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2018年4月 8日 (日)

「トレイン・ミッション」

Thecommuter2018年・アメリカ・イギリス合作
制作:スタジオ・カナル
配給:ギャガ
原題:The Commuter
監督:ジャウム・コレット=セラ
原案:バイロン・ウィリンガー、フィリップ・デ・ブラシ
脚本:バイロン・ウィリンガー、フィリップ・デ・ブラシ、ライアン・イングル
製作総指揮:マイケル・ドライヤー、フアン・ソラ、ジャウム・コレット=セラ、ロン・ハルパーン、ディディエ・ルプファー

走行中の電車内を舞台としたリアルタイム・サスペンス・アクション。監督と主演は、「アンノウン」「フライト・ゲーム」「ラン・オールナイト」に続き、これが4本目のタッグとなるジャウム・コレット=セラ監督とリーアム・ニーソン。その他の出演は、「ディパーテッド」のヴェラ・ファーミガ、「オペラ座の怪人」のパトリック・ウィルソン、「マイティ・ソー バトルロイヤル」のサム・ニール、「タイタンの戦い」のエリザベス・マクガヴァンなど。

元警察官だったマイケル(リーアム・ニーソン)は10年前に警察を辞め、保険会社で勤勉に働いて来たが、定年までまだ5年あるにも関わらず突然会社から解雇を言い渡されてしまう。妻にも言えないまま、いつもの通勤電車で帰路につくが、車内で見知らぬ女性・ジョアンナ(ヴェラ・ファーミガ)から、あるゲームをしないかと話しかけられる。それは、電車が終点に到着するまでの間に、100人の乗客の中から1人のある人物を見つけ出せば、10万ドルの報酬を払うというものだった。ヒントは、常連客ではなく、プリンという名前で、終点で降りるという事が分かっているだけ。そしてつい軽い気持ちで前金の2万5千ドルを受け取ったばかりに、マイケルはとんでもない陰謀に巻き込まれてしまう…。

監督のジャウム・コレット=セラは、上記リーアム・ニーソン・タッグ作以外にも、最近では「ロスト・バケーション」のような限定空間サバイバル・サスペンスでもいい腕を見せて、この所絶好調である。
本作も、やはり列車という限定された空間の中で、罠にはめられ、家族を人質に取られ、目的地到着までに事件解決を図らなければならないというタイムリミット・サスペンスがテンポよく進んで行き、最後まで緊張が持続して飽きさせない。

本作が以前のコレット=セラ+ニーソン・タッグ作品とやや異なるのは、過去の3作の主人公(ニーソン)の役柄は、順にアメリカ政府の元CIA秘密工作員、航空保安官、マフィアの殺し屋…と、いずれも組織に所属するプロの男で、物語もその仕事に大きく関わる内容であった。
それに対し本作の主人公マイケルは、元警察官とは言え、今は平凡なサラリーマン。その普通の男がある日、些細な事から、やがて大変な事件に巻き込まれて行く、という、いわゆる“巻き込まれ型サスペンス”であるのが面白い。

この“巻き込まれ型サスペンス”というのは、アルフレッド・ヒッチコック監督が得意としていたジャンルで、よく見ればヒッチコック・オマージュと思えるシーンが随所に散見されるのだが、それについては後記お楽しみコーナーで詳述する。

(以下ネタバレあり注意)

お話は、いつもの通勤列車の中で一人の女性から、終点に着くまでに、ある人物を見つけて欲しい、謝礼は10万ドル、という依頼を持ちかけられた事から始まる。

最初は冗談かと思っていたが、好奇心が沸いて指定されたトイレに行くと、約束通りの前金2万5千ドルが置かれていた。
ちょうどリストラを宣告されたばかりで子供の学資やら金も必要な時で、これはいいアルバイトになるとこの話に乗ってしまったのが大間違い、家族も人質に取られ、警察に通報するよう顔なじみの男に伝言を書いた新聞を渡すと、その男は事故に見せかけて殺されたり、マイケルはどんどんのっぴ切らない状況に追い詰められて行く。
どうやら背後には、大きな組織に関わる陰謀が隠されているようだと気づいても、もはや後戻りは出来ない。さあマイケルはどうやってこの危機を脱出するか。目が離せなくなって来る。面白い。

