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2018年7月16日 (月)

「パンク侍、斬られて候」

Panksamurai2018年・日本/エイベックス通信放送
配給:東映
監督:石井岳龍
原作:町田康
脚本:宮藤官九郎
特撮監督:尾上克郎
製作:若泉久央
企画・プロデュース:伊藤和宏
プロデューサー:湊谷恭史

芥川賞作家・町田康が2004年に発表した異色時代小説を原作に、脚本・宮藤官九郎、監督・石井岳龍という豪華トリオで映画化。出演者も綾野剛、北川景子、東出昌大、染谷将太、浅野忠信、豊川悦司、國村隼、永瀬正敏とこれまた豪華実力派俳優が集結。

時は江戸時代。とある街道で、一人の浪人・掛十之進(綾野剛)が、巡礼の物乞いを突如斬り殺した。それを咎めた黒和藩の藩士に十之進は、「この者たちは“腹ふり党”なる新興宗教団体の者で、いずれこの土地に恐るべき災いをもたらすはず」と語り、それを防ぐ為自分を士官させよと言う。だが巡礼たちは“腹ふり党”とは関係なく、“腹ふり党”もすでに解散していることが判明。十之進は自らの立場を守るべく“腹ふり党”の元幹部・茶山半郎(浅野忠信)を焚き付け、“腹ふり党”を復活させようと画策する。その背後には、ライバル家老・大浦主膳(國村隼)を追い落とし藩の主導権を握ろうとする内藤帯刀(豊川悦司)の陰謀があった…。

町田康の原作がまずぶっ飛んでるし、脚本が「ゼブラーマン」「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」等のこれまたキテレツな作品を書いている宮藤官九郎、監督がかつて「狂い咲きサンダーロード」 (1980)、「爆裂都市 BURST CITY」 (1982) と、伝説的な、まさにパンクなアクションの傑作を発表している石井岳龍(旧名石井聰亙)。
ちなみに原作者・町田康は「爆裂都市 BURST CITY」で、町田町蔵名義で役者として出演していた(役名がなんと、キチガイ兄弟の弟(笑))という縁もある。

このトリオが組んで、通俗的な分かり易い作品が出来るはずがない。どこまでぶっ飛んだ、観た人が発狂しかねないくらいの無茶苦茶な怪作が出来るのではと期待した。

そう思っていたから、映画を観て喜んだ。まさに「爆裂都市 BURST CITY」以来の、石井的、「映画の暴動」「爆裂都市」のキャッチコピー)になっていた。
こんな映画を、メジャーの東映配給で、全国シネコンで公開した事も快挙である。よくまあ決断してくれた。東映さん、エライ。

(以下ネタバレあり)

冒頭の東映マークからして、「孤狼の血」と同じく、画質の荒いシネスコ、実写版だった。これも嬉しい。こっちの方が断然東映映画を観てるという気分になる。東映さん、今後もずっとこれでお願いしますよ(笑)。

前半のお話は意外と分かり易い。士官を望む浪人が、腕の立つ所を見せて取り立ててもらおうとしたり、智略家の家老・内藤帯刀が陰謀をめぐらせて藩内の主導権を握ろうとする辺りもよくあるお話。黒澤明監督の傑作「椿三十郎」をちょっと思わせる。そう言えば豊川悦司はリメイク版「椿三十郎」(森田芳光監督)にも出ていた。

また冒頭、掛十之進が峠の茶屋付近で巡礼の老人を問答無用でバッサリ斬るシーンは、片岡千恵蔵や市川雷蔵が虚無的浪人・机竜之助を演じた中里介山原作「大菩薩峠」の冒頭シーンを思わせたりもする。

つまりは出だしは過去のオーソドックスな時代劇パターンのまんまで、これでは少しもパンクじゃない。まああセリフが「ウィンウィン」だの「ビジネス」といった横文字が使われてたのは面白いが。

