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2019年7月29日 (月)

「シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢」

Sink-or-swim 2018年・フランス 
配給:キノフィルムズ 
原題:Le grand bain (英題:Sink or Swim)
監督:ジル・ルルーシュ
脚本:ジル・ルルーシュ、アメッド・アミディ、ジュリアン・ランブロスキーニ
製作:アラン・アタル、ユゴー・セリニャック

スウェーデンに実在する男子シンクロナイズド・スイミングチームの実話を元にしたヒューマン・ドラマ。監督は「セラヴィ!」などで俳優としても活躍し、共同監督経験もあるジル・ルルーシュ。本作が初の単独監督作となる。主演は「潜水服は蝶の夢を見る」のマチュー・アマルリック、共演は「セザンヌと過ごした時間」のギョーム・カネ、「ベティ・ブルー 愛と激情の日々」のジャン=ユーグ・アングラードなど。

2年前からうつ病を患い、会社を退職して引きこもりがちな生活を送っているベルトラン(マチュー・アマルリック)。ある日彼は、地元の公営プールで「男子シンクロナイズド・スイミング」のメンバー募集を目にする。子供たちからは軽蔑され、義姉夫婦からも嫌味を言われる毎日を打破したいと思っていたベルトランはチーム入りを決意する。だがそのメンバーは、事業に失敗し自己嫌悪に陥るマルキュス(ブノワ・ポールヴールド)、ミュージシャンになる夢を諦めきれないシモン(ジャン=ユーグ・アングラード)など、皆家庭や仕事に問題を抱えた冴えない中年男ばかり。それでも元シンクロ選手のコーチ、デルフィーヌ(ヴィルジニー・エフィラ)のもと、さまざまなトラブルに見舞われながらも彼らは懸命のトレーニングに励む。そんな彼らが、無謀にもノルウェーで開催される世界選手権に出場する事になって…。

“男がシンクロナイズド・スイミングで頑張る”というお話…と聞けばすぐに思い出すのが、矢口史靖監督の出世作となった傑作スポ根コメディ「ウォーターボーイズ」(2001)。しかも本作の主人公たちは、同作の溌剌としたイケメン高校生たちとは全く違う、お腹の出たムサ苦しい中高年のオッサンたち“仕事にも生活にも行き詰った中年男たちが一念発起で頑張る”というお話では、1997年にイギリスで作られスマッシュヒットとなった「フル・モンティ」を思い出す。ご丁寧というか偶然というか、こちらも中年男たちが裸になって奮闘するお話だ(笑)。というわけで本作、早い話が「ウォーターボーイズ」+「フル・モンティ」。ただ、これが実話だというからビックリ。

(以下ネタバレあり)

主人公ベルトランは、うつ病で失業中で引きこもり気味。家族からも疎外されている。何とかしなければ、と思っても心は焦るばかり。

そんなある日、公営プールの掲示板で、「男子シンクロナイズド・スイミング参加者募集中」の張り紙を見つける。うつ病克服の一手段にでもなればとベルトランはこれに応募する。

メンバーはと言うと、これがベルトランと似たり寄ったりの、問題を抱えた中年おっさんばかり。

ミュージシャンになる夢を今も追っているシモン、会社を興しては倒産させてばかりいる起業家のマルキュス、短気で家族と揉めているロラン(ギョーム・カネ)、内気で女性経験のないティエリー(フィリップ・カトリーヌ)、黒人のアベニッシュ(バラシンガム・タミルチェルヴマン)、等々、途中参加者も合わせて計8人。

女性コーチのデルフィーヌ(ヴィルジニー・エフィラ)の指導の下、特訓に励むが、これまでの運動不足に加え、厳しい練習に音を上げ、なかなか上達しない。デルフィーヌも、やる気の見えないメンバーに呆れるばかり。