犯人側の目的は、ある重要事件の目撃者が、証拠となる物件を持ってこの列車に乗っており、その人物を探し出して証拠品を奪い取り抹殺する事にある。
その人物は、プリンという名前しか分かっておらず、100人もの乗客の中から探すのはかなり難しい。

犯人側がその目的を果たす為マイケルに白羽の矢を立てたのは、元警察官で捜査能力が優れており、かつ毎日通勤に列車を利用していて常連客とは顔なじみで、その顔なじみ客は除外出来るのでかなり対象は絞られて来る、という利点があったからである。

マイケルは車内を行き来し、徐々に探索の輪を狭めて行く。
面白いのは、この列車では乗客が持っている切符には目的地の区間番号にパンチで穴が開けられており、かつ全員座席の背にそれを差し込んであるので、目的地コールド・スプリングの番号=7が開いた切符を持っているのが対象者であり、マイケルはそれを目安に目的の人物をさらに絞り込んで行く。さすがは元腕利き警察官である。

よく考えれば、この切符システムかなり古臭く、また常連客なら定期券(アメリカにあるかどうかは知らないが)を使うだろうとか、あるいは今の時代ならIC乗車カードも利用されてるだろうとかの疑問も沸くし、そもそもマイケルが毎日利用している通勤列車にもしプリンが乗車しなかったらどうしたのか(後で明らかになるが、マイケルの元同僚も絡んでいたし)とかいろいろツッ込みどころはあるのだが、観ている間はそんな疑問を感じさせない程スリリングな展開だったので、まあ大目に見よう。

そして終盤では、運転手が狙撃され列車は制御が利かなくなり暴走を開始して、さあどうやって列車を止めるか、という「アンストッパブル」並みのパニック・アクションとなり、やっとその危機を乗り越えたら今度はマイケルは犯人と疑われ、SWATに狙われる、とまあ危機また危機のてんこ盛り。最後までハラハラしっ放しで楽しめた。

列車を使ったミステリー、というのは、「オリエント急行殺人事件」をはじめ過去にいくつか秀作があるが、本作も傑作とまでは言えないが、まずまずのウエルメイドな列車ミステリー・サスペンスの佳作に仕上がっている。

ラストのオチも、シャレたフランス映画のような、粋な締め方でこれも良かった。コレット=セラ+ニーソン・コンビ作はますます快調、今後も目が離せない。     (採点=★★★★

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(で、久しぶりの、お楽しみはココからだ

コレット=セラ+ニーソンのコンビ第1作、「アンノウン」は、作品評にも書いたが、ヒッチコック・オマージュが随所に仕込まれていて、ヒッチコック・ファンである私は余計楽しめた作品である(詳しくは作品評参照)。

同作品評で私は、“コレット=セラ監督は、多分ヒッチコックの信奉者ではないか”と書いたのだが、本作にも下記の通りヒッチ・オマージュがいくつも盛り込まれており、その思いはさらに確信へと変わった。以下それについて述べる。

まず、列車の中で主人公が、向かい合わせに座った見知らぬ乗客からある頼みごとをされる、という出だしからして、これは明らかにヒッチコックの傑作「見知らぬ乗客」(1951)へのオマージュである。

Strangersontrain「見知らぬ乗客」では、主人公ガイ(ファーリー・グレンジャー)は向かいに座った男から、なんと交換殺人の話を持ちかけられる。
あまりに突飛な提案で、ガイは最初は冗談だと思って取り合わないが、やがて相手は本当にガイの妻を殺害し、ガイは相手に翻弄され、否応なく事件に巻き込まれて行く

