「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒」
2019年・アメリカ 95分
制作:ライカ=Annapurna Pictures
配給:ギャガ
原題:Missing Link
監督:クリス・バトラー
脚本:クリス・バトラー
音楽:カーター・バーウェル
製作:アリアンヌ・サトナー、 トラビス・ナイト
「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」で知られるアニメ・スタジオ、ライカによるストップモーションアニメ。監督はライカ作品「パラノーマン ブライス・ホローの謎」のクリス・バトラー。声の出演は主演のライオネル卿役のヒュー・ジャックマンの他、ザック・ガリフィアナキス、ゾーイ・サルダナ、エマ・トンプソンと豪華メンバー。第77回ゴールデングローブ賞で最優秀長編アニメーション映画賞を受賞した他、第92回アカデミー賞の長編アニメーション部門にノミネートされた。
(物語)ヴィクトリア朝時代のロンドン。ネス湖の恐竜など、神秘の生物を探し求める探検家・ライオネル・フロスト卿(声:ヒュー・ジャックマン)は、ある日オフィスに届いた手紙を手掛かりに、伝説の生物を探し求めてアメリカ北西部へと旅立つ。そこでライオネルは人類の遠い祖先である生きた化石=ミッシング・リンクと遭遇する。巨体で全身毛むくじゃらのその生物は、人間の言葉を喋り、一人ぼっちはもう嫌、世界のどこかにいる仲間に会いたいとライオネルに訴える。ライオネルはその生物に“Mr.リンク”(声:ザック・ガリフィアナキス)と名付け、リンクの願いを叶えるべく、ヒマラヤの奥地にあるという伝説の谷シャングリラを目指す事にする。だが人類の祖先が猿という説を信じないピゴット・ダンスビー卿( スティーブン・フライ)は殺し屋ステンク( ティモシー・オリファント)にライオネルとリンクの後を追わせ、彼らの抹殺を図ろうとする…。
これまで「コララインとボタンの魔女 3D」や「パラノーマン ブライス・ホローの謎」、「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」などの、ストップモーション・アニメの傑作を発表して来たスタジオ・ライカの新作である。3D・CGアニメ全盛の時代に、人形を1コマづつ動かして撮影するという、とてつもなく手間と時間がかかる方法で、にもかかわらず、CGとしか思えないような滑らかな動きでアニメ・ファンを魅了して来た。
ただ、これまでの作品は、いずれもややダークなファンタジーや、ホラー・タッチの作品ばかりだったが、本作はガラッと傾向を変えて、ハラハラドキドキの冒険大活劇である。しかも随所に笑えるギャグ、さらにいろんな映画オマージュも取り入れたりで、例を挙げればスティーヴン・スピルバーグ監督「インディー・ジョーンズ」シリーズを思わせる、映画ファンなら絶対楽しめる作品に仕上がっている。最後にはちゃんとクリフハンガー・サスペンスも登場する。
(以下ネタバレあり)
冒頭からしていきなり、ライオネル卿とその助手が、ネス湖と思われる湖にボートを漕ぎ出し、現れたネッシーらしき巨大首長竜と大格闘を繰り広げるシーンが登場する。助手がネッシーにパクリと食われているのに、ライオネルはそれに構わず平然と投げ縄でネッシーを捕まえようとする。結局はネッシーは取り逃すものの、食われたはずの助手もライオネルもボートに無事着地するシーンからして、まるでテックス・アヴェリーやチャック・ジョーンズらが作ったギャグ・カートゥーン(アニメ)みたいである。
またこのシークェンスは、シャーロック・ホームズと助手のワトソンがネス湖でネッシーに遭遇するシーンが登場する「シャーロック・ホームズの冒険」(1970・ビリー・ワイルダー監督)のオマージュではないかと思われる。ライオネル卿の服装からしてホームズっぽいし。
この事件で危うく死にかけた助手は、命がいくつあっても足りないとばかり憤然とライオネル卿の助手を辞めてしまう。
ライオネル卿の大きな目標は、伝説の生物の存在を証明して、探検界が誇る“貴族クラブ”に入会を果たす事で、その為にどうしてもそんな生物を捕まえねばと思っている。
