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2018年11月18日 (日)

「ボヘミアン・ラプソディ」

Bohemian_rhapsody2018年・アメリカ/リージェンシー=GK.Films
配給:20世紀フォックス映画
原題:Bohemian Rhapsody
監督:ブライアン・シンガー
原案:アンソニー・マッカーテン、ピーター・モーガン
脚本:アンソニー・マッカーテン
製作:グレアム・キング、ジム・ビーチ、ロバート・デ・ニーロ、ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー、ピーター・オーバース、ブライアン・シンガー
製作総指揮:アーノン・ミルチャン、デニス・オサリバン、ジャスティン・ヘイザ、デクスター・フレッチャー、ジェーン・ローゼンタール

伝説的人気ロックバンド“クイーン”のボーカル、フレディ・マーキュリーの短い生涯を描いた音楽伝記ドラマ。監督は「X-MEN」シリーズのブライアン・シンガー。主演のフレディを演じたのは「ナイト    ミュージアム」のラミ・マレック。共演は「シング・ストリート 未来へのうた」のルーシー・ボーイントン、「ソーシャル・ネットワーク」のジョセフ・マッゼロ、「オースティン・パワーズ」のマイク・マイヤーズなど。

ペルシャ系インド人で、家族と共にイギリスに渡って来たフレディ・バルサラ(ラミ・マレック)は、その容貌から“パキ”と仇名され、コンプレックスを抱えて生きて来た。それでも音楽好きだったフレディはある日、地元のクラブに出演しているロックバンド、スマイルのブライアン・メイ(グウィリム・リー)とロジャー・テイラー(ベン・ハーディ)が、ボーカルが辞めたと話してるのを聞き、バンドに入れてくれないかと持ちかけ、歌声を認められて首尾よくスマイルに加入が認められる。やがてバンド名を“クイーン”と改め、フレディも姓をマーキュリーと改名する。互いに刺激し合うことで音楽的才能を開花させて行ったクイーンは次々とヒット曲を連発し、世界的なスーパースターへと駆け上がって行く。恋人のメアリー・オースティン(ルーシー・ボーイントン)とも愛を育んでいたフレディだが、ある日彼は自分が同性愛者である事に気づき…。

クイーンの名前は知ってはいたが、イギリスのロックバンド、と言えば私にとっては“ビートルズ”!。あとローリング・ストーンズかアニマルズ。特にビートルズについてはシングル、LP各レコードも一杯持ってるし、CD化されたものも全部集めてる、根っからのビートルマニア。
なのでクイーンについては、ほとんど関心がなく、ヒット曲のタイトルも、メンバーの名前すらも知らなかった。いくつかの曲には聞き覚えはあったけど、クイーンの曲とは知らなかった。

そんな私なので、クイーンの伝記映画なんか楽しめるだろうかと思い、見る気も起きなかったが、周囲でえらく評判がいいので、一応観ておくか、程度の気持ちだった。

ところがなんと、観ているうちにどんどん引き込まれ、ラストのクライマックスでは感動に包まれ、涙が溢れ、しばし呆然となってしまった。これは傑作である。

(以下ネタバレあり)

音楽伝記もの、と言えば、最近ではクリント・イーストウッド監督「ジャージー・ボーイズ」がある。あれも凄い秀作だったが、内容的にはあちらはミュージカルで、音楽的にも男性カルテット・グループで、やや大人しい、いかにも1960年代的な静かに聞かせるグループの伝記であった。

それに対し本作は1970~80年代の、ビートルズ以降を代表する人気ロック・バンドが主人公であり、作品タイプは大きく異なる。メンバー構成は同じ4人という共通性はあるが。

そして本作は主人公を、グループの中心的存在だったフレディ・マーキュリー一人に絞り、フレディという男の、45歳という短い、波乱に富んだ生涯に焦点を当てた作品になっている。これが成功している。

