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2018年7月 1日 (日)

「ワンダー 君は太陽」

Wonder2017年・アメリカ/ライオンズゲイト、他
配給:キノフィルムズ
原題:Wonder
監督:スティーブン・チョボスキー
原作:R・J・パラシオ
脚本:スティーブン・チョボスキー、スティーブ・コンラッド、ジャック・ソーン
製作:デビッド・ホバーマン、トッド・リーバーマン

全世界で800万部以上を売り上げたR・J・パラシオの同名ベストセラー小説を映画化したヒューマンドラマ。監督は「ウォールフラワー」のスティーブン・チョボスキー。出演は「ルーム」の子役ジェイコブ・トレンブレイ、「ミッドナイト・イン・パリ」のオーウェン・ウィルソン、「マネーモンスター」のジュリア・ロバーツ。

10歳のオギー・プルマン(ジェイコブ・トレンブレイ)は、遺伝子の先天性疾患で、他の人とは異なる顔で生まれて来た。その為27回もの手術を受け、一度も学校に通わないまま現在まで自宅学習を続けて来た。だがこのままでは良くないと考えた母親のイザベル(ジュリア・ロバーツ)は、まだ早いのではと言う夫のネート(オーウェン・ウィルソン)の反対を押し切って、オギーを5年生の初日から学校に通わせることを決意する。校長のトゥシュマン先生(マンディ・パティンキン)はとても優しく思いやりがあってイザベルは安心するが、やはり同級生からは奇異の目で見られ、オギーは一人離れて昼食を取る日も続いた。それでも負けず勉強し努力するオギーによって、同級生たちは少しずつ変わって行く…。

実は6月18日に観る予定だったのだが、当日朝大阪北部地震が起きて、上映中の109シネマズエキスポシティが地震の影響で約1週間休館となってしまい、ようやく26日に観る事が出来た(まだ早く復旧した方で、私がよく行く茨木市にあるイオンシネマ茨木、箕面市の109シネマズ箕面は共に未だに開館の目途は立っていない)。

まあそれはともかくとして、この映画、評判がよくて、中小系のキノフィルムズ配給にも拘らず、興行ランキングで初登場5位と健闘している。

最初は作品概要を聞いて、よくある難病ものかと思っていた。あざとく泣かせる作品かもとも思っていた。
ところが、観ているうちに、そんな通り一遍の作品ではない事に気づいた。主役のオギーを演じるジェイコブ・トレンブレイの好演もあるが、泣かせようという脚本・演出でもないのに、語り口のうまさと言うのだろうか、ごく自然に涙が溢れ、エンドロールではまさに滂沱の涙でクレジットが霞んで見えなかった。
こんなに泣けたのは久しぶりだ。まさに題名通り、Wonder(奇跡)のような傑作である。

(以下ネタバレあり)

一見実話の映画化のように見えるが、原作は女性作家R・J・パラシオが書いたフィクション(但し彼女が体験したエピソードを参考にしている)。

そして物語は、奇異な容貌の為に主人公オギーが同級生たちから苛めや差別を受ける、という普通の作品なら重苦しくなりがちなテーマであるにも関わらず、決して暗くならず、それどころか、オギーが「スター・ウォーズ」が大好きという事で、随所に彼の空想シーン(顔を隠す為、大きなヘルメットをかぶっている事もあって、空想の中で宇宙飛行士になったり、「スター・ウォーズ」のキャラ、チューバッカまで登場する)が挿入され、全体としては不幸にもめげず、明るく、爽やかに、前向きに生きるオギーの行動を通して、ほっこりとした気分にさせられる作品になっている。これが素晴らしい。

私立学校のトゥシュマン校長先生のキャラクターがとても素敵。オギーに優しく接するだけでなく、冗談を言ってオギーの緊張を解きほぐし、同級生のジャック(ノア・ジュプ)やジュリアン(ブライス・カイザー)たちに、オギーと仲良くするよう言い含めたりする。
ちょっと、黒柳徹子の「窓際のトットちゃん」に登場する、トモエ学園の小林校長先生を思わせたりもする、素晴らしい校長である。演じているマンディ・パティンキンが適役かつ巧演。
そう思えば、オギーを積極的に学校に行かせようとする前向き思考の母イザベルは、トットちゃんの母、チョッちゃん(黒柳朝)と似てる気がする。

 
最初の頃こそ、オギーは同級生たちから気味悪がられ、相手にしてもらえず、やや挫けそうになる。
それでも、両親の励ましや、トゥシュマン校長、担任の黒人であるブラウン先生(ダビード・ディグス)らの細かい気配りにも支えられ、オギーは除け者にされてもじっと耐え、少しづつ学校に馴染んで行く。

オギーは自宅で母に勉強を教えられていた事もあって、同級生より成績もいい。しかしオギーはそれをひけらかしたりしない。試験では、隣のジャックにこっそり答を見せてあげ、やがて彼とは仲良くなる。
そうした、差別を受けようとも、自分から周囲に溶け込んで行こうとするオギーの勇気ある行動によって、同級生たちも次第にオギーを仲間として受け入れる気持ちになって行く。顔は常人と変わっていても、中身は自分たちと同じ普通の人間である事を彼らは自覚して行くのである。

このプロセスを、時にはオギーの空想も交えユーモラスに、温かく、丁寧に描くチョボスキー演出に、私は涙腺が緩んで来るのを止められなくなっていた。

 
しかし映画はオギー中心だけで進むのではなく、さらに意外な方向へと向かう。
ここまでは、「オギー」の章としてクレジットされていたのだが、次に「ヴィア」のクレジットが入り、視点はオギーの姉、ヴィア(イザベラ・ビドビッチ)へと移る。

