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2019年4月10日 (水)

「バンブルビー」

Bumblebee 2018年・アメリカ/パラマウント・ピクチャーズ
配給:東和ピクチャーズ 
原題:Bumblebee 
監督:トラヴィス・ナイト
原案:クリスティーナ・ホドソン
脚本:クリスティーナ・ホドソン、ケリー・フレモン・クレイグ
製作:ドン・マーフィ、トム・デサント、ロレンツォ・ディ・ボナベンチュラ、マイケル・ベイ、マーク・バーラディアン
製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ、ブライアン・ゴールドナー、クリス・ブリガム、エドワード・チェン

大ヒットSFアクション「トランスフォーマー」シリーズの人気キャラクター、バンブルビーを主役にしたスピンオフ作品。シリーズ1作目以前の1987年が舞台となる。監督はストップ・モーション・アニメ「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」が絶賛を浴びたトラヴィス・ナイト。これが初の実写作品となる。出演は「トゥルー・グリット」のヘイリー・スタインフェルド、「ザ・ウォール」のジョン・シナ、「ブリグズビー・ベア」のホルヘ・レンデボルグ・Jr、他。

1987年、海辺の田舎町。高校生の少女チャーリー(ヘイリー・スタインフェルド)は、父親を亡くした哀しみから立ち直れずにいた。18歳の誕生日に、知り合いの修理工場の廃品置き場で古びた黄色いビートルを見つけたチャーリーは、無理を言ってこの車を譲り受け自宅に乗って帰る。ところがその車が突然人型に変形した。チャーリーは最初は驚くが、記憶と声を失い“何か”に怯える黄色い生命体を可哀想に思い、彼を“バンブルビー(黄色い蜂)”と名付け、匿うことにする。やがてバンブルビーとチャーリーの間には深い友情が芽生えて行くが、そんな時、バンブルビーを追って宇宙から凶悪な敵がやって来る…。

マイケル・ベイが製作・監督した「トランスフォーマー」シリーズは、初期の頃はまあまあ楽しめたが、シリーズが進むにつれて次第に荒っぽく、騒々しい内容になって行って私はついて行けなくなり、4作目以降は観る気をなくしてしまった。アクションは派手でも、内容的には心を打つべき要素はほとんどない。

多分製作者側(特に製作総指揮のスピルバーグあたり)も、これではいけないと思ったのだろう、マイケル・ベイを監督から外し、新しい血を導入してリニューアルする事にしたようだ。それが、「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」で注目されたアニメーション作家、トラヴィス・ナイトの監督抜擢である。
「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」は日本文化を絶妙にフィーチャーした見事な秀作アニメであり、私も大好きな作品である。この人が監督するなら、と期待して映画館に出かけた。

(以下ネタバレあり)

出だしからサイバトロン星でのディセプティコン対オートボットとの派手な戦闘に、地球に到着したオートボットのB-127(後のバンブルビー)が、追って来たディセプティコンの一人とまたまた大激闘、どうにか敵を倒すものの自身も声帯を壊され喋れなくなるし、記憶メモリも損傷しと満身創痍。身を隠すためセンサーでデータを取り込んだフォルクスワーゲン、通称ビートルにトランスフォームする。

…という事で、これでバンブルビーがどうやって地球にやって来たか、何故他のオートボット軍団と違って喋れないのかの理由が明らかになるわけで、シリーズのファンならニヤリとさせられるだろう。

ここまでがアヴァンタイトル的部分で、いよいよ本編になると、ここでは18歳の少女チャーリーが、父を亡くした喪失感に加え、新しく義父となった男にも馴染めず、家庭内で居場所をなくしている様子がかなり丁寧に描かれる。同級生で密かにチャーリーに好意を持ち話しかけて来るメモ(ホルヘ・レンデボルグ・Jr)にも心どこか上の空。

そんな彼女の唯一の気晴らしが、父との思い出でもある車の修理。そんなわけで廃品置き場で見つけたボロボロになったビートルが気に入って、家に持ち帰り修理しようとすると、突然起動して人型ロボットに変身し、チャーリーは驚愕する。これがあのB-127だった。

B-127は記憶をなくし、自分が何故こんな所にいるのかも把握出来ず、ディセプティコンとの戦闘で痛めつけられた記憶がおぼろげに残っているのか、怯えている。可哀想に思ったチャーリーは彼を匿い、バンブルビーと名付ける。

こうして、宇宙からやって来たバンブルビーと、地球の少女・チャーリーとは次第に心を通い合わせ、友情が芽生えて行き、彼を追って来た敵ディセプティコンのシャッターとドロップキックや、彼らにバンブルビーが敵だとそそのかされた米特殊部隊長バーンズ(ジョン・シナ)からも追われ、チャーリーとバンブルビーは力を合わせて敵と戦う事となる。

何度か登場する敵とのバトルもなかなかの迫力だが、やはり見どころはチャーリーとバンブルビーとの絆で結ばれた友情であり、また時代が1980年代という事もあって、チャーリーの高校生活、級友メモとの淡いラブロマンス等、'80年代的青春映画の味わいもあって、こちらの面でも楽しめる作品に仕上がっている。