ところがデルフィーヌが事情で不在となった時、デルフィーヌのかつてのパートナーで、事故で今は車椅子生活のアマンダ(レイラ・ベクティ)が代理コーチを引き受ける事となる。
このアマンダの猛特訓が面白い。パワハラ紛いの強烈な罵声を浴びせ、怒鳴りまくり、河原でのランニングやスパルタ特訓を重ねる。まさに鬼コーチ(笑)。
この特訓のおかげで、ベルトランたちは少しづつ上達して行き、また仲間意識の高まりもあって、落ちこぼれていた彼らが、次第に自分たちの人生も見つめ直して行く。このプロセスが自然でいい。

随所にトボけた笑いを挟み込む脚本・演出もいい。例えばスポーツウェア等を買う金がないので、スーパーで万引きする作戦を立てるのだが、あっさり見破られてメンバーのクレジットで支払う羽目になったりとか。アマンダの罵詈雑言交じり特訓もなんとなくおかしい。

そうこうするうちに、なんとフランス代表として、ノルウェーで行われる男子シンクロの世界選手権に出場する事となる。
その前に、国内大会で勝ち進む必要があるのでは、と思うが、そんなのすっ飛ばしていきなりの世界大会とは、と疑問も残るが、コミカルでテンポいいルルーシュ演出に乗せられ、まあいいかという気分になる。
ベルトランたち8人はそれぞれに練習を重ね、また仕事の合間にも一人で模擬練習を行ったり、ひたむきに大会に向けて男たちの心が一つにまとまって行くプロセスにはちょっと胸が熱くなる。

シモンの所有するバスで、ベルトランたち8人のメンバーは陸路ノルウェーに向かう。車内での他愛ないが、互いの気持ちが通い合う会話も微笑ましい。

世界選手権会場で、各国の選手たちの見事な演技を見て、メンバーの一人が怖気づき逃げ出そうとする辺りも、この手の作品のお約束パターンである。それでも仲間たちの励ましに支えられ、覚悟を決め試合に挑む事となる。

本番の演技は、いつの間にこんなにうまくなったかと思えるほど(笑)、なかなか見応えのある演技で見せる。シモンが編曲した音楽や照明効果のおかげもあるが、会場の観衆も、そして観ている我々もいつの間にか、「おっさんたち、頑張れ!」と声援を送りたくなるほどである。
そして見事、演技を終えてプールから上がった彼らに、観衆から大歓声とスタンディングオベーションが浴びせられるシーンは感動的でホロッとさせられる。

試合の結果よりも、ヘタレで心にさまざまな問題を抱えていた中年男たちが、心を一つにして目的を達成した事で、「やる気になればどんな困難も乗り越える事が出来る」と自信を持った、その事が一番の成果である。ベルトランのうつ病も、これで全快したのは間違いないだろう。

ラスト、バスで帰途についた彼らが、夜明けを迎えた事を知って途中でバスを止めて降り、昇る朝日を荘厳な気持ちで見つめるシーンも感動的である。いい幕切れである。

 
実話をベースにしているとは言え、物語としては、落ちこぼれのダメ男たちが一念発起、練習を積み重ね、どん底から這い上がって最後に勝利する、という王道娯楽映画パターンをきちんと踏まえている。だから面白くて感動的なのである。

細かい所ではどうかと思えるシーンや、やや都合良過ぎる所などツッ込みどころもあったりで、秀作とまでは言えないが、十分楽しい作品に仕上がっている。「フル・モンティ」が好きな方にはお奨めである。

監督のジル・ルルーシュは、俳優として実績を重ね、特にフレッド・カヴァイエ監督によるフィレンチ・フィルム・ノワールの秀作「この愛のために撃て」の主演で注目された人である。これまでオムニバス作品も含め共同監督作品が2本あるが、単独監督作としてはこれがデビュー作となる。今後の活躍も期待したい。   (採点=★★★★

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(付記)
Swimming-with-men 本作のベースとなった実話は、よほど面白いお話のせいか、本作以外にも本国スエーデンで映画化された他、イギリスでも作られ、日本でも「シンクロ・ダンディーズ!」の邦題で9月公開予定となっている。3国競作というわけである。「シンクロ-」はなんと本作と同じキノフィルムズ配給である(宣伝部、混乱しないか?)。これも観たいね。

 

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