そしてラストは、ガイと犯人の乗ったメリー・ゴーラウンドが制御が利かなくなり猛スピードで暴走を始める。やっとブレーキをかけたら勢い余ってメリー・ゴーラウンドは脱輪、転覆してしまう

このラスト、本作の列車の制御不能、暴走、転覆という結末ともよく似ている。これも「見知らぬ乗客」オマージュと言えるだろう。

さらに「見知らぬ乗客」のエンディングでは、列車に乗ったガイがまたも見知らぬ乗客に話しかけられ、トラブルに懲りてかそっと席を移動するという笑えるオチになっているが、このシーンは本作のエンディング、列車内で冒頭とは逆に、マイケルの方が乗っているジョアンナに話しかけるというオチと対照形になっているように私には思えた。

Theladyvanishesそして列車が舞台のミステリーと言えば、ヒッチコックの代表作「バルカン超特急」(1938)も思い浮かぶ。こちらも主人公たちが乗車して以降、ずっと列車内で物語が進行して行く。また消えた乗客を探して、主人公たちは列車の中を前に後ろに移動する

またヒッチコック作品「疑惑の影」(1943)では、ラストで悪人の叔父(ジョセフ・コットン)が主人公の少女を列車から突き落とそうと揉み合いになるが、抵抗されて逆に叔父の方が列車から転落し、対向列車に轢かれて死ぬという結末となる。
これも本作で、マイケルが犯人一味の男と格闘となり、危うく窓から転落させられそうになるが、間一髪相手を逆に窓外に投げ落として難を逃れるシークェンスにオマージュとして使われているように思う。向こうから対向列車が近づくシーンまである。

Northbynorthwestさらにヒッチコックの代表的傑作、「北北西に進路をとれ」(1959)では、主人公ロジャー(ケーリー・グラント)は殺人犯と疑われて逃げ、中盤で列車に乗り込むが、警察が乗車してロジャーを見つけようとするので、乗り合わせた美女の助けで狭い荷物ボックスに隠れてやり過ごすシーンが出て来るが、これも本作の、警察が乗り込んで来たのでマイケルが床下の狭い収納庫に隠れるシーンのヒントになっていると思われる。

なおこれもヒッチコックの代表作「知りすぎていた男」(1955)にも本作と同じく、家族(息子)が人質に取られ、主人公(ジェームズ・スチュアート)は犯人の言うとおりに行動せざるを得なくなる、というエピソードが出て来る。

まあこんな具合で、本作は、熱烈なヒッチコック映画ファンであるほど、ニンマリしてしまう一粒で二度美味しい映画であると言えるのではないだろうか。

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コメント

行き先がパリだったら、プリンはテロリストの疑いが濃厚であり、行き先が釜山だったら、プリンは未発表の疫病の保菌者である可能性が高い。

投稿: ふじき78 | 2018年4月 8日 (日) 21:17

私も見ました。
やはりジャウム・コレット=セラ監督、リーアム・ニーソン主演のコンビは面白い。
この二人のタッグは4作目ですね。
セラ監督作品は面白いのでかなり見ています。
本作もなかなか面白かったです。
まあ細かい所はツッコミ所もありますが。
確かにヒッチコックでしたね。

投稿: きさ | 2018年4月 9日 (月) 23:05

◆ふじき78さん
すると、イスタンブール発パリ行きの列車でしたら、プリンは12人に刺されて死んでしまうのか、それとも12人全員が皆「私がプリンだ」と名乗りを上げるのでしょうか(笑)。


◆きささん
コレット=セラ監督作品は、1作ごとに毎回趣向を変えて楽しませてくれるのでお気に入りです。
次はどんなアイデアを出して来るのか、楽しみですね。期待しましょう。個人的には、またヒッチ・ネタが出て来るかも楽しみ。

投稿: Kei(管理人) | 2018年4月14日 (土) 00:29

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