「アリー スター誕生」
2018年・ アメリカ
配給:ワーナー・ブラザース映画
原題:A Star Is Born
監督:ブラッドリー・クーパー
脚本:エリック・ロス、ウィル・フェッターズ、ブラッドリー・クーパー
製作:ビル・ガーバー、ジョン・ピータース、ブラッドリー・クーパー、トッド・フィリップス、リネット・ハウエル・テイラー
1937年の「スタア誕生」以来、これまで3度映画化されてきた作品の、4度目のリメイク。「アメリカン・スナイパー」のブラッドリー・クーパーが初監督に挑戦。主演はブラッドリー・クーパーと、これが映画初主演となる歌手のレディー・ガガ。共演は「ドラフト・デイ」のサム・エリオット、「フォード・フェアレーンの冒険」のアンドリュー・ダイス・クレイなど。ゴールデングローブ賞主要5部門ノミネート。
アリー(レディー・ガガ)はウェイトレスとして働きながらスターになることを夢見ていたが、なかなか芽が出ず、場末のバーで歌わせてもらう日々を送っていた。そんなある日、世界的ロック・スターのジャクソン(ブラッドリー・クーパー)と出会う。アリーの歌声に惚れ込ジャクソンは、彼女を無理矢理自身のコンサートに招待した上、いきなり彼女をステージに上げ、一緒に歌う。これが観客の喝采を浴び、以後アリーは瞬く間にスターダムを駆け上がって行く。そして二人は恋に落ち結婚する。だがジャクソンは耳の聴力が次第に悪化し、不安から酒とドラッグに溺れて行く…。
4度目の再映画化だが、こういうお話(一流スターだった男が女の才能を認め、その助力で女はスター街道を駆け上るが、男は落ちぶれて行く)は戦前から何度も作られて来た、定番とも言うべき題材で、既に1932年に同内容の、ハリウッドを舞台にした「栄光のハリウッド」が作られている。1937年の1作目の「スタア誕生」は、この作品と基本ラインはほぼ同じである。また2012年に公開され、アメリカ・アカデミー賞を受賞したフランス映画「アーティスト」もストーリーはほぼ同じ。こちらは最後はハッピー・エンドになるけれど。
そんなわけで、お話そのものはベタで特に新味はない。で、注目はブラッドリー・クーパーの初監督のお手並みと、映画初主演のレディー・ガガの歌と演技という事になる。
どちらも“初”づくしで、冒険とも言える。
(以下ネタバレあり)
元々はクリント・イーストウッドが監督する予定だったが、主演女優の選考難(予定していたビョンセが妊娠で降板)など諸事情から降板し、主演のブラッドリー・クーパーが監督も兼ねる事になった。クーパーはイーストウッド監督の「アメリカン・スナイパー」に主演しており、その縁もあるようだ。しかし…イーストウッドの監督でも見てみたかったね。
お話の方は、歌を歌うのは好きだが、やや引っ込み思案な所があり、自分の容貌にも自信がないアリーが、ジャクソンに強引にステージに上げさせられ、その歌が評価された事で自信を持ち、やがて少しづつスターへの階段を駆け上がって行く。それはすべて、ジャクソンが彼女の才能を認め、引き立ててくれたから。
一方でジャクソンは、人気にやや翳りが差している。悪い事に、聴力がだんだん落ちて来ていて、このままでは聴力を失ってしまうと診断される。
ミュージシャンにとって耳は命取り。そうしたさまざまな不安が重なって、元々酒好きだったジャクソンはますます酒に溺れ、ドラッグにも手を出してしまう。
反対に、自分が引き立ててあげたアリーはどんどん人気が高まり、遂にはグラミー賞新人賞を獲得する。その会場にやって来たジャクソンは、酔っ払ってステージ上で失禁する醜態を演じてしまう。
人間とは弱いものである。落ち目になった自分に比べ、妻の方はどんどん有名になってスター街道を驀進している。それが妻アリーへの潜在的な嫉妬も重なってアリーをなじってしまったり、アリーの晴れの舞台をぶち壊しにしてしまったりの行動に現れてしまったのだろう。
そうした人間の弱さを、クーパーは的確に演じている。
アリーだけに焦点を当てず、ジャクソンという人間の内面も時間をかけてしっかり描かれているのは評価していい。ま、監督自身が演じている事もあるが。
レディー・ガガも、これが本格的映画出演は初めてとは思えないほど、スターとなりながらも、夫を深く愛する妻を自然体で見事に演じきっている。
まあ、ガガのこれまでの歩みが、主人公アリーと重なる部分も多いという面もあるだろうが。
その演技を引き出した、クーパーの監督手腕も見事である。
実は、この4つの「スタ誕」作品のうち、最初の2作は、ハリウッドを舞台にした、映画俳優夫婦の物語である。登場する授賞式もグラミー賞ではなくアカデミー賞である。
