「キングダム」
2019年・日本/集英社=ソニー・ピクチャーズエンタテインメント= 日本テレビ放送網
配給:東宝=ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
監督:佐藤信介
原作:原 泰久
脚本:黒岩 勉、佐藤信介、原 泰久
アクション監督:下村勇二
製作:北畠輝幸、今村 司、市川 南、谷 和男、森田 圭、田中祐介、小泉貴裕、弓矢政法、林 誠、山本 浩、本間道幸
中国の春秋戦国時代を舞台にした原泰久のベストセラー漫画の実写映画化。監督は「いぬやしき」の佐藤信介。出演は「羊と鋼の森」の山崎賢人、「銀魂2 掟は破るためにこそある」の吉沢亮、「マスカレード・ホテル」の長澤まさみ、「鋼の錬金術師」の本郷奏多等の若手俳優に、高嶋政宏、大沢たかお等のベテラン俳優と多彩な顔ぶれ。
紀元前 255年、春秋戦国時代の中華西方の国・秦。戦災孤児の信(山崎賢人)と漂(吉沢亮)は、天下の大将軍になる事を夢見て日々剣術に励んでいた。そんなある日、漂は王都の大臣・昌文君(高嶋政宏)に召し上げられて王宮へ行く事となり、二人は別々の道を歩むこととなる。それから数日後、漂が重傷を負って信のいる納屋に辿り着き、地図を渡してすぐにそこへ行けと言い残し息絶えた。信は悲しみながらも、漂が手にしていた剣と地図を握りしめ走り出す。そして目的地に着いた時、そこにいたのは漂と瓜二つの男。この男こそ、弟・成蟜(本郷奏多)に玉座を奪われ、王都を追われた秦の若き王、嬴政(えいせい、吉沢亮:二役)だった。
最初に予告編を観た時、てっきり中国製作の映画だと思った。舞台は戦国時代の中国だし、壮大な建造物、遥か彼方にまで広がる大軍勢、さらに派手な大アクション…とかなりスケール感があり、どう見ても日本映画じゃ作れないだろうなと思った。が、資料を見てびっくり、原作も日本のコミック、資本も日本単独の純日本映画だった(原作は全然知らない)。
しかしまた不安がよぎる。中国の歴史時代劇を題材とした日本映画というのは、過去にも1962年の大映・70mm作品「秦・始皇帝」だとか、井上靖の原作を映画化した「敦煌」(1988・佐藤純彌監督)等、そこそこあるのだけれど、映像的には壮大で見応えはあるが、映画の内容そのものはどれもあまり面白くなかった。観客を楽しませる事より、“話題の超大作”として売る事だけで精一杯だからだろう。まあ日本の戦国歴史時代劇でも、三船敏郎他豪華配役が売りの「風林火山」だとか、製作費50億円の角川映画「天と地と」(90)だとか、黒澤明監督「影武者」(1980)だとか、とにかく製作費をかけたビジュアルばかり目立ってこちらも私にはつまらない作品ばかりだった。歴史上の実在人物を描いた時代劇はどうも面白くない。で、戦国ものでもやっぱり面白いのは、黒澤監督の「七人の侍」や「隠し砦の三悪人」などの、歴史上の実在人物が登場しないフィクション・エンタティンメントという事になる。
そんなわけだから、あまり観る気もしなかったのだが、割と評判がいいので一応観る事とした。
............
