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2019年11月 6日 (水)

「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」

T34 2018年・ロシア
配給:ツイン
原題:T-34
監督:アレクセイ・シドロフ
脚本:アレクセイ・シドロフ 
製作:ニキータ・ミハルコフ、ルーベン・ディシュディシュヤン、アントン・ズラトポルスキー

第二次大戦下、捕虜となった戦車兵が戦車を使って脱走する、実話をベースにしたロシア製戦争アクションの快作。「太陽に灼かれて」等の名匠ニキータ・ミハルコフ監督が製作を務めている。脚本・監督は「アルティメットウェポン」のアレクセイ・シドロフ。出演は「アトラクション 制圧」のアレクサンドル・ペトロフとイリーナ・ストラシェンバウム、「ジェイソン・ボーン」のヴィンツェンツ・キーファー等。ロシア国内では800万人の観客を動員する大ヒットとなった。

第二次世界大戦のさなか、ソ連の新米士官イヴシュキン(アレクサンドル・ペトロフ)は、戦車長として初めて出撃した前線で、ナチスのエリート将校イェーガー大佐(ヴィンツェンツ・キーファー)率いる戦車隊を相手に大健闘するも、最後は敗れて捕虜となる。収容所で過酷な捕虜生活を送っていたイヴシュキンはやがて、ナチスの戦車戦演習の訓練相手に指名される。その演習では修理整備したソ連の最強戦車T-34を持たされるものの、弾を装備することは許されず、逃げ回ったあげくに最後は死ぬ運命が待ち構えていた。だがイヴシュキンは密かに砲弾を入手し、3人の仲間と共に決死の脱出を敢行する計画を立てるのだが…。

珍しいロシア製の戦争映画である。1950年代から70年代にかけての旧ソ連時代には、ソ連製の戦争映画は多く作られ、日本にもかなり輸入・公開されていた。ソ連崩壊以後は、単に輸入されなかっただけかも知れないが、ロシア製の戦争映画はごく少なくなった。
そのソ連時代の戦争映画は、戦争の空しさを追及する小規模な作品(「僕の村は戦場だった」「戦争と貞操」「誓いの休暇」等)と、反対に国家を挙げての大スケールの超大作(「ヨーロッパの解放」4部作、「戦争と平和」等)の2傾向にほぼ分かれていた。

T343 そんな中で、1964年に作られた「鬼戦車T-34」(ニキータ・クリーヒン、レオニード・メナケル監督)は、捕虜のソ連戦車兵が演習中に戦車に乗って脱走、ソ連領を目指し疾走するという、小規模ながらソ連製にしては珍しくなかなか痛快でスリリングな作品で、翌65年に我が国でも公開された。これは実話に基づいているそうだ。

で、本作はこの「鬼戦車T-34」のリメイクである。

(以下ネタバレあり)

ただ、“演習中に捕虜のソ連戦車兵がT-34戦車を使って脱走し、追って来るドイツ軍をかわし逃げる”という基本設定は同じだが、「鬼戦車T-34」(以下「旧作」と呼ぶ)では開巻すぐ捕虜収容所のシーンから始まるし、また実弾は持っておらず、追手からただただ逃げるだけだったのが、本作では前半主人公イヴシュキンが敵のイェーガー大佐と2度にわたって対決し、激闘の末に敗れ捕虜となるまでが時間をかけて描かれるし、またドイツ軍が捕獲したT-34の内部にあった砲弾6発をうまく隠して保有し、ドイツ戦車部隊と大戦闘を繰り広げる展開となっている。これによって旧作よりずっとエンタメ度が増して、ハリウッド戦争映画に近いアクション娯楽大作となっている。CGをふんだんに使い、超スローモーションで砲弾が飛び交う、まるで「マトリックス」を思わせる映像も迫力がある。これらのVFXにはなんと「バーフバリ 王の凱旋」を手掛けたFilm Direction FXが加わっているというから、アクションにかける本気度も相当なものである。

ロシア映画も随分変わって来たものである。昔のソ連時代のカタさからは想像も出来ない。もっとも近年になってアクション・シーンのあるロシア製戦争映画は増えて来ているらしいし、2015年には「ハードコア」という一人称SFアクション映画がロシアで作られているから、その流れから本作が誕生したのかも知れない。