さらに加えて、随所にいろんな名作映画へのオマージュも感じられ、それらを探すのも映画ファンにとってのお楽しみである。

例えば、宇宙からやって来た生命体と地球の子供との友情と冒険は、明らかに本作の製作総指揮のスピルバーグが監督した「E.T.」オマージュである。
特に、チャーリーが留守の間、家の中でバンブルビーがガサゴソやってるうちに引っ掻き回してしまう辺りの描写は、「E.T.」での、エリオットが学校に行ってる間にE.T.が好奇心で家の中をウロウロ探し回ったり冷蔵庫を開けたりするシーンを思い出させる。
また「E.T.」では、E.T.が仲間に連絡を取る為、手製のアンテナを作って電波を送るシーンがあるが、本作では敵の2体のディセプティコンが仲間を呼び寄せる為に電波塔から電波を発信しようとするシーンが出て来る。これもオマージュっぽい。

同じく、宇宙からやって来た金属生命体(ロボット)と少年との友情が描かれる「アイアン・ジャイアント」へのオマージュも感じられる。アイアン・ジャイアントも地球落下の際に受けた衝撃で記憶を失っており、これまた本作と似ている。またどちらにも、腕の先から強力破壊光線を発射するシーンがある。

終盤の敵との壮絶な戦いでボロボロにやられ、一時はバンブルビーの眼のライトが消えてしまうシーンがあるが、これはシュワルツェネッガー主演「ターミネーター2」のラスト間際のT-1000との戦いで、シュワ扮するT-800がダメージを受け眼のライトが消えてしまうシーンを思わせる。死んだかと思われたが復活する所も似ている。
この作品もまた、金属製知的生命体と人間の少年との心の交流が描かれた、感動的な作品であった。

本作はこうした、非人間的生命体と、人間の少年少女との深い友情、心の絆を描くという一連の作品群に連なる作品と言えるだろう。いずれも泣ける感動の秀作と言う点でも共通する。
ガチャガチャ騒々しいだけだと思っていた「トランスフォーマー」シリーズから、こんな感動作が派生して来るとは思わなかった。トラヴィス・ナイト監督、さすがである。

映画ファンには、十分楽しめる快作である。

 
ただ、少々ツッ込みどころもある。チャーリーが敵の通信を防ぐ為、クレーンから鉄塔に飛び移るシーンは、まるで「スカイスクレイパー」だ。ドウェイン・ジョンソンみたいなマッチョならともかく、高校生の少女には無理だろう。また、敵にボコボコにされ傷だらけにされたバンブルビーが、その後ビートルにトランスフォームするとどこにも傷がない(フロントガラスも奇麗なままだ)のはどんなもんだろうとか。
さらにラストでバンブルビーが、丸まっちいビートルから、角ばったカマロに変身するのは無理がある気がする。それこそまるで「ターミネーター2」に登場する液体金属のT-1000みたいだ(笑)。

まあ、観ている間はそんな事気にしないで楽しめたから、野暮な事は言わない方がいいのかも知れない。

続編の話もあるようだが、もう元のマイケル・ベイ路線には戻らず、本作のタッチを継承して行って欲しいと思う。トラヴィス・ナイト監督には今後も期待したいが、出来れば「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」のような、スタジオ・ライカでのストップモーション・アニメも引き続き手掛けてくれる事も願いたい。  (採点=★★★★☆

 

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(余談)
私の世代だと、“バンブルビー”と聞けば、ベンチャーズのヒット曲「バンブルビー・ツイスト」を思い出す。

原曲はロシアの作曲家リムスキー・コルサコフ作曲のクラシック曲「くまん蜂の飛行」(Flight of the  Bumblebee)で、
ベンチャーズはこれをロック・ツイストにアレンジ、ノリのいい曲で今も人気がある。
(コンサート・ライブでの演奏はコチラ→ https://www.youtube.com/watch?v=hn_yMy7dFSs

エンドロールで、この曲を流してくれたら粋な計らいだと喜んだのだけれどね。

 

(さらに、お楽しみはココからだ)

Thelovebug バンブルビーがトランスフォームしたフォルクスワーゲン、通称ビートルを主人公にしたコメディ映画がある。

ウオルト・ディズニー・ピクチャーズが製作した「ラブ・バッグ」(1968)である。
こちらも、人間の心を持ったフォルクスワーゲンが、人間の主人公ジムと心を通わせ、友情で結ばれて行くお話で、本作とよく似ている。ジムがこのビートルに名付けた愛称はハービーで、バンブルビーとは末尾2文字まで同じだ(笑)。好評で、以後シリーズ化され4作も作られた。

フォルクスワーゲンは、擬人化しやすい車なのかも知れない。

ちなみに脚本・監督はオリジナル版「メリー・ポピンズ」と同じ、脚本:ビル・ウォルシュ、ドン・ダグラディ、監督:ロバート・スティーブンソンのトリオである。

Thelovebug2 さらに1975年には絵本にもなり、ディズニー・プロから刊行された(右)。ハービーの家の隣のビートルが登場するが、その車体の色がバンブルビーと同じ黄色なのである。偶然にしては出来過ぎている。

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