「ラスト・ムービースター」
2017年・アメリカ/A24=DIRECTV
配給:ブロードウェイ
原題:The Last Movie Star
監督:アダム・リフキン
脚本:アダム・リフキン
製作:ニール・マント、ゴードン・ホワイトナー、アダム・リフキン、ブライアン・キャバレロ
昨年、82歳で亡くなった名優バート・レイノルズ最後の主演作。監督・脚本は、「LOOK」のアダム・リフキン。共演はTV出身の新人アリエル・ウィンター、「キック・アス」シリーズのクラーク・デューク、「6才のボクが、大人になるまで。」のエラー・コルトレーン、「ヘアスプレー」のニッキー・ブロンスキー、「お!バカんす家族」のチェヴィ・チェイスなど。
かつて一世を風靡した映画界のスーパースター、ヴィック・エドワーズ(バート・レイノルズ)も、今は年老いて一人暮らし。世間からもほぼ忘れ去られかけている。そんなある日、国際ナッシュビル映画祭という所から功労賞受賞の招待状が届く。最初は無視していたヴィックだが、友人から是非出席しておけと言われ、しぶしぶ現地に向かう。ところが迎えに来た運転手はケバい服装のパンクギャル・リル(アリエル・ウィンター)。しかも映画祭とは名ばかりで、映画愛好家達がパブで開いたなんともショボい上映会だった。憤慨したヴィックは帰ろうとするが、そこは彼が生まれ育った街ノックスビルの近くである事を知り、リルにそちらに向かうように命令する…。
バート・レイノルズについては、昨年本ブログでも追悼記事を掲載したが、そこでも書いたように、近年はほとんど話題にならず、一応映画には出ているものの、低予算で日本未公開作が多く、まさにこの作品の主人公ヴィック・エドワーズと同様、半ば忘れられた存在だった。
本作は、亡くなる前年の2017年に作られたが、当然のように日本未公開。だが本年、タランティーノ監督作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」が公開され、そこでレイノルズが主人公のモデルの一人であり、かつ出演も予定されていた事が話題となったせいか、ようやく日本でも公開される事となった。ただし公開規模はごく小さく、ちょっと油断してたらシネ・リーブルの上映が朝一番のモーニング・ショーだけになっていた。仕方なく仕事を午前中サボって(笑)鑑賞。
観て良かった。あやうく見逃す所だった。バート・レイノルズ最後の出演作である本作は、小品だが、全編にレイノルズに対する熱いオマージュが込められており、最後は泣けた。映画ファンなら観ておくべき佳作である。
(以下ネタバレあり)
物語は、主人公ヴィックの老いた愛犬が、病気で手の施しようがない事を獣医から告げられ、安楽死させる所から始まる。帰りの車の中で、残された首輪を見つめるシーンが物悲しい。あるいは彼自身の遠くない未来の姿をそこに見たのかも知れない。
そんなある日、「国際ナッシュビル映画祭」からの、功労賞受賞と出席を依頼する招待状が届く。友人(懐かしやチェヴィ・チェイス。老けたね)に相談すると、ジャック・ニコルソンやロバート・デ・ニーロ、クリント・イーストウッドも受賞した映画祭だから是非行けと奨められる。
ところが飛行機のチケットがファーストクラスでなくエコノミーだった事でヴィックはまず不審に思う。着いた空港に迎えに来たのも、リムジンでなくオンボロ自動車で運転手はピチピチのパンクファッションに身を包み、鼻にピアスをした、どう見てもガラの悪そうな小娘リル。運転中もスマホで電話してるかメール打ってるので危なくてしょうがない。
着いた表彰式場も、なんと狭いパブで、レイアウトも粗末な手作り。どこが国際映画祭だとヴィックは騙された気分になる。
不審に思い、「本当にデ・ニーロやイーストウッドが来たのか」と訊ねたヴィックに、リルが「誰も来なかった。招待に応じたバカはあなただけよ」と返すシーンには大笑いした。
それでも、規模はチンケでも、かつての大スター、ヴィック・エドワーズへの敬愛とオマージュに溢れたファンたちの熱い思いを感じて、しばらくは付き合うも、やっぱり気分は晴れず、席を外してパブで酒をあおり泥酔してしまう。そして泊まる所も狭く汚いモーテルである事を知ってついに怒り爆発。翌日表彰式をキャンセルして帰ると言い出す。
