「サッドヒルを掘り返せ」
2017年・スペイン
配給:ハーク、STAR CHANNEL MOVIES
原題:Sad Hill Unearthed
監督:ギレルモ・デ・オリベイラ
脚本:ギレルモ・デ・オリベイラ
撮影:ギレルモ・デ・オリベイラ
編集:ギレルモ・デ・オリベイラ、ハビエル・ドゥチ
製作:ルイザ・カウエル、ギレルモ・デ・オリベイラ
セルジオ・レオーネ監督のマカロニ・ウエスタンの傑作「続・夕陽のガンマン 地獄の決斗」における伝説的ラストシーンのロケ地「サッドヒル」の復元に挑む有志たちを追ったドキュメンタリー。監督は本作が初長編作品となるスペイン出身のギレルモ・デ・オリベイラ。出演はロケ地を復元したサッドヒル文化連盟のメンバーを中心に、「続・夕陽のガンマン 地獄の決斗」の音楽を担当したエンニオ・モリコーネ、主人公を演じたクリント・イーストウッド、映画歴史家のクリストファー・フレイリング、映画監督のジョー・ダンテ、ヘヴィメタルバンド『メタリカ』のジェイムズ・ヘットフィールド、その他同作に関わった人たちが登場する。シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭2018 New Visions部門最優秀作品賞受賞。
2015年10月。1966年に撮影された映画「続・夕陽のガンマン 地獄の決斗」のファンたちが、ロケ撮影後49年ぶりに映画のラストシーンのロケ地であるスペインのブルゴス郊外ミランディージャ渓谷を訪問。ロケ地は草や土に埋もれ荒れ放題だったが、訪問者たちは手作業でこの墓地を掘り返し、撮影当時のままに復元しようとする。ニュースで聞きつけた多くのファンも続々とこの地に集まって来て、やがて映画の50周年記念のイベント企画が立ち上がり…。
イタリア製西部劇、いわゆるマカロニ・ウエスタンは私は大好きである。セルジオ・レオーネ監督が黒澤明監督「用心棒」を西部劇に翻案した「荒野の用心棒」を観て一気にファンになり、以後も多くのマカロニ・ウエスタンを見まくった。中でもやっぱり面白いのは「荒野の用心棒」を含むレオーネ監督のクリント・イーストウッド主演三部作「夕陽のガンマン」、「続・夕陽のガンマン 地獄の決斗」である。
特に「続・夕陽のガンマン-」は、前2作の大ヒットのおかげで潤沢な製作予算をかけられた事もあって、南北戦争の兵士たちの大激闘、橋の大爆破といったスケール感あるスペクタクル・シーンも盛り込まれた上映時間が3時間近くに及ぶ大作である。そして作品的にも、20万ドルの隠し財産をめぐっての人間の欲の絡み合い、戦争の空しさといった奥深いテーマが内包された、単なるエンタメ作品に留まらないレオーネ監督の最高傑作だと私は思うし、マカロニ・ウエスタンの中では一番好きである。またエンニオ・モリコーネ作曲の映画音楽も素晴らしい出来で、サントラ盤CDも持っていて今でも時おり聴いている。
そういう訳だから、この作品を愛する映画ファンも多いだろうとは思ってはいたが、まさか映画のロケ地を巡礼するだけでなく、今では荒れ果てたロケ地を掘り返し復元するような熱烈なファンがいるとは予想外だった。
その男たちは、いずれも「サッドヒル」と呼ばれるロケ地から近い町に住んでいるバーの経営者、教師、宝くじ売り、民宿の主人といった普通の人たちで、全員が映画「続・夕陽のガンマン-」の大ファンだった。何度かサッドヒルを訪れていたが、映画のシーンとは似ても似つかぬ荒廃ぶりに誰言うとなく、映画のシーン通りに復元したいという願望が湧き上がったらしい。
(ちなみに映画に登場するサッドヒル墓地は撮影用にオープンセットとして作られたもので、本物の墓地ではない)。
