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2019年10月19日 (土)

「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」

Longwaynorth 2015年・フランス=デンマーク合作
原題:Tout en haut du monde (世界の頂点)
配給:リスキット、太秦
監督:レミ・シャイエ
脚本:クレール・パオレッティ、パトリシア・バレイクス
作画監督:リアン・チョー・ハン
音楽:ジョナサン・モラリ

19世紀後半のロシアを舞台に、行方不明の祖父を捜すため北極点を目指す旅に出た少女の冒険を描く、フランス・デンマーク合作による長編アニメーション。監督は本作が長編デビュー作となるフランス出身のレミ・シャイエ。主人公サーシャの声は「偉大なるマルグリット」のクリスタ・テレが担当。アヌシー国際映画祭・観客賞、TAAF(東京アニメアワードフェスティバル)2016・グランプリをそれぞれ受賞した秀作。

19世紀ロシア、サンクトペテルブルグで暮らす14歳の貴族の子女サーシャ(声:クリスタ・テレ)。大好きな祖父は1年前に北極航路の探検に出たきり行方不明となり、捜索船は出たものの、いまだに見つからずにいた。そんなある日、サーシャは祖父の部屋で航路のメモを発見する。それを元に祖父の再捜索を皇帝の甥であるトムスキー王子に頼もうとするが、却って王子の不興を買い、父からも叱責されてしまう。意を決したサーシャは誰にも頼らず自ら祖父の居場所を突き止める旅に出る。途中で数々の困難にもぶつかるが、それらを乗り越え、サーシャはようやく北方行きの船に乗り込み、“地球のてっぺん”(北極点)を目指す…。

Dilliinparis 先日、「キリクと魔女」「アズールとアスマール」などで知られるフランス・アニメーション界の巨匠ミッシェル・オスロ監督の新作「ディリリとパリの時間旅行」を観た。さすがオスロ監督、うっとりするような色彩と、パリの街で繰り広げられる勇気と冒険の物語に感動したばかりだが、またまたフランス製アニメの傑作が登場した。それが本作である。

今年はフランス製アニメ大当たりの年と言えるかも知れない。もっとも本作の製作年度は2015年。我が国での公開は4年も遅れてしまったが、ともかくも観る事が出来たのは喜ばしい。

ちなみに、どちらも少女の冒険物語という共通性がある。

(以下ネタバレあり)

まず、映像が素晴らしい。近年のアニメとは異なり、人物の輪郭線がない。色彩も柔らかなパルテル画調で背景もごくシンプル。まるで動くポスター画を見ているようだ。

Longwaynorth3

Wanpakuouji 東映動画の初期の作品「わんぱく王子の大蛇退治」(1963)を思い出した。

主人公は14歳の貴族の娘サーシャ。彼女が大好きだった祖父は1年前に北極探検に出かけたまま行方不明となり、たまたま祖父の書斎で祖父が書いた航路のメモを彼女が見つけ、それを元に再捜索を周囲に求めるが、父も含めて誰一人彼女に耳を貸す人はおらず、それならとサーシャはたった一人で祖父を探す旅に出る。

港町に着いたものの、なかなか北方に行ってくれる船も見つからず、やっと乗せてくれそうな船員に出会い、旅費代わりに大事にしていた祖父の形見の耳飾りを渡すと、知らない間に船は出てしまい途方に暮れたりと、さまざまな試練が彼女を待ち受ける。

それでもなんとか北方行きの船に乗り込む事が出来、北極点を目指すが、氷山に阻まれたり、乗った船が沈没したり、一行は幾度も命の危機にさらされる。そうした困難を何度も乗り越えた末に、最後は遂に祖父の船を発見するまでの波乱万丈の勇気と冒険の旅が描かれる。

Longwaynorth2

映像も美しいが、登場人物のキャラクター設定がそれぞれ秀逸。
サーシャはロシア貴族の娘ゆえ、貴族の気高さは持って生まれたものだが、それに加え、強い意志、厳しい環境への順応性と探究心も併せ持つ。

物語が進むに連れ、サーシャはさまざまな経験を通して逞しく成長して行き、どんな困難に陥ろうとも決死て諦めない不屈の闘志をも獲得して行き、男たちを鼓舞しリードさえもするほどになる。観客はいつしかサーシャに対し「頑張れ!」と声を掛けたくなって来る。

脇の登場人物もみんな魅力的である。港町の食堂の女主人オルガは、最初に登場した時はおっかない感じだったけど、騙されて置いてきぼりにされたサーシャを気の毒に思い、住み込みで食堂で働くよう世話を焼く。当初は慣れない仕事にまごつくサーシャだったが、次第に上達し、調理・給仕のスキルを身に着けて行く。これが後の航海でも生きて来る辺りがうまい。
北方に向かう船の、船長以下乗組員のキャラクターもそれぞれ個性的に描き分けられている。サーシャに好意を示す少年との交流シーンもいいし、例の耳飾りを騙し取った(形になった)調子のいい一等航海士のラーソンも、後半では重傷を負った船長の代わりとなって活躍する。そうそうサーシャを助け大活躍するワンちゃんも可愛い。

そしてテーマとして訴えかけて来るのは、どんな絶望的な状況にあろうとも、不屈の闘志と勇気を持って立ち向かう事の大切さであり、そんな過酷な試練が、人を成長させて行くという事なのである。少女サーシャの、決して諦めない行動力が奇跡をもたらすラストには感動してしまった。

シンプルな絵なのに、過酷な自然の描写、人物の表情が豊かなのにも感心する。

 
それにしても、公開規模があまりに小さ過ぎる(大阪ではミニシアターの第七芸術劇場のみ)。素敵な秀作なのに、もったいない。

実はこの作品、ジブリの故・高畑勲氏が高く評価し、日本公開を強く望んでいたとの事である。ちょっと前だったら「バッタ君町に行く」「雪の女王」等のように“三鷹の森ジブリ美術館”配給で全国公開出来たと思うのだが。アニメ製作を停止した現在ではそれも難しくなったのだろうか。公開を待たず高畑さんが逝去された事も残念だった。

アニメ・ファンなら必見であるが、そうでなくても映画ファンなら観ておくべき。今年公開のアニメの中でも一押し作品である。
特に、十代以下の子供たちにこそ是非見せてあげたい。勇気とは何か、冒険心とは何か、きっと考えさせられ、心に残るだろう。

ただ、この邦題は疑問。英題とフランス語の原題をくっつけただけで、これではどんな映画なのか分かり難い。私だったらズバリ「少女サーシャの北極大冒険」にする。この方がずっと分かり易いし興行的にももっと数字が伸びただろうに。一考すべきではなかったか。もったいない。    (採点=★★★★☆

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