「search/サーチ」
2018年・アメリカ/スクリーン・ジェムス=STAGE6 FILMS
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
原題:Searching
監督:アニーシュ・チャガンティ
脚本:アニーシュ・チャガンティ、セブ・オハニアン
製作:ティムール・ベクマンベトフ、セブ・オハニアン、アダム・シドマン、ナタリー・カサビアン
物語がすべてパソコンの画面上で展開する、異色のサスペンス・スリラー。監督はGoogle Glassだけで撮影した短編映画「Seeds」が注目を集めた27歳のインド系アメリカ人、アニーシュ・チャガンティ。出演は「スター・トレック BEYOND」のジョン・チョー、「ラッキー・ユー」のデブラ・メッシング、他。サンダンス映画祭で観客賞を受賞。
デビッド(ジョン・チョー)は、妻を病気で亡くし、娘のマーゴット(ミシェル・ラー)と二人で暮らしていた。ところがマーゴットが16歳の女子高生となったある日、彼女が忽然と姿を消した。警察は行方不明事件として捜査を開始するが、家出なのか、誘拐なのかわからないまま37時間が経過。娘の無事を信じる父デビッドは、彼女のPCにログインし、インスタグラム、フェイスブック、ツイッターといったSNSにアクセスを試みる。だがそこに映し出されたのは、いつも明るく活発だったはずのマーゴットとは別人の、デビッドの知らないマーゴットの姿があった…。
パソコンやスマホを使ってのSNSや動画配信システムが発達し、いまやほとんどの人がそれらを活用するようになった現在、映画の世界にも、それらを取り入れた作品が増えつつある。スクリーンの中に一部PCモニター上の映像が登場する作品は我が国でも「白ゆき姫殺人事件」(2014・中村義洋監督)などがあるが、“すべての物語がPCのモニター上だけで展開する映画”も既に2013年頃から海外でポツポツ作られており、2014年製作のホラー「アンフレンデッド」(レヴァン・ガブリアゼ監督)もそうした作品。これは2016年に我が国でも公開されたが、小規模公開という事もあってか、ほとんど話題にならなかった。
そこで本作の登場である。売りはやはり上にも挙げた“すべての物語がPCのモニター上だけで展開する映画”である。個人的には、「そんなの映画館の大画面で見て面白いか」と半信半疑だった。
ところが、これが予想外に面白かった。やはり先入観だけで判断してはいけない。特に脚本がよく練られており、犯人探しミステリー・ドラマの好きな方にはお奨めである。
(以下ネタバレあり)
映画は、デビッド一家に娘が生まれる所から始まる。その娘の姿をビデオ撮影した動画がPCモニター上に登場し、以降どんどん成長する娘の姿を中心に、デビッド一家の様子がホームビデオとして撮影され、PCモニター上に流されて行く、その画面がそのままスクリーンに現れる。
よく会議で、パワーポイント等によるプレゼンを行う際、プロジェクターを使ってPC画面がそのままスクリーンに投影される、あれとよく似た感じである。
最初の頃は画面が懐かしいWindowsXP仕様で、年数が経つごとに画面デザインが新OSに変わって行くのが芸が細かくてニヤリとさせられる。
この、娘が少しづつ成長して行く映像がなんとも可愛くて、同じように娘の成長記録をビデオに撮っていた私は、これ見るだけで涙腺が緩んでしまう。
ある日、マーゴットは父にFaceTimeの勉強会に行くと言って出かけるが、それきり行方不明となる。
デビッドは警察に連絡し、捜査が開始されるが、マーゴットの行方は杳として分からないまま時間が経つ。
いても立ってもいられないデビッドは、彼女のPCにログインしSNSにアクセスを試みる。こうして画面上には、メール、LINEのやりとり、インスタグラム、ツイッター等における文字、写真、動画が次々と現れ、それらに加えデビッドの操作するマウスポインターがモニター上をせわしなく動き回る。さらに、ビデオチャットによる双方会話の際には、時々モニター右下の自分側の映像がアップになったり…といった具合に、PC画面上の動きだけのはずなのに、スピーディで変化に富んだモンタージュがなされて飽きさせない。これはうまい演出である。