リルの車に乗って空港へと向かうが、途中ノックスビルへの案内標識を見たヴィックは、急に予定を変え、ノックスビルに行けとリルに命令する。そこは実は、ヴィックの生まれ育った町だったのだ。
自分の生家、大学時代フットボールで活躍したスタジアム、別れた最初の妻にプロポーズした川べり、そして彼女が余生を送る養老院…とヴィックの聖地(生地)巡礼の旅が続けられる。
最初は気難しいジイサンと思って嫌々付き合っていたリルも、過去を懐かしみ、そして別れた妻に対するヴィックの深い後悔の念を感じ取って、次第にヴィックに親愛の情を抱いて行く辺りが、リフキン監督のきめ細かな演出もあってとてもいい。
夜遅くなって妻に面会出来なかったので、翌日回しにしてホテルに泊まるシークェンスも愉快だ。満室だという事で一旦は断られるが、そこをなんとかと懇願されたフロントが支配人に相談すると、なんと最上階のスイートルームが用意され、料金はスタンダードで結構ですと言われる。後でフロントがどうしてと聞くと、「あれは伝説の人だ」と答えるのがジンと来る。
翌日のちょっとしたハプニングも含めて、世間からは忘れられても、彼が生まれ育ったこの町の人たちが、ヴィックを今も心から敬愛している事が伝わり、リルも、そして観客もとても温かい気分となる。
この後養老院に向かい、再会した最初の妻を無理矢理連れ出し、かつての思い出の場所で、もう一度彼女に指輪をはめてあげるシーンでは涙腺決壊。もう泣ける、泣ける。
そして本人不在で始まろうとしていた表彰式に到着したヴィックが、主催者から渡された手作りトロフィを、有難く受け取るシーンとヴィックのスピーチにも感動し、又泣けた。
金のかかった、どんな有名な映画祭よりも、彼を愛する映画ファンが手作りで心を込めて開いてくれた、このささやかな映画祭が、ヴィックにとっては一生心に残る素敵なセレモニーとなった事だろう。
私自身も、ささやかだがファン手作りの映画祭に関わって来ただけに、余計涙が溢れた。こんなに泣けたのは久しぶりだ。
前半は鼻持ちならない嫌な小娘だと思っていたリルが、終盤になるに連れてどんどん可愛らしくなって来る辺りもいい。リルを演じたアリエル・ウィンター好演。今後が楽しみな新人である。
そのリルをどうやら好きらしい、映画祭スタッフの若者、なんと「6才のボクが、大人になるまで。」の6歳から18歳までを演じたエラー・コルトレーンではないか。いい若者に成長したね。
途中2ヵ所、レイノルズが主演した「脱出」と「トランザム2000」のワンシーンを使用し、CG加工して現在のヴィックと同作品の若くて精悍なレイノルズが並んで共演するシーンが登場するのも楽しい(下)。ここも見どころである。また上映会では、レイノルズが出演したテレビドラマ西部劇「ガンスモーク」が上映されていたのも嬉しい。
考えたら、この映画自体が低予算の独立プロ作品で、有名俳優も出ていないささやかな作品ではあるが、バート・レイノルズに対する熱い思いとリスペクト精神ではどんな金のかかった大作にも負けない素敵な作品になっており、まさに当の映画祭と同じような立ち位置にある。
本作が、結果としてレイノルズの遺作になったのも良かった。こんなチャーミングな作品に最後に出られて、レイノルズも満足だろう。
昔、バート・レイノルズのファンだった方には必見であるが、レイノルズを知らなくても、映画を愛する人ならきっと楽しめるだろう。特に「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を観た人なら、レイノルズがモデルのリック・ダルトンの、50年後の姿が本作のヴィックだろうと想像を働かせれば、より楽しめるに違いない。
何度も観たくなる、珠玉の小品佳作である。
(採点=★★★★☆)
(付記)
ちなみに、“国際”が付かない“ナッシュビル映画祭”は実在する。こちらが同映画祭の公式ページ。
→ https://nashvillefilmfestival.org/
今年で創立50周年になる、アメリカ南部では最大の映画祭だそうだ。こちらにはニコルソンやデ・ニーロ、イーストウッドは出席したのかな(笑)。
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