そんな彼の元に1通の手紙が届き、そこには「ビッグフットの居場所を教えます」とあった。ビッグフットは、類人猿から人間に進化する中間を繋ぐ、通称ミッシング・リンクと呼ばれる幻の未確認生物の事である。これを見つければ、“貴族クラブ”の総帥ダンスビー卿に認めてもらえると確信し、その事をダンスビー卿に伝えに行くが、ダンスビー卿は人間が類人猿から進化したという学説をまったく信じない。もしビッグフットが実在すれば自分の信念が根底から覆されてしまう。それは絶対に防がねばならない。そう考えたダンスビー卿は殺し屋ステンクを雇い、ライオネルとビッグフットを抹殺するよう依頼する。
かくして、以後は冒険の旅を続けるライオネル卿と、彼を何処までも追いかけ殺そうとするステンクとの追いつ追われつのチェイス・アクションが連続する事となる。
手紙に書かれた住所を元に、アメリカ北西部のとある山中に着いたライオネルは、そこで全身毛むくじゃらの巨体の生物=ミッシング・リンクを発見する。その生物はなんと流暢な英語を喋って、ライオネルに話しかけて来る。手紙を送ったのもその生物だった。どうやら新聞や書物を沢山集め、独学で勉強したらしい。ライオネルはその生物にMr.リンクと命名する。
リンクは仲間もみんな死んで一人ぼっちだった。寂しさのあまり、書物で読んだ、ヒマラヤの雪男(イエティ)が自分の仲間だと確信し、ライオネルにその仲間の所へ連れて行って欲しいと頼み込む。イエティにも興味のあったライオネルはその願いを聞き入れる事とし、リンクに服を着せて、アメリカから遠く、ヒマラヤまで旅をする事となる。
リンクのキャラクターが秀逸である。図体がデカいけれど愛敬があって寂しがり屋、おっちょこちょいで巨体を持て余し、しばしばドジもする。一種のコメディ・リリーフ役である。
途中、冒険の手掛かりとなる地図を手に入れる為、ライオネルの昔の冒険家仲間の未亡人・アデリーナ( ゾーイ・サルダナ)を訪ね地図を手に入れようとするが、彼女が拒絶したので夜中に彼女宅に忍び込み、地図を盗み出す事に成功する。それに気がついたアデリーナは後を追ううち、ひょんな事からライオネルたちの旅に同行する事となる。彼女は夫の死により自分の生き方に疑問を持ち、ライオネルとの冒険の旅でその答えを見つけようとしている。このアデリーナのキャラクターも面白い。勝気で冒険好きで、この後何度も危険な目に遭う事となる。
この3人が船と列車を乗り継いで、アメリカから大西洋を渡り、ヨーロッパを縦断してはるばるチベットまでの長旅は、ジュール・ヴェルヌ原作「80日間世界一周」(1956・マイケル・アンダーソン監督)のオマージュだろう。この作品もイギリス紳士のフォッグ(デヴィッド・ニーヴン)が社交倶楽部の会員仲間との賭けで、従者をお供に世界一周の旅をする話で、途中一人の女性(シャーリー・マクレーン)も加わって3人旅となる。時代も本作と同じイギリス・ヴィクトリア朝時代だ。
途中の、荒れ狂う波に揉まれる客船の中で、殺し屋ステンクに追われ3人が船内を逃げまどうシークェンスは、ほとんどスラップスティック・コメディのノリで大いに笑わせ、またハラハラさせてくれる。
ようやくチベットに到着し、地元の老婆に会い、その娘の道案内でヒマラヤ山頂へと向かうのだが、その後をステンクと、なんとダンスビー卿まで現れて追って行く事となる。
この老婆と娘が、何故か英語ペラペラなのはご愛嬌。まあアニメだし大目に見よう。
そしてようやくヒマラヤの奥地、シャングリラに到着するが、リンクの願いとは裏腹に、イエティたちを支配する長老(エマ・トンプソン)はリンクに冷淡、彼らを氷の牢に閉じ込めてしまう。
夢破れたリンクを慰めて、ライオネルたちは脱出に成功し、下界に向かうのだが、そこにダンスビー卿たちが現れ、巨大な氷の橋の上での大激闘となる。
ダンスビー卿が放った銃弾で氷の橋が崩れ、ロープで繋がったライオネル、アデリーナ、リンクたちが谷底に落ちそうになってのクリフハンガー・シーンはハラハラさせられる。これも「インディー・ジョーンズ 魔宮の伝説」のラストのオマージュっぽい。