フレディは本名をファルーク・バルサラといい、東アフリカ・タンザニアのザンジバル島で生まれ、両親はインド生まれのペルシャ系インド人である事から、インドで幼少期を過ごしている。この頃から既にロックバンドで活動しており、音楽的才能は豊かだったらしい。
その後両親と共にザンジバルに戻るが、1964年ザンジバルに政変が起こり、命の危険を感じた一家はイギリス・ロンドンに移り住む。この時フレディは17歳。
ここまででも十分波乱の人生である。

ロンドンでは、貧しい生活をしながらいくつかのバンドで音楽活動にも勤しんでいた。そしてある日、スマイルというバンドにいたブライアン・メイとロジャー・テイラーと出会った事から、運命が大きく変わって行く。

音楽的資質は持っていたものの、そのインド系の容貌もあって偏見の目で見られ、なかなかその才能を生かすチャンスがなかったフレディだが、ブライアンとロジャーは、ルックスよりも彼の伸びのある歌声に惚れ込み、彼を仲間に加える。
彼らと出会い、互いに刺激し合い、切磋琢磨する事で、メンバーはそれぞれ音楽的才能を一気に開花させ、クイーンと改名したグループは自分たちで作詞・作曲も担当し、やがて世界的にも著名なロックバンドとして大きく飛躍する事となる。

運命と言うものは不思議なもので、もしフレディがブライアン、ロジャーたちと出会わなければ、フレディも音楽界では成功しなかったかも知れないし、クイーンというグループも誕生しなかったかも知れない。

ビートルズも、ジョン・レノンとポール・マッカートニーという二つの才能が出会わなければ、誕生しなかったかも知れない。つくづく、人の出会いというものは不思議で、運命的であると思わざるを得ない。

この映画が素敵なのは、移民であり、ルックスの面でも蔑まれ、社会の底辺で苦難を強いられていた男が、努力と才能でそこから這い上がり、やがて世界的一流スターへと駆け上って行く、まさに絵に描いたようなドラマチックなサクセス・ストーリーである点である。

しかし良い事ばかりは続かない。フレディは自分に同性愛嗜好があった事を悟り、愛する女メアリーがいながら、マネージャーのポールとの同性愛に走ってしまう。

それに加え、音楽的な方向性の違いからメンバーとの間に軋轢が生まれ、フレディが独立してソロ活動を行うようになって、クイーンは解体の危機にさらされる。
おまけに、ポールの行動に疑問を持ったフレディが彼を解雇すると、ポールはフレディとの同性愛生活をテレビでぶちまけ、フレディの評判は一気に地に落ちてしまう。
さらに、フレディはエイズを発症し、死期が近い事も明らかとなる。

成功の頂点から奈落への転落へ。まさに波乱万丈のドラマチックな人生だが、これがすべて実話だというから凄い。製作者が主人公をフレディ一人に絞ったのも納得である。

そうして、人生の最期が近づいた事を悟ったフレディは、もう一度メンバーと一緒に音楽活動をやり直す事を決意し、20世紀最大のチャリティ・コンサートと言われる “ライブ・エイド”に出場する事となる。

このラスト20分にも及ぶ “ライブ・エイド”コンサートのクイーンのパフォーマンスは圧巻である。実物大のウェンブリー・スタジアムのセットを作り、7万5千人の観客をCGも駆使して再現したシーンは、スタジアム内を自在に動き回る圧巻のカメラワーク、テンポいいカッティング編集、そしてフレディを演じたラミ・マレックの熱演も相まって、まるで本当にライブ・コンサートを体感しているような感動を味わい、クイーン・ファンでもない私でも鳥肌が立ち、興奮し、感動の涙が流れた。熱烈なクイーン・ファンならたまらないだろう。この20分を観るだけでも十分料金分の価値はある。

さりげなく差し挟まされる、フレディの父との確執から、ラスト間際の和解、特に父が常に言っていた、いくつかの教訓的教えを、死を目前にして実践した事を父に伝える、このシーンにもジーンとなった。