で、観終わっての感想。これは予想に反して(と言っては失礼だが)面白かった。前掲の「秦・始皇帝」の主人公と同じ、始皇帝の若き日を描いた作品なのだが、コミック原作という事もあってか、歴史ものにありがちな陰鬱さや重さがなく、いたって軽いノリで(なにしろ「ヤバイよ」とか「ビビッてんじゃねえよ」とかの現代言葉がポンポン出て来る(笑))、アクションにしろ悪役キャラにしろ、極めてマンガチックで爽快、観客を楽しませようという意欲に溢れた、ウエルメイドな時代劇エンタティンメントの快作に仕上がっていた。
歴史上の実在人物が登場する時代劇で、久しぶりに(初めてかも)面白い作品に出会ったと言ってもいいだろう。
日本映画も、遂にここまで出来るようになったかと感無量である。それだけでも点数が甘くなる。
で、なぜこの作品が面白いのかについて分析してみた。
それはやはり、奴隷出身ながら剣の腕を磨き、若き王・嬴政(えいせい)を助ける型破りの若者・信の存在だろう。
本来なら、この物語は後の始皇帝・嬴政が主人公であるはずなのだが、それだけでは面白くならない。この実在人物に、信という、嬴政とは出自も性格もまるで対照的な架空の人物(多分)を組み合わせる事によって、歴史ものでありつつ、自由に話を膨らませた、よりエンタメ度が増した作品になっているのである。
そしてこの信のキャラクター造形がまたユニークである。下層階級の奴隷出身という事で、着物も汚いし、剣の腕前も自己流である為かなり無茶苦茶。言葉使いもぶっきらぼうで、嬴政にも他の偉い人物にも敬語など使わず言いたい放題の傍若無人ぶり。
それが却って、王宮にいる人物にはない、破天荒だが魅力的な存在となって、やがては嬴政にとってもなくてはならない、頼れる味方、良き友として物語を牽引して行く事となる。一種の狂言回し的な役柄で、この着想が秀逸である。信に扮した山﨑賢人、やや物足りない所もあるがよく健闘している。
…で、この人物像、誰かと似ているなと思っていたが、思い出した、さっきも挙げた黒澤明監督の大傑作「七人の侍」における、三船敏郎が扮した、菊千代である。
菊千代も、生まれは百姓で、底辺から抜け出す為に侍になろうとした男であり、剣は自己流、言葉もガサツ、出で立ちもムサ苦しく、傍若無人な振る舞いで侍たちからは顰蹙を浴びるも、やがては侍と百姓たちとの間の潤滑油となり、チームに欠かせない存在となる。
実は最初に黒澤明が「七人の侍」のキャラクターを作った時には菊千代はいなかった。三船の役もちゃんとした侍だった。
ところが、黒澤以下の脚本チームが脚本を書いてる途中で、前に進めなくなってしまう。何かが足りない、それが分からない。
考えあぐねたあげく、「侍たちの中に、ジョーカーが必要だ」と気付き、侍ではない百姓出身の菊千代を創案した。それからは面白いように筆が進んだそうだ。
本作の信のキャラクターは、まさに菊千代とそっくりである。菊千代をプラスする事で「七人の侍」がぐんと面白くなったのと同様、この作品も信というユニークなキャラクターを中心人物に据える事で物語がずっと面白くなったと言えるだろう。
あと、心強い味方となる山の民の王、長澤まさみ扮する楊端和 (ようたんわ)のキャラクターも面白い。女ながら武術の腕も相当で、闘う場面は凛々しくカッコいい。さすがは「修羅雪姫」(2001)で釈由美子に豪快チャンバラ・アクションをやらせた佐藤信介だけの事はある。
ビジュアルとかアクションは、本家中国の歴史もの、武侠アクションに比べたらさすがにやや見劣りするが、日本映画でここまで出来たら十分及第点である。ヒットしているようなので続編も期待出来るが、続編はもう少しCGやエキストラ出演者等に予算をかけ、さらに出来るなら中国との合作で、中国本土全面ロケも加え、よりスケール感を増した作品になればと思う。頑張って欲しい。
(採点=★★★★)
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コメント
これは面白かったですね。
コミック原作でもこれだけちゃんと作るのはえらい。
中国の春秋戦国時代が題材というのが面白い。
佐藤信介監督の演出も快調。アクション監督も立てたアクションも素晴らしい。
俳優陣も主演の山﨑賢人、吉沢亮、長澤まさみ、橋本環奈はじめ好演していました。
10K体重を増やした大沢たかおの怪演も見もの。
脇役も充実していました。
投稿: きさ | 2019年5月29日 (水) 21:12
◆きささん
佐藤信介監督は作品にムラがあるので(「デスノート Light up the NEW world」は酷かったし「万能鑑定士Q」も困った出来)いまいち信用出来ないんですが、本作は良かったですね。この調子を持続して行って欲しいものです。
当然続編は作るでしょうが、原作が膨大なのでどこまで作れるでしょうか。聞く所では年1作作っても10年かかるとか言われてます(笑)。気長に待ちますか。
投稿: Kei(管理人) | 2019年6月 6日 (木) 23:17