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2020年2月21日 (金)

「映画秘宝」誌休刊について

Eigahihou202003 やや遅きに失した話題だが、
マニアックな映画情報を発信してコアな映画ファンに人気があった映画雑誌「映画秘宝」(洋泉社・刊)が、先月1月21日発行の2020年3月号をもって休刊となった。

私もこの雑誌の大ファン。毎号ほどではなかったが、ベストテン号と、話題作が特集された号はほぼ必ず買っていた。
毎月21日は、書店でこの雑誌を眺め、中味を点検するのが楽しみだった。今日21日、いつものクセで書店の映画雑誌コーナーに寄って「映画秘宝」誌がないのを見て、「ああ、今月から秘宝誌はなくなったのだな」という事を改めて実感した次第である。「秘宝ロス」に陥ってしまいそうである(笑)。

この雑誌がユニークなのは、キネマ旬報ベストテンでは漏れるか、あるいは無視されたような、マイナーだが熱烈な映画ファンが喜ぶ隠れた秀作、カルト的問題作をいち早く取り上げ、特集したりベストテン上位に挙げたりして、そこから火がついて話題となり、興行的にも成功する等、本当に面白い映画、を発掘し、映画ファンに紹介して来た点である。

私も、この雑誌のおかげでいろんな面白い映画を知る事が出来、楽しませていただいた。感謝してもし切れないくらいである。

 
「映画秘宝」がどれだけユニークか、いくつか例を挙げてみよう。

まず決算号(3月号)で発表のベストテン1位になった主だった作品を列記してみる。
1999年度 1位「マトリックス」(ウォシャウスキー兄弟監督)
2001年度 1位「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」(原恵一監督)
2002年度 1位「少林サッカー」(チャウ・シンチー監督)
2003年度 1位「キル・ビル」(クエンティン・タランティーノ監督)
2004年度 1位「スパイダーマン2」(サム・ライミ監督)
2005年度 1位「キング・コング」(ピーター・ジャクソン監督)
2006年度 1位「グエムル-漢江の怪物-」(ポン・ジュノ監督)
2009年度 1位「イングロリアス・バスターズ」(クエンティン・タランティーノ監督)
2010年度 1位「キック・アス」(マシュー・ヴォーン監督)
2011年度 1位「ピラニア3D」( アレクサンドル・アジャ監督)
2014年度 1位「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」(ジェームズ・ガン監督)
2018年度 1位「カメラを止めるな!」(上田慎一郎監督)

…どうだろう。キネ旬ではベストワンになりそうもないが、コアな映画ファンには嬉しくなるカルト的傑作ばかりである。「クレヨンしんちゃん」「キックアス」がベストワンになる雑誌なんて本誌だけだろう。「カメ止め」もある。

ただ近年の1位には、2015年「 マッドマックス 怒りのデス・ロード」、2016年「シン・ゴジラ」など、キネ旬でも1、2位になった作品もある。もっともこれらはむしろキネ旬が「映画秘宝」化して来たとも言えるのだが(笑)。昨年のベストワン「ジョーカー」も「映画秘宝」向きな作品である。

もう一つ凄いのが、決算号ベストテンで、まだその年度では未公開にも関わらず、堂々ベスト20位以内にランクインした作品が少なからずあった事。
1999年度11位「アイアン・ジャイアント」(ブラッド・バード監督)。これは翌年ミニシアターでひっそり公開されたが映画ファンの間で大人気となり、2000年度秘宝ベスト4位。
2001年度8位「少林サッカー」。翌年公開され大ヒット。2002年度秘宝テンで無事ベストワン。
2007年度8位「ホット・ファズ-俺たちスーパーポリスメン!-」( エドガー・ライト監督)。これはその時点ではまったく公開の目途が立っていなかった(秘宝テンでは原題の"Hot Fuzz"で紹介)が、秘宝での紹介が契機となって署名運動が起きて目出度く翌年レイトショー公開。2008年度秘宝テンでは7位。
2009年度17位「ハングオーバー」( トッド・フィリップス監督)これも公開が危ぶまれていたが翌年無事公開された。フィリップス監督は昨年の「ジョーカー」で今や時の人に。
2010年度18位「冷たい熱帯魚」(園子温監督)。日本映画も。これも翌年公開されその年の秘宝テンで5位。

こういった具合に、翌年ブレイクしそうな問題作をいち早く取り上げる事で話題が盛り上がったり、あるいは公開が危ぶまれた秀作をベストにランクインさせる事で公開にこぎつける等、秘宝誌が果たした役割は大きなものがある。

 
そんなユニークで、映画ファンに親しまれて来て、売り上げも好調だった(書籍売り上げが減少傾向にある中で、逆に本誌の売り上げは右肩上がりだったそうな)雑誌がなぜ突然休刊になったかと言うと、この1月末で秘宝誌を発行して来た洋泉社が、親会社の宝島社に吸収合併され、その宝島社は「映画秘宝」を刊行する意思はない、との事だそうである。

これはなんとも理不尽である。赤字を垂れ流しているならともかく、「映画秘宝」誌は売上好調で黒字なのだから。

こんな楽しく、映画ファンに愛される映画ファンの為の雑誌こそ、たとえ赤字であっても日本の映画文化の発展の為にも発行し続けるべきではないだろうか。残念極まりない。

幸いというか、最終号となった3月号はネット書店では完売、書店でも売り切れが続出で、メルカリに出品された3月号はプレミアが付いて定価(1,210円)の2~3倍の高値が付いているそうな。

著名人からも惜しむ声が出ており(なんと作家の内田樹さんも創刊号以来欠かさず読み続けて来たそうな)、復刊を望む声は日増しに大きくなっているという。
→ https://note.com/fantasies/n/n422cc44e3425

宝島社は、こうしたファンの声を聞いて、出来るだけ早く復刊への努力をしていただきたいと、切に願いたい。

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「映画秘宝」2020年3月号

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コメント

私も最終号を書店で取り置き購入しました!
毎号の通な視点での映画特集も良いのですが、
全く知らない未公開映画の記事も
映画愛ある文章で楽しめましたね。
復刊を心から強く望みます…。

投稿: ぱたた | 2020年2月27日 (木) 11:09

◆ぱたたさん
返信が遅くなってすみません。
「星屑の町」の記事書いてて思い出したのですが、「映画秘宝」誌では毎号、のんがいろんなコスプレ見せたり映画の感想を書いていたり、芸能活動がホされていたのんを側面からいろんな形で応援していましたね。そういう弱き者を助ける姿勢にも共感を覚えました。本当に早く復刊して欲しいですね。

投稿: Kei(管理人) | 2020年3月20日 (金) 20:08

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