実話を元にした伝記映画であるだけでなく、成功から失意、そしてカムバック、興奮のエンディングと、ドラマチックなエンタティンメントの要素が一杯詰まった、これは涙と感動の王道娯楽映画の傑作である。

フレディを演じたラミ・マレックの熱演も大いに評価したい。まるでフレディ本人が乗り移ったかのような神ががり的演技には圧倒された。本年度の主演男優賞は決まりである。
それにしても、クイーンのリード・ボーカルとして最初に出て来た時は、その長髪姿でストーンズのミック・ジャガーかと思ったよ(笑)。

これは是非劇場で体感すべきである。出来るなら、IMAXの大スクリーンで鑑賞する事をお奨めする。      (採点=★★★★★

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(付記)
本作の制作に関わっている映画会社の一つが、グレアム・キング率いるGKフィルムズ。で、この会社、実は前述のクリント・イーストウッド監督「ジャージー・ボーイズ」の制作にも参加しているのである。つまりは近年の音楽伝記映画の2大傑作のどちらにも関わっていた事になる。プロデューサー冥利に尽きる、と言えようか。

(蛇足)
物語の中で、当時の曲の長さは3分以内が標準で、「ボヘミアン・ラプソディ」の6分という長さは、1975年の発表当時としては異例の長さで、ラジオで放送出来ないというエピソードが出て来るが、ビートルズが1968年に発表したシングル「ヘイ・ジュード」は既にこれを上回る7分の演奏時間だった。

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コメント

こんにちは。TBをありがとうございました。
本作、素晴らしかったです。記事の中に書かれていらっしゃいましたが、私も音楽実話物として「ジャージー・ボーイズ」をまず思い出しました。そしておっしゃるように、あちらは1960年代のどちらかというとやや大人しい感じ。ただですね、私は実話のストーリー的には「ジャージー・ボーイズ」の方がドラマがあったと思います。
本作はドラマ要素よりもむしろ、音楽のライブ感、ライブエイドに至るまでの盛り上がりが凄かったです。本当にラストはがつんときました。

投稿: ここなつ | 2018年11月19日 (月) 12:32

いい映画でした。
とはいえ当然ながら事実を元にした映画なので実話とはかなり違いがあります。
例えばライブエイドの時にはまだフレディはAIDSと診断されていなかったという点とか。
とはいえ映画としてはとてもよくできていました。
ラミ・マレックのフレディ・マーキュリーは実は本人には一番似ていませんが、なりきった演技で見せますね。
あとの3人はよく似ています。
ブライアン・メイとロジャー・テイラーが製作、音楽プロデュースをしているので演奏シーンはとてもいいですね。
特に最後のライヴ・エイドはシーンは素晴らしい。
エンドクレジットでは本物の演奏シーンも流れます。
実は最初に見た海外アーティストのコンサートがクイーンの初来日でした。
1975年4月25日。福岡の九電記念体育館で見ました。
私は18歳の浪人生でした。当時の日記を見るとチケットが貼ってありました。
クイーンのファンだったとはいえ浪人なのに鹿児島から博多までコンサート観に行くとは、、

投稿: きさ | 2018年11月21日 (水) 21:57

◆ここなつさん
おっしゃる通り、私も作品全体の出来は「ジャージー・ボーイズ」の方が優れていると思います。本作はラスト20分のライブ・シーンが突出して見事な出来で、ドラマ部分が霞んでしまった感がありますね。まあイーストウッドとブライアン・シンガーの監督力の違いとも言えるでしょうが。


◆きささん
クイーンのコンサートを生で見たのですか。それはうらやましいですね。
時系列が史実と異なるのは、フレディをAIDSも含めてどん底に落として、そこから這い上がってライブ・エイドで最高のクライマックスを迎えるという構成にした方が物語が盛り上がる、という計算があっての事でしょうね。史実通りに物語を進めたら、これほどの秀作にはならなかったと思います。うまい作り方だと私は思いますね。

投稿: Kei(管理人) | 2018年11月25日 (日) 00:23

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