大林宣彦さん追悼
……大ショックです。私の大好きな、黒澤明監督と並んで最も尊敬していた監督でした。呆然となりました。
多くの、心に残る名作を作り、映画ファンを喜ばせて来ただけでなく、若い頃から8mm、16mmフィルムによる自主製作映画を量産し、やがて商業映画に進出して大成功を収めた事で、後の森田芳光や大森一樹、石井聰亙などの自主製作映画出身作家が商業映画に進出する、その先鞭をつけた事でも大いに評価すべきでしょう。
またCM作家としても百友コンビのグリコやチャールズ・ブロンソン起用のマンダムとかのヒットCMを作り、それに触発されて市川準など、CMディレクターから映画監督に転出する方が続々と出て来ました。
そういった具合に、大林さんはそれまで誰もやらなかった、いや不可能だった“撮影所助監督の経験のないアマチュア作家、CM作家が商業映画監督になる”前代未聞の事を最初にやってのけ、開拓して来たパイオニアだったと言えるでしょう。
まさに大林さんは天才的映画作家であると同時に、数々の映画界における閉鎖的慣習を打ち壊し、門戸を開放し、日本映画の歴史をも大きく変えて来た先駆者でもあったのです。凄い事です。
そしてさらに凄いのは、70歳を超えても映画製作意欲は衰えるどころか増々旺盛になり、73歳で「この空の花-長岡花火物語」(2011)、76歳で「野のなななのか」(2014)を撮り、79歳でなんとガンにより余命3ヵ月と宣告されながら、執念で「花筐/HANAGATAMI」(2017)を完成させました。いずれも上映時間が3時間近くに及ぶ超大作ばかり。内容的にも、戦争を経験した世代としての、今の時代に対する思いをぎっしりと詰め込んだ見事な傑作になっておりました。ただただ敬服するばかりです。
昨年も、新作「海辺の映画館-キネマの玉手箱」を完成させ、本来ならこの4月10日に公開されるはずでしたが、コロナ過で公開が延期になってしまったのが残念です。奇しくも、その公開予定日に亡くなられたわけですね。
新作は、題名からして映画にまつわる、映画愛に満ちた作品のようで、しかも舞台は大林作品お馴染みの尾道!これは傑作の予感がします。早く観たいですね。
大林監督には、個人的にもいろいろと思い入れがあります。
私が最初に観た大林作品は、アマチュア作家時代の「EMOTION 伝説の午後 いつか見たドラキュラ」(1967)でした。いろんな海外の吸血鬼映画のパロディ満載の楽しい作品でした。この頃からいくつかの16mm作品も観る事が出来、面白い作家だなという印象を持ちました。
その後1977年、東宝配給による初めての商業映画「HOUSE ハウス」を監督したと聞いて、公開を心待ちにしました。
観てびっくり、すべてのシーンがあらゆる特殊加工を施され、カラフルかつ豊かなイマジネーションの洪水、まさにおもちゃ箱をひっくり返したような遊び心に満ち溢れた楽しい作品でした。私はこれで一気に大林監督の大ファンになりました、
以後は、公開される度に大林監督の作品はほぼすべて映画館で鑑賞しました。中でも尾道三部作の「転校生」(1982)、「時をかける少女」(1983)、「さびしんぼう」(1985)や、「異人たちとの夏」(1988)、「ふたり」(1991)などは特に大好きな作品です。
そして1992年の芦原すなお原作の「青春デンデケデケデケ」。実は原作者は私の地元出身の方で、その生家も私の実家の近くにあります。映画の方も地元で全面ロケされ、見覚えのある風景が全編にわたって登場し、おまけに私の地元の方言も盛大に飛び出し、大林ファンでなくても地元出身の者にとっては大喜びしたい作品でしょう。
そして描かれる時代も、まさに私が高校生活を送ったその時代。当然登場する当時の歌謡曲、ポップスも私が当時夢中になって
レコードを買い集め、聴き慣れたものばかり。
さらにさらに、主人公たちが夢中になり、バンド結成のきっかけとなったザ・ベンチャーズも、私が夢中になったインストゥルメンタル・グループ。レコード、アルバムをビートルズと並んで買い漁り、来日公演があった時にはそのコンサートに何度も行きました。
そんなわけでこの作品は、①大林監督作品、②私の地元が舞台、③時代は私と同時代、④ベンチャーズ音楽、と私の愛するものが4つも重なった、奇跡的な作品です。もう泣いて喜びながら何度も観ましたよ。
