「アーリーマン ダグと仲間のキックオフ!」
2018年・イギリス・フランス合作
制作:アードマン・アニメーションズ/スタジオ・カナル
配給:キノフィルムズ
原題:Early Man
監督:ニック・パーク
原案:マーク・バートン、ニック・パーク
脚本:マーク・バートン、ジェームズ・ヒギンソン
製作:カーラ・シェリー、リチャード・ビーク、ピーター・ロード、デビッド・スプロクストン、ニック・パーク
「ウォレスとグルミット」シリーズで知られるアードマン・アニメーションズ制作のストップモーション・アニメの新作。監督は短編「ウオレスとグルミット ベーカリー街の悪夢」以来となるニック・パーク。声の出演は「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」のエディ・レッドメイン、「マイティ・ソー」のトム・ヒドルストン、他。
まだマンモスがいた太古の昔。勇敢な少年ダグ(声:エディ・レッドメイン)は、部族の仲間たちや相棒のブタ、ホグノブ(声:ニック・パーク)と共に小さな谷間で平和に暮らしていた。ところがある日、ブロンズ・エイジ・シティの暴君ヌース卿(声:トム・ヒドルストン)が、谷で採掘される青銅を狙い、軍隊を率いて侵攻して来て、ダグたちは故郷を追われてしまう。だがブロンズ・エイジ・シティでは“サッカー”と呼ばれるスポーツが盛んである事を知ったダグはヌース卿と交渉し、もし自分たちがサッカーで勝てば故郷を返してもらえる約束を取り付け、仲間たちと猛特訓を開始するのだが、実力の差は歴然としていた。果たしてダグたちは愛する故郷を取り戻すことが出来るのか…。
劇場長編としては2015年の「映画 ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム」 以来となるアードマン・アニメーションズのストップモーション・アニメ。ただしアードマン創始者であるニック・パーク監督作品としては2008年の30分弱の短編「ウオレスとグルミット ベーカリー街の悪夢」以来10年ぶり。同監督の長編としては2005年の「ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!」 以来だから13年ぶりとなる。
なにしろ粘土(クレイ)人形を1コマづつ動かすストップモーション・アニメは製作に膨大な時間がかかる。本作は完成までに8年!もかかったそうである。
で、本作は、メインの「ウオレスとグルミット」及び同作からスピンオフした「ひつじのショーン」シリーズを除けば、2000年の「チキンラン」以来となるオリジナル作品である。
(以下ネタバレあり)
本作の題材は、サッカー。日本でも熱狂したワールドカップ開催中の公開となって、便乗だとイチャモンつける向きもあるが、製作開始は8年前で、決して便乗した訳ではない。まあ8年前もワールドカップは開催されていたのは間違いないけれど。
ただし、年代はマンモスもいる石器時代。武器と言えば石斧くらいの原始人が主人公である。まだ恐竜がいた時代、宇宙から隕石が落下し、まだ熱いボール大の隕石を、熱いので足で蹴り回した事からサッカーが生まれた、という出だしが笑わせる。
ちなみに冒頭、恐竜のティラノザウルスとトリケラトプスが闘っていて、その手前では原始人が獲物を探している、という絵柄(上)は、ストップモーション・アニメの偉大な先人、レイ・ハリーハウゼンが恐竜をアニメートした「恐竜100万年」(ドン・チャフィ監督)へのオマージュである。これにはニヤリとさせられた。
ただ、恐竜がいた時代、厳密にはまだ人類は現れていないのだけれど。
それから数十年後、皆が平和に暮らしていた谷に、突然高度な文明を持つ青銅器時代(ブロンズ・エイジ)人の軍隊が現れ、ダグたち原始人を谷から追い出してしまう。
住み慣れた土地を奪われたダグたちは途方に暮れるが、石器人たちは性格がおとなしい上に、青銅器人のような兵器も所有しておらず、また人数的にも多勢に無勢、どうする事も出来ない。
ところがダグがひょんな事からブロンズ・エイジ・シティに迷い込んでしまい、あちこちウロウロするうちに、彼らがサッカーに熱中しており、巨大スタジアムで大勢の観衆を集め試合を行っている事を知る。
