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2019年2月25日 (月)

「洗骨」

Senkotsu2018年・日本/よしもとクリエイティブ・エージェンシー
配給:ファントム・フィルム
監督:照屋年之
脚本:照屋年之
製作総指揮:白岩久弥
プロデューサー:高畑正和、小西啓介
主題歌:「童神」古謝美佐子

沖縄の離島・粟国島に残る風習“洗骨”をテーマとしたヒューマン・ドラマ。お笑いコンビ「ガレッジセール」のゴリが本名の照屋年之名義で脚本・監督を担当した。出演は、「散り椿」の奥田瑛二、「ママレード・ボーイ」の筒井道隆、「光」の水崎綾女、「キツツキと雨」の大島蓉子など。2018年開催の北米における日本映画祭“JAPAN CUTS”で観客賞を受賞。

沖縄の離島、粟国島。粟国村の新城家では、4年前に亡くなった母・恵美子(筒井真理子)の“洗骨”のために、長男・剛(筒井道隆)、名古屋で美容師をしている長女・優子(水崎綾女)らが4年ぶりに故郷に帰って来た。だが一人暮しの剛の父・信綱(奥田瑛二)は最愛の妻を失った心の痛手から酒浸りの日々。おまけに結婚もせずに妊娠したお腹で帰って来た優子の姿に親族たちは呆れ非難する。“洗骨”の儀式まであと数日、彼らは家族の絆を取り戻せるのだろうか…。

「ガレッジセール」のゴリと言えば、お笑い芸で活躍する傍ら、俳優としてもこれまで「嫌われ松子の一生  」「うた魂(たま)♪ 」「GOEMON」等数本の映画に出演しており、また2009年には「南の島のフリムン」で長編劇映画の監督としてもデビューする等、マルチな活躍をしている。

前監督作も、出身地である沖縄を舞台にしたコメディだったが、今回は沖縄・粟国島に実際に残る、風葬された死者の骨を4年後に洗い清める風習“洗骨”という儀式を題材とした、シリアスな家族ドラマである。なんとも描くのが難しいテーマに取り組んだものである。冒険とも言えよう。

これは実は、2016年にゴリが監督した短編映画「born、bone、墓音。」がベースになっており、これが好評だったので、改めて長編映画として作り直したものである。
それまでも、いくつもの短編映画を監督しており、また経歴を見ると、日本大学芸術学部映画学科演劇コースを中退したとあり、元々映画監督志望だったのかも知れない。これまでは「ゴリ」名義で監督して来たが、本作で本名・照屋年之名義で監督したのは、相当の覚悟・意気込みがあっての事だろう。

そして映画は、“洗骨”の風習を背景に、家族の絆、祖先との命の繋がりを正面から見据えた、素晴らしい人間ドラマの秀作になっていた。照屋監督渾身の力作である。

(以下ネタバレあり)

冒頭は、亡くなった恵美子の葬式の場面で、夫・信綱や娘・優子らも悲嘆に暮れている。
だが、そんな中、笑えるエピソードが用意されている。葬儀に参列した親類の一人が、最初は遠慮がちに葬儀の残り物をいただくのだが、だんだん厚かましくなって来る、そののんびりとした間合いもいいけど、これに彼らの叔母・信子(大島容子)が遂にブチ切れて大声で一喝、慌てて男は退散、というオチも微笑ましく、これで場内の空気も和らいだ。さすがは吉本お笑い芸人出身監督。
以後も随所に、湿っぽくなったり、とげとげしくなりそうな場面で笑えるシーンが挿入される。ただし吉本新喜劇のような、アホな事を言ったり蹴躓いたり転んだり、といったベタな笑いは一切登場しない。あくまでシリアスな物語がメインで、笑いはちょっとした潤滑油かスパイス、という感じである。このセンスがいい。

そして4年後、洗骨の為、都会で暮らす新城家の長男・剛と長女・優子が島に帰って来る。しかし父・信綱は妻の死後、酒に溺れる日々で、家の中も荒れたまま。剛や信子おばさんはそんな信綱を叱るが聞き入れそうもない。その上に優子は臨月のお腹を抱え、「私セックスして子供が出来た」と告白する。さらに剛も、妻とは離婚しているのに言いそびれている。新城家はもうバラバラの状態である。こんな状態で、大事な洗骨の儀式が出来るのか、周囲も観客も不安になる。