 
冒頭の、イヴシュキンが運転するトラックが、敵戦車の砲撃から逃げ回るシークェンスからしてスリリングで、観客を興奮させ一気に映画世界に引きずり込む事に成功している。
ここでイヴシュキンが相方に、「戦車の砲身が止まってから4つ数えろ」と言い、4つ目にハンドルを切って敵砲弾から巧みに逃げる描写が、後の伏線になっているのもうまい。
またこの時、敵の指揮を執っていたイェーガー大佐が、以後も数度にわたりイヴシュキンと壮絶な戦いを繰り広げる事となる。

イヴシュキンたちが、捕獲されたT-34の内部清掃を強制され、その時戦車内部の死体の下から砲弾6発を見つけ、死体をカモフラージュに砲弾を隠すのだが、後のアクション・シーンに必要とは言え、これを見逃したドイツ軍も少々間抜けである。イェーガー大佐らしくもない。まあソ連兵の死体が腐敗して悪臭を放っているので(イヴシュキンですら嘔吐したくらいだから)ドイツ兵が中に入るのを嫌がったから、と解釈しておこう。

ドイツ軍に捕まり、ドイツ語が堪能な事からドイツ軍の通訳として働かされていた女性アーニャ(イリーナ・ストラシェンバウム)が、脱走計画を察知してイヴシュキンに「一緒に連れて行って」と懇願するのだが、この女性は旧作には登場しない。
ただ、通訳とは言え捕虜なのに、アーニャがイェーガーの事務所に侵入し地図を盗み出したり、簡単に外に出してもらえたりするのは少し不自然。もう少し工夫すべきだったと思う。

しかし脱出してからの、追っ手のドイツ軍戦車部隊との戦闘シーンは凄い迫力。前述のように、砲弾が飛び交う様を超スローモーションで描いたシーンは圧巻である。その砲弾が戦車の外壁をカスると、内部でもの凄い音が反響し、乗員が耳を塞ぐシーンも初めて映画で観た。

そうかと思うと、バス停で待っているアーニャの前にイブシュキン操るT-34が悠々と姿を見せるシーンでは、バス停にいたドイツの婦人たちが目を丸くしたり、脱走兵たちが食糧や衣服を調達するシーンなども含め、随所にユーモラスなシーンがあって楽しい。また演習の前、最初にイヴシュキンたちがT-34を動かすシーンでは、片側の車輪を固定して旋回してみせる優雅な動きに合わせ、チャイコフスキー作曲の「白鳥の湖」が流れるのも楽しい。アレクセイ・シドロフ監督、なかなかやってくれる。

そしていよいよ終盤のクライマックス、追って来たイェーガー大佐率いるドイツ戦車軍団との対決シーンが最高の見せ場となる。ここでは、夜の狭い街中で、行く手の道で待ち伏せる敵との、知力を尽くした戦いぶりに思わず手に汗握ってしまう。
そして最後に残った、イェーガー大佐の乗るドイツ・パンツァー戦車との一対一の対決は、まるで西部劇、あるいは騎士道の決闘を思わせ、ゾクゾクさせてくれる。
ここらは、駆逐艦と潜水艦のそれぞれの艦長が息詰まる対決を繰り返すアメリカ映画「眼下の敵」も参考にしているようだ。

そしてラスト。旧作では結局全員が死んでしまうのだが、リメイクの本作では対照的にすべて目出度しとなる爽快な幕切れとなる。前作の無念さを、ここで晴らしたと言えるだろう。

 
いやあ、面白かった。ロシア映画で、(以前のソ連製も含め)こんなにアクション満載のスカッとする作品は初めてかも知れない。よく考えれば、敵との最初の戦いに敗れ、一旦は忍従を強いられるも、やがてチームを組み、リベンジに燃えて敵に戦いを挑み、最後に大勝利を収めるという、娯楽映画の王道パターンをきっちり踏まえている事に気付く。面白いのも当然である。
ロシア国内でロシア映画史上最高のオープニング成績を記録し、観客動員800万人という驚異的な数字を叩き出したのも納得である。