この映画を監督したギレルモ・デ・オリベイラはゲームを素材にした短編映画の監督で、You Tubeで数十万回アクセスを記録した事もあるそうだ。サッドヒルの話も友人から聞き、面白そうだと思ったので撮影許可を得て現地でカメラを回し始める。ただ当初はYou Tubeで流すくらいのつもりだったのが、彼らの情熱に感動し、またプロジェクト自体も次第に大きなものになって行ったので、オリベイラ監督はこれを1本のドキュメンタリー映画にしようと考え、「続・夕陽のガンマン-」製作に関わった人たちにもインタビューをする企画を思い付く。
こうしてオリベイラ監督は、当時のスタッフやエキストラとして出演した元兵士たちを探し当て、また映画評論家、熱烈なファンだという映画監督ジョー・ダンテ(「ピラニア」など)などの人たちにインタビューするうち、さらに構想は膨らみ、とうとう同作の音楽を担当したエンニオ・モリコーネや、なんと主演のジョーを演じたクリント・イーストウッドにも9か月もかけて粘り強く交渉し、出演してもらう事に成功する。
映画は、現地でのサッドヒル掘り返しの様子と、その掘り返しの中心メンバー(後に「サッドヒル文化連盟」を結成する)や、前記の出演者たちへのインタビューを並行して描く。やがてニュースを聞いて、ヨーロッパ中からファンがてんでにスコップやショベル、クワを手にして掘り返しに集まって来る。
まさに無償の行為である。それぞれの熱い思いがこちらにも伝わって来て胸が熱くなった。映画ファンって、素晴らしい。
インタビューでは、今まで知られていなかったいろんなエピソードも出て来るのが興味深い。当時のスペインはフランコの軍事独裁政権だったが、映画製作に協力するとかなりの金が下りると聞いて外貨が欲しいフランコ政権が全面協力、数百人の本物の兵士がエキストラ出演したり、5000基もの墓標製作にも協力したりした。
橋の爆破シーンでは、言葉の行き違いからまだカメラが回っていないのに誤って起爆スイッチを押してしまって橋が吹っ飛んでしまい、それで軍兵士たちの協力でもう一度橋のセットを作り直したというのも笑える。
やがて「続・夕陽のガンマン-」のクライマックス・シーン通りに、数千もの墓標を手作りで作成して埋め、とうとうサッドヒル復元は完成する。
そして映画製作50周年となる2016年、現地サッドヒルに野外スクリーンを設置し、「続・夕陽のガンマン-」の上映会が行われる。復元に関わった大勢の人たちやその家族も加わった盛大な上映会だが、映画上映前にサプライズとして、あのイーストウッドのインタビュー映像が流される。この思いがけないプレゼントに人々は歓喜し、泣き出す人もいる。
私もこのシーンではもらい泣きしてしまった。私もまた「続・夕陽のガンマン-」ファンであり、そして何より、イーストウッドの大ファンだから。
サッドヒル文化連盟の一人は「誰も相手にしてくれなくても一生懸命頑張れば、きっと奇跡は起こる」と言う。いい言葉である。
映画上映前に、メンバーが映画の登場人物3人にそれぞれ扮し、ラストシーン再現の寸劇を演じるシーンも、本当に楽しそうでうらやましくなって来る。
邦題もいい。この映画は実際に荒れたロケ地を掘り返すわけだが、忘れ去られようとしていたかも知れない埋もれていた名作映画をもう一度掘り起こした映画でもあるわけだから。
この映画は、「続・夕陽のガンマン-」ファンなら絶対にお奨めである。またファンでなくても、純粋な映画ファン、特に映画のロケ地巡礼を行っているような人であるなら、きっと感動するだろう。映画ファンの夢、無償の愛がいっぱい詰まった、これはそんなドキュメンタリーなのである。
上映館が少なく、また上映期間も短いのが残念だが、是非多くの映画ファンに観て欲しい。 (採点=★★★★)
(追記)
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