両親も、可哀想なオギーを大事にするあまり、姉のヴィアにはあまり構わない。その為、ヴィアは家の中でも学校でも、孤独にさいなまれて行く。
オギーに気を取られ、我々観客もつい関心が薄れてしまいがちだが、家族一人一人にもそれぞれの人生がある。オギーだけがチヤホヤされたら、姉だっていい気はしないだろう。原作もそうなっているかどうかは知らないが、そうした気配りも忘れない作者たちの思いやりにも感動させられる。

さらには第3章として、同級生の「ジャック・ウィル」、第4章としてヴィアの親友である「ミランダ」と次々と視線を移して、多面的な角度から、オギーを取り巻く人々の心の中も描き、映画は単なる難病の子供の物語に留まらず、人間は誰もがそれぞれに悩みと葛藤を抱え、それでも他人と触れ合い、心を赦しあう事で、それらを克服して前に向かって進むのだという事を力強く訴えて行く。

この手法には感激した。なんと奥の深い物語である事か。

オギーを中心として、物語の輪が広がって行き、その波紋がさまざまな人に影響を与え、感化され、それぞれが少しづつ成長して行く。
これは人間そのものの愛おしさ、逞しさまでも描いた、なんとも多面的、重層的構造を持った人間讃歌のドラマなのである。

自分の心の狭さに気付いたジャックは、オギーとかけがえのない親友となる事で、大きく成長して行く。

悩んでいたヴィアは、演劇に進んで取り組み、彼女もまた前向きに生きる事をオギーにも教えられ、そんなヴィアを見ていたミランダは、主役をヴィアに譲って、ヴィアはその気持ちに応え、舞台で素晴らしい演技を披露し、喝采を浴びる。
ヴィアもミランダも、それぞれに一皮剥けて大人になって行くのである。

そして、オギーを苛めていた大金持ちの子ジュリアンも、単なる苛めっ子でなく、金持ちで高慢な両親に育てられた事で偏狭な心に囚われていた事を窺わせ、彼もまたおそらくは心を改めるであろう事も示唆される。
苛めの証拠を突き付けられたジュリアンの両親が、高額の寄付金の話を持ち出しても、毅然とした態度で対応するトゥシュマン校長には喝采したくなる。

キャンプで、オギーをからかった上級生に対して、ジャックや、ジュリアンの友人たちもオギーを助け、その後波打ち際でみんなで楽しそうに戯れるシーンにも泣けた。

ラストもまた感動的である。 修了式の日、トゥシュマン校長先生が、障碍を乗り越え、皆から称えられるまでに成長したオギーに、メダルを授与する。
その時、生徒も先生も親御さんたちも、みんなが温かい拍手を送るシーンにもまた泣けた。

邦題の「君は太陽」、最初は何だか安っぽいなと思ってたのだが、観終わって実は深い意味も込められていた事が分かった。
劇中でも語られるが、息子(son)を中心に置いたプルマン一家の中で、オギーは太陽(sun)のように周囲を照らし、誰もがその光を受けて、それぞれに温かい気持ちになって行くのである。
ヴィアやジャック、ミランダと、章ごとに、周囲の人間にもスポットライトを当て、どんな人もそれぞれ人間である故に悩んだり間違った事もしたりするけれど、そんな彼らがオギーの、障碍を抱えてもひたむきに、前に向かって生きる姿を見て、人間的な優しさを取り戻して行く。
人間って、なんて素晴らしいのだろう。我々は、オギーのように心豊かに前を向いて生きているのだろうか。そんな事を感じさせられるからこそ、涙が知らず知らず溢れて来るのである。

これは是非、多くの人に観て欲しい。
日本では、苛めで自殺する子供が絶えないけれど、その問題をどうすれば解決出来るのか、そのヒントがこの作品にはいくつも込められている気がする。
先生が、生徒一人一人にきちんと向き合うこと、苛められている側も、逃げずに勇気を持って立ち向かうこと、親も学校にだけに任せず、子と一緒になって闘うこと…きっと、勇気が与えられるはずである。学校の授業で見せてもいいくらいである。

Wallflowerチョボスキー監督の前作「ウォールフラワー」(2012)も以前観ている。これはチョボスキー自身が書いたベストセラー小説の映画化作品で、これもまた、心を閉ざしていた16歳の若者が、かけがえのない友人や良き先生と出会う事で自分の人生を見つめ直し、成長して行く姿を明るいタッチで描いた、感動の物語であった。
本作と、内容的にも共通する要素が多い。まさに本作はチョボスキーが監督するに相応しい作品だったと言えよう。この映画も、本作に感動した人は是非観る事をお奨めする。

まだ今年は半分を過ぎたばかりだが、今の所今年のベスト5に入れたい、感動の傑作である。    (採点=★★★★★

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コメント

> まさに題名通り、Wonder(奇跡)のような傑作である。

「よし、アサヒの缶コーヒーワンダとタイアップだ!」とか考えた俺、最低。

投稿: ふじき78 | 2018年9月10日 (月) 01:35

◆ふじき78さん
私は手塚治虫世代のせいか、“ワンダー”と聞くと、3匹の宇宙人が活躍する手塚作品「ワンダー・スリー」を思い出します(笑)。
で、メイン・ポスターを見ると、オギー役のジェイコブ・トレンブレイ、その両親役のオーウェン・ウィルソンとジュリア・ロバーツの3人の名前と3人が歩く姿が大きく載っていますね。
これが本当の「ワンダー・スリー」だ(笑)(いかん、感動が台無しに…)。

投稿: Kei(管理人) | 2018年9月11日 (火) 23:49

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