奥田瑛二の、情けないダメ父親ぶりの演技がいい。さすがである。優子役の水崎綾女も好演。そして信子おばさんを演じた大島容子の怪演、もとい快演が最高である。一族の中心的存在で、その貫禄ある肝っ玉おばさんぶりも、重要なポイントでのリーダーシップ、的確な一言もそれぞれ素晴らしい。この起用は大成功である。
その他、信子の夫とか、口さがない地元のおばちゃんたちとか、沖縄在住の役者たちのどことなくトボけた存在感がとてもいい。子供たちの演技も自然でいいし、役者がみんないい。

やがて物語は少しづつ転回を見せる。信綱は酔って酒瓶を割って頭に怪我してしまうが、喧嘩をしててもやはり親子、剛は父を医者に担ぎ込む。治療後、二人は口論し再び険悪な空気になるが、そこに入る、医者の「もう~他所でやってよ」とのツッ込みが笑え、硬直した空気を和らげる効果を上げているのがいい。

やがて、優子を妊娠させた勤務先の店長・神山(鈴木Q太郎)も島にやって来る。責任を取って優子と結婚したいと信綱に告白するが、どことなく頼りなさを感じるこの男に信綱はうんと言わない。後半はこの神山がお笑いパートをほとんど担当するわけだが、吉本的笑いがやや作品の空気を乱している感もある。ただ、外部の人間という事もあって、洗骨や風習について聞き役に回っているのが観客にも親切であり、それなりに役割を果たしている。

目立たないけれどいいシーンが、小魚の大群が海辺に現れ、村の人たちが総出で網で掬うシーン。無論信綱も剛も、神山までもが加わるのだが、終わっての達成感が、反目していた人たちの心を少しづつ近づける効果ももたらしている。それぞれの笑顔がとてもよく、見ている我々も心が和む。

そしてクライマックスの洗骨の儀式。これを実際の風習通りにきちんと描いており、骨を洗うシークェンスも隠す事なく丁寧に描写している。かなりリアルだが、覚悟して目を逸らさず見て欲しい。
ここで、それまでダラシなさが目立っていた信綱が、洗骨の厳粛な儀式をきちんと取り仕切り、家父長としての威厳を少しは取り戻す事ともなる。

その後に、優子が破水し、浜辺での出産シーンとなる。優子を担ぎ上げた事でギックリ腰となった信子が、寝転がったままで出産の段取りをテキパキ指示したり、頼りなかった神山もなんとかサポートしたり、みんながそれぞれに力を合わせ、助け合って無事出産に至るシークェンスは感動的でジーンとなった。
バラバラだった新城家が、これで家族の絆を取り戻すであろう事も感じさせる、爽やかな幕切れである。

そして、生まれた赤ん坊と、祖母である美恵子のとを画面の対角線上で対面させたエンディングの画もうまく決まっている。同時にこれは本作の原型であるゴリ監督の短編のタイトル「born、bone、墓音。」にある通り、英語ではどちらも“ボーン”と発音する2者、born(誕生)とbone(骨)の対面でもある。
このシーン、ちょっと「2001年宇宙の旅」のエンディング、スターチャイルドと地球を対面させた画を思い出させる。照屋監督、これは意識しての事だろうか。

観終わって感動した。洗骨の風習をベースに、人間の生と死の意味をきちんと問いかけ、同時に家族の絆、人々が助け合い、力を合わせて物事を成し遂げる、その大切さを、笑いと感動を巧みにブレンドし爽やかに描いた、これは素敵な秀作である。

照屋年之監督の、部外者かつ新人とは思えない見事な脚本、演出に脱帽である。

お笑い界出身の映画監督と言えば、あのビートたけしが、本名の北野武名義で監督した「その男、凶暴につき」が絶賛され、以後一流監督の道を歩んで来たのはご承知の通り。奇しくも、本作もゴリの本名名義監督デビュー作である。照屋年之監督、今後本作を足掛かりとして、本格的に本名で映画監督の道を歩んでくれる事を期待したい。頑張って欲しい。      (採点=★★★★☆

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