もう一つ思い出があるのは、「ふたり」が公開された翌年、大阪で行われた映画祭でこの作品がベストワンだったか大林さんが監督賞を受賞したか、どっちかあるいは両方の理由で大林監督と主演の石田ひかりさんらが同映画祭にやって来て、映画祭に関りがあった私は楽屋裏で、大林さん、奥様でプロデューサーの恭子さん、石田ひかりさんらと対面する事が出来ました。
その時、大林監督に、丁度次回作として製作中の「青春デンデケデケデケ」の地元出身であることを明かし、地元ロケに関するいくつかのアドバイスもさせていただきました。監督も興味を示し、完成された映画には私のアドバイスも採用されてたような気がします。監督、奥様、石田ひかりさんと私が並んでる記念写真も撮りました。これは私の宝物です(その写真どこかにあるはずですが。見つかったらアップします(笑))。
そんなわけで、大林監督は私にとって、とても大好きな映画作家で、また地元ロケの映画も作っていただき、お会いする事も出来たという点でも、他人とは思えない身近な存在であったと言えるでしょう。
訃報を聞いて、私が落胆しとても悲しい気持ちになった事がお分かりいただけるでしょうか。
ともあれ、病と闘いながら死ぬまで映画作りに情念を注ぎ続けた大林監督、本当にお疲れさまでした。謹んで冥福をお祈り申し上げます。
大林宣彦監督・戦争三部作記事
「この空の花-長岡花火物語」(2011)
「野のなななのか」(2014)
「花筐/HANAGATAMI」(2017)
(追記)
上で書いてました、私と大林監督、石田ひかりさんらが写っている記念写真が見つかりましたのでアップします。
1992年3月頃開催の「おおさか映画祭」にて。
左から、私、大林監督、石田ひかりさん、奥様の大林恭子さん。
みんな若い(笑)。
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コメント
朝起きて訃報に接し、確か新作がもうすぐ公開だったようなと思って確認したら当日だったとは!監督きっと執念でここまで頑張って生きたんですよね。しかもコロナの影響で公開延期・・・涙が出ました。録画してあった「花筐」慌てて見ました。何故か懐かしさが込み上げました。「時をかける少女」もかなり入ってますよね。尾道三部作まではほぼリアルタイムで見たのですが(原田知世のカーテンコール!!!、そして現在も彼女や尾美としのりが活躍しているのがとてもうれしい)、以後離れてしまったので、ご冥福を祈りながら見ていきたいと思います。
投稿: | 2020年4月11日 (土) 22:00
知った瞬間、メガネが濡れるほどブワっと涙が出ました。でも、個人的には哀しさをあまり感じないんですよね。本人や周りの人がどう思ってるのかはもちろん知りませんが、何かこの人徹底的に「やりきった感」がします。まだもう一作ありますけどね。心から、同時代を生きれたことを感謝します。ところでご存知かもしれませんが、コロナ禍でロクな補償もなく窮地に陥るミニシアターを救おうと、濱口竜介と深田晃司が中心となり、「Save The Cinema」というプロジェクトが始まりました。私も早速署名しました。で、キネマ旬報編集部に知り合いがいるので「誌面で取り上げてください」と言ったら「もちろん!」と言ってくれました。
東京に新文芸坐というスクリーンの大きい名画座があります。ここで大林宣彦追悼上映やりそうだなあ。通うなあ。今から楽しみだなあ。生き延びてほしいなあ。そして早く映画館再開しないかなあ。と思ってます。
なお、家を片付けてたら、昨年大林宣彦が東京新聞のロングインタビューに答えた記事が出てきました。Facebookとnoteに書き残したので、良かったらお読みください。昨年の8月15日のものなので、戦争と平和に関するインタビューです。読み返すと痺れるくらいかっこいいです。
https://note.com/tanipro/n/n433471bf81e6
加えてご存知かもしれませんが、最近こういう本が出ました。
https://www.amazon.co.jp/dp/product/407439121X/ref=as_li_tf_tl?camp=247&creative=1211&creativeASIN=407439121X&ie=UTF8&linkCode=as2&tag=bookmeter_book_middle_detail_ios-22
投稿: タニプロ | 2020年4月12日 (日) 06:41