ところが、敵とすべき新興宗教“腹ふり党”が既に壊滅していた事が内藤が派遣した密偵の報告で判明する。
これが明らかになると、十之進にとっても、腹ふり党の存在をを利用してライバル家老・大浦主膳を失脚させようとする内藤帯刀にとっても都合が悪い。そこで十之進は内藤の命を受け、腹ふり党の残党、茶山半郎の元に赴き、腹ふり党を復活するよう依頼する。

この辺りから、映画は次第にぶっ飛んだ様相を見せ、暴走の気配を見せ始める。
茶山半郎に扮した浅野忠信のメイクが傑作。まさにパンクそのものの容貌である。

最初は少人数でスタートした腹ふり党も、やがて藩政に不満を持つ農民たちが加わり、腹ふり踊りを踊りながらどんどん人数が拡大して行き、騒乱の様相を呈して、遂には城主たちが不在の城に火が放たれ燃え上がる等、もはや誰にも止められない群衆大暴動となって行く。

茶山の監視役として送り込まれた藩士、幕墓孫兵衛(染谷将太)も、当初こそ気が弱かったものの、腹ふり踊りを踊っているうちに、やがては集団の先頭に立ち、狂ったように踊りまくるまでになる。この落差が面白い。

ここまで来ると、もはや十之進でも内藤でも止められない。困窮している所に、人語を話す猿将軍、大臼延珍(デウス・ノブウズ)が登場し、膨大な数の猿軍団を集め、腹ふり党との一大戦闘が開始される。
「シン・ゴジラ」でも特撮を担当した尾上克郎による、CGの猿軍団が凄い迫力。なんと広角モブシーンでは、猿1億匹に人間3,000人が映り込んでいるそうな。

こういった具合に、あれよあれよと話のスケールが拡大して行き、カオスに次ぐカオス、超能力で人間も猿も空へと舞い上がり花火のように爆発するクライマックスへと雪崩れ込んで行く。

 
おそらく、石井作品に慣れていない多くの観客は、面食らい、呆れ、ついて行けずにポカーンとしてしまうだろう。

だが、これが石井岳龍ワールド。長らく石井作品を見続けて来たファンなら、昔の石井監督の持ち味がまったく久しぶりに復活した事に感慨深いものがあるだろう。

丁度40年前、ちょっとした事がきっかけで暴発した怒りが狂気となって暴走し、止めどなくパニックが広がって行くという「高校大パニック」 (1978)で鮮烈なデビューを果たし、次作「突撃!博多愚連隊」 (1978)でも手持ちカメラにより、映像がブレまくるのもお構いなしの疾走感で観客を魅了し、傑作「狂い咲きサンダーロード」「爆裂都市 BURST CITY」へと至る石井聰亙(当時の名前)は、まさに時代の寵児だった。
あたかも腹ふり党の狂騒そのままに、若い観客は熱狂し、映画館はお祭り騒ぎだった。
ちなみに8mm版の自主映画「高校大パニック」(1977)を撮った時、石井聰亙は20歳、「爆裂都市 BURST CITY」を撮った時は25歳だった。

だがその後は、ATGで撮った「逆噴射家族」 (1984)がやや失速気味。やがてバイオレンスものは撮らなくなり、大人しい作品が増えて行って石井監督らしさは影を潜めて行く。

2000年、久しぶりにメジャー(東宝)で「五条霊戦記//GOJOE」という、牛若丸を題材にした時代劇アクションを撮り、やや持ち直したかに見えたが、それからはまた大人しい、内向的な作品が続き、正直、もうあのパンクな石井バイオレンス・アクションは見られないのだろうかと思った事もあった。

そこに、久しぶりのアクション、それも「五条霊戦記」以来の時代劇である。ファンとして、期待するのも当然である。

映画はまさに、初期の石井映画と同様、静かに醸成されて行った狂気が、後半で一気に爆発、お祭り騒ぎとなって壮絶なクライマックスを迎える。
監督によれば、「五条霊戦記//GOJOE」では出来なかった事も本作には盛り込まれているそうだ。

