ」のボー・ダメロンとはうって変わって、歴史に翻弄されるアルメニア人という難しい役を見事に演じている。   

脇では、クリスを救おうとする米国大使モーゲンソーを演じた名優ジェームズ・クロムウェル、フランス軍提督を演じたジャン・レノが渋い演技を見せている。   

公開規模が小さい故、あまり話題になっていないし、観る機会は少ないだろうが、是非多くの人に観て欲しい。トランプ大統領誕生に歩調を合わせるかのように、少数民族、異民族を排除しようとする空気が広まっている、今の時代にこそ必要な、観るべき力作である    (採点=★★★★☆

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