昨日は名前を入れ忘れました。追記、お許しください。今日は、「この空の花 長岡花火物語」見ました。これは本当に大傑作、冒頭から何故か涙が出て、ずっと涙目で見てました。ドキュメンタリーの範疇なのにグイグイ引き込まれました。それにしても大林監督の晩年、戦争に絡んだこんなに精力的な作品たちを作っていたことを全く知りませんでした。私は尾道三部作で止まってしまいましたが、それだけではないことが、改めて追悼放送、あるいは上映で周知されることを願います。
投稿: オサムシ | 2020年4月12日 (日) 20:47
◆タニプロさん
>何かこの人徹底的に「やりきった感」がします。
キネマ旬報の4月下旬号に「海辺の映画館-キネマの玉手箱」の大特集が掲載されていますが、これを読んでいると、大林さんははっきりと、この作品を自身の遺作にするつもりで作ったのだろうなと分かります。その映画の公開(予定)日がご自身の命日だなんて。出来過ぎてますね。見事にご自身の人生をきっちり完結させたように思えます。
「Save The Cinema」プロジェクトについては私もネットで知りました。ミニシアターは良く行きますし、ユニークな特集上映で行きつけのシネ・ヌーヴォが経営困難になったら大阪のミニシアター文化の灯が消えてしまいかねませんので絶対守りたいと思います。
「最後の講義 完全版 大林宣彦」はNHKで放映された番組の3時間完全版を録画して保存しています。素晴らしい内容です。本もいいですけど、大林さんの生の声が聴けるこの放送の方が価値があります。永久保存で何回も聴きたいですね。
◆オサムシさん
多分オサムシさんじゃないかと思ってましたよ。当たってましたね(笑)。
「この空の花」「野のなななのか」「「花筐/HANAGATAMI」のいわゆる“戦争三部作”はどれも素晴らしい、絶対に見ておくべき傑作です。亡くなられて改めて見ると、きっと監督の思いがもっと伝わるはずです。私もまた見るつもりです。…でも、あの壮大なスケール感は、劇場の大スクリーンで見る方がずっと感銘を受けると思います。コロナが終息して「海辺の映画館」公開時には、是非どこかの劇場でこの三部作を連続上映して欲しいですね。
投稿: Kei(管理人) | 2020年4月12日 (日) 21:37
志村けんさんの訃報も可成りショックでしたが、大林宣彦監督も本当にショックでした。自ブログでも書いたのですが、彼の(商業用映画としては)デビュー作「HOUSE ハウス」を映画館で見て、其の斬新な撮影にすっかり魅了されました。以降、彼の作品を見捲りましたし、御多分に漏れず自分も“尾道巡礼”をした口です。
市川崑監督もそうでしたが、大林監督も“独特のカット割り”が魅力の1つでした。癌と闘病しておられる事は知っていたけれど、心の何処かに「あんなにも平和を希求している大林監督だから、こういう時代には存在し続けてくれなければ駄目。絶対癌に打ち勝ってくれる。」と信じていたのに・・・。
新作公開を楽しみにしておりましたが、コロナ感染拡大により、何時公開になるのか判らない状況。早く観たいです。
大林監督、素晴らしい作品の数々を有難う御座いました。合掌。
投稿: giants-55 | 2020年4月13日 (月) 01:57
知らなかったんですが、知り合いの映画評論家に教えてもらいました。
大林宣彦はかつて、尾道で「男たちの大和」の戦艦のレプリカを展示した時、反戦を理由に尾道市長に抗議したんだそうです。尾道を愛するからだそうです。
投稿: タニプロ | 2020年4月13日 (月) 05:22
残念です。
ご冥福をお祈りします。
私もデビュー作「HOUSE ハウス」以来のファンです。
特撮好きには合成の多い本作は楽しかったです。
最近作は見ていないので、機会があればまた見ようと思います。
投稿: きさ | 2020年4月13日 (月) 09:34
別件ですが、キネマ旬報編集部に勤める知り合いに教えてもらったので取り急ぎ。
https://motion-gallery.net/projects/minitheateraid
投稿: タニプロ | 2020年4月13日 (月) 20:13
◆giants-55さん
>「あんなにも平和を希求している大林監督だから、こういう時代には存在し続けてくれなければ駄目。絶対癌に打ち勝ってくれる。」と信じていたのに・・・。