2度目の時は、主演がMGMミュージカルで歌い踊っていたジュディ・ガーランドという事もあって、ややミュージカル仕立てであった。ちなみに1、2作目とも正式タイトルは「スタア誕生」である。
3度目の「スター誕生」(1976)はバーブラ・ストライサンド とクリス・クリストファーソンという、共に歌手が主演という事もあって、舞台は映画業界ではなく音楽業界に改変されている。
本作は、その3作目のフォーマットを採用しているという事になる。従って厳密に言えば4度目のリメイクというよりは、バーブラとクリス主演の3度目リメイク作にインスパイアされた作品という事になる。
これを解説すると、1960年代までは映画が娯楽の中心で、“スタア”と言えば映画スターの事だったが、'60年代末期以降、映画産業が低迷し、映画はもはや娯楽の中心ではなくなった。76年の3度目のリメイク作が、主人公を映画俳優からミュージシャンに変更したのも、そんな事情があるからだろう。
これが見事に成功している。もし主人公たちが映画俳優だったら、いい演技をしたとしても、それに感動を覚える事はマレである。第一、評論家が褒めたとしても、我々映画ファンには本当に凄いか見当がつかない。
だが、名曲、並びに歌唱力のある歌手の歌声は、初めて聴いたとしても、その素晴らしさに観衆の多くが感動し、評判を呼ぶ事は「ボヘミアン・ラプソディ」で実証済である(「ボヘミアン-」ではラミ・マレックではなくフレディ・マーキュリーの歌声を使用していたが)。
実際私も、レディー・ガガは聴いた事がなかったのだが、その伸びのある歌声に感動してしまった。レディー・ガガとブラッドリー・クーパーがデュエットで「シャロウ」を歌うシーンでは、つい感極まってしまった。しかもこれがアフレコでもプレレコでもなく同時録音だと聞いて余計凄いなと思った。聞けばクーパーは何曲か作詞・作曲も手がけているそうで、クーパー、立派に歌手になれるよ。
そして最後、ジャクソンは過去3作同様、自殺してしまう。過去作品がすべてそういう結末なので仕方ない面もあるが、個人的にはアリーの献身的な夫婦愛でジャクソンが立ち直る、というハッピーエンドも期待したかった。
役者では、主演2人もいいが、ジャクソンの兄ボビーを演じたサム・エリオット、及びアリーの父親を演じたアンドリュー・ダイス・クレイが渋くて味のある好演。こういう脇の人物も丁寧に描いている点もいい。アンドリュー・ダイス・クレイ、どこかで聞いたようなと思ってフィルモグラフィ調べたら「
フォード・フェアレーンの冒険」の主人公フェアレーンを演じた人だった。元はスタンダップ・コメディアンで「カジュアル・セックス?」とかのコメディにも出ていたらしい。「フォード-」ではリーゼントでキメたキザな探偵を演っていたが、こんないい役者になったとはね。
ブラッドリー・クーパーの監督手腕もまず及第。若干間延びするシーンがないでもないが、ライヴ歌唱シーンの圧倒的迫力が少々のマイナス・ポイントをカバーして余りある。音楽ファンにはお奨めの力作である。クーパーの次回監督作も楽しみである。 (採点=★★★★☆)
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コメント
これはいい映画でした。
何よりも主演のレディー・ガガが素晴らしい。
レディー・ガガについては派手なメイクのダンスミュージックの印象しかなかったのですが、本作では素顔に近い役柄を好演、とても魅力的です。
女優としても一流。大胆に脱いでいるのも女優魂を感じました。
歌もとてもうまいです。ガガのファンになってしまいました。
ブラッドリー・クーパーはガガの演じるアリーを抜擢するスターミュージシャンも演じていますが、特訓したそうでミュージシャンになりきっていました。
演出も良かったですね。
イーストウッド版も見てみたかった気がしますが、これはこれで良かったかな。
レディー・ガガとトニー・ベネットとデュエット。レディー・ガガの歌唱力に驚愕。
https://www.youtube.com/watch?v=ZPAmDULCVrU&feature=youtu.be
投稿: きさ | 2018年12月27日 (木) 22:32
◆きささん
今年もよろしくお願いいたします。
私もレディー・ガガって奇抜なメイクしたキワモノというイメージしかなかったのですが、こんなに歌がうまいとは思いませんでした。今後は正統派シンガーとしても十分やっていけるのではないでしょうか。
本映画がその転機となればいいですね。
投稿: Kei(管理人) | 2019年1月 1日 (火) 12:18
、、、、、という事は5作目の「スター誕生」が出来る時は今度はユー・チューバー夫婦になるのだろうか。
投稿: ふじき78 | 2019年1月 9日 (水) 21:26