最後は、リンクがライオネル卿の相棒となってロンドンで暮らす事となる。
といった具合にこれは、一難去ってまた一難、そして随所に笑い、スリル、アクションが満載の最後まで手に汗握る、楽しい冒険大活劇の佳作であった。これまでのスタジオライカ作品のイメージを打ち破る、陽気な笑いとアクション満載の、ウエルメイドなエンタティンメントに仕上がっているのがいい。スタジオライカの、新しい方向性と可能性を示したとも言えるだろう。第77回ゴールデングローブ賞では、強敵「トイ・ストーリー4」、「アナと雪の女王2」を押しのけて最優秀長編アニメーション映画賞を受賞したのも納得である。
こんな動きの激しい物語を、1コマ撮りのストップモーション・アニメで描くのは、大変な根気、労力が入った事だろう。監督以下、スタッフの粘り強い作業は敬服に値する。ただ技術的には、3Dプリンターで何万通りものパーツが簡単に作れるようになった事が大きい。
そして単に冒険アクション・ドラマだけに終わらず、目的の為には割と自己中心的だったライオネル卿が、リンクと出会い、一緒に冒険する事で、二人の間に強い絆と友情が生まれて行くプロセスが丁寧に描かれているのがいい。
また深読みするなら、異端の少数民族(リンク)の存在を認めず差別、排除しようとする権力者ダンスビー卿は、アメリカ社会に蔓延する白人至上主義のメタファーとも取れるし、そんなリンクを、人種の壁を超えて人間と認め、彼との友情を深めて行くライオネル卿は、分断よりも人類全体の融和と協調を目指すべき、一つの理想の姿と言えるかも知れない。
監督のクリス・バトラーは、これまで「ティム・バートンのコープスブライド」の絵コンテやデザインを担当したり、ライカに入ってからは「コララインとボタンの魔女」で絵コンテ・スーパーバイザー、「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」で脚本を担当して来た他、「パラノーマン ブライス・ホローの謎」で長編監督デビューと、着実にキャリアを重ねて来た。今後の活躍が楽しみである。
インタビューでバトラー監督は、「子供の頃に観た「レイダース 失われたアーク<聖櫃>」に大きな影響を与えられ、アニメでもあんなヒーロー・アクションを作りたいと思った」と語っている。また本作におけるライオネル卿のキャラクターは「インディー・ジョーンズのようでシャーロック・ホームズのようでもある存在」とも言っている。思った通りだった。
近年では観る事が少なくなった、波乱万丈、痛快冒険アクション・エンタティンメントの快作である。「インディー・ジョーンズ」シリーズのファンなら絶対に楽しめるだろう。Mr.リンクの愉快なキャラクターは子供でも楽しめるので、家族連れで観ても面白いと思う。
ただ残念な事に、ごく小規模の公開で、宣伝もあまりされていないようで、私が観た時は初日なのに観客は私を入れてたった3人だった。もったいない。とにかく映画ファンは観るべし。
(採点=★★★★☆)
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コメント
私も見ました。
さすがはLAIKA、映像は素晴らしい。
声のヒュー・ジャックマン、ザック・ガリフィナーキス、ゾーイ・サルダナ、エマ・トンプソンらの演技も楽しい。
評はいいのですが、アメリカではあまりお客さん入らなかったとか。
面白かったので続編も見たいくらいですが、興行的に成功しなかったので厳しいかな。
最後のクリフハンガーが盛り上がります。
こちらの地元のシネコンはもうちょっとお客さん入っていました。
投稿: きさ | 2020年11月15日 (日) 07:58
◆きささん
続編も作られたら面白いかなとは私も思いました。
ライオネル卿とMr.リンクのコンビが「インディー・ジョーンズ」シリーズのように世界を股にかけて冒険する…ワクワクしますね。
アメリカでは興行的に失敗したのですか。こんなに面白いのに残念ですね。スタジオライカが経営的に苦しくならないか、心配ですね。頑張って欲しいと思います。
投稿: Kei(管理人 ) | 2020年11月15日 (日) 15:46