大林さんは30年前に黒澤明監督から、「世界が平和になるには400年かかる。俺はもう長くないけど君は俺より30歳若いから、俺がやった事、体験した事を君は10年で学んで、俺の20年後の映画を撮って、さらにその先を続けてバトンを繋いでいけば、いつか俺が望んだ、俺の400年先の映画を、君の孫の孫くらいが実現してくれるかも知れないと。表現者が願っているのは、結局『平和をたぐりよせる』ってことしかないんだから」という遺言を託されました。
まさにその黒澤監督の遺言を、大林監督は忠実に実行しようと思ったのですね。それが21世紀に入って作った戦争三部作と遺作の「海辺の映画館」に結実したと言えるでしょう。
今後は大林監督の跡を継いで、黒澤監督から託されたバトンを誰が繋いでくれるかでしょうね。是非それが実現する事を祈りたいです。
◆きささん
きささんも「HOUSE ハウス」以来の大林監督ファンなのですね。あれを見なきゃ大林映画は語れない(笑)。
近作も是非ご覧になってください。特に「この空の花-長岡花火物語」はおススメです。
◆タニプロさん
いろいろ情報ありがとうございます。私もさっそく応援コースに申し込みました。
今日その「ミニシアター・エイド基金」のページに行ったら、まだ残り日数が1ヵ月近くあるのに、目標額1億円を軽く超えてしまってます。
この調子だと2億円も夢ではないですね。
多くの頑張ってるミニシアターが、この支援をバネに、コロナ終息後にユニークで素敵なプログラムを組んで、映画ファンの応援に応えてくれる事を切に願いたいですね。
投稿: Kei(管理人) | 2020年4月16日 (木) 18:41
映画館に行けなくなったので、Facebookとnoteに映画を書き綴ってます。あー、映画館行きてえなあ。
キネマ旬報60年史という本を読み返すと2012年、「前年、震災の影響で落ちこんだ映画興行も一躍回復した」とあります。
映画産業は東日本大震災も乗り越えました。コロナに負けるな。
投稿: タニプロ | 2020年4月17日 (金) 07:03
記載ミスです。
正しくは「映画の思い出を書き綴ってます」です。
投稿: タニプロ | 2020年4月17日 (金) 07:05
◆タニプロさん
ホントに、私の所も全部の映画館が休館になって、もう17日間も劇場で映画見てません。
こんなに長い間映画を見なかったのも何年ぶりかなぁ。大学受験の時以来かな(笑)。
それにしても日本中ほとんどの映画館が(大都市は全館)休館になるなんて、前代未聞です。あの第二次世界大戦の末期、大空襲が連日あった時代でもそんな事なかったはずです。映画の歴史始まって以来の事態かも。
休館前に行った映画館はガラガラで、3密どころかほとんど貸切状態(笑)。3密すべて満たしてません。
他の席と、3メートル以上空けるという条件で(座席指定だから可能)上映再開してくれませんかねぇ。切に希望。
投稿: Kei(管理人) | 2020年4月23日 (木) 20:34
ところで私は大林宣彦が大好きだったんですが、世代的に映画館で観てないのがたくさんあります。
東京の老舗の名画座、新文芸坐は毎月一回大林宣彦追悼を続けることにしたそうで通ってます。
先月は「さびしんぼう」を観ました。昨日は「HOUSE ハウス」今日は「青春デンデケデケデケ」と「時をかける少女」の二本立てと、足繁く通ってます。
新文芸坐のスクリーンはかなり大きいんですが、大きなスクリーンで観ると格別ですね。
「来月は何をやるんですか?」とスタッフに聞いたところ、来月は戦争三部作を予定してるそうです。新文芸坐は毎年8/15前後に戦争映画特集をやるんですが、今年は大林宣彦なんでしょう。
しかし大林宣彦追悼上映、ヘタな新作よりお客さん入ってる気がします。
投稿: タニプロ | 2020年7月26日 (日) 07:35
◆タニプロさん
新文芸坐のスケジュール見ました。8月9日と15日に、大林さんの戦争3部作「この空の花」「野のなななのか」「花筐/HANAGATAMI」の3本立一挙上映がありますね。ちょうど「海辺の映画館 キネマの玉手箱」も公開された所だし、今年の8月は“大林宣彦超大作映画がゲップが出る程見れる(笑)月間”になりそうですね。
しかし戦争三部作、まとめて見れるのはいいけれど、3本で9時間ですよ。「人間の條件」6部作一挙オールナイトに匹敵する体力勝負になりますね(笑)。でも見たいですね。
投稿: Kei(管理人) | 2020年8月 2日 (日) 20:09