そういう意味では、これまでの石井岳龍監督作品の集大成とも言えるだろう。

 
そして思うのは、本作には今の時代への、痛烈な皮肉が込められている気がする。

主人公掛十之進がウソをついた事をきっかけに、藩の政権の中枢にある人物もウソに乗り、そのウソを本当に見せる為に、次々とウソが拡大して行く。
これは現在の、国家のトップがついウソをついてしまい、そのウソを糊塗する為に、次々とウソが拡大して収拾がつかなくなってしまっている現状への皮肉とも取れる。
主人公の苗字が「カケ」で、あの首相のお友達の某理事長と同じ(この人の側近も役人にウソ言って補助金出させたとか)というのは、まったくの偶然だろうけど笑ってしまった。

また、新興宗教が多くの信者を獲得し、勢力が大きくなって行くと野望も拡大して行く展開は、あのオウム真理教を思わせる。オウムもなんか変な踊りを踊ってたようだし。
その教祖たちの死刑が、ちょうど本作の上映期間中に執行されたのも、なんだか象徴的である。

大衆は、巨大政党であれ、新興宗教であれ、踊らされ易い存在であるという事でもあるのだろう。

サルの大臼延珍(デウス・ノブウズ)に藩主・  黒和直仁(東出昌大)が翻弄されてしまうのも皮肉である。ちなみにデウスとはラテン語で“神”の意味である。

 
1点不満があるとすれば、ラストで、十之進がろん(北川景子)に復讐され殺されてしまう、というのは因果応報的でややつまらない。
十之進はもっとふてぶてしく、世の中を自在に渡り、生き延びて行く方が面白いと思う。そこが残念だった。

ともあれ、あまり深く考えず、実力派俳優の演技合戦と石井監督の演出パワーを堪能し、バカバカしいけれど狂騒的なお祭り騒ぎにノッて楽しむのが正解だろう。    (採点=★★★★☆

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(付記)
本作は東映配給作品である。
東映と言えば、「孤狼の血」がオマージュした「仁義なき戦い」に代表されるバイオレンス・ヤクザ映画路線が代表的だが、もう一つ、「徳川セックス禁止令・色情大名」(監督:鈴木則文)などの権力者のくだらなさを徹底的に笑い飛ばした、ナンセンス時代劇コメディも量産されていた。また鈴木監督の前にエログロ時代劇を撮っていた石井輝男監督作品にも、かなり無茶苦茶かつナンセンスな内容のものがあった。
本作は、ある意味かつての東映の、なんでもあり、作家がやりたい放題に作ったナンセンス時代劇の、現代的復活と言えるのではないか。

Kyoufukikeiningenちなみに石井輝男監督のエログロ路線の掉尾を飾る東映作品「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」も、かなりパンクな作品で、舞踊家・土方巽による奇怪な踊りが登場したり、ラストでは盛大な“人間花火”で締めくくられたりと、本作と共通する要素がいくつかある。
監督名まで、どちらも石井である。

石井岳龍監督、もしかしたら偉大なる娯楽映画の巨匠・石井輝男監督にオマージュを捧げたのではないだろうか。

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コメント

こんな物を楽しめる自分が可愛い。

昔の東映だったら「腹ふり党」ではなく「腰ふり党」にして、バリバリ千個くらい乳首を露出させてたと思います。

投稿: ふじき78 | 2018年10月16日 (火) 16:39

◆ふじき78さん
>昔の東映だったら「腹ふり党」ではなく「腰ふり党」にして…
“不良性感度”をウリにしてた岡田茂氏とポルノ時代劇の鈴木則文監督がご健在の頃にこの企画が持ち上がったら、岡田氏が監督を則文さんに交代させてそんな作品に作り変えたかも知れません。

投稿: Kei(管理人) | 2018年10月17日 (水) 21:40

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