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2019年5月 4日 (土)

「パッドマン 5億人の女性を救った男」

Padman 2018年・インド/コロムビア・ピクチャーズ
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 
原題:Padman 
監督:R・バールキ
脚本:R・バールキ
撮影:P・C・スリーラム
音楽:アミット・トリベディ

2000年代初頭のインドで、安全で安価な生理用品の普及に奔走した男の実話の映画化。監督はインド映画界で活躍する若手のR・バールキ。主演は「チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ」のアクシャイ・クマール。共演は「ミルカ」のソーナム・カプール。インド国内で初登場NO.1の大ヒットを記録した。

インドの小さな村で新婚生活を送るラクシュミ(アクシャイ・クマール)は、最愛の妻ガヤトリ(ラーディカー・アープテー)が高価な生理用ナプキンが買えず、不衛生な布で処置をしている事を知り、清潔で安価なナプキンを手作りすることを思いつく。だが作っては失敗、研究に熱中するあまりの彼の奇異な行動は村の人々からの誤解と批難に曝され、ついには村を離れるまでの事態となる。それでも諦めることのなかったラクシュミは、ある日彼の熱意に興味を示す女性パリー(ソーナム・カプール)と出会う…。

本作は昨年末から正月にかけて公開されており、観たかった作品だが、折悪しく私が年末に病気入院し、2週間の療養生活を送った為、とうとう見逃してしまった。

最近DVD化されたので、早速レンタルして観る事とした。

(以下ネタバレあり)

評判がいいのは聞いていたが、本当に面白い! 感動した。

それもそのはずで、これはある目的を成し遂げようと奮闘するも、最初は失敗続き、一時はどん底に堕ち込むが、それでも諦める事なくチャレンジを続け、仲間と力を合わせ、最後に見事大成功を収める…
という、まさに正統娯楽映画の王道パターンの物語であるわけで、これが実話だというから驚き。まあかなりドラマチックに脚色はされてるのだろうけれど。
本国で初登場興行第1位というのも納得である。

主人公の性格が、ある意味ぶっ飛んでいて、なにしろ思い立ったら周囲が何も見えなくなってしまう。

最愛の妻が、生理の時に汚いボロ布を使っている→市販の生理用品はとても高価→とにかく妻の為ならと、友人から借金をしてまで買い求める→妻は、そんな高価なもの使えないと断る→それなら自分で作ろうと思い立つ
男性なのに、女性が恥ずかしくて隠したいものを自作しようという発想が凄い。妻からも家族からもどんな批難を浴びようが猪突猛進、変人扱いされても、妻が実家に帰ってしまっても、それでも止めようとしない。愛する妻を助けようと始めた事なのに、ナプキン開発を取るか、妻を取るか、の二者択一に迫られた時、開発を取ってしまうのだから、とにかく変人である。
生理の血が漏れないか試す為に、自分で女性下着を買って自作ナプキンを装着し、動物の血を使って実験を行ったりする。そこまでやるか普通。傍から見れば変態にしか思えない。まあ昔から、世紀の発明をした人は自分や家族を実験台にする等、奇人変人が多かったらしいが。

時代は2001年、つい最近なのだが、それでも当時のインドではまだまだ女性の地位は低く、生理は穢れだと見做され、ラクシュミの妻も生理期間中は家の外で隔離されて寝ている有様。ナプキンの普及率は12%と出るが、つまりは富裕層しか使わないという事なのだろう。高価な理由もそこにあると思われる。

やがてパリーという理解者、協力者が現れ、彼女の支援もあってラクシュミの機械は発明コンテストで優勝し、新聞にも取り上げられて、ラクシュミの地元でも一時は賞賛の声が上がる。
だが彼が発明したのが生理用品製造機だと知ると、村の人々は一転、「あんな穢らわしい物を作るとは」と怒り出す。そのくらいインド社会の生理不浄意識は根深いのである。

そこでラクシュミは、パリーの協力を得て、女性たち自身でナプキンの製造、販売を行わせる事を思い立つ。女性が女性に売る事は抵抗が少ないからである。これが成功して、やがては女性が銀行ローンで機械を購入し販売する事で、結果として女性の経済的自立の道筋をも切り拓いて行く事となる。

ラクシュミの小さな思い立ちが、やがてはインド社会の古い規制概念をも変えて行くのである。素晴らしい事である。

ラスト間際の、国連でのラクシュミの、たどたどしいけれど心を打つ英語のスピーチも感動的である。
彼はまさしく、ヒーロー、パッドマンになったのである。

 
ラクシュミという人間が素晴らしいのは、これで金儲けをしようとしない点である。特許なんていらない、誰でも作って構わない、自分は賞金だけで十分だと言う。金儲けより、多くの人の役に立ったのならそれで十分だと言うのである。欲がなさすぎる。

これと正反対なのが、「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」でも描かれたレイ・クロックだろう。他人が開拓したビジネスモデルを横取りして巨万の富を得た男だが、もしラクシュミがレイのように、自分の発明した機械を独占特許で全国展開していたら、間違いなく億万長者になれただろう。
そうしなかったからこそ、この映画は後味が清々しい、素敵な作品になったわけである。ある意味この映画は、フランク・キャプラ作品にも似た、理想主義的作品だとも言える。

 
なおいろんなレビューで、ラクシュミが最後にパリーと別れ、妻の元に帰った事をあまり納得していない方が多いように見受けられたが、私はこのラストで正解だったと思う。

というのは、そもそもラクシュミがナプキン作りを思い立った一番の理由が、最愛の妻が生理に汚れた布を使っているのを見かねたから。
妻への、一途な愛があったからこそ、それが発明へと繋がったのである。自分の成功は、妻がいたからこそ。その愛はずっと変わらなかったはずである。

妻も、本心ではラクシュミを愛していただろうが、生理は穢れという古い因習、実家の圧力、女の領域に男が立ち入る事への社会全体の抵抗、というさまざまな空気に、妻も逆らえなかった事も理解出来る。決して夫が成功したから心変わりした訳ではないと思う。

もう一つ伏線がある。発明コンテストで優勝した直後、パリーはラクシュミに、「特許を取れば億万長者になれる、私に売上げの15%をちょうだい」と言って笑う。
この時ラクシュミは複雑な表情を見せる。多分、自分とパリーは違う世界の人間だと思ったに違いない。一緒に暮らしても、この先長く続くとは思えなかったのだろう。それがラストで生きて来るのである。

そういう点でも、この映画は人物のキャラクター設定が実にしっかり作られている、実によく出来た作品と言えるだろう。見事である。

昨年観ていたら、多分ベスト30以内には入れただろう。娯楽映画としても、社会派作品としても共によく出来た、インド映画の実力を見せつけたお奨めの秀作である。     (採点=★★★★☆

 

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コメント

これはいい映画でした、
演出も快調で俳優陣もみんなよかったです。
ラストはなかなか泣かせました。
私もラストはこれで良かったと思いました。
パリーは映画の創作人物だそうですし。

投稿: きさ | 2019年5月 5日 (日) 08:01

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