武力ではとても勝てないだろうけれど、スポーツなら対等に戦える。もし勝てば、故郷の谷を取り戻す事が出来るかも知れない。そう考えたダグは仲間たちと猛特訓を開始し、さまざまな苦難を乗り越えた末に、とうとう敵のスタジアムで、青銅器人チームとサッカーで対決する事となる。
さて、ダグたちは果たして強大な敵に勝ち、故郷に帰る事が出来るのか…、というお話。
歴史上から見れば、石器時代の原始人と、まるでローマ帝国を思わせる青銅器人が同じ時代にいるのはおかしいのだが、アニメだから史実なんてどうでもいい。ともかく内容的には、弱小の少数民族が平和に暮らす国に、強大な軍事国家が侵略して来てして土地を奪い、それを弱小民族が知恵と勇気で戦い、最後に勝利する、という物語が展開するわけで、よく見ればこの出だしは宮崎駿の「風の谷のナウシカ」ともそっくりで、本当にあちらのアニメ作家は宮崎駿ファンが多いと改めて思う。
それに関連して言えば、本作には、娯楽映画の典型的王道パターン、“弱小チームが、当初はとても勝てないと思われた強大チームに無謀な戦いを挑み、猛特訓の末に大逆転勝利を収める”という筋書きがまるまる取り入れられているのが楽しく、また感動的である。これについては私が以前から当ブログに“正しい娯楽映画”論として再三書いているので参照いただきたいが(例えばコチラ)、例を挙げれば日本映画では、あの黒澤明監督の傑作「七人の侍」がそのパターンの最高作であり、スポーツものでは「シコふんじゃった。」とか、洋画では「メジャー・リーグ」等があり、本作と同じサッカーものでは、チャウ・シンチー監督・主演の大傑作コメディ「少林サッカー」(2001)がある。いずれも凄く面白かった。
ちなみに「少林サッカー」では終盤、ビッキー・チャオ演じる太極拳の使い手の女性が主人公たちに味方し、大活躍するのだが、本作でもブロンズ・エイジ・シティで出会ったサッカーの得意な少女グーナ(声:メイジー・ウィリアムズ)がやはり味方となって活躍する。多少オマージュしてるのかも知れない。
そんなわけだから、面白いのは当然である。
キャラクターでは、ダグの相棒のブタ(というよりイノシシに近い)・ホグノブの活躍が楽しい。敵陣に忍び込んだホグノブが、ヌース卿に従者と間違われ、肩を揉んだりマッサージするシーンは爆笑ものである。また終盤ではゴールキーパーとなってこれまた大活躍する。
ギャグやアクションもテンコ盛り。さらにサッカー・スタジアムではもの凄い数の観衆が動いており、これも圧巻である(ここらはCGも併用しているようだ)。
製作に8年もかかったのも当然だろう。まさに労作である。
難点を言えば、敵の青銅器人がある程度文明を持っている時代に、ダグたちが原始人のままで生活しているのが不思議。もう少し後の時代でも良かったのでは。
が、これはもしかしたら、ハイテクノロジーのCG全盛時代に背を向け、あえてアナログな手間のかかるコマ撮りストップモーション・アニメを頑固に作り続けているアードマン・スタジオの立ち位置を、石器時代の原始人になぞらえている、と考えれば納得出来るかも。
大人も子供も楽しめる、ウエルメイドなエンタティンメントとしてお奨めだが、ちょっと捻った見方をすれば、今、世界中で起きている、強大な武力を持つ国家が、弱小民族の住む土地に侵攻し、彼らを追い出して土地を奪ってしまう、という悲惨な現実(例えばミャンマーでのロヒンギャ弾圧、中国のチベット弾圧、パレスチナ難民問題など)に対する痛烈な風刺も込められているようにも思える。
無論これは私の勝手な思い込みで、作者たちはそこまでは考えていないかも知れない。
だが、トランプ政権が誕生し、アメリカ、ロシアや中国などの大国の横暴、弱小民族への差別、といった不寛容な世界の流れが益々加速して来たように見える今の時代、この映画を観て、そんな事まで考えさせられてしまうのも仕方のない所である。
本作の製作が開始された8年前でも、多少そんな気配があったかも知れないが、ここまで酷い時代が来るとは誰も予想していなかったのではないか。そう考えれば本作はある意味、時代を予見したような作品であるとも言える。映画を観て、単純に笑ってばかりもいられないのである。
というわけで、採点はそういう点も勘案してぐっとポイントが上がって…。 (採点=★★★★☆)
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