戦車映画と言えば、5年前にブラッド・ピット主演のアメリカ映画「フューリー」があったが、あれも面白かった。旧作の「鬼戦車T-34」もやや悲惨な結末とは言え見応えがあったし、戦車映画にハズれはないと言えるかも知れない。旧作も機会があれば是非ご覧になる事をお奨めする。    (採点=★★★★☆

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(11/9追記)
それにしても、こんなに面白い作品なのに、公開規模が小さ過ぎる。もったいない。

配給会社のツインは、昨年、あの「バーフバリ」2部作を配給した会社で、この作品も当初の公開規模はごく小さかった。
その後口コミやSNSで評判になって、予想外のヒットになったのは記憶に新しいところ。それでも興行収入はシネコン拡大公開作品に比べれば微々たるものだったが。

「バーフバリ」も本作も、上手に宣伝すればメガヒットになる可能性も十分あったと思う。もったいない。

Girlspanzer 戦車映画と言えば、女子高生たちが戦車を操縦するアニメ「ガールズ&パンツァー」(通称「ガルパン」)がヒットしている。レビューでは両作品の類似性を指摘する声も多い。

タイトルにもあるように、作品中で使われる戦車は、本作にも登場するドイツ軍のパンツァー戦車がモデルとなっている。
いっその事、この「ガルパン」とコラボして売れば、案外若い観客にも受けてヒットしたかも知れない。

「レジェンド・オブ・ウォー」なんてタイトルも、聞いただけではこれが戦車が大活躍するアクションなんて思い浮かばないだろう。

私の案だが、本作のタイトルは「戦車大激闘!T-34VSパンツァー」の方がふさわしい。「ガルパン」を連想してくれれば儲け物。
DVD発売する時は、是非こちらに改題してはいかが。命名料はいらないから(笑)。


DVD「鬼戦車T-34」

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コメント

これは面白かったですね。
上映館が少ないので新宿の映画館は満員の盛況。そのほとんどが年齢高めの男性でした。
私も戦車は好きなので、楽しく見ました。
戦争映画ですが、割とトーンは暗くないです。
冒頭の独ソ戦初期の初期T-34とドイツ軍の4号戦車の戦車戦がまずスゴイ。
非常にリアルでした。
この戦いで敵戦車隊を1両のT-34で全滅させた主人公は捕虜になります。
中盤からは捕虜収容所からドイツ軍との演習に駆り出された主人公のT-34に乗っての脱出劇。
戦争映画も好きですが、脱走映画も好きなので楽しい。
まあ、主人公にうまくいきすぎるという所もありますが、演出が快調なので気になりません。
そして後期T-34とタイガー戦車隊との戦車戦。見せますね。
悪役のドイツ戦車隊指揮官の描き方も良く、魅力的でした。
監督のインタビューによるとラストの主人公とイェーガーの意外な展開は主役のアレクサンドル・ペトロフのアイディアだそうです。
戦車映画ファンにはお勧めです。

投稿: きさ | 2019年11月 7日 (木) 20:56

◆きささん
本当に、面白い映画なのに上映館が少ないのが残念ですね。
東京ではそこそこ上映館があって、しかも1日の上映回数が11月11日より増える所があるようですが、大阪ではたった2館しか上映してなくて、しかも1日1~2回しか上映しないようです。
口コミで、観客が増えるといいですね。

ところで、ドイツ軍の戦車は、タイガーではなくてパンツァー(ロシア語ではパンター)です。タイガーが登場するのは「フューリー」の方です。

投稿: Kei(管理人) | 2019年11月 9日 (土) 22:38

パンツァーでしたね。失礼しました。ところで本作のダイナミック完全版IMAXが、11月15日から上映されるそうなんですが、、
どうしようかなあ、、

投稿: きさ | 2019年11月10日 (日) 12:17

◆きささん
情報ありがとうございます。
調べたら大阪でも、幸い家の近所の109シネマズ箕面でIMAX上映が始まりました。
上映時間が昼の12時頃なので仕事をしてると難しいですが、なんとか見たいですね。
しかしじわじわと評判が高まっているようで嬉しいですね。是非多くの人に観ていただきたいです。

投稿: Kei(管理人) | 2019年11月17日 (日) 16:35

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