SNSやメールだけでなく、キーワードを入力してのグーグル検索による情報収集、ビデオチャット、テレビのニュース映像、さらには画面上の写真からちょっとした手がかりを得て、弟の行動を疑ったデビッドが弟の家に隠しカメラを仕掛けて、その映像もモニター上に映し出したりと、あらゆる種類の情報、映像がスクリーン上を飛び交う様はスリリングで引き込まれる。
この映画が出色なのは、“PCモニター上だけの展開”というギミックだけに頼らず、些細な手がかりから謎を解きほぐし、事件の真相を解明して行く謎解きミステリー・ドラマとしてもよく出来ている点であろう。中でも、ヒントとなるキーワードを入力するだけであらゆる関連情報が得られるPC検索手法を、謎を追い求めるミステリーの小道具としてもうまく使っているのはさすがである。
ミステリーの常道通り、犯人らしき人物の怪しい行動を見せて観客をミスディレクションするかと思えば、PCモニター上にさりげなく伏線をバラ蒔いたり、真犯人の姿をチラリ見せたりし、カンのいい観客には犯人が判る仕掛けをほどこしているのもミステリー・ファンには楽しい趣向である。
さらにプラス、愛する娘の行方を必死に追う父親の愛情も物語の芯になっており、これがラストで感動を呼ぶ仕掛けにもなってる。
“PCモニター上だけで展開”は一応のウリだが、もしこの物語をそんなギミックなしの、現実の街中を背景に正攻法で撮影したとしても、この作品はミステリーとして十分面白いだろう。それだけ脚本がよく出来ているわけで、やはり映画は脚本次第。PCモニター云々は、物語をさらに面白く、スリリングに見せる為の小道具的位置付けであり、だからこの映画は面白いのである。
「アンフレンデッド」がさっぱり評判にならなかったのは、結局ギミックだけに頼って物語作りを疎かにしていたからだろう。
多少無理やりな所(例えば警察署の取り調べ映像など)もあるが、まあこれらもPCモニター映像であるのは間違いないし、謳い文句は間違ってはいないという事になる。
思えば、PCの中、及びネット上には、実に膨大な情報が詰まっているわけで、居ながらにしてあらゆる情報が入手出来る現代ならではの新しい映画であると言えるだろう。もう一度じっくり見直せば、まだ気が付かないヒント映像や文言が画面のどこかに隠されているかも知れない。
そういう面も含めて、これはあの大ヒットした「カメラを止めるな!」と同タイプの、低予算であってもその分アイデアに工夫を凝らした、まさにデジタル時代、SNS時代にふさわしい映画だと言えるかも知れない(「カメ止め」の37分ワンカット映像も本来ネット放映用、つまりPCで鑑賞する為の作品だった)。
それにしてもこの作品、もし本当のパソコン画面で鑑賞したとしたらどうなるだろうか。特にフルスクリーンモードで観ていたら、つい錯覚してマウスを画面上で動かしたくなるかも知れない(笑)。 (採点=★★★★)
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コメント
日曜の午前回で私達の他もう一組で計4人鑑賞でした(246席)
ミステリーとしては予想外の所に着地するので見応えありました。
そういえば「アンフレンデッド」の他に「ブラック・ハッカー」
というのもありましたが、「search/サーチ」の方が秀逸かも。
本作は他の方に自信持って薦められそうです。
投稿: ぱたた | 2018年12月11日 (火) 14:58
◆ぱたたさん
「ブラック・ハッカー」は知りませんでした。こういうミステリー・タッチの作品は見逃さないはずなんですけどね。知らない間に公開されてすぐ終わってしまったのかも知れません。レンタル・ビデオ屋で探してみます。ありがとうございました。
投稿: Kei(管理人) | 2018年12月16日 (日) 01:04