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2018年8月15日 (水)

「沖縄スパイ戦史」

Okinawaspysenshi2018年・日本/ドキュメンタリー・ジャパン
配給:東風
監督:三上智恵、大矢英代
プロデューサー:橋本佳子、木下繁貴
音楽:勝井祐二
撮影:平田守

第二次大戦末期の沖縄戦における、知られざる真実に迫ったドキュメンタリー。監督は「標的の村」「戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)の三上智恵と、学生時代から八重山諸島の戦争被害の取材を続けてきたジャーナリストの大矢英代。

第二次世界大戦末期、アメリカ軍上陸により、1945年6月に降伏するまでの3カ月の間に民間人を含む24万人余りが命を落とした沖縄戦。だがその裏では、ゲリラ戦やスパイ戦など“裏の戦争”が続いていた。前年秋、密かに沖縄に渡った42名の陸軍中野学校出身者が、偽名を使ったり、学校の教員として、まだ10代半ばの少年たちを“護郷隊”と称するゲリラ兵として組織し、アメリカ軍を翻弄した。やがて始まる軍命による強制移住、マラリア地獄、スパイ虐殺…。戦後70年以上語られることのなかった恐るべき真実が明らかになって行く…。

これは…。衝撃的な問題作である。

戦後73年。第二次大戦中における戦争秘話は、もうほとんど出尽くしたと思っていた。
だが、この映画で描かれた事は、これまで全くと言っていいほど、一般には語られて来なかった事実である。

その主人公は、陸軍中野学校。簡単に言えばスパイ養成の諜報機関であり、市川雷蔵主演で大映でシリーズ映画化された事で、そんなスパイ機関があった事は知られている。

だが、その中野学校出身の青年将校たちが、日本の敗色濃い時期に沖縄に渡り、まだ10代半ばの少年たちを、“護郷隊”と呼ばれるゲリラ戦士として教育し、米軍の上陸に備えていたとは知らなかった。
沖縄戦は1945年6月の牛島満司令官の自決でほぼ終了したとされているが、護郷隊の少年たちはその後も島の北部に移動し、戦車が上陸した場合に爆弾を抱え特攻するよう訓練されていたそうだ。

しかも、中野学校の将校たちがやった事はそれだけではない。沖縄の南端、波照間島の住民たちを、米軍の捕虜となる事を恐れ、マラリア地獄と呼ばれる西表島に強制移住させ、多くの住民をマラリアに罹病させて死なせたという(これは“戦争マラリア”と呼ばれているそうだ)。
さらには本島の住民たち同士を監視させ、密告によってスパイの嫌疑をかけられた住民たちを虐殺したり、兵士として使えなくなった者も密かに殺害したり…。

聞くだにおぞましい話である。本土の防波堤となった沖縄戦では24万人もの人たち(多くは非戦闘員の民間人)が命を落としており、それだけでも痛ましい事だが、こんな理不尽な愚かしい事が行われ、それが現在まで歴史の闇に埋もれていたとは…。

映画は、実際に護郷隊に所属していて、現在は90歳前後の老人となった人たちにカメラを向け、一人一人がそれぞれ重い口を開いて、その隠された事実を証言するさまを記録して行く。
本人たちにとっても屈辱的な事である故、これまでは口を閉ざして来たそうだ。それを、三上監督らの粘り強い説得でようやく真実を語る気になったという。
三上、大矢、両監督の熱意には、本当に敬服する。

それにしても衝撃的だ。国家は国民を守る為にある、というのは大嘘で、国家にとっては国民は国家を守る為の道具でしかない、という事がこの映画を観ればよく判る。

そして映画はさらに現在南西諸島で進められている自衛隊増強とミサイル基地配備についても言及し、特定秘密保護法や、着々法整備が進む安全保障関連法案の危険性をも告発する。
沖縄スパイ戦史は、遠い昔の歴史ではなく、現在とも繋がっているという事である。

なお、これまで口を閉ざして来た老人の中には、まだ生存している人に迷惑が及ぶので語れなかったが、その相手の人が亡くなった事でようやく口を開く気になったという人もいる。
その語った方たちも、高齢でもう先は長くないだろう。数年後には、証言する人もいなくなるかも知れない。
そういう意味では、今この時代だからこそ作れた映画だと言える。

 
三上監督は、これまでにも「標的の村」「戦場ぬ止み」「標的の島 風かたか」等の沖縄をテーマにした秀作ドキュメンタリーを連続して作って来たが、本作が一番インパクトがあり、まさに集大成とも言える問題作である。

これは本年のドキュメンタリー作品としては文句なく最高作と言えるだろう。是非多くの人に観て欲しい。
折しも本日は終戦記念日である。

ついでだが、キネマ旬報、その他ベストテンの選考委員の方たちにお願いしたい。これまでも「ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳」「沖縄 うりずんの雨」「人生フルーツ」と、傑作ドキュメンタリー映画がいずれもベストテン圏外となっていたが、ドキュメンタリーと言えども秀作であるなら、是非ベストテンに選考すべきではないのか(ちなみにこれらはいずれも文化映画の部でベストワンに選ばれている)。以前は、「ゆきゆきて、神軍」「全身小説家」もベストテン上位に選ばれていた事だってあったし。

本作も、是非ベストテンに入れて欲しい。そうすればかなり話題となって観る人も増えるだろう。そうなる事を望みたい。
 (採点=★★★★☆

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(付記)

なお昨年のキネマ旬報ベストテンで、「人生フルーツ」は唯一人、賀来タクト氏だけがベストテン1位に入れ、全体では60位だった。決して選考対象から除外されているわけでもなさそうだ。

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